2024年4月24日 09:04
福岡アジア美術館から4月1日に異動して、当館近現代美術係に着任いたしました。実は、福岡市美術館は美術館人として歩みだした最初の勤務地。変わったところもあれば、変わらないところもあり、新たな気持ちと懐かしさの両方を抱いて仕事をしています。
さて、3月28日(木)に開会した「第2回福岡アートアワードの受賞記念展」にあわせて、当日朝に授賞式をおこないました。受賞者3人のスピーチは、作家として真摯に社会と自分自身に向き合う姿勢、制作を支えた方への感謝、受賞の喜びに満ちていました。
今回のブログでは、感動的だった受賞者のスピーチを皆様にお届けします。
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ソー・ソウエン氏【市長賞】
本日はお集まりくださり、ありがとうございます。また、このような賞をいただき、とても光栄に思います。
あらためまして、今回の作品に参加し出演していただいた皆様、そして制作期間、下支えしていただいたアジア美術館の皆様、審査員の皆様、福岡市美術館の皆様、この場を借りてお礼申し上げます。
わたしにとって作品を見ることは、他人の痛み、喜び、不条理に敏感であり続けるためです。わたしにとって制作は、傷ついたり、傷つけたりしても、それでもなお世界の優しい関係を築きつづけるための営みです。
今回の作品は、ひとの出生と深く関わりのあるお臍と呼吸についての作品です。
お臍は、最後まで母親と繋がっていた場所であり、臍帯が断ち切られることで成立します。そして、その傷跡が身体の中心にずっと残り続けるということに興味をもっています。また、臍帯の断絶とともに始まる呼吸は、わたしたちが生きていくうえで、常に世界に開き続けていかねばならないということを象徴していると思います。イタリアの哲学者、エマヌエーレ・コッチャは、呼吸に関して、呼吸は共食いの原初の形態である、というふうに述べました。
現在、世界中で残虐なことがたくさん起こっています。そのことに、わたしたちはどのように感じていけばいいでしょうか。そのことを、わたしたちはどのように受け止めればいいでしょうか。この問いを最後に、わたしの言葉を締めくくらせていただければと思います。ご清聴ありがとうございました。
イ・ヒョンジョン氏【優秀賞】
皆様、こんにちは。韓国から来ましたイ・ヒョンジョンと申します。この度は、ありがとうございます。
わたしは、韓国の視覚芸術家です。わたしのキムチの作品が、「第2回福岡アートアワード」の優秀賞に選ばれたことは、とても意味のあることで、光栄に思っております。そして、とても特別なことだと感じています。この福岡で、わたしの作品の価値が認められるということは、とても光栄で嬉しいことだと思っています。
福岡市、そして福岡市美術館、アートアワードの選考委員の皆様に感謝するとともに、芸術家としてすごく自負心を感じているところであります。そして、機会があれば、福岡市と交流をしながら、継続してアーティスト活動を続けていきたいと思っております。
そして最後に、わたしのキムチの絵というものが、日本で認められたことをとても嬉しく思っていることを、もう一度申し上げたいと思います。ありがとうございます。
山本聖子氏【優秀賞】
本日は、お忙しい中お集まりいただき、ありがとうございます。
この度の受賞作品は、リサーチ段階から制作に至るまで、ほんとうに多くの皆様に力をお借りして実現することができました。この場をお借りして、あらためてお礼を申し上げたいと思います。
わたしは、大阪の千里ニュータウンの団地で育ちました。そこは便利で安全な環境ではありましたが、一方では、何かを自分で体験したり思考する機会は減り、自分が無機質になったように感じました。これが自分の創作の原点となっています。
歴史をたどると、発展や成長など、一見明るくポジティブなメッセージの裏側には、多くの搾取や犠牲があります。そういったことは、過去のわたしのように、無機質な人間にはなかなか届きません。理不尽な思いをした人たちの悲しみは、自分には関係がないと通り過ぎ、さらなる搾取構造に加担します。わたしは、過去の自分を含めて、そういった人々に問いかけたいと思っています。
芸術は、人間にとって自己内省のメディアであり、だからこそ生きるために必要なものだと思っています。今後も制作に励みたいと思います。ありがとうございました。
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福岡で活動するおおくのアーティストの励みになれるよう、今年も「第3回福岡アートアワード」を開催する予定です。公募等の情報は、詳細が決まり次第お知らせいたしますので、多くの方にご応募いただければ幸いに存じます。
(近現代美術係 係長 ラワンチャイクン寿子)