2026年10月14日 10:10
神の川から福の岡へ
はじめまして。9月より近現代美術の学芸員に着任しました、加藤と申します。
神奈川県出身の私はこの夏、縁もゆかりも無い福岡に突然やってきました。これまでは東京の某女子大学の美学美術史学科で学び、大学院ではエドヴァルド・ムンクが描いたオスロ大学アウラ講堂壁画を研究し、修士論文を書きました。その間、美術館の教育普及にも関心を持ち、都内2館でのインターンや神奈川県の美術館で非常勤学芸員として教育普及の経験を積みつつ、国内外の美術館が発行する教育普及ツールを収集・分析していました。
神奈川から福岡、神の川から福の岡へ。うむ、なんだか縁起が良い!(“かみ”「なし」では?とか、ここで難しい話はとやかく突っ込まないでくださいね。) 土地に呼ばれているのかも、、、。
私の珍道中紹介
専門分野というと西洋をはじめ海外の美術が好きで、ギリシャ、イタリア、フランス、スペイン、ドイツ、オーストリア、ノルウェー、韓国、台湾、ニューヨーク、、、と、たまに外国に行っては怒涛の過密スケジュールで美術館やアート系のスポットを巡りまくるという弾丸旅行をしています。一度の旅で、だいたい一週間から二週間くらいの日数をかけ、複数の都市に滞在します。一人旅も多く、珍道中を重ねるごとに、非常事態が起きても持ち物の中で使えそうなものを組み合わせてサバイブする対応力や、人情か欺罔かの肌感覚、洗濯の効率、ちょうど良いパッキング量などが身についてきました。
美術館という職場でせっかくいただいた初めての公式ブログ執筆の機会なのですが、初めてだからこそ、美術と関係ないことを自己紹介と称して書けるのは今のうちかもしれません。誰かに言いたい私の珍道中9選、この場をお借りして紹介させてください。
①ミラノのホテルで深夜に蟻が大量発生した事件。フロントスタッフは大したことないと言わんばかりにまじめに取合ってくれず、強力白濁スプレーを借りたものの異臭を放つので部屋を開ける時にしか使えないと言われ、たまたま持っていたハッカスプレーを撒き散らし太いマスキングテープを床と壁の境目に張り巡らして蟻を収めたこと。(建物の木が腐っていると推測)
② パリのホテルにて、変圧器だと思っていた器具がただのプラグ変換器で、持参したドライヤーを差したら送風口から火が出たこと。
③ 同じくパリ。同室の3人でトーク中に私のベッドが傾いたプチ事件。ホテルの適当さに腹を立ててくれた添乗員さんがホテルマンと口論の末、「ロックして平気だから乗ってみろ」と言われるや否や私のベッドの上で膝を曲げるくらい思い切りジャンプを繰り返し、取り囲む皆が引き気味で見守った深夜のできごと。
④ノルウェー調査旅行への道中、トランジットのアムステルダムでスマホを紛失。捜索やら届け出やら何やら右往左往して汗と冷や汗が入り交じり、そのままオランダ航空に乗り込むと意外や意外アットホームな雰囲気。席を順繰りに回されていくパイロット帽をせっかくだからと被り、困惑顔で自撮りしたこと。スマホは結局戻らず、旅は続行。たまたま持ってきた予備のご機嫌斜めな古いスマホでかろうじて撮影は可能に。
⑤ノルウェーの港町オースゴールストランのムンクの家の前でノルウェー人と運命の出会いを果たし、北欧の太陽光と初夏の爽やかな風に包まれ、めくるめく白夜を過ごしたこと。(※調査はきちんと終えました)
⑥ ノルウェーの港町ベルゲンのフロイエン山で、フィヨルドと街と霧と太陽が織りなすこの世のものとは思えない絶景に感動し、身をもって北欧の神秘を感じたこと。
⑦ 帰りのオランダ航空で珍しく貧血(?)で倒れ、床に寝かされてCAさんたちが口にコーラとコーラ味のグミを突っ込んでくれ、いつかずっと聞いてみたかった「どなたか医療関係者はいらっしゃいませんか~?」のセリフを当事者として朦朧と聞いたこと。その後、アムステルダムの空港の病院に連れていかれて陽気な検査と脳神経外科風の診察を受けるというレアな体験をし、ダッシュで搭乗口へ。
⑧ ベルリンで、地下の水回りが臭う綺麗でないカプセルホテルに泊まったり、別れを惜しむ涙のハグを横目にミュンヘンまで長距離夜行バスに乗ったりと、ちょっぴり寂しい過酷な日もあったこと。
⑨ ドイツの田舎町のだだっ広い草原と青空に挟まれた一本道を、ドイツ人友だちの車でウィーンへ飛ばしてもらった青春の晩夏。道中、合唱したりアウトバーンを時速130キロで走ったり、迷子になって牛に道をふさがれたりしたのも良い思い出。
などなど、どれも「なんだこれ?(笑)」という思い出ばかりですが、一つでも多くの作品を見よう、ここでしかできない体験をしようと、食事もそこそこにパンを齧りながら汗だく&がむしゃらに歩き回る冒険の中で、こうした様々な可笑しいできごとがありました。そして、すべて人の温かさがどこかに感じられるエピソードなのです。どれも小さいけれど、振り返れば、輝くお宝のような経験です。
福岡に住み、福岡の街を探検し、また福岡市美術館で働くなかでも、これからたくさんの面白いことや大変なことがあると思います。その経験一粒一粒が自分を成長させ、振り返る頃には納得のいく学芸員になれていたらいいな、と想像する今日この頃です。
旅は道連れ
もちろん、福岡に来た目的は旅行ではなく美術館で働くため。関東から持ってきた自前の物だけでなく、どんどん学び吸収して新しいアイテムを加え、引き出しの多い学芸員になれるよう一生懸命努めてまいります。
旅は道連れ世は情け、と言っては新人の分際で太々しいでしょうか(笑)。弱冠25歳、どうぞ、皆さま温かく見守っていただけますと幸いです。
季節の変わり目ですのでご自愛くださいませ🌿
(学芸員 近現代美術係 加藤優奈)

KLMオランダ航空パイロットフライトキャップ

ドイツの田舎道で牛に遭遇
2023年12月13日 14:12
こんにちは、国際渉外担当の太田です。今回は、私が先月行ったインド旅行の報告をさせていただきます。ただ単に、私が休暇をとってインドに遊びに行っただけの話なのですが、休暇から戻った後の会議で「太田さん、ブログでインド旅行記、書きませんか?」とお声がかかり、「いいですけど・・・でも私の旅行よりもっと重要な話題はないのですか・・・?」と言う私に皆さんが出したゴーサインを信じ、この場で個人的な旅行の話をさせていただく次第です。美術もアートも出てきませんが、ご興味のある方はどうぞお付き合いくださいませ。
前回のブログで自己紹介したとおり、私は以前、南インドにあるカルナータカ州のベンガルールという都市で働いておりました。今回の旅行は、久しぶりにインドの友人に会ったり、南インド旅行でもしたいな!というシンプルかつ個人的な動機によるものでして、美術館のブログに何を書けばいいか皆目見当つかないのが正直なところです。どうしようかなぁと数日間真剣に考えたのですが、ベンガルールから足を伸ばしてお隣のタミルナドゥ州を少々旅行した際に改めて気付いたことがあったので、それについて述べたいと思います。
今回の旅行では、初日からスコールに降られ、美食で知られる地方でインド料理を堪能し、廃墟と化しつつある色鮮やかな豪邸群を見学し、11世紀に建てられた壮大なヒンドゥー教寺院を訪問するなどして、一週間程かけて、タミルナドゥ州のマドゥライからタンジャーヴールという町まで移動しました。

突然のスコール。そして水浸しになる道路。もはや川。

地域ごとに特色があり、インド料理は本当に奥が深い・・・。そして何を食べても美味しい!毎日食べ過ぎました。

20世紀初頭に豪商が建てたアッタングディ・パレス。目が眩むような豪華さです。

11世紀、チョーラ朝の最盛期に建てられたブリハディーシュワラ寺院。外壁を飾る神々の見事な彫刻には圧倒されます。
全行程を合わせて200キロ近い距離でしたが、移動は全てバスを使いました。ベンガルールで働いていた頃はもっぱら鉄道で旅行していたので、バス旅は不慣れだったのですが、バスの運転手さんと車掌さん、そして乗客の方々の優しさのおかげでなんとかなりました(皆さん本当に親切でした・・・)。インドのバスではなんとなく、前方の席には女性、後方の席には男性が座ることが多いです。混んでいると立ち乗りになるのですが、前の方にいると、運転席の横の謎のスペースに座らされることがあります。これが座り心地は悪くとも結構な特等席で、フロントガラスの目の前なので、ジェットコースターの最前列みたいな気分を味わえます。私の体感ですが、インドのバスは日本のバスより車高が高くてフロントガラスも広々した感じなので、意外と眺めもいいのです。穏やかな田園地帯やヤシの木が立ち並ぶ田舎道、こじんまりした村や活気ある町を通り過ぎるのを眺めながら、車内を流れるインド音楽に身をゆだねるのも、バス旅の特権と言えましょう。

この運転席の横のスペースが特等席?です。全てのバスにあるわけじゃないです。

インド旅行と言えばスナック!バスターミナルに着くたびに売り子さんが寄ってきます。
特等席から前方を向いて、バスが道路を進む様子を見ていると、いくつか気付くことがあります。まず、追い越し車線と対向車線が同じものだということです。私はベンガルールに住んでいた頃、いくら道路が渋滞していようが少しでも隙間があれば入り込み、なんとしてでも前に行こうとする車やバイクやオートリクシャーを見ては、テトリスを思い出しながら、インドに車線という概念はないのだろうかと考えたものです。今回、自分の乗るバスが道路の空いているスペースを縦横無尽に進んでいくの見て、この国で運転する人たちの基本姿勢を思い知る気持ちがしました。二つの車線の間に白線はある、でも空いている方を通った方が早いじゃん、そういうことです。さらに今回新たに気付いたことは、対向車線で優先されるのは対向車ではないということです。どっちの車線を走っていようと、大きくて速くてクラクションのうるさい車両が強いのです。つまり、けたたましくクラクションを鳴らしながら爆走するバスは、ヒエラルキーの頂点に立つわけです。前方を走るオートリクシャーやバイクが、バスから大音量でクラクションを鳴らされて道を空け、対向車線にはみ出しながらバスがそれらを追い越し(クラクションは鳴らしっぱなし)、スピードを上げて向かってくるバスを見て対向車が減速して道を空ける・・・こんな光景を何度も見て、そのシンプルな力関係に気付きました。まさに弱肉強食。情け容赦ないこの世の摂理。一方通行が多く、慢性的に渋滞が発生しているベンガルールにいたままでは、そしてバスという移動手段を選択していなければ、一見したところでは無法地帯のインドの路上に、このような力関係が働いているとは知らないままだったかもしれません。バス旅は、そもそも目的のバスを見つけるのが結構大変だったりするので、気力と体力を使う移動手段ではあるのですが、やはりそれに見合う面白さがあるな、としみじみ思いました。ちなみにインドのバスは妙に年期が入ったガタガタの車体が多く、扉もそもそもなかったりして、たとえ扉があっても開けたまま走っていることがほとんどです。今回の旅行では8台ほどのバスに乗りましたが、どのバスも扉はありませんでした。窓も扉も全開で走るので風が気持ちよく、なんだかよく分からないインド音楽を聴きながら車窓を眺めるのも、旅情を誘われてなかなか乙なものです。
以上、私のインド旅行の報告でした。インドは驚くくらい多様で深遠、複雑怪奇な国で、上記の私の経験談も、この国の表面をちらっとかすめただけに過ぎません。ご興味のある方は、ぜひ一度、ご自身で訪れてみることをお勧めします。用意を念入りにすると現地でのストレスを軽減することができますが、でもやっぱり何事も予定通りに行かないのが、この国の厄介なところであり、魅力的なところです。イライラハラハラした後は、「まあ人生こんなもんだよね!」そんな気分になりますよ。

牛たちものんびり気持ちよさそうです。
(国際渉外担当 太田早耶)
2023年8月16日 14:08
お盆も過ぎ、子どもたちの夏休みも残りあとわずかといったところでしょうか。
美術館では、古美術企画展示室で行われている夏休みこども美術館にあわせて、同じ展示室の一角に夏休みこどもとしょかんのコーナーを設け、展示作品や展示のテーマに関連する児童書や絵本を特集しています。(9/10(日)まで)
今年の夏休みこども美術館は「うつくsea!すばらsea!」ということで、海に関連する古美術作品が展示されており、まさに夏にぴったりの面白い展示だなぁと思うのですが、それに合わせて事前に選書をするのは中々一筋縄ではいかないところ。今年も楽しくも悩ましい作業を経て図書を特集しました。

夏休みこどもとしょかんで特集する図書は基本的には蔵書の中から選書をしますが、福岡市美術館の図書室は図書と図録、それ以外の美術雑誌等を合わせると約8万冊の資料を所蔵しているものの、その中に含まれる児童書・絵本類は300冊ほど。
さらに、美術関連の児童書・絵本類は近現代美術をテーマにしたものの方がよく見かける上に、古美術関連のものは気軽に楽しめるようなものよりも教科書のサブテキストである資料集(写真+わかりやすい説明文も豊富)のような図書が多い印象です。

当館所蔵の児童書・絵本類の一部
所蔵本の内容を一冊一冊確認しつつ、展示が始まる2か月位前になると図書館や複数の書店にも時々通って他に良い本がないかをチェックし始めました。
海の本ならある程度たくさんあるだろうとは思っていたものの、単純に海をテーマにしたものであれば想像以上にありすぎて迷う展開に。でも「美術×海」のような本が都合よく見つかるわけでは無いので、少しでも鑑賞のヒントになるような、面白い本は無いかと次々と読んでいるうちに、どれもちょっと違うような気もしてきて迷子になりそうにも。
絵本を読みながら私にとって海といえば?と考えていたのですが、一番遊びに出かけそうな子どもの頃に海なし県(内陸県)で育ったせいか、ほぼ海水浴には行っていないことに気が付き、その後一転して中高校生時代を過ごした四国は海に囲まれた土地だったため、遠出するのには交通手段が制限されてしまってどこへ行くのにもとても行きづらくした大きな境界線のようなものだったなぁなんてことを思っていました。
海と一言で言っても人それぞれ自分の思い出の中に色々な海があるように、本の中にどのような形で海が登場するのかも様々。
この企画によりぴったりな本は中々難しかったのですが、これかなというものをざっくりと多めに選んで教育普及係の職員たちとも相談しながら内容、対象年齢のバランスを見て選書をし、またいくつかの本を提案してもらって海に関連する絵本やそれ以外にも展示作品に関連するものでは“こんなのが参考になるかも”、“ちょっと違うかもしれないけれど、こんなのはどうでしょう?”、“これなら小さいお子さんでも楽しんでもらえるかも”と思いながら最終的には20冊の図書を特集しました。

展示室の中に図書を特集するのは夏休みこどもとしょかんの期間だけですので、展示を見る前に、見てから、見ながら対比するなどなど、思い思いに図書の世界も楽しんで頂けたらうれしいです!
(司書 中務美紀)