2024年8月7日 09:08
こんにちは。あまりにも暑い日が続いていますね!美術館は温湿度管理が徹底されていて、中にいると快適なのですが、外に出た瞬間、じゅわっと自分が蒸発するかのような感覚をおぼえます。地面で干からびているミミズたちを見るたび、他人事ではない気持ちがします。
それはさておき、現在、古美術の松永記念館室では「表具のキホン」展が開催中です(8月18日まで)。みなさんは、表具についてどれくらいご存知でしょうか?表具って、見たことも聞いたこともあるけど、そんなによく知らない…という方も少なからずいらっしゃるのではないでしょうか。恥ずかしながら、かく言う私もその一人でした。表具ってあれだよね、ほら、掛軸とか屏風とかの、きれいな色とか模様のあれ・・・という理解が関の山。そんな私がひょんなことから表具の展示を担当することになったのですが(本当に大丈夫か?と何度か思いました)、せっかくなら初心者としての立場から、表具の基本中の基本を扱うものにしよう!と思い、そんなこんなで「表具のキホン」という展示が出来上がりました。展示では、松永コレクションを中心とした作品を3つのコーナーに分けて紹介しています。また、掛軸の表具の各部分の名称や、表具の形式を図で紹介したパネルなども用意したので、実際に作品を鑑賞する際の手がかりにしていただけたらと思います。
そしてそして、今回は表具の展示ということで、展示室には作品と一緒にこんなものも並んでいます。
なんだか分かりますか?向かって右は古い軸木、左は添え状です。軸木とは、掛軸の下端に通してある軸で、両端に象牙などの素材でできた軸先が取り付けられます。これらは、今回の展示作品のひとつである牧谿作の三幅対《韋駄天・猿猴図》の古い箱にしまってあったもの。表具の展示だし、せっかくなら表具らしいものを何か展示したいな~、という私の胸の内を知ってか知らずか、こんなのあるよ、と古美術のM学芸員が見せてくれたのでした。
添え状には、表具の各部分の寸法が書かれています。一方の軸木は、2003年に修理を行い、表具を新調した際に取り外されたものです。この古い軸木に何が書かれているのか読んでみると、その内容は、「我が藩主である松平不昧公所蔵の牧谿の三幅対を、弘化3年の仲秋上旬に修理しました。江戸城の南、三田に住む表具師、田邨藤七(たむらとうしち)」というもの。おお、これはまごうことなき修理の記録!作品の管理等を担当していた当時のお役人が書いたものだそうです。ちなみに松平不昧公は江戸時代の松江藩のお殿様で、茶人としても有名です。弘化3年仲秋上旬は1846年の秋で、江戸城の南の三田は今の港区の辺りのことでしょうか。江戸時代にはどうだったか分かりませんが、今は洒落たエリアのイメージですね。そういう所で田邨さんは、日々忙しく表具を仕立てたり修理したりしていたのかしら…。お殿様の愛蔵品を修理するくらいなのだから、腕のいい表具師さんだったのではないかと想像します。それにしても、まさか田邨さんも、150年の時を超え、自分が直した軸木が福岡市美術館の展示室にそのまま並べられることになるとは思いもよらなかったことでしょう。
過去の表具の一部を見ると、多くの貴重な作品を守り伝えていくのに、表具師の方々が重要な役割を果たしてきたことがよく分かります。このような古い軸木や添え状は普段の展示ではなかなか出品することもないので、この機会にぜひご覧いただけると嬉しいです。そして何と言っても、松永コレクションは名品ぞろい!これらの作品を通して表具について学ぶなんて、なんだか贅沢な気分になりますよ。「表具のキホン」展は8月18日(日)まで。どうぞお見逃しなく~。
(国際渉外担当 太田早耶)