2026年5月13日 09:05
5月はG.W.の連休があけたと思うと毎年、福岡市のミュージアム施設が参加する週間、「福岡ミュージアムウィーク」がやってきます。これは、博物館・美術館の役割を広く周知するために制定された「国際博物館の日」(5月18日)を記念して行うもので、2009年から始まった催しなので今年でもう18年目となります。
2026年のミュージアムウィークの期間は5月16日(土)から24日(日)までの9日間。この期間中は、参加する18の文化施設でコレクション展、常設展の観覧料金が無料や割引となるほか、様々なイベントを行います。
福岡ミュージアムウィーク2026・公式サイト
福岡市美術館でも、期間中にいくつかの講演会や館内のツアーを予定していますので、ブログでは事前予約不要でご参加いただけるものについてご案内したいと思います。
【期間中に行う講演会】
今年は会期中の週末に美術館1階のミュージアムホールにて、3つの講演会を開催します。
◆特別展「小磯良平展―幻の名作《日本髪の娘》」記念講演会◆
「幻の名作《日本髪の娘》との出会い」
日時:5月16日(土)午後2時~午後3時30分(開場13時30分)
定員:180人(先着)
講師:岡泰正氏(神戸市立小磯記念美術館・神戸ゆかりの美術館 館長)
講演会のひとつめは、特別展として開催中の、「小磯良平展―幻の名作《日本髪の娘》」(会期 6月21日まで)を記念する講演会です。この展覧会は、日本を代表する近代洋画家のひとり、小磯良平(1903~1988)の画業を辿るもので、福岡で回顧展が開催されるのは35年ぶりとのこと。そして展覧会の目玉となるのは、これも90年ぶりの里帰り(!)という油彩画作品、《日本髪の娘》です(展覧会印刷物のメインイメージとなっている作品です)。同作品は1935(昭和10)年に描かれ、第1回第二部会展に発表された後、李王家美術館の所蔵となって海を渡り、その後所在不明となっていたとのことで、現在は韓国国立中央博物館に収蔵されています。講演会では、講師の神戸市立小磯記念美術館の館長、岡泰正氏より、小磯良平の仕事や作品についてお話しいただくのと合わせ、《日本髪の娘》が見つかった経緯や、日本に里帰りするまでのいきさつについてお話しいただきます。展覧会を見るだけではわからない、裏話や貴重なエピソードを聞ける機会になるかもしれません。

特別展「小磯良平展―幻の名作《日本髪の娘》」チラシ
◆福岡ミュージアムウィーク2026記念講演会◆
「高麗茶碗入門-茶の湯がつないだ日韓交流」
日時:5月17日(日)午後2時~午後3時30分(開場13時30分)
定員:180人(先着)
講師:片山まび氏(東京藝術大学美術学部芸術学科教授)
翌17日(日)には、福岡ミュージアムウィーク2026記念講演会として、陶磁研究者の片山まび氏を講師にお迎えし、当館の古美術コレクション展示に関連するテーマで、「高麗茶碗入門-茶の湯がつないだ日韓交流」を開催します。高麗茶碗(こうらいちゃわん)とは、朝鮮半島で焼かれ、日本で茶の湯の茶碗として使われてきたやきもののこと。「高麗茶碗」は日本で呼び習わされている名称です。茶の湯の道具は、作られた場所によって中国で作られたものを「唐物(からもの)」、朝鮮半島で作られたものを「高麗物(こうらいもの)」、日本で作られたものを「和物(わもの)」などと呼び、現在でも様々な年代、産地で作られた工芸品を道具として大切に伝えてきました。講師の片山氏は国内だけでなく、韓国における国際調査にも参加され、日本と韓国の陶磁器を介した交流の歴史について研究されています。講演では、当館の古美術作品の中でも、茶道具の名品が多く含まれることで知られる、「松永コレクション」から、代表的な高麗茶碗についてお話しいただきます。
また、当館展示室1階の松永記念室では、講演にて紹介いただく高麗茶碗(6点)が並んで展示中です!(「春の名品展」、会期 5月31日まで)松永コレクションの高麗茶碗を一度に見られる貴重な機会となりますので、ぜひご覧いただければと思います。

《雨漏茶碗》朝鮮王朝時代16 世紀、 福岡市美術館(松永コレクション)

「春の名品展」[会期:3月24日(火)〜5月31日(日)]の展示の様子
◆福岡ミュージアムウィーク2026つきなみ講座スペシャル◆
「美術と言語と現実―世界認識の原理―」
日時:5月23日(土)午後2時~午後3時30分(開場13時30分)
定員:180人(先着)
講師:中山喜一朗(総館長)
講演会の3つ目として翌週、23日(土)に開催するのは当館の中山喜一朗総館長が講師となって開催する、“つきなみ講座スペシャル”です。つきなみ講座は、当館の職員が日頃の業務や自身の研究について話したいこと、気になるテーマなどについてお話しする通年の企画です。仕事や美術にまつわる内容について紹介することで、より福岡市美術館のことを知っていただく機会にしたいということで、持ち回りで月に一度開催しています。5月は、通常の60分から拡大版のスペシャル講座ということで、中山総館長が昨年のつきなみ講座の続きとして、「美術と言語と現実―世界認識の原理―」というテーマで講演します。ちなみに、昨年の講座テーマは「美術と言語と人工知能」というお話しでした。パウル・クレーの作品やアンドレ・ブルトンの話題から次々展開し、言葉と美術、AIと人間の認識や判断の特性などについて、脳にたくさんの刺激が刺さる内容でしたが、今年どのような展開になるのかは、参加するヒトのみぞ知る、です。(去年の話を聞いていないから参加しづらいかも、と迷われた方は、昨年のことを話題にしたブログも残っています。こちらを読んでいただくと23日の講演のヒントになるのではと思います。)今年の講座を紹介する画像には、教科書で見たことあるなぁと懐かしくなったラスコー洞窟の壁画が採用されています。どんな内容になるのでしょうか?個人的にもとても気になるつきなみ講座スペシャルです。

ラスコー洞窟(フランス)の壁画《馬》
【期間中に行うプログラム】
講演会の他にも、開館日の毎日11時と14時からは「ボランティアによるギャラリーツアー」を開催します。これは、ミュージアムウィーク期間以外も行っているものですが、担当するボランティアごとにそれぞれが紹介したい作品を3点選んで、参加する皆さんと一緒に作品についてお話ししながら館内をまわります。ガイド担当者と参加者が変わるその度ごとに作品を巡る話題も変わるので、何度参加いただいても楽しんでいただけるかと思います。この機会にコレクション展にでかけてみようという皆さんにご参加いただければと思います。
また、ミュージアムウィークの最終日、24日(日)13時からは、「ボランティアによる建築見どころめぐり」として、当館の建築好きなボランティアによる美術館の建物を紹介するリレー形式のスポットツアーを行います。60分ほどの開催時間中は、途中から参加いただくことも、ご都合で抜けていただいくこともできる形で行いますので、美術館の作品だけでなく建物のことについても知りたい、という方におすすめいたします!
毎年、福岡ミュージアムウィークの期間にはたくさんの方に来館いただいていますが、こちらにご紹介した催しに参加いただくのもよし、無料となるコレクション展をじっくり見る機会にしていただくのもよし、あるいは大濠公園を散歩するついでにお目当てだけ見に寄っていただくのもよしで、気軽に遊びに来ていただけたら嬉しく思います。それぞれの企画を準備しつつ、皆さまのご来館をお待ちしています。
(教育普及係長 髙田瑠美)
2026年4月22日 09:04
福岡市美術館のソーシャルガイド
満開の桜はあっという間に終わってしまいましたが、今は新緑の鮮やかな緑に包まれている大濠公園です。個人的には、萌黄色の爽やかな風に吹かれるこの季節の大濠公園がとても好きです。
暖かくなり、外出する機会も増える春。大濠公園を散歩しながら、美術館に初めてご来館くださる方も多いのではないでしょうか。今回ご紹介するのは福岡市美術館の「ソーシャルガイド」です。
ソーシャルガイドは、主に発達障がいのある方とその家族や関係者に安心してご来館いただくために、美術館までの道のりや館内の様子を、写真や分かりやすい言葉で紹介したもので、ソーシャルストーリー、ソーシャルナラティブ等とも呼ばれます。当館でも、来館に不安を感じる方が、美術館に安心して来ていただけるように新しく制作しました。
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福岡市美術館のソーシャルガイド(部分)
当館のソーシャルガイドは昨年から制作を始めました。市内の特別支援学校や特別支援学級の先生方に試験的にご利用いただき、いただいたご意見を反映しながら、今年の3月に完成しました。4月からは当館ホームページに掲載しています。
障がいの有無にかかわらず、美術館に初めていらっしゃる方や、利用に不安を感じる方など、どなたでもご利用いただけます。下記のリンクからダウンロードできますので、ぜひご利用ください。
https://www.fukuoka-art-museum.jp/guide/barrierfree/
「やさしい日本語」で楽しむ作品鑑賞
また、3月末には「お花見」をテーマに「やさしい日本語ツアー」を開催しました。同ツアーは福岡市に住む日本語を母語としない方を対象に、「やさしい日本語」でコレクション展を鑑賞するというものです。2022年から始め、これまで対象を「親子」に限定していましたが、ありがたいことに「大人が1人で参加したい!」という声が多数寄せられ、今年は「親子」以外にも対象を拡大し、たくさんの方にご参加いただきました。
ツアーでは、古美術と近現代美術のコレクション展から「お花見」をテーマに作品を選び、参加者と一緒に作品について語り合いながら、鑑賞をしました。当然、同じ作品を見ても各人が考えることは違います。しかし、大切なことは、作品を前に自分が思ったことを表現できること、そしてその意見がどれも同じように尊重されること、だと思います。同ツアーでは、私自身と参加者はもちろん、参加者同士も意見を交換しながら作品鑑賞をしました。その過程で、この至極当然なことを当たり前に行えることの大切さを改めて考えました。

「やさしい日本語ツアー」の様子

「やさしい日本語ツアー」の様子
また、「やさしい日本語」で当館のコレクション作品を紹介した冊子の第2弾も完成しました。下記URLよりダウンロードすることができます。コレクション展示室内にも配架していますので、ご来館の際にはぜひお手にとってご覧ください。
https://www.fukuoka-art-museum.jp/topics/219624/

「やさしい日本語」の冊子はコレクション展示室内に配架中
(教育普及係 﨑田明香)
2026年3月11日 14:03
水不足が心配されているこの頃。先日ようやく雨が降るようになり、雨が嫌いな私でもありがたい気持ちでいっぱいでした。萌芽や開花を待つ春の植物にとっても恵みの雨となったのではないでしょうか。
さて、今回のトピックは当館の教育普及事業である「どこでも美術館 アウトリーチ」です。この「どこでも美術館」には、ティーチャーズ・プラスとアウトリーチという2つの取り組みがあります。ティーチャーズ・プラスは、学校の先生に向けて美術教材を貸出す事業です。アウトリーチは、ティーチャーズ・プラスと同じ美術教材を使って、美術館に来られない、来にくい人のもとに赴き、アートプログラムを行うものです。
美術教材は、当館のコレクションと関連したものになっており、アウトリーチでは、これらを持参して、作品鑑賞と体験を組み合わせたプログラムを行います。作品鑑賞をしたり制作をしたりする過程では、見るだけはなく触ったりにおいを嗅いだりして、様々な感覚も使うことをポイントにしています。アウトリーチのプログラムを行う対象としているのは、 福岡市内の院内学級、特別支援学校、離島及び公共交通機関で館が困難な地域の小中学校、公民館等の高齢者向け活動になっています。今回は、これら対象の中から公民館での高齢者に向けた活動についてお伝えしたいと思います。高齢者の方の中には、美術館の市民ギャラリーで制作物を発表したり、展覧会を見に来たりとアクティブに美術館を活用する方がいます。しかし、その一方で家から美術館が遠くてアクセスが悪い、体の調子が悪くて外出しづらいなどの理由で美術館に来られない方もいます。地域の中で集まりやすい公民館に美術館から赴くことで、負担を減らしてアートプログラムに参加することができるのではないかと考えます。
このブログでは、ある公民館で行った日本画を題材にしたプログラムの紹介をしたいと思います。
プログラムの流れを先に書くと、
①所蔵作品・長谷川派《韃靼人狩猟図屏風》(複製)の対話型鑑賞と作品解説
②日本画の素材と道具を知る
③日本画の画材を使って制作体験
となっています。①の対話型鑑賞とは、見て気づいたことや思ったこと、疑問などをみんなで話し合いながら作品を見る鑑賞法です。②は、持って行った教材を用いて手元で見てもらいながら日本画に使われる素材や道具への理解を深める時間です。③は、こちらで用意した日本画の材料である岩絵具を実際に使って着彩します。
【みんなで話すとどんどん見えてくる】
対話型鑑賞は、まず屏風を箱から出すところから始まります。参加者の方は外箱、収納袋から屏風が出されて、広げられる様子をじっと見つめます。屏風が広がると、表れた画面に「おお。」と静かな歓声があがります。屏風には、大きな岩や断崖のある風景の中で、たくさんの人々が何頭もの馬に乗って弓を持ち、走り回っている様子が描かれています。屏風が大きいので、みなさん右や左に移動しながらじっくり見ます。スタッフからの「じっくり見て、何か気がついたことはありますか?」という問いかけで、会話しながらの鑑賞がスタートします。「被っている帽子が日本にはない形だから外国の様子だろう」「足が縛られた動物が描かれているから、戦いではなく狩りをしたのではないか」と描いてあることをもとに国や場面を想像して参加者同士が伝え合います。すると、「私も戦いではないと思う。陣営を構えている人の顔に緊張感がなくほがらかだから」と意見が繋がっていきます。「え!見てなかった!」「それなら、こうじゃないかな?」と他の方の意見によって新たな気づきがあり、参加者の方々はどんどん作品に惹きつけられていきました。主体的に見ることによって、後の作品解説を納得して受け入れられるようです。

みなさんじっくり作品を見ています
【触ってみるのも楽しい!】
この作品の実物は岩絵具で描かれた日本画です。岩絵具にあまり馴染みがない方が多いのではないでしょうか。写真は、松葉緑青という色です。全て松葉緑青という名前ですが、ついている番号が違います。岩絵具は番号が大きいほど粒子が細かくなり、一番小さな粒子は「白」(びゃく)と呼ばれます。これらの色は「孔雀石」と言われる鉱物からできます。同じ鉱石から粒の大きさで見える色が変わるのは不思議ですよね。このような話をしながら、岩絵具や技法見本の板、そして使用される筆などをみなさんに回します。参加者の方は、自分の手にものが来ると宝物を見るようにわくわくした様子で観察されます。実物を触ることで鉱物の固さ、筆先のやわらかさなどを感じたり、間近で日本画の技法を見たりして日本画について理解を深めていました。

「孔雀石」と松葉緑青(左から「白」、9番、5番)
【上手、下手ではありませんから大丈夫】
「私絵が下手なのよー。」と言われる参加者の方がいます。でも、大丈夫!日本画のプログラムでは、岩絵具の塗り心地を感じたり、自分のイメージに合わせて色を塗ったりすることに重点をおきます。参加者の方は、用意した6色の岩絵具の中から3色を選び塗ります。岩絵具と接着剤の役割となる膠(にかわ)を指で混ぜると、指の腹に岩絵具のザラザラした感触が伝わってきます。色数は少ないですが、イメージを膨らませて素敵な作品ができあがります。参加者の方はどんどん熱中して、部屋の中がシーンと静まり返ります。お互いの作品を見合う時間になると「◯◯さん、この色の組み合わせ良いわねー」と褒め言葉のキャッチボールが始まり、謙遜しつつもみなさんの顔はにっこりです。自然と部屋が和やかな雰囲気に包まれます。描くだけでなく他の方に見てもらって声をかけてもらうのも楽しみの一つです。
短い時間ではありますが、鑑賞の後、実際に岩絵具を塗る体験をすることによって、鑑賞をした作品の彩色の技のすばらしさに気づくこともできます。

岩絵具で色を付けています

素敵な色の組み合わせ
【美術を楽しんで、いきいき!】
公民館での活動を通していつも感じるのは、参加者の方々が「なんて元気なんだろう!」ということです。プログラムが終わる頃には、みなさんがさらにいきいきとしているように見えます。その姿を見ていると、美術を楽しむ気持ちは年齢に関わらず、人をいきいきとさせてくれるものだと感じます。また、自分で制作した作品を大切そうに持ち帰り、「家に飾りますね」と声をかけてくださると、美術がその方の生活の一部になっていくようで、とても嬉しくなります。プログラム終了後に美術館へ足を運んでくださる方もおり、アウトリーチが来館につながることもあります。これからも「来られない・来にくい」という方々のもとへ出向き、美術を楽しむ機会、そして美術館とつながる機会をつくり続けていきたいと思います。
今回は公民館についての事例をご紹介しましたが、3月21日(土)のつきなみ講座では、特別支援学校での事例をお伝えします。学校で行ったプログラム内容と、特別支援学校での工夫についてお話します。みなさんにお会いできる日を楽しみにしています。
(教育普及専門員 冨坂綾子)