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カテゴリー:コレクション展 古美術

コレクション展 古美術

茶道具を入れた箱を入れた箱を入れた箱を入れた箱を入れた箱

茶碗にしろ、茶入(ちゃいれ)にしろ、古い茶道具の価値をつくるのは、モノ自体に備わる美的魅力だけではありません。その魅力に惹かれ、大切に守り、次代に継いできた人々の思いの積み重ねでもあります。

ある茶道具を大切に守るために作った箱を、次の所有者がその箱ごと守るために新しい箱を新調する。さらに次の代の人も…、そうして受け伝えられた結果、茶道具を守る箱は、マトリョーシカのように入れ子式になることがあります。箱以外にも、茶道具を直に包む袋やその替え、歴代の所有者や鑑定家が記した書き付け等、あらゆる付属物が伴います。それらを総称して「次第(しだい)」と呼びます。

現在、松永記念館室で開催中の「茶道具の『次第』」展は、松永耳庵旧蔵の茶道具の中でも特に次第が充実した茶道具を選び、伝来の紹介とともに、次第まるごと展示する試みです。

普段は最大20件は陳列できる展示室が、今回は6件で一杯になりました。

目玉といえば《唐物肩衝茶入 銘「松永」》(中国・明時代)。戦国武将・松永久秀が所持したことに由来する名物茶入です。片手のひらに収まる程度の小さな陶器を、五重の箱が守っています。一番外側の箱は、本器に付属する盆を守る三重箱も一緒に収めるため、両手を広げて抱えるくらいの大きさになっているのです。そうです、冒頭のタイトルは、それを分かりやすく?表現したものです。

展示作品は、まず作品本体を置き、続いて本体に近い付属品から順番に、内箱から外箱へ整然とわかりやすく配置しました。箱の蓋は殆どすべて、開いた状態にしました。蓋というのは、閉じていれば開けたくなるし、開いていれば閉じたくなるもの。開いた状態で展示すると、展示空間が全体に雑然としてしまうデメリットがあるのですが、何はなくとも箱内をご覧いただけることと、茶道具を袋に包み、幾重もの箱に収めてゆくプロセスをより実感をもって辿っていただけるのではという思惑から、あえてそうしました。同時にその実感が、代々の所蔵者たちが道具に込めた愛情を追体験することにも繋がれば幸いです。

ある茶道具が、いかに過去から大事にされ、価値が高められてきたかを眼で見て実感していただける内容です。4月12日(日)までです。是非ご来場下さい!

(主任学芸主事 古美術担当 後藤 恒 )

茶入「松永」の次第を一挙陳列!画面に入りきらない…

コレクション展 古美術

「名品展」をつくる難しさ

1階の松永記念館室で、毎年恒例の「秋の名品展」を開催中です(12月1日まで)。当館所蔵の松永コレクションの中から、秋から初冬の時節に相応しい「名品」を展示紹介しています。

ご存じの通り松永コレクションは大半が「名品」といえるものである上、季節感を重んじる茶の湯の世界で用いられた美術品が多いので、出品作品の選定にあたって困ることは殆どありません。しいていえば、出品候補が多すぎて20点以内に絞り込むことに頭を悩ませることであり、球界一の選手層の厚さを誇るソフトバンクホークスのスタメンを決める首脳陣の苦労を想う時でもあります。それにしても、こんな贅沢な出品作品選定に携わることが出来る幸せを感じずにはいられません。

さて問題は、作品選定を終えてからです。本当の難しさはここからです。リストアップした名品群をどのような順番で並べるか、という問題です。これが実に難しい。すべて名品なのだから、ただ並べるだけでいいのでは?というわけにはゆきません。長距離打者をただ9人並べるだけで最強打線が成り立つわけではないのと同じです。シンプルに絵画、書、彫刻、工芸というジャンルに分けて並べるやり方は無難です。しかしそれは、ジャンルという枠にはめ込むことで、ひとつの作品がもつ魅力が、隣の作品がもつ魅力によって相殺されてしまう勿体なさもはらんでいるのです。

「燃えよドラゴンズ!」の歌詞にあるように、一番打者が塁に出て、二番打者が送りバント、三番打者がタイムリー、四番打者がホームラン…といった理想の流れと同様に、ひとつの作品がもつ魅力が、次の作品の魅力につながり、さらに次の作品を引き立てる。そんな魅力の連鎖を生む、全体としてバランスのとれた名品展こそが、理想の名品展であると思っています。それを実現するためには、最初にリストアップした作品を何度も入れ替えることも必要となります。本展では茶の湯の世界をベースにして、出品リストと展示プランを考えました。

本展の四番打者?それは他ならぬ尾形乾山筆《花籠図》(重要文化財)です。まずは四番打者に良い仕事をしてもらうため、そしてスタメン全員が輝けるよう、精一杯組みました。会期も残りわずかですが、ご高覧いただければ幸いです。

(主任学芸主事 古美術担当 後藤 恒 )

尾形乾山《花籠図》(重要文化財)

コレクション展 古美術

「かわいい」はおじさんが作っている。

タイトルは少し前に話題になったツイッターから拝借しました。なかなかインパクトのあるフレーズですが、よく考えると確かにその通りで、巷にあふれるかわいいものっておじさんが作っていることが少なくありません。そして、こうしたかわいい職人のおじさんの元祖と言えるのが、ただいま公開中の仙厓さんです(「仙厓―小西コレクション」展、~12月1日まで)。本展は2016年に小西昭一さんからご寄贈いただいた、作品を一堂にご紹介するものですが、55点ある作品の中でも特におすすめなのが、この《双狗図》です。

仙厓義梵筆《双狗図》

尻尾を立ててこちらを見つめる様子が何ともキュート。会場でそのかわいさを是非実感してください。ところで、仙厓さんはどうしてかわいい絵を描こうと思ったのでしょう?私生活は質素倹約を旨としていたようで、個人的にかわいいもの好きだった形跡はあまりうかがえません。恐らく、このあたりの事情は現代のかわいい職人のおじさんたちも似たり寄ったりだと思います。つまり、個人的に好きだったからかわいいものを作ったわけではなく、何か別の目的があったのではないでしょうか。その目的というのは、売れるからとか女子ウケするから、とか人によって様々でしょうが、仙厓さんの場合はどうだったのか?今回はそのあたりを考えてみたいと思います。
そのためには、少々遠回りにはなりますが、仙厓さんの画業を初期からたどってみる必要があります。岐阜県に生まれた仙厓さんが博多へやってきたのは、39歳の時のこと。恐らく、本格的に絵を描き始めたのもこの頃だったと思います。下の《香厳撃竹図》は仙厓さんが48歳の時の作品で、制作年が分かるものの中では一番早いです。

仙厓義梵筆《香厳撃竹図》

実は仙厓さんがかわいい絵に目覚めるのは、まだまだずっと先のこと。博多・聖福寺の住職を務めていたころはマジメでかっちりとした絵を描いていました。

 

仙厓義梵筆《円相図》

こちらの円相図も住職時代に描いたもの。円相は自身の悟りを象徴する重要なモチーフで、隣には長いコメント(賛文)が記されます。要約すると、世の中には仏教や儒教、神道など様々な思想があるけれど、この円相はこれらを全て含みこんだもので、思想の違いをことさらに強調するのは意味のないことだといいます。個々の多様性を認めつつも、それらを包摂する心のありようを重視すべきことを説いた仙厓さんの思想の根本がはっきりと示された作品です。この頃の仙厓さんにとって、絵を描くことはあくまでも自身の修養、あるいは、弟子への指導の一環であったようで、こういった絵がかわいさと無縁なのは当然かもしれません。そんな仙厓さんの画風に変化のきざしが現れるのは、62歳で聖福寺の住職を引退してからだったようです。

 

仙厓義梵筆《恵比寿図》

上の《恵比寿図》は、仙厓さんが引退してまもない60代前半の作例と考えられますが、からっとした恵比寿の笑顔は、住職時代のマジメな画風から離れつつあることを示しています。住職を引退後、博多の人々との交流を通して多くの絵を描くようになったことが、仙厓さんの画風が変化した要因だったと考えられます。

 

仙厓義梵筆《五徳図》

上の《五徳図》は、釜を支えるための道具で、今でいうコンロを描いた作品です。住職時代の作品との違いとして①仏教とは関係のない日用品を描いていること②賛文が平仮名を交えた平易な文体になっていること、を上げることができます。ちなみに、賛文の内容は、五徳は「如く」と音が通じているので、このようにありたいと思う心を象徴する存在であり、仏教では心のありようが最も重要であると説いています。このように、絵を通して、禅の教えを人々に分かりやすく伝えたい、というのが引退後の仙厓さんの思いだったようです。特に《円相図》や《五徳図》で示されるように、心のありようこそが大事である、というのが仙厓さんの禅僧としての一貫した考えだったように思います。

 

仙厓義梵筆《双狗図》

ようやく、この作品に戻ってきました。実はこうしたかわいい作品は仙厓さんにとっての到達点と呼ぶべきものです。というのも、先ほど紹介した《五徳図》では、賛文を読んで初めて仙厓さんの伝えたいメッセージを理解できるのですが、《双狗図》では最早その必要はありません。絵を見て直感的に「かわいい」と思うこと、これだけで十分なのです。なぜなら、心のありようを重視する仙厓さんにとって、最も大事なのは作品を見たときに皆が同じ思いを共有することだったのですから。

こんな仙厓さんの作品が人々から愛されないはずはなく、福岡では、多くの文化人・実業家によって仙厓コレクションが形成されました。今回ご紹介する小西コレクションはその中でも質量ともに優れた作品群です。作品1点1点の素晴らしさもさることながら、蒐集されたコレクターの仙厓愛も強く感じられるラインナップです。是非お越しください。

(学芸員 古美術担当 宮田太樹 )

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