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福岡市美術館ブログ

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淘汰とアーカイブ

どーも。館長の中山です。「福岡城だより」というNPO法人福岡城市民の会の広報誌の巻頭言(600字程度)を依頼されました。内容は、「福岡市美術館と福岡城(黒田藩)」にしてくださいということだったのですが、そんなことが書類に書いてあるのを知らずに(つまりちゃんと書類を読まずに)、最近あたまに浮かんでいることをちょこちょこっと書きました。なので、たぶん採用されずに書き直しになる公算が大です。まだ締め切りは先ですし。

それで、「せっかく書いたのに…。そうだ、ブログだ」と思いつきました。今回は、その原稿にちょこちょこっと手を入れて投稿します。ひょっとすると、巻頭言に採用されてしまうかもしれません。そのときはすみません。使いまわしになります。どっちがどっちの使いまわしか、ややこしいですけど。

「埋蔵文化財も古美術でしょ?」と問いかけられたことがあります。「発掘品と伝世品、つまり地上から一度は失われたものと、ずっと守られ伝えられてきたものという違いはありますよ」と答えた記憶もあります。一方で、「火事のときはこれ持って逃げろ、と言われたから相当な値うちがあるはずだ」という掛軸を持ちこまれ、答えに困って「処分などしないで大切にしてください」と顔をゆがめて返答をしたことは一度や二度ではありません。

ミュージアムは収集資料を選びます。一応、淘汰といえるでしょう。選んで収集したものは保存し続けます。だから所蔵資料は確実に増え続ける。埋蔵文化財の場合、福岡のように掘れば何かが出てくる歴史ある土地ならなおさらです。破滅的な自然災害がなければ、それらはずっと地上から失われずに増えていくわけで、ちょっと未来が心配になります。

美術館と違い、博物館が扱う歴史資料は、近代以降の資料であっても一定の時間的な経過にともなって、これを保存し継承しようとする市民の意思が働いています。学芸員は民意の代弁者として資料を調査し、アーカイブするわけです。アーカイブして、ようやく名前もない得体のしれないものが文化財になるともいえます。ポップカルチャーやサブカルチャーのポップやサブを取り去るのにもアーカイブは必須です。いつでも再検証して位置づけ、価値づけができるアーカイブズがなければ、消費されて失われていくだけだからです。だから「なにこれ。わけわかんない」みたいなものをとりあげて展覧会に仕立て、ときには収集してアーカイブする美術館の学芸員は、「むかしは訳がわからなかったけれど、いま見るとすごくいいね」などと来館者に言われると、ほっとして胸をなでおろし、にわかに知ったかぶりの解説をはじめるのです。淘汰もアーカイブもなかなか難しいなあ。

(館長 中山喜一朗)

発掘品代表「壺形土器」重要文化財・松永コレクション

伝世品代表「吉野山図茶壷」重要文化財・松永コレクション

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