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美術館の壁を“おして”みるー新入のごあいさつ

 初めてブログに登場します、この春に福岡市美術館の一員となりました、髙田です。これまで現代のやきものを扱う私立美術館の学芸員として働いてきましたが、4月から教育普及担当として福岡市美術館の活動に加わりますので、どうぞよろしくお願いいたします。いまは新しい職場に飛び込み、汗をかきながら仕事に取り組んでいますが、今度の転職に伴い初めて九州に住むことになったので、実は福岡市に引っ越してきてからもまだ一か月余り。福岡は外食でもスーパーでもお肉のクオリティが高いな、とか、街に自転車屋さん多く感じるのは気のせいだろうか?など、毎日美術以外のことにも好奇心を膨らませてアンテナを張りつつ過ごしています。

 このブログでは、教育普及活動やプログラムをご紹介することが多くなると思いますが、今回はブログの担当もお初ということで、個人的な感想になりますが、働き始めた福岡市美術館の建物についてとくに素敵だな、と感じたことがあり、お伝えしてみたいと思います。

 就職試験を受けに来た時には、緊張で施設をじっくり見まわしたり観察する余裕は全くなかったのですが、改めて通い始めると、福岡市美術館の建物にはおお!と感動する造作ポイントが色々あります。中でも気になったのが美術館の「壁(タイル)」です。

 設計者の前川國男さん(1905~1986)は日本を代表する建築家で国内各地の美術館を手掛けており、福岡市美術館もそのうちのひとつ、1979年の竣工です。前川さん設計の美術館といえば、東京都美術館もたしかに外壁が茶色くてこんなカマボコ型アーチのあるエントランスだったな、そういえば地面もタイル敷の模様のあるものだったなと、私自身の記憶の中の前川建築の印象につながる特徴を見つけたのですが、福岡市美を眺めていると、なんだか外壁の色合いが独特で、とても深みがあってピカピカしているのが気になります。そこで遠目からは茶色一色に見える壁面に近づくと、釉薬の掛かったタイル貼りであることがわかりました。ただ、そのタイルは場所によって形が様々で、貼り方も建物の一階辺り、下側は横向きにタイルが貼り渡してあるのに対して、上の方は正方形のタイルを斜め45度に傾けていたり(「四半張り」というそう)、かなり複雑なやり方をしています。

 興味が湧いて調べてみると、建物外装にタイルを使うのは前川建築の特色のひとつで、耐久性を高めるため「打ち込みタイル」という独自の工法を編み出し、設計する現場ごとに形や焼き方も工夫していたということを知りました。写真に写るタイルに開いた丸い穴は、壁をコンクリートの打ち込みで施工する際に、生コンクリートを流す型枠と桟木にタイルを固定した跡で、これによって壁とタイルがしっかり一体成形されるため、タイルが剥落しにくくなり、堅牢性が高まるのだそうです。

壁面のタイルには所々穴が開いています

 さらにタイルをじっくり観察してみると、微妙に異なる焼き上がりの釉薬の色、表面の艶感や下の素地のザラザラとした味わいが、やきものとして見てもとても魅力的に思えてきます。タイルの形も、角や切り口はシャープに処理されているのに個々のラインには手仕事のような揺らぎや柔らかさがあり、なんだか贅沢さを感じます。

たっぷり掛かった釉薬がカリントウみたいで美味しそうに見えてきました

 タイルの種類としては、「磁器質タイル」(タイルの規格分類で使用される素材、吸水率の違いで分けられる)と呼ばれるものとのことですが、釉薬の下の素地にはかなり粗い砂のような粒が見えており、これはやきものの粘土として考えると、土に含まれる珪石(石英)の粒だと思われます。陶器にもこうした粒が入った粘土はよく使われていて、ちょうど、6月11日(日)まで1階の古美術・コレクション展示室に出品中の《信楽檜垣文壺》(15世紀)の表面にも、少し似た肌合いを見つけることができました。美術館の壁面タイルが作られた愛知県常滑市と、壺の産地である滋賀県の信楽は、どちらも古くからの伝統がある窯業地です。建物の壁面と壺ではスケール感がだいぶ異なりますが、どちらもやきものという括りで見ると、そうか、つながりが無いとは言えないなぁと、美術館の周りをぐるりと巡って歩きながら考えました。信楽壺の方は美術品としてケースに入り、触れることが出来ませんが、美術館の壁は触ることが可能です。壁のタイルに触れて様子を確かめていただいてから壺を見ると、感触が少し想像できるかもしれません。

《信楽檜垣文壺》(15世紀)松永コレクション

 今回はこのまま美術館の外の話で終わってしまいますが、連休明けの5月13日(土)~21日(日)は、「福岡ミュージアムウィーク2023」が開催となり、期間中はコレクション展の観覧料が無料となります。どうぞ足を運んでいただき、建物と展示作品の両方を楽しんでいただければと思います。初めのてのブログに何を書こうかなと思い、まずは気になった美術館の壁をおして(推して)みました!

(学芸係長 教育普及担当 髙田瑠美)

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