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福岡市美術館ブログ

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コレクション展 近現代美術

日本画の人物にうっとり。

 コレクション展「日本画にみる人物表現」が始まりました。当館が所蔵する日本画作品のなかから、歴史上の英雄や美人画、あるいは身近な人物や子どもの姿など、人を描いた作品に注目する展覧会です。

コレクション展「日本画にみる人物表現」展示風景①

 当館の近現代の所蔵品で、「日本画」に分類されている作品は382点あります。その中で、「人」を主題として描いている作品は60点程度、さらにそこから絞りこんだ14点を展示しています。
 私は、福岡アジア美術館で、モンゴル画やパキスタンの細密画、ネパールの現代仏画など西洋画が流入する以前から描かれていた伝統的な絵画の現代の状況をとりあつかった展覧会に携わってきましたが、日本画の展示は初めての経験です。間近でみる日本画は、繊細な筆遣いによる美しさにうっとりとなってしまう作品ばかり。ぜひぜひこの機会に、そんな日本画の魅力に触れていただければと思います。

 このブログでは、出品作品の中から個人的おすすめの作品2点をご紹介します。
 1点目は甲斐巳八郎の《露路》という作品です。チャイナドレスを着た女性と中国の街の一角が描かれています。

コレクション展「日本画にみる人物表現」展示風景②(左端が甲斐巳八郎《露路》)

 甲斐巳八郎は、1903年熊本県生まれの画家で、1931年から47年まで満鉄の報道部に所属し、各地を旅行しながら、制作および文筆活動をおこないました。引き上げ後もアジア各地を旅し、そこに生きる人々を描きました
 本作については、あまり資料がないのですが、甲斐巳八郎とその息子である甲斐大策の文章を集めた「アジア回廊」(財団法人古都大宰府保存協会発行、1996年)という書籍にそのヒントとなる文章を見つけました。「北京の風格」と題された、昭和13年から18年(1938年から1943年)の間に満州で発表された文章のひとつで、巳八郎が、北京の街や女性について書いたものです。
 《露路》は、この文章から12~17年後の1955年に描かれた作品ですので、直接的な言及はありませんが、本作の内容と重なるところがあり、北京の街と女性を描いたものではないかと考えています。
 例えば、北京の街は、綿布が美しく使われており、商家の店先には大きな綿布が日除けとして垂れている、といった内容の文章があります。本作の右上に、日除けの布が描かれています。
 北京の娘さんに関する記載もあります。巳八郎が、新聞に広告をだして、絵のモデルを募集したところ、20人くらいの娘さんが集まったそうです。ホテルで10人くらいの男性が待機している部屋に一人ずつ入って話をしたそうですが(今でいうオーディンションですね)、その娘さんたちの多くが、そんな状況でも臆したりはにかんだりすることなく、快活に身振り手振りをまじえて話しをすることに、大変驚いたそうです。
 本作の中央に描かれている女性の、腕組したポーズや切りそろえられた髪型は、巳八郎が感じた北京女性への印象があらわれているように思えます。(ただし、断定はできないので、解説キャプションではそこまでは書いていません。)
 ひとつ気になることとして、同じ章の中に、次のような内容の文章があります。巳八郎は、ある人から、絹地の裾の長い旗袍(チーパオ、チャイナドレスのこと)が北京の女性らしい(装いだ)ときいたそうです。しかし巳八郎は、それは絹が流行したかつての北京であり、自分は綿布で裾の短い旗袍を採りたいと思う、と反論しています。
 本作では、旗袍は長い丈で描かれています。さて、布は、綿でしょうか、絹でしょうか? ぜひ、実物の作品をみていただき、どちらなのかのご意見をお待ちしています。

 おすすめ2点目は、蓮尾辰雄の《母子》です。

コレクション展「日本画にみる人物表現」展示風景③(左端が蓮尾辰雄《母子》)

 蓮尾辰雄は1904年大牟田市生まれの画家です。主に院展で活躍しました。
 沐浴の後なのか、おむつ替えの最中なのか、敷布の上のかわいらしい赤ちゃんと着物のお母さんが見つめ合うかたわらで、むくれ気味のお姉ちゃん。ちょうど50年前に描かれた作品ですが、お母さんが着物を着ている以外は、お子さんのいる家庭なら、現代でもみられそうな日常風景です。穏やかな色彩と柔らかな質感が、大変美しい作品ですので、近くで見ていただきたいと思います。

 さて、最後に宣伝です。11月25日(土)のつきなみ講座を担当いたします。「日本画、そしてアジアの伝統絵画について」というタイトルで、日本画と同様、西洋画の流入以前から描かれている伝統的な絵画の今日的な展開について、モンゴルやパキスタン、ネパールなどを例にお話します。ぜひご来場ください。

(近現代美術係長 山木裕子)

 

 

 

 

 

 

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