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コレクション展 近現代美術

「コレクションハイライト」での挑戦

福岡市美術館の2階、特別展示室の向かいに、コレクション展示室(近現代美術室)の入り口があります。近現代美術室A、B、Cという3室から成り、20世紀以降の美術を紹介しています。ここでは、現在「コレクションハイライト」と呼んでいる展示と、約2か月ごとに展示替えを行っている展示2本をご覧いただけます。(8月1日までは「近代日本の美術:明治から昭和初期まで①」と「野見山暁治・豊福知徳・菊畑茂久馬―地方と海外のはざまで」開催。8月3日からは「和田三造《博多繁昌の図》ができるまで」と「ミニマルなかたち」)

「コレクションハイライト」は、5月頃に内容を一新し、約1年間ほぼ展示替えをすることなくご覧いただくものです(今年度は緊急事態宣言が発令されていた5月上中旬に展示替えを行いました)。その名の通り、美術館を代表する作品を一堂に集めて展示する趣旨ですが、なにせ近現代美術コレクションは12,000点を超えていますから、代表する作品もたくさんあります。そのなかから、美術の潮流を紹介すべく意識したり、テーマを設けたりして、作品を選び、展示を作ってゆくのです。

ところで、日々当たり前のように目にしたり受容していることについて、一度立ち止まってみること、そして疑ってみることは、どんな場面でも大事なことです。私にも、今まで美術史の流れに沿って福岡市美術館の所蔵品を紹介する際、気になっていたことがありました。それは、女性作家の個展や女性作家だけを集めた特集展示にしない限り、コレクション展においては展示作品の大半を男性作家が占めてしまうことです。なぜこういうことが起こるのか。その大きな要因としては、所蔵品の大半が男性作家による作品で占められていることが考えられます。

ではなぜ、所蔵品の大半が男性作家による作品となってしまったかといえば、過去、作品収蔵を検討する時に参照されてきた従来の美術史には、女性の美術家の名前がほとんど登場していなかったことが挙げられます。参照元とされてきた美術史ははたして普遍的なものなのでしょうか? 実は美術史研究においては、美術史が、ある価値観をもった人々によって作られたものでありそこには編纂時に様々な偏りがあったことがすでに指摘されており、美術史自体の問い直しもなされています。美術館においても同じことができないはずがありません。

今年度の「コレクションハイライト」の②では、「コレクションと展示のジェンダーバランスを問い直す」と題し、上記の問題に真正面から取り組むことにしました。内容を考えるにあたって、まず所蔵作品と寄託作品のなかから、女性の美術家による作品を洗い出し、それらを並べ、どのような切り口で紹介することが可能かを探っていきました。今回の展示には、男性の美術家も含まれていますが、展示室ではこの作家が男性でこの作家が女性であるなどとは明示していません。性別ではなく、作家一人ひとりの作品、制作への向き合い方に注目することが重要だと考えているからです。

美術史そして美術館の収集活動や展示の根底にあった性別による不均衡に改めて目を向け、展覧会のテーマに取り上げること。これを「挑戦」と言ってしまっていいのか、ためらいがないわけではありません。けれど今まで、少なくとも福岡市美術館では初の試みです。今回の「コレクションハイライト」は来年の5月までの長期展示ですので、どんな展示になっているかは、ぜひ展示室でご覧ください!

(学芸員 近現代美術担当 正路佐知子)

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