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収蔵庫で松茸探し

それは収蔵庫内で作品整理の作業をしていた時のことでした。とある区画を通り過ぎた際、何ともかぐわしい匂いを感じたのです、匂いは松茸そのもの。「誰でしょう、こんなところに松茸を落としたのは…。」と収蔵庫で一人作業をしていた私はそうつぶやきながら、そこそこ本気で香りの出所を探し始めました。しかしいくら探せども松茸は見つかりません。昨今の状況でマスク着用がほぼ義務化されていますが、不織布マスクを通しても分かる程、と言えばなかなか強い香りだったことがご理解いただけるかと思います。これは必ず出所を探さなくてはいけない、とエリアの端から端まで気持ち足早に香りを辿ったところ、行きついたのは油彩画を保管している棚の中でした。どうやら私は松茸ではなく、木材として松の匂いをかぎ取っていたようです。

私の頭の中には「そもそも松材を使う理由は何だったのか?」という職務としての考えと「松茸菌が付いてる?栽培可能?」というどうでも良い雑念で頭の中がいっぱいになりました。何とも言えない時間がしばらく流れ、ようやく私は半ば強引に妄想を振り払い、作品整理の作業を終え収蔵庫を後にしたのです。

さて、松材が使われた(かもしれない)理由とは何だったのでしょうか?

通常、油彩画に木材が使われる場合は「額縁」かキャンバスを張り込む「木枠」になります。木枠は主に杉材(たまに桐材も)が使われ、逆に松材は松脂が出やすいので、ほとんど使われることがありません。額縁は様々な種類の木材が使われるそうなので松の可能性も無きにしも非ず。そして、その該当の棚は戦前戦後の作品が置かれており、言い換えれば物資不足の時期に描かれたものでもありました。杉材が入手しにくい状況(時代)であった可能性、作家自身が自身で木枠を制作した可能性等。きっかけは松茸でしたが、普段来館者の方に見られることのない作品の裏側に目を向けることが出来たのは良かったと思います。

ちなみにこれだけ松茸松茸と連呼していたにも関わらず、私が本物の松茸の香りを嗅いだことは片手で数えられる程度。数で言えば圧倒的にインスタントのお吸い物(松茸味)の方が多いのですが…、○谷園は侮れません。

(学芸員 保存管理担当 渡抜由季)

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