2023年12月28日 17:12
2023年、どんな一年でしたか?
いろいろあったよ、とか、穏やかだったね、とか、みなさん感慨をお持ちのことと思います。
美術館にとっては、新しい「仲間」を迎えることが、やはり大きなトピックです。新収蔵作品がコレクション展のレギュラー陣に一石を投じ、新たな世界が開けた、と感じることができた一年でした。
上は、今年の6月から9月初めまでの展示風景ですが、第2次世界大戦の亡霊を思わせる、アンゼルム・キーファーの鉛製の戦闘機〈メランコリア〉が、焼夷弾投下をイメージさせる部分を含む、鎌田友介の《Japanese houses (Taiwan/Brazil/Korea/U.S./Japan)》と向かい合っています。この画像の角度から相対峙する両作品を見るたびに、胸に迫る思いと緊張感を感じていました。
9月16日には、塩田千春が福岡市美術館のために制作した《記憶をたどる船》が公開されました。
塩田さんは、制作前に福岡に来られ、展示予定の場所をご覧になりました。その場に立ち、歩き、その空間を全身で受け止め、体に記憶させているお姿が印象的でした。実際、その時に描かれたスケッチが、この作品に結実したのですが、後に、「その場所に来てしまえば、どんな作品にすべきか分かる」とおっしゃったのを聞いて、なるほど、その場所に<降りてくる>のだな、とちょっと鳥肌が立つ思いでした。
塩田さんは福岡の過去・現在・未来について、わたしたちと対話し、福岡市博物館などでリサーチもされて、この作品を制作されました。順路通りに近づいていくと、時間のなかで織りなされた歴史の展開を示す、網目状の帯が目に入ります。そして、さらに進むとその「歴史」の背後に、市井の人々のささやかな営み(家族写真や街並み)や歴史上の事件(福岡大空襲など)を記録する写真や絵図などを乗せた船が置かれています。市井の人々の生活を記録する一枚一枚の写真をじっくりみると、大きな歴史のなかの小さな営みを慈しむ、塩田さんの思いに触れる気がします。
さて、現在展示している田中千智《生きている壁画》ともお別れです。といっても、壁画自体がなくなるのではなくて、1月から田中さんが新たに手を入れられて、いわば「第2章」に入るのです。田中さんは1月5日から制作に入り、第2段階の完成直前となる1月21日(日)には、作品について語るトークイベントをおこないます。
お楽しみに!
改めまして、ことしもお世話になりました。
来年また、お会いできる日を楽しみにしております。
(館長 岩永悦子)
《生きている壁画》第2段階の制作
期 間:2024年1月5日(金)~27日(土)(予定)
場 所:福岡市美術館 2階 近現代美術室大壁面
※休館日、日曜日は、制作はお休みです。
※制作の様子を館内で見学する場合は、コレクション展観覧券が必要です。
観覧料:一般200円、高大生150円、中学生以下無料
※1月23日(火)は近現代美術室休室のため館内での見学はできません。
※期間中、休憩等で作家不在の場合もございます。
《生きている壁画》第2段階・完成直前トーク
日 時:2024年1月21日(日)14:00~15:30(開場13:30~)
会 場:福岡市美術館 1階 ミュージアムホール
定 員:180名(当日先着順/入場無料)
登壇者:[話し手] 田中千智(画家)
[聞き手]山木裕子(福岡市美術館近現代美術係長)