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コレクション展 近現代美術

水彩絵具とアラビアガム

現在、近現代美術室Aにてコレクション展「水彩って何?」を開催中です!本展では小学校の図画工作などで、日本人に親しまれている水彩画について、材料や技法を中心に紹介しています。実は水彩絵具というのは、顔料(色の素)とアラビアガム(接着剤)を混ぜることで出来上がります。このブログでは、アラビアガムを少しだけ掘り下げてご紹介したいと思います。

そもそもアラビアガムを知らないという方にちょっとご説明を。
アラビアガムとは、マメ科アカシア属の樹木から出る樹液のことを指しています。主な特性として「粘性」と「乳化特性」の2種類が挙げられ、さらに口に入れても無害であるために、コーラなどの清涼飲料水やビールの泡維持、アイスクリームの粘度調整や、錠剤のコーティングや切手裏面の糊等…、挙げればキリがないくらいに私たちの生活に身近なものとなっています。これらの用途の一つとして水彩絵具が含まれているんですね。

それでは、このアラビアガム、どんな形なのか見てみましょう。

アラビアガム固形(樹液の形状のままです)

結構ごつい球形をしています。固いのですが、何となく甘い香りがします。
付着している草はアラビアガムの木の葉か、地面に落ちた時に付着した草のいずれかでしょう。採取場所の様相が想像できそうです。

水溶性なので、実際にお湯に溶かしてみるとこんな感じになります。

左:熱湯を入れた直後 右:熱湯を入れてから約2日後

このとろみがある溶液と顔料を混ぜれば水彩絵具の出来上がりです。

さて、アラビアガムが、日本の水彩画教育のため導入されはじめたのは、1876(明治9)年頃といわれています。当時の工部美術学校(現東京藝術大学)がアントニオ・フォンタネージを教師として招聘するための「契約書」に「油絵・水絵」と記載していたことから「水絵=水彩画」として水彩画が新たな技法として受け入れられていったようです。また、画家の五姓田芳柳二世が明治10年頃の様相について、「水彩絵具が舶来品のために高価で買うことができず、代わりに日本画の顔料を買い求め、それを水に浸してやわらかくなったところへアラビアゴムと蜂蜜と胆汁を入れて練った」と説明しているそうです。(酒井忠康「近代日本の水彩画」『近代日本の水彩画』岩波書店、1996年、pp.145-183)

この回想をみると、はじめから「水彩画=アラビアガムが混ぜられているもの」であるということが分かります。なぜか蜂蜜や胆汁(たぶん牛)も混ぜてたようです…。蜂蜜は粘度調整のため、胆汁はぼかしやにじみに効果的でもある界面活性を目的として当時使われていたのかもしれません。

現在では、粘度調整剤や界面活性剤、展色材など、多くの画材が合成物に置き換えられている中、アラビアガムは今も変わらずに使われ続けています。理由は、その使い勝手の良さや入手のしやすさ等があるのかもしれません。そんなアラビアガムですが、世界全体の輸出量の実に7割はスーダン産が占めているとのこと。一方で、そのスーダンの若者の離農が現在大きな問題となっているそうです。(「アラビアガムの主産地スーダン、重労働嫌い離農止まらず 若者つなぎ止めが鍵」https://www.afpbb.com/articles/-/3451477

アラビアガムだけの話ではありますが、少し調べるだけで様々な物語があることが分かりました。目立たないけれどとても身近なアラビアガム、調べてみるととても奥深い世界であることが分かります。

(学芸員 作品保存管理担当 渡抜由季)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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