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福岡市美術館ブログ

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カテゴリー:展覧会

展覧会

何かが起こる空の色

先日、聞いたことのない破裂音がして、夜中に飛び起きました。寝ぼけた頭で窓の外を確認し、「あーこうやって地球が滅びるのか…」となぜか納得して眠りに落ちたのですが、翌朝調べると、近所に雷が落ちていたのでした。でもあのバチーンという音は本当にショッキングでした。空が怖い、という原始的な感覚を久しぶりに思い出しました。

さて、現在開催中の「ギュスターヴ・モロー サロメと宿命の女たち」では、神話や聖書の一場面を描いた作品が多く展示されているのですが、思わずぞっとするような空模様を見ることができます。

例えば、《パルクと死の天使》(展示番号33)。ギュスターヴ・モローが恋人アレクサンドリーヌを亡くして間もなく描かれたこの作品には、夕闇の中に運命の糸を断ち切る女神・パルクが、馬に乗って迫ってくるところが描かれています。馬とパルクを率いる死の天使の輪郭はペインティングナイフで刻まれており、たっぷり盛られた濃い青と褐色の絵具がナイフでかき混ぜられ、うねっています。そして、なんといってもこの空!落ちていく夕日と光背の厚塗りの黄色に対して、どんよりとした藍色に少しずつ変化していく様子が、グラデーションによって表されています。モローの感情の高ぶりがそのまま絵になったようなこの作品で、空は、確かに近づいてくる死、というテーマと呼応しています。

手前:《パルクと死の天使》1890年 油彩・カンヴァス ギュスターヴ・モロー美術館蔵

一方、旧約聖書に登場する女性を描いた《バテシバ》(展示番号139)の空は、彼女がたどる悲劇的な運命とは対照的に鮮やかで、澄みわたっています。バテシバは、水浴びをしている所をイスラエル王のダヴィデに見初められ、関係を迫られます。ここまでで十分悲劇的なのですが、結果として彼女は妊娠し、夫は戦地に送られ、挙句の果てに戦死してしまいます。哀れなバテシバ。いま、水浴びをしている彼女の姿は、薄づきの絵具で描かれ、少女のような無邪気ささえ感じられます。背景に広がる朝焼けの空の色と、これから彼女がたどる運命はあまりにもかけ離れており、かえって恐ろしさがこみ上げてきます。

右端:《バテシバ》制作年不詳 油彩・カンヴァス ギュスターヴ・モロー美術館蔵

今回のモロー展の見どころは沢山ありますが、ぜひ実物を見て感じていただきたいのは、その色彩の鮮やかさです。装飾的な要素がふんだんに盛り込まれた重厚な画面だけでなく、物語や登場人物の感情をドラマチックに演出する色彩にもご注目ください。教え子にアンリ・マティスやジョルジュ・ルオーら、後にフォーヴィズムと呼ばれる、激しい色彩表現を特徴とする芸術運動に身を投じた画家たちがいることにも頷けます。

何の決まり事もなく、思うままに絵筆を振るった空模様からは、モローの色彩家としての一面と、絵の中に込められたドラマを感じ取ることができます。

(学芸員 近現代美術担当 忠あゆみ)

古美術
コレクション
展覧会

「かわいい」はおじさんが作っている。

タイトルは少し前に話題になったツイッターから拝借しました。なかなかインパクトのあるフレーズですが、よく考えると確かにその通りで、巷にあふれるかわいいものっておじさんが作っていることが少なくありません。そして、こうしたかわいい職人のおじさんの元祖と言えるのが、ただいま公開中の仙厓さんです(「仙厓―小西コレクション」展、~12月1日まで)。本展は2016年に小西昭一さんからご寄贈いただいた、作品を一堂にご紹介するものですが、55点ある作品の中でも特におすすめなのが、この《双狗図》です。

仙厓義梵筆《双狗図》

尻尾を立ててこちらを見つめる様子が何ともキュート。会場でそのかわいさを是非実感してください。ところで、仙厓さんはどうしてかわいい絵を描こうと思ったのでしょう?私生活は質素倹約を旨としていたようで、個人的にかわいいもの好きだった形跡はあまりうかがえません。恐らく、このあたりの事情は現代のかわいい職人のおじさんたちも似たり寄ったりだと思います。つまり、個人的に好きだったからかわいいものを作ったわけではなく、何か別の目的があったのではないでしょうか。その目的というのは、売れるからとか女子ウケするから、とか人によって様々でしょうが、仙厓さんの場合はどうだったのか?今回はそのあたりを考えてみたいと思います。
そのためには、少々遠回りにはなりますが、仙厓さんの画業を初期からたどってみる必要があります。岐阜県に生まれた仙厓さんが博多へやってきたのは、39歳の時のこと。恐らく、本格的に絵を描き始めたのもこの頃だったと思います。下の《香厳撃竹図》は仙厓さんが48歳の時の作品で、制作年が分かるものの中では一番早いです。

仙厓義梵筆《香厳撃竹図》

実は仙厓さんがかわいい絵に目覚めるのは、まだまだずっと先のこと。博多・聖福寺の住職を務めていたころはマジメでかっちりとした絵を描いていました。

 

仙厓義梵筆《円相図》

こちらの円相図も住職時代に描いたもの。円相は自身の悟りを象徴する重要なモチーフで、隣には長いコメント(賛文)が記されます。要約すると、世の中には仏教や儒教、神道など様々な思想があるけれど、この円相はこれらを全て含みこんだもので、思想の違いをことさらに強調するのは意味のないことだといいます。個々の多様性を認めつつも、それらを包摂する心のありようを重視すべきことを説いた仙厓さんの思想の根本がはっきりと示された作品です。この頃の仙厓さんにとって、絵を描くことはあくまでも自身の修養、あるいは、弟子への指導の一環であったようで、こういった絵がかわいさと無縁なのは当然かもしれません。そんな仙厓さんの画風に変化のきざしが現れるのは、62歳で聖福寺の住職を引退してからだったようです。

 

仙厓義梵筆《恵比寿図》

上の《恵比寿図》は、仙厓さんが引退してまもない60代前半の作例と考えられますが、からっとした恵比寿の笑顔は、住職時代のマジメな画風から離れつつあることを示しています。住職を引退後、博多の人々との交流を通して多くの絵を描くようになったことが、仙厓さんの画風が変化した要因だったと考えられます。

 

仙厓義梵筆《五徳図》

上の《五徳図》は、釜を支えるための道具で、今でいうコンロを描いた作品です。住職時代の作品との違いとして①仏教とは関係のない日用品を描いていること②賛文が平仮名を交えた平易な文体になっていること、を上げることができます。ちなみに、賛文の内容は、五徳は「如く」と音が通じているので、このようにありたいと思う心を象徴する存在であり、仏教では心のありようが最も重要であると説いています。このように、絵を通して、禅の教えを人々に分かりやすく伝えたい、というのが引退後の仙厓さんの思いだったようです。特に《円相図》や《五徳図》で示されるように、心のありようこそが大事である、というのが仙厓さんの禅僧としての一貫した考えだったように思います。

 

仙厓義梵筆《双狗図》

ようやく、この作品に戻ってきました。実はこうしたかわいい作品は仙厓さんにとっての到達点と呼ぶべきものです。というのも、先ほど紹介した《五徳図》では、賛文を読んで初めて仙厓さんの伝えたいメッセージを理解できるのですが、《双狗図》では最早その必要はありません。絵を見て直感的に「かわいい」と思うこと、これだけで十分なのです。なぜなら、心のありようを重視する仙厓さんにとって、最も大事なのは作品を見たときに皆が同じ思いを共有することだったのですから。

こんな仙厓さんの作品が人々から愛されないはずはなく、福岡では、多くの文化人・実業家によって仙厓コレクションが形成されました。今回ご紹介する小西コレクションはその中でも質量ともに優れた作品群です。作品1点1点の素晴らしさもさることながら、蒐集されたコレクターの仙厓愛も強く感じられるラインナップです。是非お越しください。

(学芸員 古美術担当 宮田太樹 )

展覧会

あえて基本に立ち返る

富野由悠季の世界」展は、日本を代表するアニメ監督である富野由悠季氏の55年にわたる仕事を振り返る展覧会です。日本初のテレビアニメ「鉄腕アトム」にかかわった頃から、最新作品までの関係資料を展示しています。見方によっては、これは戦後アニメヒストリーの一側面ととらえることもできます。

富野監督のもっとも有名な作品は「機動戦士ガンダム」(1979年)です。現在までに、多数の続編や関連作品が制作されてきたので、富野監督の名前は知らずとも「ガンダム」の名称やそのロボットのイメージは思い浮かぶ、という方は多いことでしょう。現在では「ガンダム」に限らず日本製アニメは海外にも多数のファンを生み出しています。アニメは国境を越えて1つの文化ジャンルとして認知された感があります。

こうした状況を反映してかアニメ関連の展覧会は年々増える傾向にありますが、その多くがアニメプロダクションサイドや企画会社等が制作したもの。開催する美術館側は「巡回受け入れ」のみ行う場合が大半です。その意味で「富野由悠季の世界」はとても珍しい展覧会です。当館含め6つの美術館の7人の学芸員が1から作り上げた展覧会だからです。

しかしこの展覧会、企画開始段階から難航しました。まず当の富野監督がなかなか首を縦に振ってくれません。そしてようやくOKがでたところで、富野監督のアニメの大半を制作したサンライズのご協力のもと、同社の資料課にて膨大な資料の山を調査しましたが、アニメの資料の現物を調査するのはこれが初めて。一体どれが重要なのか?そもそも、だれが書いた(描いた)ものなのか判然としないものも含まれています。20年前後のキャリアを持つ我々ですら、資料の扱い方、見方、その意味などについては一から勉強しなおしでした。

ようやく調査が終わったところで、今度はその選定です。しかし、例えば「絵コンテ」、「動画」、「セル画」などの資料がアニメ制作のどの段階で描かれるのか、そのプロセスのどこに富野監督が関わっているのかをしっかり説明をしないと、単なるアニメ資料の羅列となり、見ていてあまり面白くはありません。選定をしながら、同時に、どのような解説を付けていくかも考えていきました。今回は、7人がそれぞれ3~4つのアニメタイトルを担当したので、展示資料選択、展示方法、解説文作成などは、各担当が責任を持って行いました。

そして2019年6月22日。無事に展覧会が開幕したわけですが、振り返ってみれば、普段は美術作品に触れている我々が、「今回はアニメだから」といって何か特別なことを行ったかといえば、そうでもなかったのです。資料を調査し、作者の話を伺い、それに基づき資料の研究を行い、それを展示と解説に反映させる、という展覧会を企画する学芸員の基本的な仕事を行ったにすぎません。ただ、通常の油彩画の展覧会ならば100点程度で収まるところ、今回は3000点超! 富野監督の演出意図を「伝えたい」「知ってほしい」の一心で7人が一丸となって取り組んだ「富野由悠季の世界」展。来場の皆さんには大変好評をいただいています。え?展覧会でへとへとになるのは珍しい? でもみなさん、海外の大美術館に行ったらもっとへとへとになって作品を見ているはずですよ。本来展覧会とはそういうものなのではないでしょうか。

できれば、アニメファン以外の皆さんにも見てほしいなあ。

(学芸係長 山口洋三)

撮影:山崎信一(スタジオパッション)
画像は肖像権保護のため加工しています。

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