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菊畑茂久馬さんを偲んで(3・完結編)

2011年1月。私はニューヨーク近代美術館(MoMA)のアーカイブ(資料室)で、ある展覧会に関する資料を調査していました。かつて菊畑さんが《ルーレット》3点を出品した「The New Japanese Painting and Sculpture(新しい日本の絵画と彫刻)」(以下、NJPS展)。前回のエッセイで触れた、菊畑さんの記念すべき米国デビューの展覧会です。

なぜ調べようと思ったのかといえば、この時の出品作品である《ルーレット》3点のうち1点が所在不明だったからです(ちなみに、3点のうちの1点はMoMA所蔵。もう1点はロックフェラー3世夫人の所蔵を経て、現在大阪中之島美術館所蔵)。MoMAのアーカイブの充実ぶりは有名で、しかも事前に資料調査の申し込みをすれば閲覧も可能です。私は、かつてここに在籍したリーバーマンが遺した展覧会資料を調査して、捜索対象である作品の所蔵先をつかもうとしたのです。

結果から言えば、行方不明の《ルーレット》の所在は結局わからずじまいだったのですが、別のことがわかりました。NJPS展のために、日本から送られた菊畑作品は3点ではなく4点で、しかも、そのうち出品されることのなかった1点は企画者であったリーバーマンが個人で購入・所蔵し、NJPS展に出品されることはなかったのです。ちなみに、リーバーマンほかMoMAのキュレーターたちも、出品作家の作品を購入していました(ちょっと今だと考えられない所業ですね。。。)

ではリーバーマンが所蔵していた《ルーレット》はどんな作品で、それはどうなったのか? リーバーマンはメトロポリタン美術館にも在籍していたので、実は、メトロポリタン美術館にも問い合わせてみましたが確たる情報は得られず。資料に記されたサイズと、米国側がつけたと思しき「Hero」(ヒーロー)というニックネームから推察して目星は付けることができましたが、結局ここまでで時間切れ。7月開幕の回顧展では、上記のことを図録と展示に反映させました。

こうした調査結果を帰国後にお伝えしたところ、驚くことに、この辺の経緯は、当の菊畑さんはまったく知らなかったそうです。そもそも、MoMAとの交渉役となったのが、当時、菊畑さんを若手作家として売り出していた南画廊ですが、事の詳細を菊畑さんにほとんど伝えていなかったようです。ニューヨーク~東京~福岡、の距離感は、ネット社会となった現在と1960年代とではあまりにかけ離れています。国際舞台から遠く隔たった地で、菊畑さんは一切を知らないまま、炭鉱画家・山本作兵衛の作品と人柄にのめりこんでいっていきました。いや、知ってたとしても、きっと菊畑さんはそうした「メジャー」な動向には背を向けていたことでしょう。

さて回顧展が無事終了してほっと一息ついたところ、(なぜか)ふと気になって、私は「Mokuma Kikuhata」でネット検索をしてみました。すると、あるオークションサイトに、リーバーマンが所蔵していたものと推察される《ルーレット》が掲載されているのを発見してしまいました! しかし残念ながらその時点ではもう落札済み。残念であると同時に、所在が確認され、少し安心。そのうちどこかの美術館か個人に所蔵されるかもしれないな…と思っていた矢先の2011年末。福岡市のあるギャラリーから電話がかかりました。「《ルーレット》の情報があるっちゃけどあんたのとこで買わん?」。え、その《ルーレット》ってもしかして? 作品写真を送ってもらったところ、ずばり、私が推測した通りのもの、つまり、リーバーマンがかつて所蔵し、ネットオークションで落札されたあの作品でした。それからいろいろ経緯あり、2012年度の新収蔵品として、かつて「Hero」とよばれた《ルーレット》は、当館の所蔵となりました。菊畑さんは、この作品の約50年ぶりの「里帰り」をことのほか喜んでおりました。リーバーマンさん、菊畑さんには「よろしく」伝えましたよ。いやーしかし、気が付けばあれから18年、結構時間かかりましたね…。

現在、本作品は、当館の近現代美術室Cにて、アメリカの美術家ラウシェンバーグとニーヴェルスンの間に展示されています。9月1日から近現代美術室Bにて「菊畑茂久馬:『絵画』の世界」も始まりますので、一緒にご覧いただくこともできます。菊畑さんの長年の功績とともに、日米をまたにかけた作家とキュレーターの、実にわずかで、しかし深い絆の証も、ぜひ、見てください!

かつて、リーバーマンが所有していた《ルーレット》。
「Hero」という副題名をつけられていたが、ずいぶんと痩せている。
頭部に見立てられたドーム状の物体は、旧日本兵のヘルメット。

■ブログ「菊畑茂久馬さんを偲んで(1)」
https://www.fukuoka-art-museum.jp/blog/11324/

■ブログ「菊畑茂久馬さんを偲んで(2)」
https://www.fukuoka-art-museum.jp/blog/11751/

(学芸係長 近現代美術担当 山口洋三 )

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