2023年8月11日 09:08
本当に毎日暑いですね。出かけるのも勇気がいるほどですが、この夏もご来館いただいて、本当にありがとうございます。しかもこのブログを書いている間、台風が福岡ににじり寄ってきています。これ以上の被害がどこにも出ませんように、と祈るような気持ちです。
さて、館内にはお客さまの声を寄せていただくためのアンケート用紙を設置しています。7月度のアンケートでは、同月1日に始まった「WHO AM I 香取慎吾個展」に来られた方からのコメントがたくさん寄せられました。その中には館内整理にあたっていたスタッフへのねぎらいのコメントも!こんなこと、なかなかないです。本当にありがとうございます。
香取さんご自身が、福岡市美術館での展示を喜んでくださっているとも聞きました。そんな香取さんや香取さんの展示を見に来られる皆さんに、ぜひ、福岡市美術館を思い切り楽しんでいただきたく、当館のコレクションをご案内したいと思います。なんと言っても、香取さんの展覧会を出たら、目と鼻の先に入口がある、近現代美術のコレクション・ハイライトから、ぜひ!
さて、ちょっと意味深な感じのブログのタイトルは、香取さんの作品が「心の内に抱えているものをあらわにした」という印象を与えることからつけてみました。絵を描くきっかけに、外にあるものを写し取りたくなる、ということがあるかと思いますが、逆に、内にある思いや感情に形を与えるということもあります。香取さんの作品は後者のイメージが強かったので、コレクションからも、「心の内を語る」「隠されたものがあらわになる」という作品をピックアップしてご紹介したいと思います。
コレクション・ハイライト①入口にあたるA室では、ジャン・デュビュッフェの《もがく》がみなさんをお迎えします。人の形の内側にさまざまな色が渦巻いています。目を見開き、立ちすくむ人物。爆発寸前のマグマのような感情が、この人を支配しているのでしょうか。
次には、ジャン=ミッシェル・バスキアの《無題》を。黄色と黒のコントラストの強い画面。絵の中心に描かれているのは、大きく手を広げた人体解剖図です。バスキアはアフリカ系アメリカ人ですが、内臓や血管など体の中身はみな同じなのに、たった一枚の皮膚が人と人とを隔ててしまうことへの、激しい思いが伝わってくるようです。
草間彌生の《夏(1)》《夏(2)》は、異界から来た生物のよう。あるいは、植物が突然変異した姿のようでもあります。外に向かって何かが噴き出し、あふれそうな形です。考えれば、植物に蕾ができ花が咲くことも「隠れていたものがあらわになる」ことかもしれませんね。
さて、ロビーを横切って、コレクション・ハイライト②のC室へ。
ザオ・ウーキーの大作のタイトルは《僕らはまだ二人だ―10.3.74》。「僕ら」とは、作家と亡くなった妻のことです。うねるような筆づかいで表される色と形は、大きく、強く、複雑です。言葉にならない、作家の思いを感じさせます。
薔薇の柄のゴージャスな織物から五色の糸がぶら下がっています。実は、この糸は作者の手塚愛子自身が、織物の中から引き抜いたものだそう。重厚感のある織物が、派手な原色の糸で織りあげられていたなんて。目に見えるものは、限られている。そんなことを思わせます。
香取さんにも、ファンの皆さんにも見ていただきたいコレクション、いかがでしたでしょうか。もちろん、このほかにもたくさんの作品が展示されています。楽しんでいただけることを祈りつつ。
(館長 岩永悦子)