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今年の夏休みこども美術館は「水のリズム」を感じよう

もうすぐ7月。そろそろ「夏休み」が待ち遠しい頃ではないでしょうか。当館の夏休みと言えば「夏休みこども美術館」。1990年から毎夏開催している教育普及プログラムです。こどもたちに美術館と美術作品を楽しんでもらえるよう、テーマに沿って、当館コレクションを展示しています。

夏休みこども美術館「水のリズム」展示風景

今年は「水のリズム」がテーマです。見た目や題名が水を連想させるものはもちろん、少し水の解釈を広げたもの、さらに普段は美術館では聞くことのない「音」も意識して、コレクションから作品を選び展示しています。ところで、みなさんは「水の音」を意識して聞いたことがありますか?水の音というと、川のせせらぎ、滝の轟音などがまず浮かぶかもしれません。でも、お風呂で湯舟につかったときの音や、急な雨で雨宿りしているときの音、公園の水路にカモが飛び込んだ音、ネコちゃんが水を飲んでいる音など、耳を澄まして暮らしを見渡してみると、私たちの周りには「水の音」があふれています。

実は、今回、いつもとは違う試みとして、展示室で水の音が聞こえる仕掛けをつくりました。水の音は、私自身が福岡のいろいろな場所で録音したものです。皆さんにはまず、作品を見て水の音を想像してみて欲しいのですが、さらに水の音を聞きながらもう一度作品を見て、見え方の変化も楽しんでいただきたいと思います。

大濠公園のカモたち

さて、そもそも、どうして水の音を取り上げたのか。
理由の1つは、人の考え/見方は環境や経験によって変わる、という(半ば当然の)ことを、改めて体験できる場をつくりたかったからです。
この数年、新型コロナウィルスの影響もあるのか、社会の閉塞感が強まっているように感じ、特に自分と違う考えに対しての不寛容さが増しているように感じます。窮屈なこの「空気」を、もう少し寛容なものにできないか、、、そこで、展示室に「音」の仕掛けをつくることにしました。ぜひ展示室で、水の音を聞きながら、作品を鑑賞してみてください。「水の音」の介入によって、それまで自分が見ていた作品が違ってみえるかもしれません。そう、思ったより自分の考え/見方は、簡単に変化するものなのです。美術館は、自分の考えの変化に気づくことができる場であり、また異なる考えの者同士であっても、互いを許しあいながら、安心して過ごせる場でありたいと思います。

水の音を録音した場所の1つ、油山市民の森(福岡市南区桧原)

もう1つの理由は、「地球環境問題」に美術館はどう向き合うのか、真剣に考える時期にきたと実感したことがあります。2019年に開催されたICOM(国際博物館会議)京都大会でも、地球全体の環境問題が大きなトピックの1つであったことは、博物館関係者の中では記憶に新しいことでしょう(※1)。また、日本・世界の各地や、ここ九州地方でも毎年のように大規模な水害が起こり、私自身も1人の地球人として、環境問題を未来への課題として考える機会が多くなりました。この、人類の前にそびえたつ大きな課題を、どうやって自分事に引き寄せ、個々の日常の中へ落とし込んでいくか、美術館に課せられた喫緊の課題の1つとして受け止めています。

ただ、「環境問題」という言葉は、ともするとミュージアムの中でも自然史系博物館や科学館の課題と捉えられがちな嫌いがあります。それを、あえて美術館で扱うには、どうすればよいか・・・。そこで考えたのが、「水」の解釈を広げ、人々の周りにある様々な「水」に意識を向けるという視点です。展示では、先に述べたように、水の持つイメージを広げ、食べる「水」や生活の中の「水」、また水のように見える作品などを取り上げています。

直接的に環境問題を取り上げてはいませんが、展示室を出たあと、ふと帰り道で見かけた「水」が気になって目を止める、そんな意識が生まれることを期待しています。

さて、どちらの理由も「夏休みこども美術館」で取り上げるには、難しいと感じるかもしれません。ただ、「他者に寛容になること」も「地球環境問題」もどちらも、これからの未来を考えるときに避けられない社会の課題であると思います。そして、その未来を牽引していくのは、成長した現代のこどもたちのはずです。

昨年、当館で開催したシンポジウムの中で、国立新美術館長・逢坂恵理子氏は「他者への気づき」「自然・環境への関心」「実体験」というキーワードを挙げながら、これからの美術館の姿を提起されました(※2)。今年の夏休みこども美術館「水のリズム」展も、こどもたちが鑑賞活動を通じて、「他者への気づき」「自然・環境への関心」を「実体験」として経験できる場となればと思います。

(学芸員 教育普及担当 﨑田明香)

 

※1 ICOM日本委員会のHPに、ICOM京都大会の特集として、佐久間大輔氏(大阪市立自然史博物館学芸課長)「博物館は持続可能性を社会にもたらすか?」というジャーナルが掲載されており、博物館と環境問題についても記述があります。

※2 2021年7月に当館で開催したシンポジウム「新しい美術館像~コロナ禍のなかで考える」の中で、登壇者の逢坂恵理子氏(国立新美術館長)は、これからの新しい美術館像として「実体験」「都市から地方へ」「他者への気づき」「人間以外の生き物との共生(→自然・環境への関心)」「チームワーク」というキーワードを挙げました。

 

夏休み期間中に、「水のリズム」展に関連したワークショップ等も開催します。
申込みはこちらからどうぞ。締切は7月18日(月・祝)です。

「水のリズム」展の会場では、夏休みこどもとしょかんも開催中。
「水」をテーマに選んだ絵本を紹介していますので、ぜひ読んでみてください。
私のおすすめは五味太郎さんの「みず」です。

夏休みこどもとしょかんの様子

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