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カテゴリー:コレクション展 近現代美術

コレクション展 近現代美術

コレクションハイライトのBefore – After

 当館コレクション展の魅力のひとつは、それぞれ個性をもった展示空間が連なりながら、異なる雰囲気の中で作品と出会うことができるところでしょう。
 例えば、近現代美術室の最初の部屋(A室)はグレーの壁で、沸き立つ心をスッと落ち着かせてくれます。つづく部屋(B室)は、白い壁に木の床、黒い格子の天井でスタイリッシュ。最後の部屋(C室)は、壁も床も天井も白、他の部屋より天井も高くて柱もないためとても開放的です。コレクション展示の見学では、こうした各部屋の個性にも目を向けてください。

B室の現在の展示風景。「野見山暁治のしごと」展を開催しています(9/1まで)。

 さて、今日紹介する「コレクションハイライト」は、近現代美術室のA室とC室でおこなっています。
 [ナショナル/トランスナショナル]のテーマのもと、7つの章を設けて「国」ごとに代表的な作家・作品を紹介しており、最後は、特定の「国」の枠組みを超えたアイデンティティをもつ作家や、世界各国でプロジェクトを展開している作家に注目する展示となっています。作家の出身「国」というものを鑑賞の手がかりにしつつも、同時に多くの作家が様々な理由により「国」を離れて、豊かな活動を繰り広げてきた様相をご覧いただける内容です。

A室の現在の展示風景。「コレクションハイライト」の最初のコーナーは「フランス」です。
(シャガール《空飛ぶアトラージュ》やレオナール・フジタ《仰臥裸婦》などを展示しています)

 写真は近現代美術室に入ってすぐのA室です。市美の近現代室に馴染みのある方は、この写真をみて「アレレ⁈ ダリやミロはどこ?」と驚かれるかもしれませんね。
 この部屋には、次の写真のように、2019年のリニューアル開館以来ずっと、ダリやミロの作品が鎮座していたからです。まさに市美の「顔」として「働いて」いただきました。

 

Before(2023年度のA室)

 

2019年以来、ダリ(左の壁の作品)とミロ(右の壁の作品)がこの部屋には鎮座。 (中央の彫刻は草間彌生の作品。その背後の絵はポール・デルヴォ―の作品。)

 しかし5年間もずっとこの部屋に展示していると、どんなにすごい「顔」でも、だんだん新鮮味もなくなってくるというものです。ダリやミロも、この部屋に飽きたかもしれない妄想し(笑)、今回は収蔵庫でゆっくり休んでいただこうと……。
 いえいえ、今回のテーマにふさわしいコーナーと作品のサイズにあう大きな空間に「働く」場を移してみました!

 

After(現在のダリの展示風景)

 

6月13日より、天井も高く白一色のC室に展示しています。写真はC室の入口から見たダリの《ポルト・リガドの聖母》

 いかがですか? グレーの落ち着いた部屋でふと出会うのと、白一色の世界に浮かんでいるような作品に遭遇するのと、同じ作品でも違う印象や感想をもたれるかもしれませんね。
 ちなみに私個人は、より厳かな雰囲気を感じさせる新しい場所が好みです。また、このC室入口のずっと手前から眺めると、この作品1点だけを見ることができます。そこから、ゆっくりと「聖母」に近づいていくのも鑑賞の醍醐味です。

 

After(現在のミロの展示風景)

 

ミロの《ゴシック聖堂でオルガン演奏を聞いている踊り子》 (ミロの隣にアントニオ・タピエス《絵画No.XXVIII》、パブロ・ピカソ《知られざる傑作》を並べています)

 

 ミロは、ダリのそばに展示しています。白い空間で見るミロの作品は、軽やかなリズムをふむ「踊り子」のように、いっそう軽妙に感じられるかもしれません。このコーナーには「スペイン」の20世紀美術を展示しており、ほかにピカソのエッチングなど、日本人にも親しみのある作家の作品も紹介しています。

 さらに、ウォーホルやバスキアも、今回の展示のテーマにあわせて「アメリカ」のコーナーに移し、マーク・ロスコやロバート・ラウシェンバーグなどなど、まさに戦後の世界の現代美術をリードしたアメリカの作家と一緒に並べています。BeforeとAfterの写真を見比べてみてください。展示空間が変ると、作品の印象も変わりそうです。

 

Before(2023年度のA室)

 

2023 年度のバスキア作品(右)とウォーホル作品(左)の展示。グレーの部屋で落ち着いて鑑賞できました。

 

After(現在の展示風景 C室)

 

現在の展示風景は清々しさがあります。同時代のアメリカ美術を通覧しなから、作品に向き合うことができるでしょう。左から、ロバート・ラウシェンバーグ《ブースター》、ジャン=ミシェル・バスキア《無題》、アンディ・ウォーホル《エルヴィス》。

 

 「コレクションハイライト」は年に一度の大展示替えです。以上のほかにも「ドイツとイタリア」「戦後の日本の美術より」「九州と反博」「ナショナルではなくトランスナショナル」というコーナーを設け、趣旨にあうとともに、空間のサイズにふさわしい大きな作品を展示しています。個性的な各部屋で、展覧会自体をお楽しみいただけるとともに、作品とのスペクタクルな出会いをご体感いただけることでしょう。

(近現代美術係長 ラワンチャイクン寿子)

 

コレクション展 近現代美術

第2回福岡アートアワードアーティストトークセッション報告

福岡市美術館が主催している福岡アートアワード。昨年度、第2回福岡アートアワードではソー・ソウエンさん、イ・ヒョンジョンさん、山本 聖子さんが受賞されました。

5月19日(日)、当館は第2回福岡アートアワードの受賞作家であるソー・ソウエンさん、イ・ヒョンジョンさん、山本 聖子さんの3名をお招きし、トークセッションを開催しました。
ちなみに、この日は福岡ミュージアムウィーク2024の期間中で、沢山の来場者でにぎわうなかでの開催となりました。

当館の後藤学芸課長より挨拶とふりかえりを行った後に、受賞作家らによる発表を開始。

はじめは市長賞を受賞したソー・ソウエンさんです。

ソー・ソウエンさんは、自身のアイデンティティや他者との関係性など生に関わる事象について、身体を通じて表現する作家です。発表では、各国のID写真を基に制作した絵画《tie》シリーズや、漂白された絵画《Bleaching》シリーズ、香りを使ったインスタレーション等が紹介されました。中でも、卵が割れないよう挟み込み動くパフォーマンス《The Egg》は、紹介動画の上映中に息をのむ音が会場から聞こえる程、緊張感が伝わるものでした。

次に発表したのは優秀賞受賞のイ・ヒョンジョンさんです。
彼女はキムチの熟成過程を作家自身の人生になぞらえたり、あるいは心臓や性器などを連想させる形象として捉えた自画像とも言える代表的な絵画シリーズや、個人史を扱った複合的なインスタレーション、パフォーマンスなど幅広い表現を発表しています。
トーク中、ご自身は制作する際「傷と癒し」「自己克服」「生命力」の3つを作品の主題としていると述べ、発表された作品は生々しさを感じさせつつも一貫してご自身を主体とした力強いものでした。

最後に発表したのは、同じく優秀賞受賞の山本聖子さんです。
山本さんは、ご自身が育った均質的なニュータウンの様相に対する違和感や、それがもたらす身体への影響の焦燥感を起点に制作活動に取り組んでいます。今回のトークでは、自身のメキシコ滞在中、国全体が持つ不穏な気配を色として捉えた作品、それと併せて鉄と身体を関連付け制作した作品を紹介されました。

休憩を挟んだのちはクロストーク形式のトークセッションです。

当館の山田学芸員が進行を務め、互いの作品の印象や、今回の3名の受賞作に「身体」「生命」「人生」「傷」等が共通していると指摘した上で、その意識や意図について聞きました。

作家の皆さんは、それぞれの作品の共通性を認めつつも、トークが進むなかで互いの作風や制作の姿勢に違いがより浮かび上がった、という感想を述べられていました。
また、パフォーマンスやインスタレーションを行う際の意識を問われた際は、ソー・ソウエンさんはパフォーマンスの本来持つメッセージ性の力強さを均していく意識、イ・ヒョンジョンさんは、個人と全体との関係性、山本さんは周囲の協力を得て出来上がった作品に対する責任や覚悟等について述べられました。

2時間という限られた時間であったにも関わらず、3名の話は非常に分かりやすく、意義深いものでした。受賞者の皆様をはじめとして関わっていただいたすべての方々に感謝申し上げます。

(近現代美術係 渡抜由季)

 

 

 

コレクション展 近現代美術

感動の受賞者スピーチ ~第2回福岡アートアワード授賞式~

 福岡アジア美術館から4月1日に異動して、当館近現代美術係に着任いたしました。実は、福岡市美術館は美術館人として歩みだした最初の勤務地。変わったところもあれば、変わらないところもあり、新たな気持ちと懐かしさの両方を抱いて仕事をしています。
 さて、3月28日(木)に開会した「第2回福岡アートアワードの受賞記念展」にあわせて、当日朝に授賞式をおこないました。受賞者3人のスピーチは、作家として真摯に社会と自分自身に向き合う姿勢、制作を支えた方への感謝、受賞の喜びに満ちていました。
 今回のブログでは、感動的だった受賞者のスピーチを皆様にお届けします。

***

授賞式での記念撮影(左から、ソー・ソウエン氏、高島市長、イ・ヒョンジョン氏、山本聖子氏)

ソー・ソウエン氏【市長賞】

《お臍と呼吸》2022年 映像(3分)

 本日はお集まりくださり、ありがとうございます。また、このような賞をいただき、とても光栄に思います。
 あらためまして、今回の作品に参加し出演していただいた皆様、そして制作期間、下支えしていただいたアジア美術館の皆様、審査員の皆様、福岡市美術館の皆様、この場を借りてお礼申し上げます。
 わたしにとって作品を見ることは、他人の痛み、喜び、不条理に敏感であり続けるためです。わたしにとって制作は、傷ついたり、傷つけたりしても、それでもなお世界の優しい関係を築きつづけるための営みです。
 今回の作品は、ひとの出生と深く関わりのあるお臍と呼吸についての作品です。
 お臍は、最後まで母親と繋がっていた場所であり、臍帯が断ち切られることで成立します。そして、その傷跡が身体の中心にずっと残り続けるということに興味をもっています。また、臍帯の断絶とともに始まる呼吸は、わたしたちが生きていくうえで、常に世界に開き続けていかねばならないということを象徴していると思います。イタリアの哲学者、エマヌエーレ・コッチャは、呼吸に関して、呼吸は共食いの原初の形態である、というふうに述べました。
 現在、世界中で残虐なことがたくさん起こっています。そのことに、わたしたちはどのように感じていけばいいでしょうか。そのことを、わたしたちはどのように受け止めればいいでしょうか。この問いを最後に、わたしの言葉を締めくくらせていただければと思います。ご清聴ありがとうございました。

 

イ・ヒョンジョン氏【優秀賞】

《キムチ2022-1》 2022年 油彩・画布

 皆様、こんにちは。韓国から来ましたイ・ヒョンジョンと申します。この度は、ありがとうございます。
 わたしは、韓国の視覚芸術家です。わたしのキムチの作品が、「第2回福岡アートアワード」の優秀賞に選ばれたことは、とても意味のあることで、光栄に思っております。そして、とても特別なことだと感じています。この福岡で、わたしの作品の価値が認められるということは、とても光栄で嬉しいことだと思っています。
 福岡市、そして福岡市美術館、アートアワードの選考委員の皆様に感謝するとともに、芸術家としてすごく自負心を感じているところであります。そして、機会があれば、福岡市と交流をしながら、継続してアーティスト活動を続けていきたいと思っております。
 そして最後に、わたしのキムチの絵というものが、日本で認められたことをとても嬉しく思っていることを、もう一度申し上げたいと思います。ありがとうございます。

 

山本聖子氏【優秀賞】

《白色の嘘、滲む赤》2023年 映像(3面同期、20分33秒)

 本日は、お忙しい中お集まりいただき、ありがとうございます。
 この度の受賞作品は、リサーチ段階から制作に至るまで、ほんとうに多くの皆様に力をお借りして実現することができました。この場をお借りして、あらためてお礼を申し上げたいと思います。
 わたしは、大阪の千里ニュータウンの団地で育ちました。そこは便利で安全な環境ではありましたが、一方では、何かを自分で体験したり思考する機会は減り、自分が無機質になったように感じました。これが自分の創作の原点となっています。
 歴史をたどると、発展や成長など、一見明るくポジティブなメッセージの裏側には、多くの搾取や犠牲があります。そういったことは、過去のわたしのように、無機質な人間にはなかなか届きません。理不尽な思いをした人たちの悲しみは、自分には関係がないと通り過ぎ、さらなる搾取構造に加担します。わたしは、過去の自分を含めて、そういった人々に問いかけたいと思っています。
 芸術は、人間にとって自己内省のメディアであり、だからこそ生きるために必要なものだと思っています。今後も制作に励みたいと思います。ありがとうございました。

***

 福岡で活動するおおくのアーティストの励みになれるよう、今年も「第3回福岡アートアワード」を開催する予定です。公募等の情報は、詳細が決まり次第お知らせいたしますので、多くの方にご応募いただければ幸いに存じます。

(近現代美術係 係長 ラワンチャイクン寿子)

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