2025年4月16日 17:04
昨年度で3回目となる福岡アートアワード。
第3回目は福岡県を拠点として活動する作家が賞を占めました。受賞作家は、市長賞が牛島智子さん、優秀賞がオーギカナエさん、SECOND PLANETさん、興梠優護さんの、4組の作家です。
3月28日(金)、福岡市美術館2階近現代美術室前ロビーにて、第3回福岡アートアワード授賞式が行われ、また29日より受賞作品展も開催されました。
授賞式記念撮影の様子(左からSECOND PLANET岩本文緒氏、外田久雄氏、宮川敬一氏、高島市長、牛島智子氏、オーギカナエ氏、興梠優護氏)
授賞式では皆さんに記念スピーチをご披露いただきました。
今回は作家さんに許諾いただき、下記の通り掲載いたします。
牛島智子氏(市長賞)
牛島智子《家婦》2020年(市長賞)
福岡アートアワードで市長賞をいただいた「家婦」は、5年前に福岡市民ギャラリーのE室をお借りして展示しました「40年ドローイングと家婦」の作品です。この展示から評価や企画や展示が次々に進みました。お世話になった皆様にお礼を言う間もなくこの場に立っています。この賞はその方々へ感謝を述べる節目です。本当にありがとうございました。
さて、私が初期から一貫してやってきたことは物質、モノとの対話のような気がします。市美術館がリニューアルされて高さ5mの市民ギャラリーの白い壁を見た時、ここで展示したいと強く思いました。いつも床置きで何やら作っているのですが、ビニールシートを引けばいくらでも広げられ、土から伸びあがってくる作物のようにつくれます。でも壁の高さはそうはいきません。おんなじ布でも壁に貼ると全体が見えて抽象性が高まっていき、作品になる気がします。床と壁の両方を使いインスタレーションのスタイルをよくとってきました。また八女和紙をたくさん使っていますが、その職人さんから「和紙は水素結合だから」と聞いたことから『何だろう』と思い、素材の原子の状態を考えるようになりました。物は動かないようでミクロの世界の原子レベルでは動いているのではないか。作品に取り囲まれる美術館は海水浴や森林浴のように美術浴ができる場所、市民に開かれた場所、コレクションしていただくことは大変うれしいです。生涯作物作品を作っていくと思います。また見て頂けることを願っています。
最後になりましたが、福岡アートアワードというチャンスを作って頂きありがとうございました。
オーギカナエ氏(優秀賞)
オーギカナエ《空に登って集まって、めじろ眼鏡の森、白い花~植物は考え歩き行動する~》2024年(優秀賞)
皆さんこんにちは。本日はお集まりくださりありがとうございます。
私は作品を作りはじめて40年近くになります。そんなに経ったなんて本当に信じられません。
生きていると色々ありますが、2023年は本当にいろんなことがあった年でした。中でも私たちが拠点にしている久留米市竹野地区で山津波が起こった事は忘れられません。家の横を流れる激流が家の中に入り、道は土砂で埋まり外へ行くことはできませんでした。
のちに私はこのことを作品にしようとしたのですが、恐怖や悲しみ虚無感といった表現をすることはできませんでした。このことは作品にはしない方がいいと思いました。一旦そこからは離れて、やはりワクワクするものをつくりたいと思いました。時が過ぎて周りを長く観察することができました。自然もまた違う時間で回復の作業を行なっていることに気がつきました。ふと気持ちが楽になり、そのことをモチーフに手を動かし、今回の受賞作品をつくることができました。
世界をどのように捉えるのかで自分を取り巻く世界は変わります。永遠に続くものはないけれど希望を持つことはできます。これからもそのことを考え、つかみにくく形も言葉にもしにくいけれど心を動かすものを作品にしていきたいと思います。
最後にこのような賞を与えてくださった福岡市と審査員の方々、福岡市美術館、美術関係者の皆さん、私の作品に興味を持って見てくださる方々、家族のウシジマケに心から感謝します。ありがとうございました。
SECOND PLANET(優秀賞)
スピーチ:宮川敬一氏
SECOND PLANET《カタストロフが訪れなかった場所》2024年(優秀賞)
今回、このような賞をいただき誠にありがとうございました。今回の受賞作品はSECOND PLANETの3人に加え、音楽家のIbi ryotaさん、写真家の鶴留和彦さん、ギャラリーソープのスタッフなど多くの方々の協力のもと制作されました。この作品は、2019年のギャラリーソープでのパフォーマンスとして始まり、2021年にオンラインプロジェクトを公開した「カタストロフが訪れなかった場所」シリーズのサウンドインスタレーションのバージョンで、昨年、福岡市のOVERGROUNDで発表した作品です。
この作品は、歴史を一つの方向から見ていくのではなく、色々な方向から見ていこうとする試みです。大きな歴史がある一方で、弱者であるとか他者から見たもう一つの歴史もあります。あるいは消されてしまった、忘れ去られた歴史もあります。そういった見えにくくなった歴史を、ひとつずつ資料を集めて、多様な歴史のあり方を考えてみようという試みがコンセプトでもあります。
いっぽうで過去の歴史だけではなくて、最近の私たちの周りで起こっている酷すぎること、過去の物語みたいな、帝国であるとか、行き過ぎた民族主義であるとか、どこかそういったものが再生されて、主張するだけ主張して相手の価値観を受け入れない虐殺や侵略が世界中で起こっています。そういった問題に対しても、大きな仕事はできないかもししれませんが、芸術が出来ることがまだ残されていると思っています。
可能な限りそういった出来事に多様な視点を持ち込み、そして歴史を単純化せずに、あるいは複雑さであるとか、ある種の曖昧さを受け入れながら、向かっていければなと思っています。そしてまた芸術表現でも元々近代以降は権力や常識に対抗するような機能があって、今でもその機能を持っている、と希望をもっています。単に沢山売れて有名になるだけじゃなくて。そもそも芸術作品は、どの作品にもある種の批評性みたいなものがあります。そういったものに焦点をおいて作品を作りながら新しい概念を提示してくれる作家も沢山いて、Fukuoka Art Nextという、芸術で福岡市を活性化して国際的な都市にしていこうという概念も数年間進められていると聞いていますが、そういった新しいアイデアであったり新しい概念を提示してくれる作品を沢山生み出していく人たちの作品に触れる機会を作ってもらえると嬉しく思います。どうもありがとうございました。
興梠優護氏(優秀賞)
興梠優護《 /72》2018(加筆2020)年(優秀賞)
このアワードに選定していただきましたこと、審査員の皆さま、事務局・美術館スタッフの皆さま、そして家族や、友人、これまで関わっていただいた皆様に感謝申し上げます。ありがとうございます。
昨今、テクノロジーの進化で、あらゆるものが人間では無いものに、取り換え可能な領域に踏み込んでいくような社会になっていると思うんですけれども、改めて、人間らしさ、というものが見つめ直されているように感じています。そしてその人間臭さというのは「無駄」とか「無意味」のなかにあるような気がするんです。効率とか生産性とかバズるとかの外側にある、意味不明で、だけど心の底から込み上がってくる欲求にどれだけ正直になれるかということが作品制作の根本にはあります。もちろん、そこから社会や歴史との接続を経て真の作品となるわけですけれども、こんな時代に、そうした行為を評価していただけること、本アワードの器の大きさが、とても嬉しかったわけです。
豊かさの本質とは、私たちが生きている前提となっている「当たり前のもの」をいったん立ち止まって見つめ直すことの中にあるように思います。作品を見ることを思い浮かべると、見ることは立ち止まることでもあるんですね。
例えば晴れた午後の一日に、そうだあの作品を見に行こうと思い立って、そこでの気づきが、それは歌でも文章でも洋服選びでもなんでもいいんですけれど、少しでもなんかいい一日だったなあと思えることってに繋がるって、素晴らしいと思うのです。そういったきっかけにこの作品がなることができたら、本当に嬉しく思いますし、そうした機会を与えていただいた本アワードに改めて感謝申し上げます。
今年度も無事受賞者・受賞作品が決定し、作品を収蔵し展示する機会を設けられました。
受賞者のみなさま、選考委員のみなさま、また応募していただいたすべてのアーティストのみなさま、また関わっていただいたすべての方々に改めて感謝申し上げます。
受賞作品展は6月1日(日)まで開催します。ぜひご高覧ください。
(学芸員 作品保存管理担当 渡抜由季)
2025年3月5日 09:03
はじめまして。2月から福岡市美術館 近現代美術係の学芸員となりました、花田と申します。初めて担当するブログなので自己紹介や2月中の出来事を話してみようと思います。
私は高校までを宮崎で過ごし、大学は大阪にいましたが、父の実家が福岡にあったこともあり、小学生の時にはちょこちょこ福岡に来ていました。また、1年ほど福岡に住んだ際には寮が大濠公園の近くにあったのですが、福岡市美術館はちょうどリニューアル期間だったので足を運ぶことはできませんでした。私が初めて福岡市美術館に来たのは去年の就職試験のときになります。試験前日に展覧会を見に行こうと、どきどきしながら大濠公園駅から歩いてきて、間違えて舞鶴公園の三の丸広場に行ってしまい、ここはどこだ?とウロウロしていたのが懐かしく思い出されます。美術館に着くと、まずチケット売り場はどこだろうとウロウロし、館内でも展示室を見たりカフェに入ったりショップを見たりとウロウロしていました。今改めてホームページを見直すと、フロアガイドにきちんとチケットカウンターの場所が表示されていました。ちゃんと確認しておかないといけないですね。そんなこんなで、かつて近くを行き来していた場所で今働けることに勝手ながら縁を感じています。
ところで、私は大学院の頃は近代日本美術、なかでも鏑木清方について勉強しており、清方が歌舞伎などの芝居好きだったこともあって、画家が芝居をどのように考え、どのような意図や工夫をして描いていたのかについて考えていました。また、画家によって都市の捉え方、都市のなかで興味を持って見る対象が異なっており、画家が都市をどのように見ていたのか、どのように作品に描いていたのかという点にも興味を持っていました。福岡市美術館には清方の弟子である福岡市出身の小早川清や久留米市出身の吉田博の作品があるので、師の清方と弟子たちの展覧会はどうだろうか…と漠然と考えてみたりしていますが、今の目標はまず館や日々の業務に慣れることです!2月からの勤務だったので、修士論文を出してすぐ福岡に来て、このブログを書いている現在は働き始めて約1ヵ月が経ちました。2月中は、収蔵庫を案内していただいたり、展示室などにある乾湿計の用紙交換のやり方を教えていただいたり、他館に挨拶に伺ったり…見るものほとんどが新鮮で、恥ずかしながら知らないことばかりでした。日々の業務の一つに閉館業務というものがあり、閉館時間前に作品の状態の確認や設備の点検をするのですが、2月担当の私は17時頃に展示室、特に2階の近現代美術室を見回っておりました。初日はどのような点を確認するのかを教えていただき、監視員の方に挨拶しながら見回りました。最近は館内のどこにどの部屋があるのか、やっと覚えてきましたが、たまに収蔵庫までの道や階段を歩いていると迷路のように感じ、このドアを出たらここに出るのか…!という面白さがあります。さらに、業務とは関係のないことですが、通勤で通る福岡城の水堀にいた鳥が「はっはっはー」という声で鳴いていたこともありました(笑われていたのかも?)。日々、勉強し、新しいものを見て、そして反省の毎日です。
かつて小学生だった私が見ることのできた福岡の地域は限られていますが、街の様子がだいぶ変わったように感じます。記憶にある建物やお店がなくなっていたり、新しい建物がかなり増えていたり。知っているけれど知らない街という印象です。福岡にもっと慣れるために休みの時には色々な場所に行ってみようと考えています。
…というとりとめもない話をダラダラとしてきましたが、今年は早速「つきなみ講座」を担当する予定もありますので(かなり緊張していると思いますが)、みなさまにお会いできる日も近いと思います。精一杯努めてまいりますので、どうぞよろしくお願いいたします。
帰りがけに撮影しました。夜の美術館は灯りがきらきらして昼とは違う雰囲気です。
(学芸員 近現代美術担当 花田珠可子)
2025年2月20日 13:02
1月31日、田中千智さんによる3年間のプロジェクト「生きている壁画」が無事終了しました。壁画が完成し、今年いっぱい公開されます。
本プロジェクトは、2023年田中千智さんの個展「地平線と道」とともにスタートしました。近現代美術室の最終壁面にある幅13m、高さ3.1mの白い壁面に、ご本人の発案で1年ごとに加筆していきました。
1年目の完成時の「生きている壁画」
1年目に描かれたのは漆黒の森に子供たちや生き物が息づく静かな作品でしたが、2年目には中央に黄色い光が差し、画面左上には戦争、災害を思わせる情景が書き足され、3年目には、黄色の部分は燃え盛る炎を思わせる描写に変化していきました。そして、船や、瓦礫、猫、アロエなど新たなモチーフが描き足されたことで、胸が苦しくなる場所もあり、安らぎや見ていて笑みが浮かぶような場面もあり、様々な物語を包み込んだ、見ごたえのある作品になりました。
3年目の初日
ちょっと話が変わるのですが、我が家では木版画がとても身近で、よく家で夫が木版画を刷っています。去年の12月のクリスマスにも、子どもに木版画でキャラクターを刷った服をプレゼントしたのですが、その刷りの作業を見ている時にふと、版画の線には時間が圧縮されているな、と思いました。版にインクをのせ、支持体に押し付けて「ぺらり」と剥がしたその一瞬、たちまちに複雑なイメージが立ち現れるのには、何度見てもびっくりします。刷られた線をよ~く見ると、かすかなムラが見て取れます。このムラが、私には時空の狭間のように思えます。版画の線の中には、時間が格納されているのです。
話を戻し、「生きている壁画」を見て思うのは、この作品における線や面は、圧縮されることのない時間の痕跡である、ということです。「何を書くかまだ考えていないです(笑)」と言いながら、田中さんは初日から大胆に筆をのせていきました。一日ごとに画面は変化し、時間の経過は作品の造形要素と連動しているのです。
この3年間に、世界情勢も大きく変化していきました。ウクライナ侵攻、能登半島地震、飛行機事故、パレスチナ侵攻など、苦しいニュースも目に耳に入ってきました。「生きている壁画」には、そうした出来事が反映された痕跡があります。また、日々美術館を訪れる来場者の方々との暖かい交流も、作品には反映されています。(壁画の一番右端にいる狼と頭巾をかぶった人物は、来場者の方に「残して!」とリクエストされたものなのだとか…。)いうなれば、「時間を呼吸している絵画」が、「生きている絵画」と言えるのではないでしょうか?
リクエストに応じて最後まで残った狼と人物
日々変化していく絵画を見ていると、絵画と時間との、何通りもありえる関係性を考えさせられます。そして改めて最終段階を迎えた壁画を見渡すとき、3年間の時間の厚みが一度に迫ってくるように感じます。圧倒的な迫力を、ぜひ実際にご覧ください!
なお、田中さんは、福岡三越でも展覧会を開催中です。先日会場を訪問したところ、壁画の完成後に制作した新作が66点(!)も展示されていて、その力強さにとても驚きました。
2月22日には、完成を記念して、トークを行います。田中さんの現在の心境や、完成後の手ごたえについてお聞きできればと思っています。是非お越しください!
能古島のアトリエを思わせる部分を書き込む田中さん
■《生きている壁画》第3段階・完成トーク
日時:2025年2月22日(土)午後2時~午後3時30分(開場:午後1時30分)
会場:1階 ミュージアムホール
料金:無料
定員:180名(先着順)
講師:田中千智(画家)、聞き手:忠あゆみ(当館学芸員)
https://www.fukuoka-art-museum.jp/event/153073/
学芸員 近現代美術担当 忠あゆみ