開館時間9:30~17:30(入館は17:00まで)

メニューを閉じる
ホーム > ブログ > ゴッホ展担当者のつぶやき
福岡市美術館ブログ

新着投稿

特別展

ゴッホ展担当者のつぶやき

 ゴッホ展会期も残すところ1か月足らずです。本当にたくさんの方々にお越しいただいており、ゴッホの力を確かに感じています。

 毎日思っているのは、無事に会期を走り抜けたい、ということです。多くのお客様でにぎわって嬉しいです。美術館に足を運んで下さるお客様の様子を見ていると、なんだかこちらもつられてうきうきしてきます。しかし、安全に開催することは何よりも優先。状況をよく見極めながら「密」にならないように慎重に運営しています。
 展覧会の準備にあたっては、コロナ禍であることがやはり大きなハードルでした。今回のゴッホ展では、クレラー=ミュラー美術館、ゴッホ美術館、オランダの二つの美術館から作品をお借りしています。展示にあたっては、作品の輸送と展示に付き添う専門家(クーリエ)の立会いが必須でしたが、海外からの渡航にあたっては、さまざまな制約がありました。隔離・PCR検査を経て、なんとか来日が叶ったことによりクーリエ立ち会いのもと展示することができ、ほっと胸をなでおろしました…。すべての作品が展示し終わったときには、自然とその場にいる全員が笑顔になりました。
 展覧会が開幕してからの共通する目標は、足を運んでくださる皆さまに、快適に楽しんでもらうことです。少しでも展覧会を快適に見てほしいな…と、毎日会場に溜まる埃を払うのが、担当学芸の最近のルーティンワークです。

もう一つ、毎日思っていることがあります。それは、なぜ、多くの人がゴッホに魅せられるのか、ということです。歴史を辿れば、日本での最初のゴッホ・ブームは100年前にさかのぼります。1910年に創刊した雑誌『白樺』にたびたび特集されたゴッホは、複製図版、伝記や手紙を通して親しまれていました。人生を賭して創作に打ち込み、ときに狂気を帯びながらも作品を作る…という芸術家のイメージが、100年前に定着しているからこそ、私たちは無意識にゴッホを身近な存在だと考えてしまうのかもしれません。なんだか放っておけない親戚のおじさんのような。         
 しかしながら、それだけが人気の理由とは思えません。その理由は、ぜひ展示室で確かめていただきたいのですが、1月15日に講演会をされた作家の原田マハさんの言葉に、ヒントがあるかも知れません。原田さんは、「トランスクリエーション」をキーワードに、ゴッホについてお話しして下さいました。「トランスクリエーション」とは、ある創作物が別の誰かを刺激して、次の創作へとつながっていくこと。ゴッホの場合は、その時々に出会った未知の文化(例えば浮世絵)に触発されながら、自分だけの画風を模索して、様々なタイプの作品を残しています。
 もしかすると、ゴッホの魅力は、「トランスクリエーション」へと見る人を揺さぶるところなのではないでしょうか?ゴッホはこれまでに、多くの人々を触発し、20世紀以降の芸術家たちのインスピレーション源になりました。ゴッホの作品は、それ自体がトランスクリエーションの軌跡であり、トライ&エラーの痕跡が見え隠れします。時に拙く見える筆跡に、見ている私達は背中を押され、目が離せないのかもしれません。

大濠公園に出ると、芸術的な配置の藻が並んでいました。

 (学芸員  忠あゆみ)

新着投稿

カテゴリー

アーカイブ

SNS