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コレクション展 近現代美術

灯台下暗し

 近現代美術室Bでは「時代で見る美術 1940年代」展を開催中です。
 本展では1940年代に制作された作品を26点、作家のプロフィールとともに紹介しています。戦時下と戦後にかけて、時代の変化にもまれながら作家たちがどのような仕事をしたのか、表現やモチーフから感じ取っていただける展示になりました。
 余談ですが、私は育休を3月末まで取っており、復帰後初めて担当した展示となりました。昨年の秋口、(来年は元気に仕事ができていますように)と祈るような気持ちで展示を担当したいと手を挙げたのが昨日のことのようです…。
 さて、今回のブログでは、本展の中で最も広い面積を占める棟方志功の木版画作品《二菩薩釈迦十大弟子》についてのエピソードをご紹介したいと思います。
 本作は12点で一揃いで、それぞれに釈迦の10人の弟子と2尊の菩薩が表されています。四角い画面をはみ出しそうな登場人物の表情やポーズはユーモラスで、棟方が版木を削る音がガリガリと聞こえてきそうです。奔放さと厳しさを兼ね備えた、棟方の神仏画の魅力を堪能できる作品であり、1956年のヴェネツィアビエンナーレで版画部門の大賞を受賞した、日本の美術が国際的に認められた記念碑としても位置付けられます。

展示風景(写真右奥が二菩薩釈迦十大弟子)

 本作は、戦中から戦後、ある意味二つの時代をまたいで完成した作品です。作品の横に掲示されているキャプションには、1939/1948と、二つの制作年が書かれているのにお気づきでしょうか。実は、1945年の東京大空襲で、棟方の自宅にあった版木はすべて焼けてしまったのです。このときに《文殊菩薩の柵》と《普賢菩薩の柵》の2枚の版木も失われておりました。1948年に2点の菩薩像を改刻し、今の12点一揃いとなっています。

作品のキャプション

 この《二菩薩釈迦十大弟子》、展示の際にちょっとした問題が発生しました。

   「12点の順番は本当にこれでよいのかな」

 展示をする前に、12点を仮置きして並べていたところ、この順番である根拠が乏しいのでは?と上司に指摘されたのです。はっとしました。私は過去の棟方の回顧展の図録の掲載順にならって12点を展示するつもりでしたが、別のエディションを所蔵する当館以外の美術館と、作家の記念館と、所蔵館によって12点の順番は違うのです。これから展示しようとする作品がなぜこの順番で並ぶのか、根拠をもって示すことができせんでした。
 咄嗟に考え着いたのは次の3つの方法。①1979年に当館で開催された「アジア美術展」の際の出品順に従う。②1956年のヴェネツィアビエンナーレでの出品順にならう。③棟方志功の指示書を探し、それに従う。
 同僚にアジア美術展の写真を探してもらいましたが、残念ながら棟方作品の展示風景は出て来ませんでした。また、ヴェネツィアビエンナーレの展示記録も、見つからず。棟方志功記念館さんにお聞きすると、同じ版木から刷られたものでも、屏風仕立てのものと、額に入ったもので順番が異なるとのこと。

   (うーん……。決め手がない。)

どうしようか、と作品を持ちあげたとき、気づいてしまいました。裏のラベルに順番が書いてあったことを……。調査していた時には完全に見落としていましたが、作品の裏にはきちんと、筆で1から12までの数字が書いてあったのです。灯台下暗しとはこのこと!晴れて12点は、右から番号順に展示されることになったのでした。
 今回のことで、アジア美術展の再現展示をする夢も膨らみ、棟方作品の来歴にも想いを馳せることができました。そして何より、「収蔵庫で作品を見る時は、裏のラベルにきちんと目を通すこと」という教訓を得ました。(それって基本中の基本では?)
 ともかく、12点並んだ《二菩薩釈迦十大弟子》、なかなかの壮観です。結果として、顔の向きや衣の表情にメリハリが感じられる並び順なのではないでしょうか。お越しの際は、椅子に腰かけて、全体を見渡しながら観察してみてくださいね。
「時代で見る美術 1940年代」は、9月10日(日)まで開催しています。ぜひお越しください。

学芸員(近現代美術係) 忠あゆみ

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