2024年1月17日 16:01
福岡市美術館所蔵の古美術作品およそ4,500件から代表を一つ選べと言われても私には無理です。三つと言われてもムツカシイです。では五つなら?やっぱり選びきれないです。じゃあベストテンなら?それならまぁ、はい、いや、やっぱ無理です。
でも、当館松永記念館室で春・秋にそれぞれ開催する名品展の主役を担う作品すなわち春の野々村仁清《色絵吉野山図茶壺》(写真左)、秋の尾形乾山《花籠図》(右)という二点の重要文化財は、間違いなく五指に入ります。
前者は光の影響の少ない焼物ということもあって、三次元免振装置付の展示ケースに常陳していますが、後者は特に光の影響で劣化を招きやすい着色画であるため、保存管理上の観点から年に一度、一つの展示に出陳するのが精いっぱい。それで「秋の名品展」の目玉作品として公開するのを通例としてきました(同室内にある茶室展示ケース「春草廬」では本作のレプリカを常陳しています)。
でも今年度に開催した「秋の名品展」(会期2023/8/22~10/29)に、本作は出品しませんでした(本作を楽しみにして来場された方にはこの場を借りてお詫びいたします)。それには深~い理由があるのです。昨日(1/16)より開催した「シリーズ茶の湯交遊録Ⅲ 原三溪と松永耳庵」展に出品するためです。《花籠図》は本展の企画テーマを象徴するような作品なのです。
原三溪は横浜の実業家で、自ら書画をよくし、茶人、美術品蒐集家、そして同時代の画家を支援したパトロンとしても知られます。松永耳庵にとっては茶の湯を始めた頃から、三溪が没するまでの約4年間の短い交流ながら、茶を通じて師のような存在として敬慕し、「三溪先生」と敬称して自著に少なからずの記述を残しています。
福岡市美術館の松永コレクションには原三溪旧蔵品が十数点含まれています。三溪翁の生前に譲り受けたもの、没後に原家に懇願して入手したもの等、集めるとそれだけで松永コレクション名品展となるような重要な作品ばかりです。本展はそれらに焦点をあて、松永耳庵の自他の著述や記録に残るエピソードとともに紹介し、両者の交流を垣間見ようというものです。
解説リーフレット・作品解説は下記の通り。
「シリーズ 茶の湯交遊録Ⅲ 原三溪と松永耳庵」解説リーフレット・作品解説
出品17件のうち5件が重要文化財・重要美術品という充実ぶり。
展示風景と、ついでに展示図面もお見せしちゃいましょう!
展示構成は、基本的にはエピソードを伴う作品を、時系列で並べました。するとたまたま《花籠図》が中央の位置にきました。これは天国の両翁からのメッセージだと信じることにしました。
耳庵翁は、三溪翁に招かれた茶事で初めて本作を目にした時の感動を「一切の他を圧して独り主翁と肱を把って一座に臨むの慨がある。」と亭主三溪の存在に照らして表現しています(『茶道春秋』下14頁)。そして三溪没後18年を経て入手し、秋の茶事の定番として愛蔵したのでした。このように、生前の三溪翁から見せられて、没後長い年月を経て入手したものも少なからず含まれています。
《花籠図》の魅力は、展示室で実物を見て感じていただきたいのでここで多くは語りませんが、私の個人的な感想として一言でいうと、絵と書のハーモニーの妙です。一見するに、ああキレイだな、なんかオシャレだなと思って近づいてみる。すると色んな美しさが目に飛び込んできます。構図、絵と書の筆使い、配色、それぞれが見どころです。
書は、私には上手いのか下手なのかわからないのですが、どこか繊細で、たくさん書かれているのに絵を邪魔していないどころか、美しく調和しています。和歌の内容を知ると、さらに色んな解釈ができて想像が膨らみますが、そういう知識を必要とせずに強く眼を引き付けてくれる、オーラに満ち溢れた作品なのです。あれれ…思わず語り過ぎてしまいました。
本展は3月17日(日)まで。ご来場お待ちしております。
(学芸課長 後藤 恒)