2026年6月10日 09:06
Artist Cafe Fukuokaをご存じですか?「カフェ」と聞くと、コーヒーを飲みながら一息つく場所を思い浮かべる方も多いかもしれません。

Artist Cafe Fukuoka
ところが、ここは少し違うんです。ここで行われているのは、未来を担うアーティストの活動や挑戦なんです。Artist Cafe Fukuokaでは、アーティストの成長・交流拠点として、アーティスト向けの相談会や情報提供、アートを活用したい企業とアーティストのマッチング、海外進出のための機会創出、福岡アジア美術館と連携したアーティスト・イン・レジデンス事業など、さまざまな創作活動の支援を行っています。

では、ここはアーティストのためだけの施設なのか?
いいえ、これも違うんです。旧舞鶴中学校を活用した施設内には、誰でも気軽に立ち寄れるコミュニティスペース、小さな作品から大きな作品・インスタレーションなどが展示できる教室を改修したギャラリーや体育館を改修したグランドスタジオを備え、作品展示やワークショップ、トークイベント、交流会などを開催しています。アートに詳しくても詳しくなくても大丈夫。ふらりと立ち寄るだけでも、新しい発見がある場所です。
福岡市美術館には、古美術から現代美術まで、時代を超えて愛されてきた素晴らしい作品に出会えます。一方、Artist Cafe Fukuokaでは、これからの時代を作っていくアーティストたちのエネルギーに満ち溢れた作品に出会えたり、彼らと交流したりすることができます。新しいアートの楽しみ方が、ここでは見つかるかもしれません。

そんな、Artist Cafe Fukuokaはどこにあるのでしょうか。福岡市美術館大濠公園口を出て、地下鉄大濠駅方面に池沿いに歩くこと330歩。ちょうど左手に大きな木がある場所で右を見ると森の中に続く階段が見えます。その階段を上がり切った瞬間、視界がパッと開け、旧中学校の校舎が姿を現します。少し分かりにくい場所にありますが、それもまた魅力のひとつ。宝探しのような気分で向かってみると、道のりそのものもきっと楽しく感じられます。ちなみに、美術館を出て大濠公園の園路まで、私の歩幅では50歩。それを参考に330歩を調整してください。階段が気になる方は少し遠回りになりますが、さらに進んで舞鶴公園三の丸広場からもアクセスできるのでご安心ください。

少し歩くと喉も乾くかと思いますが、Artist Cafeそこは抜かりありません。コミュニティスペースには、ちゃんと「カフェ」もあります。本格焙煎コーヒーをはじめ、さまざまなドリンクが楽しめますが、個人的にお気に入りなのは「エスプレッソトニック」。コーヒーの深いコクにトニックウォーター爽やかな香りとほのかな甘味、そして炭酸の心地よい刺激が加わった一杯で、暑くなるこれからの季節に特におすすめです。

カフェもあるコミュニティスペース
福岡市美術館で作品を楽しんだあと、少しだけArtist Cafe Fukuokaに足を伸ばしてみませんか。おいしい飲み物と、これから羽ばたいていくアートやアーティストの出会いが、きっと皆さんを待っています。
Artist Cafe Fukuokaイベント情報
Artist Cafe Fukuokaへのアクセス
(アートのまちづくり推進担当 高橋伸和)
2026年5月27日 09:05
5月16日、ミュージアムホールで、現在開催中の「小磯良平展 幻の名作《日本髪の娘》」展(~6月21日)の記念講演会「幻の名作《日本髪の娘》との出会い」を開催しました。講師は、岡泰正先生(神戸市立小磯記念美術館 顧問)です。
長年にわたる作品研究に基づき、小磯良平の生きざま、出品作品の見どころ、そして、この度の展覧会の目玉作品《日本髪の娘》をめぐるエピソードを教えていただきました。時おりジョークを交えてお話しされる姿に、会場からも笑いや感嘆の声が上がり、楽しい講演会となりました。
今回のブログでは、担当者が印象深く感じたエピソードの一部をご紹介します。

講演会場の様子
小磯を巡るファミリーヒストリー
小磯良平(1903-1988)は、兵庫県・神戸の旧三田(さんだ)藩の会計書記係の家系で、明治大正期に神戸居留地の貿易商に勤めていた岸上家の下に生まれました。この三田藩は、とても先進的な藩として知られ、英語学習もいち早く取り入れていたといいます。小磯の実母である岸上こまつ、養母である小磯英はいずれも神戸英和女学校(現・神戸女学院)の卒業生で、クリスチャンでもありました。また、国際的な文化人として知られる白洲次郎(妻、白洲正子)も三田藩儒者の家柄であり、三田藩の菩提寺・心月院に葬られています。
岡先生が実際に現地を歩いて撮影された写真をご紹介いただくことで、土地勘のない私にも、神戸が古くから様々な文化の混ざりあう場所であったことを知ることができました。小磯は神戸に生まれ育ったからこそ、和洋折衷、コスモポリタンな感性をはぐくみ、制作することができたのです。
物質感を見る
小磯は、単なる写実にとどまらず、油彩画という表現を追求していました。講演では初期作品から主に1930年代にかけての図版をたっぷりとご紹介いただきました。
フランス留学中に描いた《ブルターニュ・ソーゾン港》(1929年)のような初期作品には、ラウル・デュフィ等に代表されるフォーヴィスム(野獣派)の流れとシンクロするような勢いあるタッチが見られます。岡先生はこれを絵の具の「物質感」と呼んでいました。
写実的で正確なデッサン、肌・布・髪の質感の繊細な描き分けが小磯の特徴ですが、よく見れば、絵具の乗り方や筆運びには写実を超えたものが感じられます。彩色の物質感を目で追っていくことで、時代ごとに変化する小磯の野心や、描くことにかける情熱が伝わっていきます。筆のスピード感と、「物質感」を見る鑑賞法、おすすめです!

ブルターニュ・ソーゾン港1929年 神戸市立小磯記念美術館蔵
イメージソース
《日本髪の娘》は、画面の真正面を見つめ返す記念写真的な構図ではなく、画面左に体を傾け、ふっと、視線を画面左手にそらしています。スナップショット的な構図です。このことによって、この絵のモデル(上田種子さんといいます)の持っている気品・アトリエのモダンな空気が伝わってくるのです。(このかつらを脱いで、早く街に買い物にでも行きたいわ…)という心の声をアテレコするのもありでしょう。
岡先生は、この構図に影響を与えたものとして、エドガー・ドガの作品もご紹介いただきました。《アプサント酒を飲む人(カフェにて)》《ディエゴ・マルテッリの肖像》など、エドガー・ドガは、当時普及し始めた写真に触発されてこうした作品を描いたといいます。小磯は、ドガに学び、空気までも描きこむ人物像に到達していたのです。
《日本髪の娘》との出会い
所蔵館である韓国国立中央博物館での調査時のお話も伺いました。2020年の調査まで、岡先生は《日本髪の娘》の実作品を見る機会がなかったそうで、複製でしか知らなかった作品と対面したときの喜びはいかばかりだったでしょう。貴重な現場の写真を投影しながら、その際のことを教えていただきました。
実際に作品を前にし、岡先生は、「日本髪の娘の顔立ちが《着物の女》と同じであること」、「《踊り子》と額縁が同じであること」に気づかれたといいます。《日本髪の娘》と《踊り子》のこの2点は、どちらも1935年の第二部会展の出品作で、日本髪の娘が李王家美術館に収蔵されたことで、時代の流れの中で離れ離れになっていました。しかしながら、二つの作品のつながりはとぎれてはいなかったのです。
会場では、この2点が90年ぶりの再会を果たしていますので、是非ご覧ください!

会場風景:《踊り子》と《日本髪の娘》の再会です!
「日本髪の娘」のモデル、上田種子の写真との出会い
先ほど述べたように、《日本髪の娘》は上田種子さんという女性をモデルに描かれました。
上田種子は、公選の神戸市議会議長・上田實の娘で、小磯のもとに絵を習いに来ていた生徒でもありました。関西の美術展や全国規模の美術展に入選するほど洋画制作に真剣に取り組んでおり、会場では彼女の手腕が見て取れるスケッチブックもご覧いただけます。
岡先生は、小磯の「指向性」という言葉を用いながら、上田種子の姿が小磯にとって理想的なモデルであったこと、彼女をモデルとした作品が複数存在することを紹介されました。
今回、上田種子さんのお姉様のご親族と岡先生とのご縁により、若き日の上田種子さんが、和服を着て立つ姿をとらえた写真が会場で初公開されました。その姿はまるで小磯作品から抜け出してきたかのようで、「上田種子の存在が小磯の和装婦人像を生み出したのだ」と思わずにはいられませんでした。
こちらも、《日本髪の娘》との出会いをテーマとする講演会にふさわしい、心に残るエピソードでした。上田種子さんのお姉様は福岡にお住まいだったとのことで、福岡と小磯とをつなぐ縁があったのだ、と感慨深く思いました。

会場に並ぶ、上田種子がモデルと考えられる《洋和服の二人》(神戸市立小磯記念美術館蔵)《和服の婦人像》(姫路市立美術館蔵)《着物の女》(神戸市立小磯記念美術館蔵)

このたび見出された振り袖姿の上田種子さんの初公開写真 個人蔵
「アヒルの水かき」
岡先生の講演中で印象的だった言葉に、「アヒルの水かき」という表現があります。 ためらいなく線を引き、一発で決めることができたように「まわりには見えた」小磯ですが、その制作の裏には人知れぬ努力の積み重ねがあったという意味です。うまくいかないデッサンもあったのです。
小磯作品の美しさの奥にある絵画への熱意や人間ドラマ、努力する天才=水かき、の部分を知ると、作品を見る楽しみはいっそう増しますね。
「小磯良平展―幻の名作《日本髪の娘》」の会期はあと1か月を切りました。ぜひお見逃し無いようお越しください。
忠あゆみ(近現代美術係)
2026年5月13日 09:05
5月はG.W.の連休があけたと思うと毎年、福岡市のミュージアム施設が参加する週間、「福岡ミュージアムウィーク」がやってきます。これは、博物館・美術館の役割を広く周知するために制定された「国際博物館の日」(5月18日)を記念して行うもので、2009年から始まった催しなので今年でもう18年目となります。
2026年のミュージアムウィークの期間は5月16日(土)から24日(日)までの9日間。この期間中は、参加する18の文化施設でコレクション展、常設展の観覧料金が無料や割引となるほか、様々なイベントを行います。
福岡ミュージアムウィーク2026・公式サイト
福岡市美術館でも、期間中にいくつかの講演会や館内のツアーを予定していますので、ブログでは事前予約不要でご参加いただけるものについてご案内したいと思います。
【期間中に行う講演会】
今年は会期中の週末に美術館1階のミュージアムホールにて、3つの講演会を開催します。
◆特別展「小磯良平展―幻の名作《日本髪の娘》」記念講演会◆
「幻の名作《日本髪の娘》との出会い」
日時:5月16日(土)午後2時~午後3時30分(開場13時30分)
定員:180人(先着)
講師:岡泰正氏(神戸市立小磯記念美術館・神戸ゆかりの美術館 館長)
講演会のひとつめは、特別展として開催中の、「小磯良平展―幻の名作《日本髪の娘》」(会期 6月21日まで)を記念する講演会です。この展覧会は、日本を代表する近代洋画家のひとり、小磯良平(1903~1988)の画業を辿るもので、福岡で回顧展が開催されるのは35年ぶりとのこと。そして展覧会の目玉となるのは、これも90年ぶりの里帰り(!)という油彩画作品、《日本髪の娘》です(展覧会印刷物のメインイメージとなっている作品です)。同作品は1935(昭和10)年に描かれ、第1回第二部会展に発表された後、李王家美術館の所蔵となって海を渡り、その後所在不明となっていたとのことで、現在は韓国国立中央博物館に収蔵されています。講演会では、講師の神戸市立小磯記念美術館の館長、岡泰正氏より、小磯良平の仕事や作品についてお話しいただくのと合わせ、《日本髪の娘》が見つかった経緯や、日本に里帰りするまでのいきさつについてお話しいただきます。展覧会を見るだけではわからない、裏話や貴重なエピソードを聞ける機会になるかもしれません。

特別展「小磯良平展―幻の名作《日本髪の娘》」チラシ
◆福岡ミュージアムウィーク2026記念講演会◆
「高麗茶碗入門-茶の湯がつないだ日韓交流」
日時:5月17日(日)午後2時~午後3時30分(開場13時30分)
定員:180人(先着)
講師:片山まび氏(東京藝術大学美術学部芸術学科教授)
翌17日(日)には、福岡ミュージアムウィーク2026記念講演会として、陶磁研究者の片山まび氏を講師にお迎えし、当館の古美術コレクション展示に関連するテーマで、「高麗茶碗入門-茶の湯がつないだ日韓交流」を開催します。高麗茶碗(こうらいちゃわん)とは、朝鮮半島で焼かれ、日本で茶の湯の茶碗として使われてきたやきもののこと。「高麗茶碗」は日本で呼び習わされている名称です。茶の湯の道具は、作られた場所によって中国で作られたものを「唐物(からもの)」、朝鮮半島で作られたものを「高麗物(こうらいもの)」、日本で作られたものを「和物(わもの)」などと呼び、現在でも様々な年代、産地で作られた工芸品を道具として大切に伝えてきました。講師の片山氏は国内だけでなく、韓国における国際調査にも参加され、日本と韓国の陶磁器を介した交流の歴史について研究されています。講演では、当館の古美術作品の中でも、茶道具の名品が多く含まれることで知られる、「松永コレクション」から、代表的な高麗茶碗についてお話しいただきます。
また、当館展示室1階の松永記念室では、講演にて紹介いただく高麗茶碗(6点)が並んで展示中です!(「春の名品展」、会期 5月31日まで)松永コレクションの高麗茶碗を一度に見られる貴重な機会となりますので、ぜひご覧いただければと思います。

《雨漏茶碗》朝鮮王朝時代16 世紀、 福岡市美術館(松永コレクション)

「春の名品展」[会期:3月24日(火)〜5月31日(日)]の展示の様子
◆福岡ミュージアムウィーク2026つきなみ講座スペシャル◆
「美術と言語と現実―世界認識の原理―」
日時:5月23日(土)午後2時~午後3時30分(開場13時30分)
定員:180人(先着)
講師:中山喜一朗(総館長)
講演会の3つ目として翌週、23日(土)に開催するのは当館の中山喜一朗総館長が講師となって開催する、“つきなみ講座スペシャル”です。つきなみ講座は、当館の職員が日頃の業務や自身の研究について話したいこと、気になるテーマなどについてお話しする通年の企画です。仕事や美術にまつわる内容について紹介することで、より福岡市美術館のことを知っていただく機会にしたいということで、持ち回りで月に一度開催しています。5月は、通常の60分から拡大版のスペシャル講座ということで、中山総館長が昨年のつきなみ講座の続きとして、「美術と言語と現実―世界認識の原理―」というテーマで講演します。ちなみに、昨年の講座テーマは「美術と言語と人工知能」というお話しでした。パウル・クレーの作品やアンドレ・ブルトンの話題から次々展開し、言葉と美術、AIと人間の認識や判断の特性などについて、脳にたくさんの刺激が刺さる内容でしたが、今年どのような展開になるのかは、参加するヒトのみぞ知る、です。(去年の話を聞いていないから参加しづらいかも、と迷われた方は、昨年のことを話題にしたブログも残っています。こちらを読んでいただくと23日の講演のヒントになるのではと思います。)今年の講座を紹介する画像には、教科書で見たことあるなぁと懐かしくなったラスコー洞窟の壁画が採用されています。どんな内容になるのでしょうか?個人的にもとても気になるつきなみ講座スペシャルです。

ラスコー洞窟(フランス)の壁画《馬》
【期間中に行うプログラム】
講演会の他にも、開館日の毎日11時と14時からは「ボランティアによるギャラリーツアー」を開催します。これは、ミュージアムウィーク期間以外も行っているものですが、担当するボランティアごとにそれぞれが紹介したい作品を3点選んで、参加する皆さんと一緒に作品についてお話ししながら館内をまわります。ガイド担当者と参加者が変わるその度ごとに作品を巡る話題も変わるので、何度参加いただいても楽しんでいただけるかと思います。この機会にコレクション展にでかけてみようという皆さんにご参加いただければと思います。
また、ミュージアムウィークの最終日、24日(日)13時からは、「ボランティアによる建築見どころめぐり」として、当館の建築好きなボランティアによる美術館の建物を紹介するリレー形式のスポットツアーを行います。60分ほどの開催時間中は、途中から参加いただくことも、ご都合で抜けていただいくこともできる形で行いますので、美術館の作品だけでなく建物のことについても知りたい、という方におすすめいたします!
毎年、福岡ミュージアムウィークの期間にはたくさんの方に来館いただいていますが、こちらにご紹介した催しに参加いただくのもよし、無料となるコレクション展をじっくり見る機会にしていただくのもよし、あるいは大濠公園を散歩するついでにお目当てだけ見に寄っていただくのもよしで、気軽に遊びに来ていただけたら嬉しく思います。それぞれの企画を準備しつつ、皆さまのご来館をお待ちしています。
(教育普及係長 髙田瑠美)