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福岡市美術館ブログ

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教育普及

福岡市美術館のボランティアを募集します

福岡市美術館は1979年に開館し、今年で開館45年を迎えます。実は、それより前の開館準備室当時にボランティア活動を開始しました。現在も143名のボランティアの皆さんが、ギャラリーガイドボランティア、新聞情報ボランティア、図書整理ボランティア、美術家情報整理ボランティアのグループに分かれて活動をしています。ボランティアの募集は5年に一度行っていますが、2024年は5年ぶりの募集の年です(7月16日から8月18日まで募集を行います)。そこで、今回のブログでは、当館のボランティア活動の一部を少しご紹介いたします。

当館のボランティア活動の一つとして、年に一度行っているのが、館外研修です。館外研修では、ボランティア活動を行う他館を訪問し、お互いの館のボランティア活動について情報交換をしたり、ボランティア同士の交流をしています。今年は久留米市美術館で開催しました。当日は少し雨が降っていたのですが、ひどくならなかったので一安心。久留米市美術館の正門をくぐると、噴水と鮮やかな花々が咲く庭園が、私たちを迎え入れてくれました。

正門からみた久留米市美術館。3月の訪問時に撮影したものです。

久留米市美術館では約40人がボランティアとして活動されているそうです。ボランティア同士の自己紹介が済んだあと、まず前半は、久留米市美術館のボランティアの皆さんが当日開催されていた「ちくごist尾花成春」展の作品を紹介してくださいました。作者について、また作品が描かれた背景などの解説をしていただきましたが、解説の際に資料を用いたり参加者に語りかけるような口調で話しておられ、驚くほどすんなりと内容が頭に入ってきました。

後半は交流会の時間です。久留米市美術館と福岡市美術館の職員がそれぞれの活動内容を紹介し、ギャラリートークの感想やお互いの美術館のボランティア活動について意見交換をしました。

久留米市美術館のボランティア活動紹介。

大きく盛り上がったのは、両美術館のギャラリートークの内容についてです。福岡市美術館では、ボランティアと参加者で作品について対話をしながら鑑賞を深める「対話型鑑賞」をしていますが、久留米市美術館では解説型のギャラリートークを行っているそうです。久留米市美術館のボランティアの方からは、福岡市美術館の対話型鑑賞に対して「時間がもつのか」や「実際に体験してみたい」という声が上がっていました。解説型と対話型で手法は違いますが、ボランティアの方々の活動に対する熱意は共通していました。

交流会の様子。

今回の研修が、ボランティアの皆さんにとって普段の活動を振り返るきっかけとなり、また今後の活動につながる有意義なものになればと願っています。

さて、上記の館外研修は当館のボランティア活動のほんの一部です。もっと知りたい、一緒に活動してみたいな、と興味を持ってくださった方は、ぜひ当館ホームページから募集についての詳細をご覧ください。(https://www.fukuoka-art-museum.jp/topics/137352/
応募用紙のダウンロードも可能です。皆さまのご応募をお待ちしております。
募集期間:令和6年7月16日(火)~8月18日(日)必着

(福岡市美術館 教育普及係 姜知潤、﨑田明香)

 

 

コレクション展 近現代美術

コレクションハイライトのBefore – After

 当館コレクション展の魅力のひとつは、それぞれ個性をもった展示空間が連なりながら、異なる雰囲気の中で作品と出会うことができるところでしょう。
 例えば、近現代美術室の最初の部屋(A室)はグレーの壁で、沸き立つ心をスッと落ち着かせてくれます。つづく部屋(B室)は、白い壁に木の床、黒い格子の天井でスタイリッシュ。最後の部屋(C室)は、壁も床も天井も白、他の部屋より天井も高くて柱もないためとても開放的です。コレクション展示の見学では、こうした各部屋の個性にも目を向けてください。

B室の現在の展示風景。「野見山暁治のしごと」展を開催しています(9/1まで)。

 さて、今日紹介する「コレクションハイライト」は、近現代美術室のA室とC室でおこなっています。
 [ナショナル/トランスナショナル]のテーマのもと、7つの章を設けて「国」ごとに代表的な作家・作品を紹介しており、最後は、特定の「国」の枠組みを超えたアイデンティティをもつ作家や、世界各国でプロジェクトを展開している作家に注目する展示となっています。作家の出身「国」というものを鑑賞の手がかりにしつつも、同時に多くの作家が様々な理由により「国」を離れて、豊かな活動を繰り広げてきた様相をご覧いただける内容です。

A室の現在の展示風景。「コレクションハイライト」の最初のコーナーは「フランス」です。
(シャガール《空飛ぶアトラージュ》やレオナール・フジタ《仰臥裸婦》などを展示しています)

 写真は近現代美術室に入ってすぐのA室です。市美の近現代室に馴染みのある方は、この写真をみて「アレレ⁈ ダリやミロはどこ?」と驚かれるかもしれませんね。
 この部屋には、次の写真のように、2019年のリニューアル開館以来ずっと、ダリやミロの作品が鎮座していたからです。まさに市美の「顔」として「働いて」いただきました。

 

Before(2023年度のA室)

 

2019年以来、ダリ(左の壁の作品)とミロ(右の壁の作品)がこの部屋には鎮座。 (中央の彫刻は草間彌生の作品。その背後の絵はポール・デルヴォ―の作品。)

 しかし5年間もずっとこの部屋に展示していると、どんなにすごい「顔」でも、だんだん新鮮味もなくなってくるというものです。ダリやミロも、この部屋に飽きたかもしれない妄想し(笑)、今回は収蔵庫でゆっくり休んでいただこうと……。
 いえいえ、今回のテーマにふさわしいコーナーと作品のサイズにあう大きな空間に「働く」場を移してみました!

 

After(現在のダリの展示風景)

 

6月13日より、天井も高く白一色のC室に展示しています。写真はC室の入口から見たダリの《ポルト・リガドの聖母》

 いかがですか? グレーの落ち着いた部屋でふと出会うのと、白一色の世界に浮かんでいるような作品に遭遇するのと、同じ作品でも違う印象や感想をもたれるかもしれませんね。
 ちなみに私個人は、より厳かな雰囲気を感じさせる新しい場所が好みです。また、このC室入口のずっと手前から眺めると、この作品1点だけを見ることができます。そこから、ゆっくりと「聖母」に近づいていくのも鑑賞の醍醐味です。

 

After(現在のミロの展示風景)

 

ミロの《ゴシック聖堂でオルガン演奏を聞いている踊り子》 (ミロの隣にアントニオ・タピエス《絵画No.XXVIII》、パブロ・ピカソ《知られざる傑作》を並べています)

 

 ミロは、ダリのそばに展示しています。白い空間で見るミロの作品は、軽やかなリズムをふむ「踊り子」のように、いっそう軽妙に感じられるかもしれません。このコーナーには「スペイン」の20世紀美術を展示しており、ほかにピカソのエッチングなど、日本人にも親しみのある作家の作品も紹介しています。

 さらに、ウォーホルやバスキアも、今回の展示のテーマにあわせて「アメリカ」のコーナーに移し、マーク・ロスコやロバート・ラウシェンバーグなどなど、まさに戦後の世界の現代美術をリードしたアメリカの作家と一緒に並べています。BeforeとAfterの写真を見比べてみてください。展示空間が変ると、作品の印象も変わりそうです。

 

Before(2023年度のA室)

 

2023 年度のバスキア作品(右)とウォーホル作品(左)の展示。グレーの部屋で落ち着いて鑑賞できました。

 

After(現在の展示風景 C室)

 

現在の展示風景は清々しさがあります。同時代のアメリカ美術を通覧しなから、作品に向き合うことができるでしょう。左から、ロバート・ラウシェンバーグ《ブースター》、ジャン=ミシェル・バスキア《無題》、アンディ・ウォーホル《エルヴィス》。

 

 「コレクションハイライト」は年に一度の大展示替えです。以上のほかにも「ドイツとイタリア」「戦後の日本の美術より」「九州と反博」「ナショナルではなくトランスナショナル」というコーナーを設け、趣旨にあうとともに、空間のサイズにふさわしい大きな作品を展示しています。個性的な各部屋で、展覧会自体をお楽しみいただけるとともに、作品とのスペクタクルな出会いをご体感いただけることでしょう。

(近現代美術係長 ラワンチャイクン寿子)

 

館長ブログ

KYNEトークセッション報告−作品の意外なルーツ−

5月25日、KYNEさん初の公開トークセッションを、福岡市美術館ミュージアムホールで開催しました。「応募はそんなにないと思います」という謙虚なご本人の予測を裏切って300名近くご応募があり、やむなく抽選となりました(落選された方、申し訳ありません)。当日は、ホールはほぼ満杯。御来館くださった皆様、ありがとうございます。
応募時にKYNEさんへの質問を募集したところ116件もあったことから、KYNEさんがそれに答える形でトークを進めることにしました。質問は内容の重なるものも多く、参加者の関心が高い質問8つに絞りました。KYNEさんは、小学生時代から大学にいたるまでのエピソードやグラフィティの世界のことなど、とても丁寧かつ率直に語っていただきました。全部掲載したいところですが、このブログでは、KYNE作品の意外なルーツを明かした質問にフォーカスしてお届けしたいと思います。

質問A:女性しか描かない意図がありますか?男性もいつか見たいです
グラフィティは男性社会のカルチャーでマッチョな思想があり、男性はカッコよく勇ましく、女性はセクシーに描かれます。その中に美術作品としての一般的な女性像を持ち込むのが新しいと思って、女性像を描き始めました。グラフィティは一つのモチーフに固執して描き続けるのが、マナーというかセオリーで、女性像は自分の自己紹介、サインに当たるものでした。
男性像は今のところ考えていませんが、適切なタイミングというか必然性があれば。

KYNE《Untitled》2024
ひとつのモチーフの反復。彩色にはバリエーションを持たせている。

質問B:今まで影響、刺激を受けた映画、本、アーティストは?
出会った順に紹介すると、1996年のキャナルシティ博多のオープン時(当時8歳)に見た、村上隆のバルーン作品《Chaos》、ナムジュン・パイクの《Fuku/Luck, Fuku-Luck, Matrix》。パイクの作品は中学校の美術の教科書でも見ました。TV画面が美術として成り立つのが衝撃でした。
グラフィティや落書きに衝撃を受けたのも、小学生の頃でした。
KAWSが紹介された雑誌『リラックス』は、中学校の時に立ち読みしていました。KAWSの、バス停の広告ポスターの上に絵を描いて、撮影して元に戻すという方法は、ただ街で描くだけでなく、既存のものを取り入れているところが斬新でした。
河内成幸(かわちせいこう)の作品は、中学校の教科書で見ました。木版画だけどエッジの効いた造形でカッコよくて。所蔵している版画は、自分の静物画の作品《Untitled》2024にも描いています。「SEIK」の文字の由来をよく聞かれるので、せっかくなのでネタバラシ 笑。

KYNE《Untitled》2024 
画面右の「SEIK」の文字のある作品は、河内成幸の展覧会ポスター(版画)の一部

漫画では、中学生の時に姉から見せてもらったカネコアツシの《BAMBI》。女性の主人公であるバンビがすごく強くて媚びない感じで、影響を受けています。紡木たくの漫画《ホットロード》(註 KYNEさんが生まれる前に描かれた少女漫画)は、氣志團の歌詞を読み解いていて出会いました。間が多くて、白黒なのに光とか色を感じて、とにかく絵がきれい。
映画では、岩井俊二監督《リリイ・シュシュのすべて》。2000年に中学生になるという設定の主人公とは、ドンピシャの世代です。いじめや援助交際などを描いていて、表面的にはすごく痛々しい。それに反して、映像や音楽はとてもきれいです。登場人物の考えることが音楽と風景を通して描かれています。
大学では日本画を学んでいたのですが、平山郁夫以前か以後かというと、以後の、花鳥風月だけではない日本画が好きです。現代の都市風景を描いた田渕俊夫の《刻》はすごいと思ったし、院展作家の宮北千織の《惜春》は、日本画らしくないけれど日本画の良さが出ていると思います。

質問C 花や果物を描かれるようになったきっかけは?
最初は人物だけを描いていましたが、よりオーソドックスな絵画を連想させる、室内の人物を描いた作品を2021年に始めました。そのなかのモチーフとして、女性と一緒に描いていた花瓶や果物を独立させたのが、今の静物画です。白黒の表現やバストアップの女性のモチーフなどは、グラフィティを描く上での生存戦略でしたが、そのなかで必要なくなったものをアップデートさせて、あえてオーソドックスな構図、モチーフを使ってみました。そこに否定的な意味を持たせるのでなく、自分が影響を受けてきたもの、好きなものを肯定的に取り入れていっている感じです。
いわゆる昔からある構図って、面白くないと思うけど、そのつまらなさに自分の興味があって、そのつまらなさをいかに自分のものにできるか、いかに(よい意味での)違和感を持たせられるかを試しています。

質問D 普段の活動 これからの活動
最近の取り組みとして立体作品がありますが、2021年に制作した女性の上半身の立体像は、平面作品を立体に戻したもので、村上隆さんやKAWSのようなアプローチで作りました。2024年の女性の全身像は、それとは違って、フィギュアやおもちゃが土台なのではなくて、佐藤忠良の彫刻へのオマージュです。佐藤忠良の屋外彫刻は全国に色々あって、誰もが目にしていると思います。街にすごく溶け込んでいて、その溶け込み方がすごく良くて。オーソドックスな彫刻を自分のフィルターを通して、現代美術的なアプローチをしたら、こうなんじゃないかと。これを等身大で、ブロンズで作ってみたいです。カラフルで派手なものは、村上さんや草間さんがやっているので、自分がやらなくていい。街に馴染んで無視されるぐらいの彫刻が増えるのもいいのではないかと。そこに、なにか違和感を見出して、気づいてもらえると面白いと思います。

KYNE《Untitled》2024 
彫刻家・佐藤忠良の《若い裸》(福岡市美術館所蔵)へのオマージュとして制作。

福岡では東京周辺に比べると現代アートやポップなものを見る機会が少ないので、デパートでの展示や院展などの団体展も見に行って、限られた環境の中で、幅広く影響を受けて来ました。自分の作品はポップなものが多いけれど、根底にはオーソドックスな美術があって、今でもすごく好きです。そういうものにも興味を持ってもらえたらいいなと思います。

インタビューを重ねてきた筆者にとっても、初めて聞くこともたくさんあって、あっという間の1時間30分でした。KYNEさんのルーツとしてオーソドックスな日本画や版画、彫刻がどんどん出てきて、トークの最後にKYNEさんが「こんな内容で大丈夫でしたか?(ストリートアートなどの話が少なくて)」と聞いたりもされました。
KYNEさんの話からわかるように、彼の作品は、戦後の日本人が体験してきた美術の流れを問い直すものでもあります。わたしたちが美術として鑑賞してきた「洋画」「日本画」「野外彫刻」は、現代美術のフィールドに立ってみると、存在の気配がほとんどありません。しかし、KYNEさんは自分が体験した、今となっては「なじみ過ぎて目に入らない」「退屈な」作品群を愛し続けて、それを「なかったこと」にせず、今解釈するとどうなるか、という試みをしているのです。
かっこいい、クールな作品の根柢に、そうした試みを秘めているKYNEさんの深さが垣間見えたトークでした。KYNEさんの次なる展開を早く見てみたい!ですね。

(館長 岩永悦子)

【お知らせ】
トークセッションで、KYNEさんが「福岡市美術館の所蔵品のなかで、これが好き」と推してくださった作品である、ナムジュン・パイクの作品《冥王星人》と、好きな作家として挙げておられた靉嘔(あいおう)の作品《レインボー・ブック・オン・ザ・テーブル》が、6月13日(木)から、コレクション展示室 近現代美術で展示されます。ぜひ『ADAPTATION – KYNE』展の帰りに、お立ち寄りください。KYNE展チケットにコレクション展チケットもついています。

 

 

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