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福岡市美術館ブログ

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コレクション展 古美術

泰西風俗図屏風の修理が終わりました!

当館が所蔵する《泰西風俗図屏風》は、日本においてキリスト教の布教が許されていた16世紀から17世紀にかけて、西洋の絵画技法を学んだ日本人が描いた初期洋風画を代表する作品です。江戸時代に福岡藩を収めていた黒田家に伝来したもので、昭和49年から51年にかけて実施された調査によって見いだされ、翌52年に重要文化財指定、さらにその翌年(53年)に当館へ寄贈されました。

その後、昭和63年に修理が実施され、多くの展覧会で展示公開がなされてきました。ですが、修理から時間を経る中で保存上気になる箇所が出てきました。下に掲載しているのが修理前に撮影した写真です。

一見、特に異常はなさそうですが、よくみると絵具のひび割れや紙がめくれているのがわかります。
このまま放っておくと、普段の取り扱いでひっかけてしまう恐れがあるのはもちろんですが、ちょっとした振動で絵具が落ちてしまう可能性もあります。
一般的に、日本の伝統的な材料・技法で制作された作品は、一度本格的な修理を実施すると、100年くらいは状態が安定するといわれています。ですが、《泰西風俗図屏風》を含む初期洋風画の場合は、西洋由来の材料や技法が用いられているためか劣化のスピードも速いようで、通常よりも短いスパンでケアをする必要があるのです。
そこで、令和6年度国宝重要文化財等保存・活用事業補助金の交付を受けて修理を実施することにしました。修理を手掛けたのは昭和63年時と同じく、東京の半田九清堂です。今回実施した修理は「剥落止め」と呼ばれるもの。絵具のひび割れや紙のめくれ部分の隙間に膠や糊からなる水溶液を注し入れたのち、上から圧すことで接着する、という繊細な作業を劣化の進んだ箇所全体に行いました。

その甲斐あって、絵具のひび割れや紙のめくれも安定した状態に戻すことができました。(左が修理前の写真、右は修理後に同じ個所を撮影した写真)

ところで作品修理は、保存状態を安定させることはもちろんですが、様々な機材を活用した科学調査を実施するための貴重な機会でもあります。今回は、使用されている絵具の材料の特定を主たる目的として、蛍光X線分析(写真左)や顕微鏡写真撮影(写真右)などを行いました。

これらの成果の一部は来月に実施するつきなみ講座「古美術の作品修理について」(令和7年4月19日(土)15:00~16:00 於:福岡市美術館1階、レクチャールーム)でもご紹介します。次年度以降の公開予定についても随時ご案内いたしますので、ご期待ください!

(学芸員 古美術担当 宮田太樹)

 

 

 

 

 

コレクション展 近現代美術

「何度目かの福岡で―新人の自己紹介」

はじめまして。2月から福岡市美術館 近現代美術係の学芸員となりました、花田と申します。初めて担当するブログなので自己紹介や2月中の出来事を話してみようと思います。

私は高校までを宮崎で過ごし、大学は大阪にいましたが、父の実家が福岡にあったこともあり、小学生の時にはちょこちょこ福岡に来ていました。また、1年ほど福岡に住んだ際には寮が大濠公園の近くにあったのですが、福岡市美術館はちょうどリニューアル期間だったので足を運ぶことはできませんでした。私が初めて福岡市美術館に来たのは去年の就職試験のときになります。試験前日に展覧会を見に行こうと、どきどきしながら大濠公園駅から歩いてきて、間違えて舞鶴公園の三の丸広場に行ってしまい、ここはどこだ?とウロウロしていたのが懐かしく思い出されます。美術館に着くと、まずチケット売り場はどこだろうとウロウロし、館内でも展示室を見たりカフェに入ったりショップを見たりとウロウロしていました。今改めてホームページを見直すと、フロアガイドにきちんとチケットカウンターの場所が表示されていました。ちゃんと確認しておかないといけないですね。そんなこんなで、かつて近くを行き来していた場所で今働けることに勝手ながら縁を感じています。

ところで、私は大学院の頃は近代日本美術、なかでも鏑木清方について勉強しており、清方が歌舞伎などの芝居好きだったこともあって、画家が芝居をどのように考え、どのような意図や工夫をして描いていたのかについて考えていました。また、画家によって都市の捉え方、都市のなかで興味を持って見る対象が異なっており、画家が都市をどのように見ていたのか、どのように作品に描いていたのかという点にも興味を持っていました。福岡市美術館には清方の弟子である福岡市出身の小早川清や久留米市出身の吉田博の作品があるので、師の清方と弟子たちの展覧会はどうだろうか…と漠然と考えてみたりしていますが、今の目標はまず館や日々の業務に慣れることです!2月からの勤務だったので、修士論文を出してすぐ福岡に来て、このブログを書いている現在は働き始めて約1ヵ月が経ちました。2月中は、収蔵庫を案内していただいたり、展示室などにある乾湿計の用紙交換のやり方を教えていただいたり、他館に挨拶に伺ったり…見るものほとんどが新鮮で、恥ずかしながら知らないことばかりでした。日々の業務の一つに閉館業務というものがあり、閉館時間前に作品の状態の確認や設備の点検をするのですが、2月担当の私は17時頃に展示室、特に2階の近現代美術室を見回っておりました。初日はどのような点を確認するのかを教えていただき、監視員の方に挨拶しながら見回りました。最近は館内のどこにどの部屋があるのか、やっと覚えてきましたが、たまに収蔵庫までの道や階段を歩いていると迷路のように感じ、このドアを出たらここに出るのか…!という面白さがあります。さらに、業務とは関係のないことですが、通勤で通る福岡城の水堀にいた鳥が「はっはっはー」という声で鳴いていたこともありました(笑われていたのかも?)。日々、勉強し、新しいものを見て、そして反省の毎日です。

かつて小学生だった私が見ることのできた福岡の地域は限られていますが、街の様子がだいぶ変わったように感じます。記憶にある建物やお店がなくなっていたり、新しい建物がかなり増えていたり。知っているけれど知らない街という印象です。福岡にもっと慣れるために休みの時には色々な場所に行ってみようと考えています。

…というとりとめもない話をダラダラとしてきましたが、今年は早速「つきなみ講座」を担当する予定もありますので(かなり緊張していると思いますが)、みなさまにお会いできる日も近いと思います。精一杯努めてまいりますので、どうぞよろしくお願いいたします。

帰りがけに撮影しました。夜の美術館は灯りがきらきらして昼とは違う雰囲気です。

(学芸員 近現代美術担当 花田珠可子)

コレクション展 近現代美術

時間を呼吸する=生きている壁画

 1月31日、田中千智さんによる3年間のプロジェクト「生きている壁画」が無事終了しました。壁画が完成し、今年いっぱい公開されます。
 本プロジェクトは、2023年田中千智さんの個展「地平線と道」とともにスタートしました。近現代美術室の最終壁面にある幅13m、高さ3.1mの白い壁面に、ご本人の発案で1年ごとに加筆していきました。

1年目の完成時の「生きている壁画」

 1年目に描かれたのは漆黒の森に子供たちや生き物が息づく静かな作品でしたが、2年目には中央に黄色い光が差し、画面左上には戦争、災害を思わせる情景が書き足され、3年目には、黄色の部分は燃え盛る炎を思わせる描写に変化していきました。そして、船や、瓦礫、猫、アロエなど新たなモチーフが描き足されたことで、胸が苦しくなる場所もあり、安らぎや見ていて笑みが浮かぶような場面もあり、様々な物語を包み込んだ、見ごたえのある作品になりました。

3年目の初日

 ちょっと話が変わるのですが、我が家では木版画がとても身近で、よく家で夫が木版画を刷っています。去年の12月のクリスマスにも、子どもに木版画でキャラクターを刷った服をプレゼントしたのですが、その刷りの作業を見ている時にふと、版画の線には時間が圧縮されているな、と思いました。版にインクをのせ、支持体に押し付けて「ぺらり」と剥がしたその一瞬、たちまちに複雑なイメージが立ち現れるのには、何度見てもびっくりします。刷られた線をよ~く見ると、かすかなムラが見て取れます。このムラが、私には時空の狭間のように思えます。版画の線の中には、時間が格納されているのです。

 話を戻し、「生きている壁画」を見て思うのは、この作品における線や面は、圧縮されることのない時間の痕跡である、ということです。「何を書くかまだ考えていないです(笑)」と言いながら、田中さんは初日から大胆に筆をのせていきました。一日ごとに画面は変化し、時間の経過は作品の造形要素と連動しているのです。
 この3年間に、世界情勢も大きく変化していきました。ウクライナ侵攻、能登半島地震、飛行機事故、パレスチナ侵攻など、苦しいニュースも目に耳に入ってきました。「生きている壁画」には、そうした出来事が反映された痕跡があります。また、日々美術館を訪れる来場者の方々との暖かい交流も、作品には反映されています。(壁画の一番右端にいる狼と頭巾をかぶった人物は、来場者の方に「残して!」とリクエストされたものなのだとか…。)いうなれば、「時間を呼吸している絵画」が、「生きている絵画」と言えるのではないでしょうか?

リクエストに応じて最後まで残った狼と人物

 日々変化していく絵画を見ていると、絵画と時間との、何通りもありえる関係性を考えさせられます。そして改めて最終段階を迎えた壁画を見渡すとき、3年間の時間の厚みが一度に迫ってくるように感じます。圧倒的な迫力を、ぜひ実際にご覧ください!
 なお、田中さんは、福岡三越でも展覧会を開催中です。先日会場を訪問したところ、壁画の完成後に制作した新作が66点(!)も展示されていて、その力強さにとても驚きました。
 2月22日には、完成を記念して、トークを行います。田中さんの現在の心境や、完成後の手ごたえについてお聞きできればと思っています。是非お越しください!

能古島のアトリエを思わせる部分を書き込む田中さん

■《生きている壁画》第3段階・完成トーク
日時:2025年2月22日(土)午後2時~午後3時30分(開場:午後1時30分)
会場:1階 ミュージアムホール
料金:無料
定員:180名(先着順)
講師:田中千智(画家)、聞き手:忠あゆみ(当館学芸員)
https://www.fukuoka-art-museum.jp/event/153073/

学芸員 近現代美術担当 忠あゆみ

 

 

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