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福岡市美術館ブログ

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コレクション展 古美術

江戸の表具師 たむらさん

こんにちは。あまりにも暑い日が続いていますね!美術館は温湿度管理が徹底されていて、中にいると快適なのですが、外に出た瞬間、じゅわっと自分が蒸発するかのような感覚をおぼえます。地面で干からびているミミズたちを見るたび、他人事ではない気持ちがします。

それはさておき、現在、古美術の松永記念館室では「表具のキホン」展が開催中です(8月18日まで)。みなさんは、表具についてどれくらいご存知でしょうか?表具って、見たことも聞いたこともあるけど、そんなによく知らない…という方も少なからずいらっしゃるのではないでしょうか。恥ずかしながら、かく言う私もその一人でした。表具ってあれだよね、ほら、掛軸とか屏風とかの、きれいな色とか模様のあれ・・・という理解が関の山。そんな私がひょんなことから表具の展示を担当することになったのですが(本当に大丈夫か?と何度か思いました)、せっかくなら初心者としての立場から、表具の基本中の基本を扱うものにしよう!と思い、そんなこんなで「表具のキホン」という展示が出来上がりました。展示では、松永コレクションを中心とした作品を3つのコーナーに分けて紹介しています。また、掛軸の表具の各部分の名称や、表具の形式を図で紹介したパネルなども用意したので、実際に作品を鑑賞する際の手がかりにしていただけたらと思います。

ちなみに図解パネルは日本語のみならず、英語も併記してあります。

そしてそして、今回は表具の展示ということで、展示室には作品と一緒にこんなものも並んでいます。

写真だと見にくいと思いますが、ご容赦ください…。

なんだか分かりますか?向かって右は古い軸木、左は添え状です。軸木とは、掛軸の下端に通してある軸で、両端に象牙などの素材でできた軸先が取り付けられます。これらは、今回の展示作品のひとつである牧谿作の三幅対《韋駄天・猿猴図》の古い箱にしまってあったもの。表具の展示だし、せっかくなら表具らしいものを何か展示したいな~、という私の胸の内を知ってか知らずか、こんなのあるよ、と古美術のM学芸員が見せてくれたのでした。

《韋駄天・猿猴図》の昔の箱にしまわれていた昔の軸木etc.

添え状には、表具の各部分の寸法が書かれています。一方の軸木は、2003年に修理を行い、表具を新調した際に取り外されたものです。この古い軸木に何が書かれているのか読んでみると、その内容は、「我が藩主である松平不昧公所蔵の牧谿の三幅対を、弘化3年の仲秋上旬に修理しました。江戸城の南、三田に住む表具師、田邨藤七(たむらとうしち)」というもの。おお、これはまごうことなき修理の記録!作品の管理等を担当していた当時のお役人が書いたものだそうです。ちなみに松平不昧公は江戸時代の松江藩のお殿様で、茶人としても有名です。弘化3年仲秋上旬は1846年の秋で、江戸城の南の三田は今の港区の辺りのことでしょうか。江戸時代にはどうだったか分かりませんが、今は洒落たエリアのイメージですね。そういう所で田邨さんは、日々忙しく表具を仕立てたり修理したりしていたのかしら…。お殿様の愛蔵品を修理するくらいなのだから、腕のいい表具師さんだったのではないかと想像します。それにしても、まさか田邨さんも、150年の時を超え、自分が直した軸木が福岡市美術館の展示室にそのまま並べられることになるとは思いもよらなかったことでしょう。

展示ケースの真ん中に鎮座する旧軸木&添え状。向かって右隣りには《韋駄天・猿猴図》。

過去の表具の一部を見ると、多くの貴重な作品を守り伝えていくのに、表具師の方々が重要な役割を果たしてきたことがよく分かります。このような古い軸木や添え状は普段の展示ではなかなか出品することもないので、この機会にぜひご覧いただけると嬉しいです。そして何と言っても、松永コレクションは名品ぞろい!これらの作品を通して表具について学ぶなんて、なんだか贅沢な気分になりますよ。「表具のキホン」展は8月18日(日)まで。どうぞお見逃しなく~。

(国際渉外担当 太田早耶)

 

 

 

 

 

 

 

教育普及

福岡市美術館のボランティアを募集します

福岡市美術館は1979年に開館し、今年で開館45年を迎えます。実は、それより前の開館準備室当時にボランティア活動を開始しました。現在も143名のボランティアの皆さんが、ギャラリーガイドボランティア、新聞情報ボランティア、図書整理ボランティア、美術家情報整理ボランティアのグループに分かれて活動をしています。ボランティアの募集は5年に一度行っていますが、2024年は5年ぶりの募集の年です(7月16日から8月18日まで募集を行います)。そこで、今回のブログでは、当館のボランティア活動の一部を少しご紹介いたします。

当館のボランティア活動の一つとして、年に一度行っているのが、館外研修です。館外研修では、ボランティア活動を行う他館を訪問し、お互いの館のボランティア活動について情報交換をしたり、ボランティア同士の交流をしています。今年は久留米市美術館で開催しました。当日は少し雨が降っていたのですが、ひどくならなかったので一安心。久留米市美術館の正門をくぐると、噴水と鮮やかな花々が咲く庭園が、私たちを迎え入れてくれました。

正門からみた久留米市美術館。3月の訪問時に撮影したものです。

久留米市美術館では約40人がボランティアとして活動されているそうです。ボランティア同士の自己紹介が済んだあと、まず前半は、久留米市美術館のボランティアの皆さんが当日開催されていた「ちくごist尾花成春」展の作品を紹介してくださいました。作者について、また作品が描かれた背景などの解説をしていただきましたが、解説の際に資料を用いたり参加者に語りかけるような口調で話しておられ、驚くほどすんなりと内容が頭に入ってきました。

後半は交流会の時間です。久留米市美術館と福岡市美術館の職員がそれぞれの活動内容を紹介し、ギャラリートークの感想やお互いの美術館のボランティア活動について意見交換をしました。

久留米市美術館のボランティア活動紹介。

大きく盛り上がったのは、両美術館のギャラリートークの内容についてです。福岡市美術館では、ボランティアと参加者で作品について対話をしながら鑑賞を深める「対話型鑑賞」をしていますが、久留米市美術館では解説型のギャラリートークを行っているそうです。久留米市美術館のボランティアの方からは、福岡市美術館の対話型鑑賞に対して「時間がもつのか」や「実際に体験してみたい」という声が上がっていました。解説型と対話型で手法は違いますが、ボランティアの方々の活動に対する熱意は共通していました。

交流会の様子。

今回の研修が、ボランティアの皆さんにとって普段の活動を振り返るきっかけとなり、また今後の活動につながる有意義なものになればと願っています。

さて、上記の館外研修は当館のボランティア活動のほんの一部です。もっと知りたい、一緒に活動してみたいな、と興味を持ってくださった方は、ぜひ当館ホームページから募集についての詳細をご覧ください。(https://www.fukuoka-art-museum.jp/topics/137352/
応募用紙のダウンロードも可能です。皆さまのご応募をお待ちしております。
募集期間:令和6年7月16日(火)~8月18日(日)必着

(福岡市美術館 教育普及係 姜知潤、﨑田明香)

 

 

コレクション展 近現代美術

コレクションハイライトのBefore – After

 当館コレクション展の魅力のひとつは、それぞれ個性をもった展示空間が連なりながら、異なる雰囲気の中で作品と出会うことができるところでしょう。
 例えば、近現代美術室の最初の部屋(A室)はグレーの壁で、沸き立つ心をスッと落ち着かせてくれます。つづく部屋(B室)は、白い壁に木の床、黒い格子の天井でスタイリッシュ。最後の部屋(C室)は、壁も床も天井も白、他の部屋より天井も高くて柱もないためとても開放的です。コレクション展示の見学では、こうした各部屋の個性にも目を向けてください。

B室の現在の展示風景。「野見山暁治のしごと」展を開催しています(9/1まで)。

 さて、今日紹介する「コレクションハイライト」は、近現代美術室のA室とC室でおこなっています。
 [ナショナル/トランスナショナル]のテーマのもと、7つの章を設けて「国」ごとに代表的な作家・作品を紹介しており、最後は、特定の「国」の枠組みを超えたアイデンティティをもつ作家や、世界各国でプロジェクトを展開している作家に注目する展示となっています。作家の出身「国」というものを鑑賞の手がかりにしつつも、同時に多くの作家が様々な理由により「国」を離れて、豊かな活動を繰り広げてきた様相をご覧いただける内容です。

A室の現在の展示風景。「コレクションハイライト」の最初のコーナーは「フランス」です。
(シャガール《空飛ぶアトラージュ》やレオナール・フジタ《仰臥裸婦》などを展示しています)

 写真は近現代美術室に入ってすぐのA室です。市美の近現代室に馴染みのある方は、この写真をみて「アレレ⁈ ダリやミロはどこ?」と驚かれるかもしれませんね。
 この部屋には、次の写真のように、2019年のリニューアル開館以来ずっと、ダリやミロの作品が鎮座していたからです。まさに市美の「顔」として「働いて」いただきました。

 

Before(2023年度のA室)

 

2019年以来、ダリ(左の壁の作品)とミロ(右の壁の作品)がこの部屋には鎮座。 (中央の彫刻は草間彌生の作品。その背後の絵はポール・デルヴォ―の作品。)

 しかし5年間もずっとこの部屋に展示していると、どんなにすごい「顔」でも、だんだん新鮮味もなくなってくるというものです。ダリやミロも、この部屋に飽きたかもしれない妄想し(笑)、今回は収蔵庫でゆっくり休んでいただこうと……。
 いえいえ、今回のテーマにふさわしいコーナーと作品のサイズにあう大きな空間に「働く」場を移してみました!

 

After(現在のダリの展示風景)

 

6月13日より、天井も高く白一色のC室に展示しています。写真はC室の入口から見たダリの《ポルト・リガドの聖母》

 いかがですか? グレーの落ち着いた部屋でふと出会うのと、白一色の世界に浮かんでいるような作品に遭遇するのと、同じ作品でも違う印象や感想をもたれるかもしれませんね。
 ちなみに私個人は、より厳かな雰囲気を感じさせる新しい場所が好みです。また、このC室入口のずっと手前から眺めると、この作品1点だけを見ることができます。そこから、ゆっくりと「聖母」に近づいていくのも鑑賞の醍醐味です。

 

After(現在のミロの展示風景)

 

ミロの《ゴシック聖堂でオルガン演奏を聞いている踊り子》 (ミロの隣にアントニオ・タピエス《絵画No.XXVIII》、パブロ・ピカソ《知られざる傑作》を並べています)

 

 ミロは、ダリのそばに展示しています。白い空間で見るミロの作品は、軽やかなリズムをふむ「踊り子」のように、いっそう軽妙に感じられるかもしれません。このコーナーには「スペイン」の20世紀美術を展示しており、ほかにピカソのエッチングなど、日本人にも親しみのある作家の作品も紹介しています。

 さらに、ウォーホルやバスキアも、今回の展示のテーマにあわせて「アメリカ」のコーナーに移し、マーク・ロスコやロバート・ラウシェンバーグなどなど、まさに戦後の世界の現代美術をリードしたアメリカの作家と一緒に並べています。BeforeとAfterの写真を見比べてみてください。展示空間が変ると、作品の印象も変わりそうです。

 

Before(2023年度のA室)

 

2023 年度のバスキア作品(右)とウォーホル作品(左)の展示。グレーの部屋で落ち着いて鑑賞できました。

 

After(現在の展示風景 C室)

 

現在の展示風景は清々しさがあります。同時代のアメリカ美術を通覧しなから、作品に向き合うことができるでしょう。左から、ロバート・ラウシェンバーグ《ブースター》、ジャン=ミシェル・バスキア《無題》、アンディ・ウォーホル《エルヴィス》。

 

 「コレクションハイライト」は年に一度の大展示替えです。以上のほかにも「ドイツとイタリア」「戦後の日本の美術より」「九州と反博」「ナショナルではなくトランスナショナル」というコーナーを設け、趣旨にあうとともに、空間のサイズにふさわしい大きな作品を展示しています。個性的な各部屋で、展覧会自体をお楽しみいただけるとともに、作品とのスペクタクルな出会いをご体感いただけることでしょう。

(近現代美術係長 ラワンチャイクン寿子)

 

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