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福岡市美術館ブログ

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コレクション展 近現代美術

第2回福岡アートアワードアーティストトークセッション報告

福岡市美術館が主催している福岡アートアワード。昨年度、第2回福岡アートアワードではソー・ソウエンさん、イ・ヒョンジョンさん、山本 聖子さんが受賞されました。

5月19日(日)、当館は第2回福岡アートアワードの受賞作家であるソー・ソウエンさん、イ・ヒョンジョンさん、山本 聖子さんの3名をお招きし、トークセッションを開催しました。
ちなみに、この日は福岡ミュージアムウィーク2024の期間中で、沢山の来場者でにぎわうなかでの開催となりました。

当館の後藤学芸課長より挨拶とふりかえりを行った後に、受賞作家らによる発表を開始。

はじめは市長賞を受賞したソー・ソウエンさんです。

ソー・ソウエンさんは、自身のアイデンティティや他者との関係性など生に関わる事象について、身体を通じて表現する作家です。発表では、各国のID写真を基に制作した絵画《tie》シリーズや、漂白された絵画《Bleaching》シリーズ、香りを使ったインスタレーション等が紹介されました。中でも、卵が割れないよう挟み込み動くパフォーマンス《The Egg》は、紹介動画の上映中に息をのむ音が会場から聞こえる程、緊張感が伝わるものでした。

次に発表したのは優秀賞受賞のイ・ヒョンジョンさんです。
彼女はキムチの熟成過程を作家自身の人生になぞらえたり、あるいは心臓や性器などを連想させる形象として捉えた自画像とも言える代表的な絵画シリーズや、個人史を扱った複合的なインスタレーション、パフォーマンスなど幅広い表現を発表しています。
トーク中、ご自身は制作する際「傷と癒し」「自己克服」「生命力」の3つを作品の主題としていると述べ、発表された作品は生々しさを感じさせつつも一貫してご自身を主体とした力強いものでした。

最後に発表したのは、同じく優秀賞受賞の山本聖子さんです。
山本さんは、ご自身が育った均質的なニュータウンの様相に対する違和感や、それがもたらす身体への影響の焦燥感を起点に制作活動に取り組んでいます。今回のトークでは、自身のメキシコ滞在中、国全体が持つ不穏な気配を色として捉えた作品、それと併せて鉄と身体を関連付け制作した作品を紹介されました。

休憩を挟んだのちはクロストーク形式のトークセッションです。

当館の山田学芸員が進行を務め、互いの作品の印象や、今回の3名の受賞作に「身体」「生命」「人生」「傷」等が共通していると指摘した上で、その意識や意図について聞きました。

作家の皆さんは、それぞれの作品の共通性を認めつつも、トークが進むなかで互いの作風や制作の姿勢に違いがより浮かび上がった、という感想を述べられていました。
また、パフォーマンスやインスタレーションを行う際の意識を問われた際は、ソー・ソウエンさんはパフォーマンスの本来持つメッセージ性の力強さを均していく意識、イ・ヒョンジョンさんは、個人と全体との関係性、山本さんは周囲の協力を得て出来上がった作品に対する責任や覚悟等について述べられました。

2時間という限られた時間であったにも関わらず、3名の話は非常に分かりやすく、意義深いものでした。受賞者の皆様をはじめとして関わっていただいたすべての方々に感謝申し上げます。

(近現代美術係 渡抜由季)

 

 

 

コレクション展 古美術

新収蔵品展開催中です

 福岡市美術館1階の古美術企画展示室では、ただいま、「新収蔵品展」(~6月16日(日))を開催中です。当館の古美術部門は、昨年度(2023年度)も篤志家からのご寄贈により、134件の美術品を収蔵することができました。本展ではその中から選んだ45件をご紹介しています。

 展示風景の写真をご覧いただいてお分かりのとおり、陶磁器、染織品、絵画など実に幅広いジャンルの作品をご寄贈いただきました。このブログでは本展出品作の中からオススメの作品をいくつかご紹介します。

【上】岡本秋暉(1807-1862)筆《四季花鳥画帖》(小西健太郎氏寄贈)

四季折々の花鳥を12図貼り込んだ画帖です。特筆すべきはその大きさで、縦横8㎝に満たない小さな画面に色鮮やかな花鳥の姿が細やかに描かれています。

同《四季花鳥画帖》のうちカワセミ図

水面に視線を落とすカワセミなどは、その愛らしさに思わず目を奪われてしまいます。

バリ島《人物幾何学文様経緯絣経糸緯糸紋織(グリンシン)》(一杉秀樹氏寄贈)

 一万数千の島々からなるインドネシアでは、島ごとに特徴ある染織品を生み出してきました。中でも異彩を放つのが、バリ島で作られたグリンシンと呼ばれる絣です。暗褐色を用いて四つの角を持つ星をあしらった神秘的なデザインが特徴で、よく見ると影絵人形のようなモチーフがいくつも配されているのも分かります。

バンチェン《黒陶刻線文広口壺》(尾﨑直人氏寄贈)

 黒色を呈し、表面にうねるような波状の文様が陰刻線で彫り出された土器です。これはタイのバンチェン遺蹟から出土したバンチェン土器の特徴です。力強い文様や、シャープで堂々とした姿が見どころです。

仙厓義梵(1750-1837)筆《金龍寺宛書簡》(加野象次郎氏寄贈)

 仙厓義梵は江戸時代に活躍した禅僧で、日本最初の禅宗寺院である博多・聖福寺の住職を務めたことでも有名です。親しみやすい書画を通して禅の教えを分かりやすく伝えたことから「博多の仙厓さん」と呼ばれて人びとに慕われました。本作は、仙厓が金龍寺の和尚へ宛てた書簡で、「菊の花が見事に咲いたのでぜひ見に来てほしい」という内容です。仙厓の飾らない人柄を伝える微笑ましい作品です。
 以上、本展出品作品をいくつかピックアップしてご紹介いたしました。本展覧会を通して、作品だけでなく、作品を蒐集されたご所蔵者の方々の思いや人柄にも思いを馳せていただけると幸いです。最後になりましたが、貴重な蒐集品をご寄贈くださった方々に心より感謝申し上げます。

(学芸員 古美術担当 宮田太樹)

 

 

 

館長ブログ

鏡に映ったわたし

ADAPTATION – KYNE展に、たくさんの方にご来場いただいています。本当にありがとうございます。美術館のロビーに行きかう人びとのファッションも、ストリート系の方が多くて楽しいです。男性のお客様が多いと感じてもいて、それも嬉しいことです(いつもは圧倒的に女性が多いので)。

毎日のように展覧会の会場の内外をうろうろしていますが、ある日女性のお客様が、「…どこをどう見たらいいのかしら。なにか(手がかりが)あるといいのに」と、そばにいた男性に話すともなく話しておられました。

いわゆる展覧会をよく見ている方ほど、そんな風にとまどうのかもしれない、と思いました。確かに絵柄はマンガっぽいし、そもそもこれはいわゆるイラストというもの?絵画?現代アート?よくわからなくて、ちょっと二の足を踏んだりするかもしれません。

そう、実は、KYNEさんの作品は「かくかくしかじか」と定義するのが難しいのです。それは、いろいろな分野にまたがっていて、1か所に収まりきれないからです。でも、KYNEさんが描いているのがなにか、ということは言えます。「女性」です。
若くてきれいな女の子の絵ばかりだもんねー。そう、それは間違っていない。絵柄が単純すぎて偉大な芸術って感じがしない。そう、それもその通り。

でも、かつて一度でも、笑いたくないし、言葉にしたくないし、声を掛けないでほしいし、そばにこないでほしい、と思ったことがある人には、ぜひ、その時の「鏡に映ったわたし」を見に来てほしいと思います。

筆者自身、目の前の絵とは似てもにつかないけど、そんな気持ちにあふれていた時の自分を鏡でみるようだと思います。特にZONE1の作品群でそう感じます。KYNEさん自身は、一作一作に特別な物語を与えてはいないといわれていますが、そこに自分の物語を読むことを否定されてはいません。もしかしたら、その余地のために物語を与えていないのかもしれません(これは個人的な感想です)。

KYNEさんのドローイング(ZONE3)を見ると、鉛筆で描かれたデッサンはふんわりやさしいのですが、最終的な線を決めてペン入れした後は、強い表情へとスイッチが入る感じがします。特に、首から上だけのアイコン化されている女性像は、笑顔でしっかり他に対して武装しているように感じます。そのアイコンを「FRAGILE(こわれやすい、傷つきやすい)」という輸送用のステッカー風に仕立てた作品があります(ZONE2)。つい、深読みしたくなります。

一方で、最新作の女性たちは、もう少しのびのびした(ゆるい?)感じも加わっています。人生怒ってばかりはいられないし、リラックスできる時間もある。つまり、ひとつのイメージにしばられなくていい、変化していい、矛盾していい、というようにも見えます(これも個人的な感想です)。

KYNEさんは、そういう気持ちわかっているよ、というメッセージを発しているのでは、決してありません。そんなに単純に人の内面なんかわからない。だから、だれかの人生のストーリーを表現=消費するようなこともしない。だから、誰とわからない人の表面のみを描く。しかし、その背後がからっぽなのか否かの答えは、むしろ見る人の方に委ねられているのではないかと思うのです。

ぜひ、出会いに来ていただければと思います。

(館長 岩永悦子)

 

 

 

 

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