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資料から読み取れる手の痕跡—ソシエテ・イルフ展

1月5日に、近現代美術室Bで企画展「ソシエテ・イルフは前進する 福岡の前衛写真と絵画」がスタートしました。ソシエテ・イルフは、1930年代半ばに福岡で結成され、シュルレアリスムや抽象芸術を吸収し、写真、絵画、工芸デザインと、それぞれのジャンルで創作をしていた前衛美術グループです。

今回の展示は、1987年以来2度目の回顧展です。34年ぶりの展示の準備は、1987年の展覧会で紹介していたメンバーの作品や資料が見つかるか、若干の不安を抱えていました。所蔵者の代替わりによって資料が散逸することは珍しくないからです。しかしながら、イルフメンバーのご遺族や作品を所蔵する美術館はもちろんのこと、多くの研究者の方々にご協力いただき、当初の予想を超えて多くの資料を展示することができました。一部散逸はあったものの、《イルフ逃亡》をはじめとするメンバーの作品のほか、新出資料として作家の旧蔵アルバムや蔵書、イルフの会友として親交を持っていた渡辺與三(清次郎)の作品を展示しています。

「ソシエテ・イルフは前進する」という熱い宣言文から窺われる通り、戦争の真っただなかで活動を続けた彼らの志は高く、短い活動期間の中に様々なドラマがあります。すでにイルフを知っている方もそうでない方も、今回の展示資料からドラマを読み取っていただけると思います。今回のブログでは、そんな展示のみどころの一部をお伝えします。

展示室前半の様子

本展は、大きく分けて前半・後半の二つのセクションに分かれています。前半には、グループとしての活動や時代背景を示す資料のほか、写真を撮影していたメンバーが個人的に所有していたアルバム、雑誌などを大きなテーブル型のケースと壁面を用いて展示しています。
前半で紹介している資料の特徴は、彼らの手の痕跡が追体験できることです。

吉崎一人が旧蔵していた1938年版の『日本写真年鑑』(朝日新聞社)はその一つです。『日本写真年鑑』とは朝日新聞が主催する月例写真懸賞の入賞作品をまとめたもので、その年に発表された写真の集大成です。ここには吉崎の《カーヴ》が掲載されていますが、吉崎は、作品が掲載されたページに赤ペンで線を引いているのです。熱心に作品懸賞に応募していた彼の充実した心持が想像されます。

久野久や吉崎一人(註1)、高橋渡によるアルバムにもご注目ください。久野と吉崎のアルバムは、まるで画集のように紙焼き写真を貼り付け、その横に端正な文字でタイトルを記入しています。その文字は写真によって文字の調子が異なり、作品のテーマに合わせてレタリングを考案していたと思われます。高橋のアルバムは、コンタクトプリント(註2)を整理したものです。海辺で撮られた写真が多く、砂浜でマネキンや貝殻などを配置した正方形の画面が並びます(インスタグラムのトップ画面を連想する方もいるかもしれません)。プリントの一枚一枚は遊び心に満ちており、眺めていると、高橋が熱意をもって撮影に臨んでいたことが感じられます。

こうしたアルバムは彼らの創作の過程の記録であるだけでなく、モチーフや撮影手法に対する関心のありようを雄弁に語ります。彼らの作品にはシュルレアリスムを取り入れた「前衛写真」や、被写体から特定の意味づけを取り払って純粋な造型に着目した「新即物主義」の要素を見ることができます。
長崎に続き幕末期に写真をいち早く取り入れた都市である福岡では、1930年の時点ですでに17ものアマチュア写真団体がありました(註3)。既にグループに所属しているものもいましたが、新たに「イルフ」というグループを結成した背景には、前衛芸術への関心や好奇心、撮影という行為そのものへの愛着といった共通点があったことでしょう。
彼らはやがて産業奨励館やブラジレイロなどをたまり場にし、連れ立って写真撮影に出かけ、定例会を開いて互いに作品を批評しあうようになります。彼らの活動拠点を地図で確認すると、西中洲を挟んだ両岸の地域というごく限られた場所であったことがわかります。地図とケース内の資料を照らし合わせると、手の痕跡とともに、モダン都市を軽やかに歩く7人の足取りも感じられます。
資料を紐解くごとに、「幻の前衛美術集団」だったイルフが徐々に実態を持った人間たちとして感じられてきます。このことは、今回展覧会のための資料調査を通して得られた大きな収穫でした。
今回の展覧会を記念し、図録を発行しています。オンラインショップでも販売しておりますので、今は直接会場に行けない…という皆様も、ぜひ34年ぶりの回顧展をお楽しみください。

(イルフの作品を展示している展示の後半については、またいずれお伝えします。)

(学芸員 近現代美術担当 忠あゆみ )

註1 スライドでのみ紹介
註2 フィルムを印画紙に直接プリントし、どんな写真が撮れているかなどをチェックするもの
註3 『写真界重要記録』朝日新聞社、1930-1931年

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