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福岡市美術館ブログ

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教育普及

日々の小確幸―水辺の景色

 新しい年を迎えたのはつい先日、と思っていたのですが、うかうかしている間に2月ももう明日で最終日となり焦っています。というのも、春の気配を感じ始めるこの時期は、年度内のことをまとめつつ、来年度への準備のタイミング。学芸課の職員はそれぞれいま担当している目の前のことをしながら、頭の中ではなんとなくまだ形になりかけの近い未来、4月以降の計画を練っている状態です。教育普及係の自分自身も、係内で行ったことを整理したり、新しい仕事の準備をしたりで心落ち着かない日を過ごしています。
 
 と、少しブログ更新の間が開いてしまった言い訳のように書き始めてしまいました。こういう時は少し深呼吸をして気持ちを切り替える意味で、日々のささやかな、小さな楽しみをご紹介してみようかと思います。

 今回書いてみようと思ったのは、毎朝通勤の時に通る舞鶴公園脇の水辺のことです。美術館への通勤は地下鉄やバスを利用する人、自転車や徒歩で来る人など職員によって経路もそれぞれですが、私はバスを利用しています。福岡市美術館近くのバス停がいくつかあるなか、朝降りる「福岡城・NHK放送センター入口」は、バス停から美術館前の信号に向かうまでの道路が、ちょうど舞鶴公園の水辺に面していて、通るときには何とはなしに景色をちらりと眺めるのが日課となっています。 
 道が混んでバスが遅れた時などは、とてもそんな余裕はなくダッシュして職場に向かうのですが、歩きながら眺める水辺の景色はほんのわずかな時間でも、最近は鴨が多いな、今日は白鷺が来ているな、カラスが水浴びしている!など毎日入れ替わる鳥たちの様子が面白く、何かしらが気になります。また見られたのは昨年末の2日間だけでしたが、稀有な出会いで、道路からとても近い木の枝にカワセミがとまっていたこともありました。(スマートフォンカメラの限界であまり綺麗に撮れていませんが、目測3mほど。これほど近い距離でカワセミをみたのは初めてでした。)

そして今回、ブログにバス停前の水辺のことを書こうと思って改めて調べてみると、福岡初心者の自分が池だと思っていたこの場所が、赤坂門からぐるりと福岡城を囲む水堀の一部で、「六号堀」というきちんとした名称もあることを知りました。また、緑のシーズンには菖蒲や睡蓮が目立だっていたのが、秋から冬にかけての最近は枯草が存在感を増してきており、季節ごとに植物によっても景色が大きく変わりますが、水際にしげる叢は「ツクシオオガヤツリ」という国内ではとても珍しい品種の多年草だそう。明治期に福岡城で発見、採取されたものが新種として認定されたもので、福岡以外ではあまり見ることができず、県の天然記念物として指定されている希少な植物とのことです。

 このテキストを書くために見過ごしていたことを確認すると面白いことが現れてきて、いやあ、何気なく通り過ぎている景色も注目してみると新しい発見があるなと、ひとり悦に入ることとなりました。村上春樹さんが以前に著書『村上朝日堂』で、「小さいけれども、確かな幸せ」を“小確幸”と名付けて楽しいエッセイを書かれていたのを思い出しますが、仕事前に水辺の傍らを通るこうしたわずかな時間が意外と心和む間となっており、私にとっての小確幸のひとつかもしれません。

写真の左手前に写っているのが「ツクシオオガヤツリ」。名称のツクシは=筑紫だそうです。

水位が下がって真ん中あたりに小さな島が出来ている期間などは、亀が集まって甲羅干しをしていたりします。

 ちなみに、前段で白鷺もいると書きましたが、調べると白鷺(シラサギ)は白い鷺の総称であって、「白鷺」と呼ばれる特定の品種の鷺はいないのだそうです(!)。いつも見かける白い鷺にも大きいのと小さいのがいて、それぞれ少し様子が違うなということは薄々気づいていたのですが、白鷺にはダイサギ、チュウサギ、コサギ(他にも細かな分類が色々あるらしい)といて、くちばしや目や足色で区別されるそう。…では、先週2月18日で展示替えをしてしまいましたが、古美術企画展示室に陳列していた狩野常信 《松小禽・柳白鷺図屏風》の左隻に描かれていたあの白鷺は???

 見ているようで、見ていない、「見る」と何かしら発見がある、は日常のなかでも作品鑑賞でも言えることですね。次にあの屏風が展示されたら今度はお堀にいる鷺と合わせて、作品の方もしっかり観察してみたいと思います。

(教育普及係長 髙田瑠美)

 

 

 

教育普及

キッズスペース 森のたねのお話

皆さんは小さいお子さんと一緒に美術館を訪れる機会はありますか?美術館には行きたいけど「こどもが泣き出したら?」とか「作品に触っておこられちゃうかも」とか、いろいろ心配になることもありますよね。そんな方達にも気軽に美術館を利用してもらいたい、お子さんと一緒にアートを楽しんでほしいという思いもあって当館では毎年「夏休みこども美術館」や「ファミリーDAY」、「ベビーカーツアー」といった子どもと一緒に参加できるプログラムを実施しています。でも今回はもっと日常的に子どもとアートを楽しめる場所「キッズスペース 森のたね」を紹介したいと思います。

キッズスペースがあるのは、2階ロビーの一角、ちょうどコレクション展示室を出てすぐの場所です。この空間は久留米市在住のアーティスト・オーギカナエさんに、小さいお子さんと一緒にアートに触れながらくつろげる場所として制作をお願いしました。まず目に飛び込んでくるのは向かって左側と正面の壁に描かれた森の景色。美術館に隣接する大濠公園の森とその向こうに広がる街や海が一面に描かれ、さまざまな色や形のクッションになったオブジェが飾られています。壁の前には美術に関連した子ども向けの絵本が並ぶ木製の本棚も。床は畳敷になっているので、靴をぬいで足をのばしてゆったり過ごすこともできますし、赤ちゃんが寝転んだり、はいはいしても大丈夫。横には授乳室も備えてあるので、安心してくつろいでもらえます。

畳敷きの床                       授乳室

 

ここの一番の推しはなんといっても壁のオブジェ。マグネットがついているので、壁からはずして遊ぶことができるんです。ひとつひとつ丁寧に手作りされたオブジェには森の風景を彩る花や葉っぱがあり、池には魚や蓮の葉も浮かんでいます。そして木や花に囲まれた森の中を意気揚々と歩いているのは美術館の所蔵品をモチーフにしたキャラクターのオブジェたち。「このウサギ、どこかで見たことある」「このかぼちゃはあの作品かな?」なんて思ったことがある方もいるのではないでしょうか?どのキャラクターがどの作品のモチーフなのか、当てっこするのもここで遊ぶ楽しみのひとつです。展示されている作品のキャラクターを見つけて「この作品を見にいってみようか」なんてお子さんと一緒にオリジナルの作品を探しに行ってみるのもいいかもしれません。

愛らしいキャラクターたち

ところで皆さんはお気づきですか?壁のオブジェたちが時々入れ替わっていることを。実は3ヶ月に1回、季節ごとに壁の景色が変わるようになっているんです。キッズスペースの向かいには大濠公園を望む大きな窓があって、外の景色とつながるこの空間でも四季を感じられるようにとオーギさんが考えてくれました。春には桜のはなびらが舞い、夏には打ち上がる花火にアイスやスイカ、秋には紅葉が見れますし、冬にはクリスマスとお正月にあわせて葉っぱも金と銀に変わります。そんな変化も楽しみつつ、子どもたちにはお気に入りのオブジェをかかえて森の景色の中をお散歩させたり、キャラクターたちのお話を作ったりしてオブジェたちと仲良く遊んでくれるといいなと思います。

今は冬の景色。3月になると春の景色に変わります

これは余談ですが、オブジェたちにはオーギさんが考えてくれた名前もついているんです。例えばジョアン・ミロの作品に描かれているモチーフのクッションには「ホシクン」や「オシャレサン」、アニッシュ・カプーアの作品には「カプくん」などなど。直接オブジェたちに名前が書いてあるわけではありませんが、そんなところにもオーギさんのオブジェたちへの愛が伝わってきます。

ホシクン           オシャレサン      カプくん

このキッズスペースにつけられた「森のたね」という名前には、「小さな子どもたちが心に持つ美術のたねを育む場所にしたい!」というオーギさんと美術館の願いが込められています。この場所がちょうど展示室の入り口へ向かう通路と展示室の出口の間にあるのも、子どもたちと美術をつなぐ架け橋のようだなと感じさせられます。ここからいつか展示室へいく子も展示室でいろんな作品に出会った子もこの場所でオーギさんのアートに触れながら、心のなかにある美術のたねをたくさん育ててくれるのではないでしょうか。

(教育普及専門員 中原千代子)

 

 

 

 

 

 

コレクション展 近現代美術

オチ・オサム展、開幕!

  近現代美術室A・Bで「オチ・オサム展」が開催しました。(~3月24日)
 オチ・オサム(1936-2015)は、前衛美術グループ「九州派」の創立時からのメンバーであり、日用品を用いたオブジェから緻密な絵画まで、晩年まで幅広い作品を手掛けた美術家です。
 福岡市美術館では、「九州派」の一メンバーとして、度々オチさんの活動を紹介し(「九州派―反芸術プロジェクト」1988年、「九州派展」2015年など)、近年の作品も折に触れて紹介しています。全国4館を巡回した当館のコレクション紹介展「モダン・アート再訪」(2018年)では、《球の遊泳Ⅱ》が展示され、多くの方に知られるきっかけとなりました。
 しかしながら、回顧展という形で画業を見渡す展覧会は今回が初めてです。今回の「オチ・オサム展」では、作家の全体像を紹介するべく、初期から最晩年まで、180点超の作品と資料を展示しています。貴重な初期絵画作品や、九州派時代の代表作であるオブジェ《出口ナシ》をご覧いただくとともに、ライフワークであった球体を描いた絵画群(球体シリーズ)、晩年の作品も紹介します。1970年以降、油彩画に本格的に取り組みはじめ、色とりどりの球体を描くようになるまでのオチの画風の変遷は、今回初めて明らかになるものです。

展覧会入り口

 思えば、作家のご家族に、展覧会開催のご挨拶をしたのは、2年前の1月のことです。生前のオチさんにお会いすることができなかった私は、当初、球体シリーズの緻密な画面から、クールで理知的な人物像を想像していました。しかし、月1回のペースでお宅にお邪魔し、間近で作家を見つめていたご家族の話を伺ったり、アトリエに保管されている作品、アルバムや新聞記事のスクラップなどの資料を見せていただくと、その印象は徐々に変化していきました。オチさんは、何気ないものに美しさを見出す感性を持ち、それを形にする行動力を携えた人物でした。本展第3章には、1966年代の渡米後の作品を展示していますが、球体シリーズというライフワークを見出してから作家が残した作品は圧倒されるほどのヴォリュームで、描くことに突き動かされていたことが感じられます。今回展示できた作品・資料はごく一部ですが、オチさんの創作意欲がきっと感じられるのではないかと思います。

第3章の入口

第3章の一部

 オチさんは、「九州派」の仲間であった菊畑茂久馬さんや桜井孝身さんのように、自らの作品や活動を言語化するタイプではありませんでしたが、新聞や雑誌での取材の際には、魅力的な言葉を残しています。今回の展示にぴったりなのが下記の言葉です。

 「大きなものにも魂は一つ、小さなものにも魂は一つ。小さなものの魂を描きたい。
死ねばしゃべれん。きちんと仕事ばして絵でしゃべり尽くしたい」
「人・仕事 自主企画で美術展/文化をつくる母体めざす」

([誌名不明]1976年より)

 展覧会の前に、オチさんが何を考えていたのか、作品についてどう思っていたのか、私も直接にインタビューしてみたかった…。しかし、この言葉を自分なりに解釈すると、色とりどりの球体を描くこと、あるいは多様な作品を作り続けることは、オチさんにとって、自分の「魂」を肯定する作業であったのかな、と思っています。
 ご来場のみなさまも、展示室で、ぜひ作品を通したオチさんとの「おしゃべり」をしてみてはいかがでしょうか。

※オチ・オサム展の開幕と同時に、下記の2会場でもオチ・オサム展が開催されています。この機会に、市内でオチ展巡りをしてみてはいかがでしょうか。

・「オチ・オサム展 言葉の前にⅡ」 
会期:1月24日(水)-2月25日(日)
13:00-19:00(月曜-水曜休)
会場:EUREKA エウレカ(福岡市中央区大手門2-9-30-201)
https://eurekafukuoka.com/2058/

・「オチ・オサム展」 
会期:1月24日(水)-2月13日(火) 
岩田屋の営業時間に準じる
会場:Gallery CONTAINER ギャラリー・コンテナ
(福岡市中央区天神2丁目5番35号 岩田屋本店 本館2階)
 https://www.iwataya-mitsukoshi.mistore.jp/iwataya/shops/art/artgallary/shopnews_list/shopnews028.html

詳しくは各会場のホームページをご覧ください。

 

(近現代美術係 忠あゆみ)

 

 

 

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