開館時間9:30~17:30(入館は17:00まで)

メニューを閉じる
ホーム > ブログ
福岡市美術館ブログ

新着投稿

カテゴリー:その他

その他

私と英語と犀の角

 こんにちは、4月1日から国際渉外担当員として福岡市美術館に仲間入りしました、太田早耶と申します。文書の日英翻訳や、海外との通訳を担当しています。ブログそろそろどう?という視線から逃げられなくなったところへ、自己紹介でいいよ!という気軽な言葉に背中を押され、このたび筆を執ることになった次第です。
 さて、翻訳・通訳を担当しているものの、私は英語が専門というわけではありません。大学では近現代の西洋芸術、大学院では文化財関係について学びました。どこで英語を学んだのか。一言では答えにくいのですが、私の英語習得に多大なる影響を及ぼしたのは何かと聞かれれば、万感の思いを込めてインドと答えざるを得ません。インドでは英語が準公用語として憲法で定められていて、とくにインド南部では、インド全体の公用語であるヒンディー語より、英語の方が通じる場面も多いです。私は、南インドはカルナタカ州の州都ベンガルール(旧称バンガロール)で2年間、外交関係の事務所に勤務していました。

緑豊かなベンガルールは、庭園都市とも呼ばれています。

 仕事では、日本人とインド人の間で諸々の調整を行う業務が多く、知る人ぞ知るインド英語の世界が私を待ち受けておりました。イントネーションは聞き慣れないし、やたら早口だし、独特の表現もあるし。ほほう、これが噂の。こいつはハードモードだぜ。インド出身のお釈迦様がおっしゃるように、犀の角のようにただ独り歩みたくとも、あらゆるものが圧倒的存在感をもって立ちはだかるこの国では、やっぱり種々の苦難に躓いて七転八倒するしかないのでした。しかし人間とは慣れる生き物で、毎日の停電や、穴だらけの道路を闊歩する牛、大音量でクラクションを鳴らす車とバイクとオートリクシャ、そして常に漂うスパイスの香りと同じく、インド英語も最終的には日常と化します。そんなこんなで、英語のみならず心身ともに日本人とインド人の間で(そしてそこに不可避的に起こる摩擦の中で)揉まれた私は、時間や交通ルールへの意識が若干緩くなった一方、強い胃と太めの神経を手に入れたのでした。あと、手でカレーを食べるスキルも習得しました。インド人の同僚のお墨付きです。

たまに牛もいます。これはおそらくゴミを漁っているところです。

夜の長距離バス乗り場。運転手さんの腕の見せ所ですね。

 福岡もどうやら、近年カレー激戦区と化しているようで、我ながら良い時期に福岡入りしたものです。旅行で少し立ち寄ったことがあるだけの福岡では、未だいろんなものが目新しく、これからここで生活し、働いていくのが楽しみです。どうぞよろしくお願いいたします。

(国際渉外担当員 太田早耶)

その他

収蔵庫で松茸探し

それは収蔵庫内で作品整理の作業をしていた時のことでした。とある区画を通り過ぎた際、何ともかぐわしい匂いを感じたのです、匂いは松茸そのもの。「誰でしょう、こんなところに松茸を落としたのは…。」と収蔵庫で一人作業をしていた私はそうつぶやきながら、そこそこ本気で香りの出所を探し始めました。しかしいくら探せども松茸は見つかりません。昨今の状況でマスク着用がほぼ義務化されていますが、不織布マスクを通しても分かる程、と言えばなかなか強い香りだったことがご理解いただけるかと思います。これは必ず出所を探さなくてはいけない、とエリアの端から端まで気持ち足早に香りを辿ったところ、行きついたのは油彩画を保管している棚の中でした。どうやら私は松茸ではなく、木材として松の匂いをかぎ取っていたようです。

私の頭の中には「そもそも松材を使う理由は何だったのか?」という職務としての考えと「松茸菌が付いてる?栽培可能?」というどうでも良い雑念で頭の中がいっぱいになりました。何とも言えない時間がしばらく流れ、ようやく私は半ば強引に妄想を振り払い、作品整理の作業を終え収蔵庫を後にしたのです。

さて、松材が使われた(かもしれない)理由とは何だったのでしょうか?

通常、油彩画に木材が使われる場合は「額縁」かキャンバスを張り込む「木枠」になります。木枠は主に杉材(たまに桐材も)が使われ、逆に松材は松脂が出やすいので、ほとんど使われることがありません。額縁は様々な種類の木材が使われるそうなので松の可能性も無きにしも非ず。そして、その該当の棚は戦前戦後の作品が置かれており、言い換えれば物資不足の時期に描かれたものでもありました。杉材が入手しにくい状況(時代)であった可能性、作家自身が自身で木枠を制作した可能性等。きっかけは松茸でしたが、普段来館者の方に見られることのない作品の裏側に目を向けることが出来たのは良かったと思います。

ちなみにこれだけ松茸松茸と連呼していたにも関わらず、私が本物の松茸の香りを嗅いだことは片手で数えられる程度。数で言えば圧倒的にインスタントのお吸い物(松茸味)の方が多いのですが…、○谷園は侮れません。

(学芸員 保存管理担当 渡抜由季)

その他

風が舞った一年

みなさん、今年はどんな年でしたか?
私にとって今年は、公私に渡って風にまつわるアートプログラムに大きく関わった、そう、「風の年」でした。

今年7月1日にお披露目となった、インカ・ショニバレCBEによる≪ウインド・スカルプチャー(SG)II≫。まさに“風の”彫刻です。この作品の設置に私は深く関わっていました。設営作業から遡ること約2年前、海外の関係者とのメールのやりとりにはじまり、ロンドンにおける制作の進捗状況チェックのため、複数回に渡るオンラインミーティングでの通訳、輸送方法のスケジュール確認、そして安全にこの「ウインド・スカルプチャー 風の彫刻」が据え付けられるまでが、大きな一区切りでした。英語を介して、アーティスト側と美術館側のスタッフ相互の真剣なやりとりを通訳したり、自分なりの疑問点を見つけてそれをアーティスト側に投げては確認したりしていく、その過程に携わることこそが私の業務の醍醐味なのです。

作品設置当日の現場では、タブレットを手に持ち、安全に確実に設置を遂行できるようにロンドンのショニバレ・スタジオのスタッフとオンラインで動画を(右往左往して)中継していました。私は大工の血を受け継いでおり、いろんなアートの現場において、作品(群)が出来上がってくる瞬間や、作品(群)が素敵に設置されていく場面に携わることを無上の喜びとしています。そういった私の精神構造上、今にもインパクト・ドライバーを手に取り、職人さん達に交じって設置作業に参加したい衝動にかられましたが、かろうじて抑えました。

英語通訳者としてどうしても設置当日まで気になっていたのが、設営マニュアルに書いてあった「stabilizer(スタビライザー。安定装置、揺れ止め、などの意味)」の役割です。メールのやりとりの中で何度かショニバレ・スタジオの担当者に尋ねて、回答を得てはいたものの、なんだかまだ要領を得ない。「スタビライザーって、どのタイミングで、どうやって使うんやろか?」。私は英語通訳翻訳の係ですので、福岡市美術館の職員にも英語版マニュアルに書いてあることを正確に伝える義務がある。答えは設営時の職人さんたちがその場の作業で教えてくれました。その様子は、当館の二階に常設展示しているモニターにて、記録映像の中でご覧いただけます。全編約2分45秒のうち、約2分のところでしっかりと「スタビライザー」が登場して活躍しています。

(力学やモーメントに詳しい方には見つけやすいのではないかと想像しています。)
それにしても、この≪ウインド・スカルプチャー(SG)II≫、踊っているように見えませんか?

背骨の立ち具合、曲がり具合(英語でもこの作品の支柱を「spine〈スパイン、背骨の意味〉」と呼んでいました)、左右の布の拡がりが左右の手の軽やかな舞い、いまでも回りそうな造形の妙。そう、この彫刻がしなやかに踊っているイメージが文字通り、私に「纏わりつく」のです。

設置に関する事前の、机上の確認作業において、どこを正面としてそれをどの方角に向けるか検討した段階がありました。その際、約10枚の、一定の角度ずつ変えたシミュレーション画像を何度も繰り返し、順送りで私が見たせいもあるかもしれません、その時から、≪ウインド・スカルプチャー(SG)II≫は私の中で踊り始めたようです。

その他には、壱岐島、それと海の中道海浜公園で、それらの場所で風を感じ、そして新しい風を置いてきました(つもりです)。自分自身で風を見つけ、新しい風を作り、それを感じていただく。これからもみなさんとともに、こちらでもそちらでも気持ち良い風を感じられますように。

少し早いですが、どうぞ良いお年をお迎えください。

徳永昭夫(国際渉外担当員)

新着投稿

カテゴリー

アーカイブ

SNS