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福岡市美術館ブログ

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美術品と箱の話②

前回ご紹介した美術品と箱の話①で、輸送時に梱包する箱についてお話をしました。箱で輸送時に気を付けるべきことは主に移動時の温湿度変動と振動がメインとなります。そのため、輸送用の箱は移動に特化した作りとなっています。

では収蔵時に使用する箱はどうでしょうか?

収蔵庫で保管する際は移動というよりも、適切な保存環境で安全に設置されていることが重要となります。

美術作品が損傷しないように気をつける、ということはなんとなく分かっていただけるかと思うのですが、なぜそもそも美術作品は損傷するのでしょうか?

実は美術作品は下記の環境要因によって損傷が起こると言われています。

①温湿度

②光

③空気

④生物

⑤振動

⑥火災・地震

⑦盗難・人的被害

(参照:京都造形芸術大学(編)『文化財のための保存科学入門』2002)

最近は水害も多いので⑥に水害も加えた方が良いかな?と思います…が、それはともかく箱に話を戻しましょう。

輸送用に使われている段ボールは一般的に再生紙を使っておりpH値は酸性となります。そのため、そのまま輸送用の箱で保管すると内部に酸性ガスが充満し、美術作品にも悪影響を与えてしまいます。先ほど紹介した③空気というのがこれに該当するわけですね。

そこで開発されたのが下記の箱です。

これは中性紙保存箱と呼ばれる中性紙を用いて作製された保存専用の箱になります。つまり、この中に保管された美術作品は正常な空気環境下に置かれることになります。もう一つ重要なのは中に何が入っているかラベルや資料情報が書かれた紙も一緒に同梱して整理することです、これが紛失予防にもつながります。

この中性紙保存箱は上の図のように組み立てるだけの簡単なタイプもありますが、そのサイズに入らない美術作品も福岡市美術館は多く所蔵しています。そのため、サイズが無い場合はせっせと気合(!)で作る、という選択をします。適度な強度があるため、一般的な段ボールと同様に工作が可能なんですね。

最近作った箱がこちらです。

これは額装されていないむき出しのキャンバスを保管するために考えた方法です。キャンバスを裏面で固定しているもので、輸送箱にも同様の形状がありトランジットフレームとかトラベルフレームと呼ばれています。この形状をそのままに素材を変えて応用したものがこちらです。裏面の金具が出てるところはちょっとだけ穴を空けて壁や柱に固定できるようにしました。これで安全に棚の中にも入れられますし、移動時に壁や柱にちょっとだけ仮置きする際にも固定が可能となります。

手作り感が溢れる感じはご愛敬、このように地道に手間暇かけるとその分結果が返ってくるなぁ、と実感する時があります。

所蔵品は今もしっかりと収蔵庫に保管されており、皆さんに展示でお披露目される日を待ち続けています。

(学芸員 作品保存修復担当 渡抜由季)

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田部光子展のポスター

年明けから始まる企画展「田部光子展」のポスターとチラシが出来ました!さっそく館内で掲示、配布しています。

田部光子展のポスター。デザインは尾中俊介(Calamari Inc.)さんです。

田部光子さんは1950年代より活動をスタートし、福岡を拠点に現在までずっと美術のフィールドを走り続けてきた美術家です。 田部光子さんの名前は、1957年に結成された福岡の前衛美術グループ「九州派」の主要メンバーとして、あるいは「真の女性の解放は、妊娠から解放されなければあり得ない」と考え制作した《人工胎盤》の作者として現在ではよく知られています。1961年という、フェミニズムやジェンダーという言葉が生まれる前に、欧米でフェミニズム・アートの先駆とされるジュディ・シカゴの作品《ディナー・パーティー》の10年以上前に、妊娠を巡る苦痛や困難という実体験をもとに、社会における女性の解放を題材に作品化した田部さんの先駆性に注目が集まっています。

 

九州派時代と1990年代以降の作品については、作家自身の手で編集された作品集『Recent Works』『Recent Works2』でも紹介されています。けれどそこには触れられたことのない空白期間が存在します。本人も進んで語ることのなかった1970~80年代、田部さんは何をしていたのでしょうか。決して活動してなかったわけではなく、主婦の仕事と両立させながら旺盛に作品を発表し、さまざまなコトを起こしていました。その後、この時期の作品についてなぜ語らなくなるのか、そこには様々な理由があったでしょう。

 

田部光子展を開きたいと田部さんに伝えた時、懸念していたのは空白期間の活動を調べていいのだろうか、紹介してもいいのだろうかということでした。けれど田部さんは、私に「任せた、好きにやっていいよ」と言ってくれました。その言葉に背中を押されるように、アトリエの奥に眠っていた資料と作品に向き合い、当時を知る方々にも話を伺いながら、展覧会の準備を進めています。空白期間の作品もすべてではないですが現存していました。調査を進めてきた今、これらも田部光子の美術家としての活動を語るのに不可欠なものだと確信しています。

 

ポスターのメインイメージに使用したのは、「九州派」が実質的にその活動を終えていた1969 年 2 月 25 日、「第3回九州・現代美術の動向展」の初日に出品作家の大半が参加したパレードで撮られた写真です。皆と揃いの法被を着る田部さんは、子どもサイズのマネキンを背負い、こちらを向いて微笑んでいます。この時、田部さんは子育て真っ最中。美術展のパフォーマンスとでも呼べるパレードの中で、主婦の育児労働の大変さも同時に訴えたのです。ジェンダーの問題を、美術という想像/創造行為をとおして訴え、社会を変えていきたいという思いは、《人工胎盤》から変わっていないことがわかりますが、これ以降も、田部さんはこの思いを胸に、活動を広げてゆきます。(それは年明けに会場でご確認ください。)

 

田部光子という美術家の活動を一言で表すとしたら……? 本展覧会のサブタイトルは、田部さんが2000年頃から愛読した書物で出合い、座右の銘としてきた言葉を採用しました【註】。田部さんは著作の中で、「この言葉に励まされ、ずっと制作を続けてきた」と語っています。

わたしは展覧会を準備する中で、新たに知ることとなった田部さんの作品、行動力、発言に、たくさん励まされてきました。本展覧会で紹介する田部さんの作品と活動は、わたしだけでなく多くの人の「希望」になるだろうと期待しています。お楽しみに!

(学芸員 近現代美術担当 正路佐知子)

 

 

田部光子展「希望を捨てるわけにはいかない」

会期:2022年1月5日(水)~3月21日(月祝)

会場:福岡市美術館2階 近現代美術室A・B

https://www.fukuoka-art-museum.jp/exhibition/tabemitsuko/

 

【註】田部が「希望を捨てるわけにはいかない」という言葉に出合ったのは、小泉義之著『ドゥルーズの哲学—生命・自然・未来のために』(講談社現代新書、2000年、p.138)においてでした。哲学者ジル・ドゥルーズが『意味の論理学』で述べた内容の引用でもあります。なお、ジル・ドゥルーズ『意味の論理学(上)』(小泉義之訳、河出文庫、2007年、p.280)で当該箇所は「希望を放棄することはできない」と訳されています。

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美術品と箱のはなし①


突然ですが、この箱は一体何でしょうか?

中身は…?

じゃーん。

実はこれ、「トライウォール箱」と呼ばれる美術品輸送専用の箱なんです。(画像は絵画用)

今回は美術館の影の立役者の一つ、美術品の輸送箱についてご紹介いたします。

輸送箱はその名の通り輸送を目的に作られたものです。
例えば美術品を他の美術館に貸し出すとします。その際に作品を、人の手を介し、外に持ち出し、車に乗せて移動し、貸出先の施設で箱から取り出す、という一連の流れを往復分行います。この時、急激な温湿度変化や振動・衝撃といった様々なリスクが美術品に与えられます。
そこで複層構造(二枚重ねや三枚重ねがあります)の段ボールやウレタンフォームを加工し、その美術品のためだけの輸送箱をオーダーメイドすることで、外部からの影響を緩和させることが出来るのです。
そしてこのような輸送箱は、美術品の保存状態や技法・材料の特性の他に、移動距離や手段によって箱の形を段ボールやクレート(飛行機での移動に耐えられるくらい頑丈)へと変えていきます。

箱がクレートレベルにまでなると美術品の実寸より3倍近い大きさになることも…!
それでは、クレートを見てみましょう。

これがクレートと呼ばれる箱です。
必要に応じて撥水効果のある塗料を施すこともあります。
ちょっと話が逸れますが、聞いた話によると海外の美術館はそれぞれ独自性を持たせるべくオリジナルカラーの塗料を塗っているのだそう。

では、手前の木箱を開けてみましょう

中はこんな感じ。

飛行機の離着陸や高度での気圧変化に耐えられるよう、より分厚いクッション材が使われています。ものによっては箱の中の箱の中に箱、と三層構造になっていたりすることがあります。
そうすると、クレートが大きすぎて道中のエレベーターにそもそも載らないなんてこともたまにあります。展示室に美術品がたどり着かない、なんて大問題。そんな時はクレートから美術品をあらかじめ取り出して裸の状態で展示室へ運ぶという手段を選びます。ただし、むき出しということは外部の影響を直に受けることにもなるので、クレートに入っていた時以上に細心の注意が求められます。
輸送箱ひとつでこれだけの意味やドラマが詰め込まれているんですね。

普段皆さんが何気なく郵送している荷物も梱包に様々な工夫がされているはず。ぜひ一度、箱に思いを馳せてみてはいかがでしょうか?

他にも美術品の保存箱というものもありますが、これはまた次回にご紹介。
現在、バックヤードでひたすら保存箱を作り続けている渡抜がレポートしました。

(学芸員 作品保存修復担当 渡抜由季)

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