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福岡市美術館ブログ

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総館長ブログ

文化の日に、何を「はかる」?

どーも。総館長の中山です。お元気でしたか?

11月3日は文化の日ですね。1979年に当館が開館した記念日でもありますし、毎年コレクション展示が観覧無料になり、ファミリーDAYとしていろんなプログラムも開催しています。

ところで、文化の日は「国民の祝日に関する法律」によれば、「自由と平和を愛し、文化をすすめる」日だそうです。「文化をすすめる」日って、ちょっとすごいですね。簡単そうに書いてあるけど、そんなことできるのかなあ。

むかし学芸員になりたての頃、福岡市の職員研修で、ある講義の冒頭に「文化とは何ですか?」と講師から質問されたことがありました。情けないかぎりですが、わたしも含めた何人かが当てられ、誰もまともに答えられませんでした。質問されたのは文化学芸職や文化財職の人間だったので、職名に「文化」がついているのだから答えられるでしょ、という期待があったのでしょう。それとも、ちょっとした意地悪だったのでしょうか。まあ、ふつうは答えられないですよね。突然「文化とは何ですか?」なんて。答えられます?

講師は「文化とは、物差し、尺度である」と教えてくださいました。なるほど。尺度ですか。いまの日本ならメートル法、という意味では断じてないですね。さまざまな事象や対象に対して、ゆるぎない物差しではかり、評価したり批評したりする価値基準を尺度、イコール文化だとおっしゃったと記憶しています。「実体としてはもうそれほどの実力もないのに、いまだに世界の文化の中心はウチだ、みたいにえばっているところがあるのも、この物差しを捨てていないせいだ」みたいなお話もあったな。虚勢で胸を張っているのがどこの国の都かは忘れました。

40年たっても、わたしはいまだに「文化とは〇△□だ」、などと明確に答えられませんが、最近気になるのは、その尺度のほうなんです。若い学芸員がわたしとのある会話のなかで、ネットの書き込みなどは「白黒をつけたがりますよね。グレーがない」というようなことを言ってくれました。わたしもそうだなあと思うのです。白と黒しか目盛りが刻まれていない物差しではかるとそうなる。物事をなんでも二項対立的にとらえてしまいがちになる。ひょっとしたら、効率的で正確で、あいまいさがないデジタル的な考え方かもしれないなどと、デジタルを悪者にしたくなってしまいます。なんでもかんでもデジタル化の時代ですが、デジタルデータって、一瞬で消えてなくなる危険性もかかえているんです。

わたしは仕事に関しては速さや効率を重視してきましたし、むかしからコンピュータ大好き人間で、自宅の書斎は新旧のパソコンに占拠され、仕事場でも家でも、つまり人生の相当な割合をパソコンの画面を見てすごしてきました。20年前は一晩かかっていた処理が、わずか数秒で完了するさまを目の当たりにして、ひとりでニヤニヤするような人間です。ですから不可逆的に進行するだろうデジタルトランスフォーメーションに対しても文句を言うつもりはありません。運用を誤らなければメリットは大きいですから。

でも、デジタル化はすべての社会問題を解決するわけではないことくらいわかっています。数字で割り切れない、割り切ったら正体がわからなくなってしまうモノで現実の空間はあふれかえっています。物体や身体や、その他もろもろのモノ。万物。森羅万象。全部をデジタル表記にいつかできるかもしれませんが、まあ、現時点では誰もそんなことは考えていないでしょうし、すべての情報をデジタル化できたとしても正体不明のモノはあいかわらずそのまま実体として目の前に残っているわけですから。

あれ、でもよくよく考えてみたら、物差しはアナログな物体ですが、デジタル機器とも言えますね。いろいろはかれますし、読み取るのはいつも数字ですし。デジタル表記って、結局数字ですから。いや、どう見ても目盛りと目盛りのあいだなので、困ることもあるけど。

むかしから、わたしたちは物差しでいろんなものをはかってデジタル化してきたことになるのでしょうか。だったら、むかしもいまも、物差しの精度は大事かもしれません。白と黒のふたつの目盛りだけでは、はかれないものが多すぎる。がんばって、目盛りを増やしましょう。見たことのないものをミュージアムで見たら、ひょっとすると、目盛りがひとつ増えるかもしれない。ひょっとして、目盛りがひとつ増えると、文化もひとつ、すすむかもしれない、なんて。うーんちょっと、違いますかね。

(総館長 中山喜一朗)


<エジプトのネコの物差し>
随分前にお土産でもらって、ずっと愛用しています。大英博物館では物差しも売っているみたいです。さすがというか。でも、はかれるのはセンチとインチだけです。

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美術館のいろ、またまた増色(殖)。

どーも。総館長の中山です。

みなさんは地下鉄大濠公園駅、ご利用になられますか? 降りたことない? お花見のときだけ?

2年前の2019年3月21日の美術館リニューアルオープンから、「福岡市美術館口」という副駅名をつけていただきました。同時に、構内の太い円柱が、ダリやミロ、シャガール、草間彌生の作品写真でドーンと装飾され、駅が美術館色に染まりました。また一年後には、上り下り両方向のホームのベンチ4か所全部に、桜をテーマにした様々な美術館所蔵作品による壁面装飾も登場して、駅に着いたとたんに美術館の癒され空間が広がっています。桜といえば、駅のシンボルマークが桜ですし。もう開花宣言もあったし。季節ですね。

今回、さらにさらに美術館へと続く3番出口(とはいっても大濠公園を歩いて10分はかかりますけど)にも美術館の色が増えたんです。それがこちら↓↓

撮影:﨑田明香学芸員

撮影:﨑田明香学芸員

撮影:﨑田明香学芸員

階段の側面に広がっているのは黒田家に伝来した土佐光起の「磯千鳥図屏風」からアレンジしたデザイン。金箔が輝く感じもよく再現されています。群れ飛ぶチドリがかわいいです。全部同じ顔ですけど。見とれて足元がおろそかになりませんよう。

踊り場の壁面には郷土作家吉田博による版画シリーズ「桜八題」から選んだ3作品。そう、ここにも春が。桜が。屏風も版画も実物よりもかなり巨大化されていて、細部がよくわかります。大濠公園駅をご利用の際は、是非注目してみてください。

ところで、大濠公園駅の開業はわたしが美術館に奉職した1981年と同じ年。もう40年前です。お互い、ちょっとくたびれたかな。最近、「まあ、いいか」とエレベーターに乗りがちなんです。我ながら情けない。チドリに笑われますね。がんばって、階段を登ろうっと。

総館長 中山喜一朗

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お年賀

どーも。総館長の中山です。あけましておめでとうございます。と、ご挨拶するのも躊躇するほどコロナ禍がおさまりませんね。一都三県に8日から緊急事態宣言が発令され、福岡でも感染拡大が続いています。どうしましょう。

昨年12月に、柳川の立花家史料館の植野館長から「史料館、存亡の危機です」というお話を聞き、心底驚きました。入館者が激減しているミュージアムはたくさんあります。というか、当館も含めすべての美術館、博物館の入館者が大幅に減っています。特に旅行者や観光客などの団体入場が多い施設は大打撃です。また、立花家史料館を運営している立花財団は、公益財団法人ゆえに利益を蓄えておく内部留保ができず、このままでは「来年の春には財団の解散が余儀なくされ、資料も散逸ということになりかねない」と。そこで立花家史料館は、何とか今年の11月までは運営できるようにと600万円の目標額を設定したクラウドファンディングを始められました。私も微力ながら応援メッセージなどを書かせてもらいました。

うれしいことに、開始当日に寄付は目標額に達し、1月7日現在では1600万円を超える寄付が集まっています。戦国武将の人気ランキングで常に上位を占め、大河ドラマの主人公の資格十分な立花宗茂公も喜んでおられるでしょう。立花家の什宝と史料館の活動が、地域を超えていかに多くの人に愛されてきたかということの証明でもありました。

しかしです。当面の危機は脱したかもしれませんが、地域のかけがえのない文化財を守り公開していくミュージアムの財政基盤がこんなに脆弱なものでいいのかと考えさせられました。公益財団法人ゆえに内部留保ができないというのも、なんとなく引っかかります。存続できなければ、公益に資することもできないのですから。

アニメや漫画をはじめ、自由な表現活動があり、長い歴史と文化財があり、さまざまなミュージアムがあること、そういう文化の多様さ、豊かさに共感し、支えていくことは、いまの日本、これからの日本にとってとても大切なことなのだと感じました。

年の初めから堅苦しい話になりました。肩の力を抜いて、リラックスできますよう、私からかる―い年賀状をみなさんに送ります。やっぱり、あけましておめでとうございます。

総館長 中山喜一朗

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