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福岡市美術館ブログ

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総館長ブログ

鳥獣戯画と又兵衛歌仙絵 修理でわかったことわからなかったこと

どーも。中山です。

9月3日から開催する「国宝鳥獣戯画と愛らしき日本の美術」の
プレトークイベントで、「鳥獣戯画と日本美術の遊戯」という話を
先日させていただきました。
わたしの場合、時々あることなんですが、時間をオーバーして
しまって話せなかったことがいくつもあります。
今日はそのひとつをちょっとだけ。

近年、鳥獣戯画に関する研究が急速に進みました。というのも、
平成21年(2009)から4年をかけて解体修理が行なわれ、その過程で
これまで知られていなかった色んなことがわかったからです。
特にわたしが興味をもったのは、前半に人間、後半に擬人化された
動物が描かれている丙巻に関して、実は人間の前半と動物の
後半が、もともとは一枚の紙の裏表に描かれていたという事実。
わたし個人としては、みんなが思う「なんでこんな絵巻を描いた?」
という疑問に対するひとつの答えを導き出す重要な証拠だと思った
からでした。
また、わたしが想像していることが事実に近いなら、そのほかに
わかったことや以前から感じていたこともあわせて、そもそも甲巻や乙巻よりも時代が下ると考えられてきた丙巻の成立時期も考え直すべきものだと思ったからです。
ぼかさないで、はっきりわかりやすく書けって?
それはトークイベントでお話をした部分ですのでここでは割愛。
ということで丙巻は注目なんです。
展覧会ではみなさんが一番見たいと思われている甲巻は丁巻とともに
会期前半9月3日(土)~9月25日(日)、丙巻は乙巻とともに会期後半9月27日(火)~10月16日(日)に展示されますから是非とも二回、見に来てください。というのがひとつ。

このように、修理の際に作品を解体し、素材や技法について徹底的な
分析を行い、顕微鏡的な観察を重ねることによって、新知見がもたらされることはよくあります。作品を修復すると、必ずひとつやふたつはこれまで知られていなかったことがわかるのです。

かつて、そういう新知見を大いに期待して修復の成果を待った作品があります。今回のトークイベントで、近世の戯画の代表作のひとつとしてごく簡単にしか紹介できなかった当館所蔵の岩佐又兵衛筆「三十六歌仙絵」です。ながらく行方不明だった作品で、再発見後、当館が収集しました。

 この歌仙絵には大きな謎があります。若き又兵衛が描いた大傑作だと研究者が認める重要作品なんですが、和歌の部分が三十六人ともすべて画面から消し去られているのです。歌人の名前は消されていませんが、歌仙絵から和歌を消し去るなんてとんでもないことです。なぜ消した? 最初はきちんと和歌が書かれていたことは確実です。消し去った痕跡が画面に汚れとして残っているからです。わたしにはなぜ消されたのか答えはわかっています(わかっているつもりです)。でも証拠がありません。それで、この作品の修復結果をドキドキしながら待っていたのです。

「どこか一文字だけでもいいんですが、どういう文字かわかりました?」

「残念ながらひとつも読めませんでした」

そうなんです。ひと文字だけでも読めれば道は開けたはずなのに、と今でも残念です。どうしてかって? すみません、これは随分前に当館の「つきなみ講座」でとりあげた話題でした。ですので今回は、やっぱりぼかしたまま終わります。

(総館長 中山喜一朗)

 

 

鳥獣戯画甲巻(部分)

鳥獣戯画丙巻(部分)

岩佐又兵衛「三十六歌仙絵(柿本人磨)」

岩佐又兵衛「三十六歌仙絵(山辺赤人)」

 

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2千5百万人達成!

 2022年7月20日、福岡市美術館は1979年11月3日の開館から数えて2千5百万人の総観覧者数を達成しました。これを記念して、1階と2階のコレクション展示室と、特別展示室にご来館いただきました3組のお客様に記念品を贈呈しました。また、21日からの3日間、コレクション展示室の観覧者に当館オリジナル缶バッジ(個数限定)をプレゼントします。
 約2年半のリニューアル休館や、最近ではコロナ禍のための臨時休館も3度ありましたが、開館から43年で2500万人という数字は、地方の公立美術館として大いに胸を張れる数字です。誇れるのは展覧会をご覧いただいた人数だけではありません。約1万6千点を数える所蔵品の半数以上が寄贈によるものであることを思うと、いかに多くの市民に親しまれ愛されてきたか、歴史の重みがズシリと肩にのしかかるようです。
 日常生活のすぐ近くにありながら、普段では味わえない特別な体験や感動をお届けするために、さまざまな努力を積み重ねてきましたが、過去の実績に胡坐をかいている場合ではありません。さらに多くの皆さまに愛される美術館になれますよう、館員一同決意を新たにしています。  
 当館にとって記念すべき今年、70年ぶりに博物館法が改正されました。新しい博物館法は来年4月1日から施行されます。そこでは、これまでの社会教育施設としての基本的な役割にくわえ、観光拠点としての活動や文化資源の積極的な活用など、よりダイレクトな社会への貢献が求められています。
 特別で深い体験と、広範囲でインパクトのある集客事業をいかに両立させていくのか、いかに融合させていくのか、これまで以上に真剣に議論し、計画し、実行していかなければなりません。また同時に、福岡にこの美術館が、この作品があってよかったと感じていただくために、コレクションの一層の充実も図っていかなければいけません。
 美術館がさらに成長し進化していくためには、皆様からのご意見やご要望に真摯に向き合うことほど重要なことはないと感じています。
 当館のホームページを閲覧し、このブログを読んでいただいているあなたも、2千5百万人という観覧者数に入っていないかもしれませんが、もちろん美術館にとって大切なお客さまです。ぜひとも館の施設や活動について、ホームページについて、なんでもかまいません。遠慮なくご質問、ご意見をお寄せいただければ幸いです。

お問い合わせ | 福岡市美術館 (fukuoka-art-museum.jp)

(総館長 中山喜一朗)

 

2500万人達成記念品を贈呈した3組5名の方々と記念撮影

豪華記念品(左)と観覧者プレゼント(右・オリジナル缶バッジ7種)
記念品:こぶうしくんぬいぐるみ・仙厓やわらかクッション 猫に紙袋図・カラーペンシル・フランクステラ《バスラ門Ⅱ》ダイカットノート・ミュージアムランチペアチケット・図録『福岡市美術館ザ・ベストーこれがわたしたちのコレクション』・市美オリジナルトートバック(2色)・特別展ペア招待券

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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ゴッホの青と黄

どーも。中山です。あけましておめでとうございます。

昨年末から始まったゴッホ展で、新年早々から美術館は賑わっています。活気にあふれた館内に、顔がほころびます。

ゴッホは浮世絵が大好きで、弟テオに送った手紙(十数年前、全部読んだことがあります。もちろん翻訳ですけど)にも、北斎の浮世絵や日本のすばらしさを何度も書いています。そんなゴッホが、日本人にこよなく愛されている。相思相愛ですね。

もしゴッホが現代に生きていたら、かりに世界的な巨匠じゃなくても、日本への憧れを情熱的に語る彼を、どこかのテレビ局が番組関連で招待してくれるんじゃないかな、なんておろかな夢想をしてしまいます。

でも、嬉々として日本にやってきたら、がっかりするかもしれません。「日本人が何をするにも明確であることが、私にはうらやましい」というゴッホの言葉は、表現意図がはっきりしていて明快な輪郭と鮮やかな色彩を伴い、夜景であっても明るく表現する浮世絵師の世界観のことであって、日本人みんなが何をするにも明確なわけではないからです。わたしみたいに、とりつくろったりごまかしたり、あやふやなことばかりしている日本人に出会ってしまうと、ゴッホの理想像が壊れてしまいそうで心配。まあでも、彼の日本旅行の夢は叶わなかったのでいらぬ心配ですが。

マティスは「色の魔術師」と言われましたが、今回のゴッホ展に出品されている《黄色い家(通り)》などを見ていると、晩年のゴッホの色も美しさや深さ、鮮烈な印象という点で負けてはいません。一般的に、色彩は明度の差が大きく、かつ色相環の対照的な位置(補色関係)にある色どうしであればあるほど、お互いを際立たせる性質があります。ゴッホ晩年の作品を特徴づける青と黄の配色はその典型です。「もし、黄色と橙色がなければ、青色もない」と彼は主張しました。しかし、ただ対比的に用いているだけではなく、青にしても黄にしても、微妙に異なる色彩の積み重ねや組み合わせがあってこそ、画面が輝いているのだとあらためて実感しました。

ゴッホは「色彩は、それ自体が、何かを表現している」とも言ったようです。彼の青と黄は、何を表現しているのでしょうか。後悔することも多かったと想像される人生なのに、「何も後悔することがなければ、人生はとても空虚なものになるだろう」とも断言しています。すごいですね。わたしみたいに後悔することが多いと、まだ空虚なほうがいいかもなんて思ってしまいがちです。ゴッホの青と黄は、何を表現しているのか。考えながら鑑賞するのもいいかもしれません。多分、いろいろ思い浮かんできますよ。

本年も、福岡市美術館をどうぞよろしくお願いいたします。

(総館長 中山喜一朗)

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