休館日本日休館日

メニューを閉じる
ホーム > ブログ
福岡市美術館ブログ

新着投稿

カテゴリー:館長ブログ

館長ブログ

給料いいですか?

先日、福岡市西区にある福岡市立姪浜中学校に行ってきました。「社会人講話」という中学生のキャリア教育のための講師!ということで、お声がけいただきました。1日2コマ、自分の職業について講話をするとのこと。

はじめてうかがう姪浜中は、29学級を擁する市内屈指のマンモス校。広々としたモダンな校舎は、自分の中学時代のそれとは似ても似つかないものでした。控室に座っていると、続々と講師の方々が来られます。キッチリした背広の人、楽器を持った人、外国の人などなど…。あとでIT企業の方や保険会社の方など、様々な職種の人が集まっていたと知りました。

控室には、生徒がお迎えに来てくれるそうで、待つことしばし。女子生徒が二人「岩永先生」を、迎えに来てくれました。最初のセッションの始まりです。

教室には、20人程度の中学生たち。「福岡市美術館に来たことある人いますかー?」3人の手が上がったので、そこから美術館の活動を紹介し始めました。ここで役に立ったのが、中学校の美術の副読本。ダリやミロ、仙厓などの福岡市美の所蔵品も掲載されていたので、図版を見ながら解説し、研究・展示・収集・保存のサイクルなどについて話しました。

今回、ぜひ触れたかったことのひとつが、学芸員になったきっかけでした。

「みんな、中学校の間は音楽も美術も教わるけど、高校になったら選択制になるんだよ。音楽と美術と書道だったら、どれを選ぶ?」と聞くと、ほとんどの子が美術に手をあげてくれてびっくり。実は、先生が美術に興味のある生徒を選んでいてくれたとのこと。道理でみなさん、一生懸命聞いてくれているわけです。それにしても、「ここに同士がいる!」と思って感激しました。

「高校の時、わたしも美術を選択しました。夏休みに展覧会の感想文を書くという宿題が出て、展覧会を見に行ったのです。でもね、見に行った絵が、怖くて。みんな岸田劉生という画家が描いた《麗子像》って知ってる?」「?」ここで再び役に立ったのが、中学校の美術の副読本でした。

「えーと、〇ページの〇段目に載っている、この絵。展覧会で見て、気持ち悪いというか、怖いと思ったんだけど、たくさん見ているうちに、見方が変わってきて、いいなと思えるようになったんです。美術を通して、<よくよく知れば嫌いなものも好きになれる>という経験をしました。感想文を書くことも面白かったので、大学受験の前に、美術に関われる仕事として学芸員という職業があることを知って、その方向に進める大学を受験しようと思いました。」

他に「資格はいるのか(→資格というより、大学院に行く覚悟がいります)」「美術品の値段はどうやって決まるのか?(→欲しい人がどれだけいるかで決まります)」と、あらかじめいただいた質問にも答えつつ、最初のセッションでは、おおむね美術館の仕事と、どうやって学芸員になるかという話ができました。

休憩をはさんで、別の生徒たちと次のセッションです。一回目でだいたい要領をつかんでしまって、ついつい話すべきことをサクサク話してしまい、ちょっと時間があまり気味に。そこで「なんでもどうぞ」と質問を取ったところ、意外にも「好きなアーティストはいますか?」これが、何と言いますか、「好きな人は誰ですか」と聞かれたぐらいの衝撃度で、急にあわあわドキドキ。ここからは「講師」というより、素の自分が出てしまいました。

中学生からの質問だったので、学生時代から好きだった「初恋の人=俵屋宗達」を答えようとしたのですが、「もしかして、誰も知らないかも?」。そこで、三たび、副読本に助けてもらうことに。「わたしが大好きな絵は△ページにあります!」みんなが一斉に副読本を開きます。が、そのページには10点を超える名画が。「ひ、ヒントは、<飛んでいる>人のいる絵です!」

そう、そのページには宗達の《風神雷神図》とサンドロ・ボッティチェリの《ヴィーナスの誕生》がありました(どちらにも風の神様がいますね)。「では、どっちでしょうか!《風神雷神図》と思う人!」男子2名の手があがります。「《ヴィーナスの誕生》と思う人!」残りほぼすべての手が、あがります。「…正解は、《風神雷神図》でした!」「っしゃあ!」(男子2名)。ごめんよ、当たってもなんにもならないクイズで。でも、きっと彼らも《風神雷神図》が好きだったのだと思います。仲間がいるって、嬉しいよね。

その後、生徒に好きな作品を逆質問すると、ある女子生徒が、副読本のページを繰って「これかな…」。なんと、尾形光琳の《紅白梅図屏風》。「わあ!この絵を描いた尾形光琳は、さっきの《風神雷神図》を描いた俵屋宗達を、すっごい尊敬していてね!…」と、またまた興奮して、琳派(宗達と宗達に影響を受けた画家たちを指します)愛が炸裂してしまいました。

さて、もうこれで最後の一問、という時に、正面に座っている男子をあてました。

「最後に、何か質問ありますか?」
「えっ?僕ですか」
「はい、どうぞ!」
「…給料いいですか?」

「えっ!と。その、公務員の給料ですけどね~、はい。」としどろもどろ。そうでした。キャリア形成のための講話でしたね。講話終了後の生徒代表の「先生のお話を元に、将来を考えてみたいと思います。」という挨拶にも、みんなで爆笑してしまいました。

ああー。これでよかったんだろうか。とにかく、ヲタ気質の方がいい、アイドルの追っかけが出来る人も向く、とは伝えた。好きなものには、大人になってもアツくなれることは見せられたかもしれない。嫌いなものでも、一生懸命知ろうとすれば良さが見える、自分のとらわれも越えられる、とは語った。それにしても、美術に関心を寄せてくれる生徒があんなにいるんだ…。この中から学芸員が誕生するといいな。給料はともかく。と思いつつ、バスに揺られて帰路につきました。本当に楽しい時間でした。姪中の皆さん、ありがとうございました。

(館長 岩永悦子)

追伸
今日、社会人講話を受講されたみなさんから、お礼状をいただきました。作品展示の考え方など、たくさんのことを受け取ってくれたようで、とても嬉しかったです。学芸員になりたいという人も。ぜひ!お待ちしております。

館長ブログ

FaN Week「コレクターズ アートと生きる四人」展とは⁈


 今年は、福岡市が福岡市美術館やアジア美術館のこれまでの取組みをさらに発展させ、彩りにあふれたアートのまちをめざす「FaN(Fukuoka Art Next)」の元年。

市民にとってはアートに親しむ機会が増え、アーティストにとっては活動、交流がしやすくなる、そんな街を目指してさまざまな取り組みを行っています。

 そうした取り組みが、ぎゅぎゅっと集中しているのが、9月23日(金祝)~10月10日(月祝)のFaN(Fukuoka Art Next)Week。福岡市美術館では、参加型ワークショップ(9月23,24日)やアート・マルシェ(9月23~25日)が開催されますが、なんといっても、ぜひ皆さんに見ていただきたいのが、家入一真氏、榎本二郎氏、小笠原治氏、熊谷正寿氏(50音順)の四人のコレクターの方々が出品してくださっている「コレクターズ アートと生きる四人」展です。

 通常美術館では、テーマを立てて展示を考えるか、一人のコレクターに集中して紹介するか、どちらかなので、4人のコレクターを一度に紹介する、ということに関わるのは、新しい経験でした。FaNを統括する福岡市経済観光文化局の仲間や、キュレーションを引き受けてくださった佐賀大学の花田伸一准教授、運営スタッフがそれぞれ役割分担をするという仕組みも初めて。その、どのチームが欠けてもてきなかったのが、この展覧会です。

 美術の世界、ことに展覧会は、アートコレクターの存在抜きには、成立しないというのが実情です。作品を収集し、さまざまなリスクから作品を護り、後世に伝えるということを、個人の力で行っているコレクターの協力なくしては、展覧会の開催はできません。

 いままで、どちらかというと、コレクターの皆さんは、スポットライトを作品に譲り、図録には「個人蔵」とだけ記されることが多い存在でした。ですが、この展覧会は、展示される作品とそれを所蔵するコレクターの皆さんの両方が「主役」です。アートファンであっても、作品を買うなんて考えたこともない、という方も多いでしょう。その対極にある「コレクター」は、どんな人たちなのか?を垣間見るチャンスでもあります。

 本展で紹介するコレクターの方々は、みなさん新しい分野で活躍されている経営者で、ご存じの方も多いのではないでしょうか。親子2代で美術コレクターの方もおられれば、美大を目指していた方、全くの畑違いだったのに⁉という方も。みなさん「コレクションをはじめたきっかけ」「コレクションのポリシーや楽しみ」「今回の出品作について」という質問にも答えてくださっています。仕事とアートと人生について、ストレートに語られているので、ぜひ、会場で作品とともにご覧いただきたいと思います。


 展示は、コレクションごとに、4つの壁面に展開しています。つまり、本来的には関連のない4つの個人コレクションが一つの空間に並ぶわけですが、結果として、ピカソなどの巨匠の作品にはじまり、イギリスを代表する現代美術アーティスト、ジュリアン・オピーへ、そして、日本の若手作家による2020年代の表現へと、4つの個性的なコレクションが、あたかも次々とバトンを渡していくような流れになっています。

 さて、「本来的には関連のない4つのコレクション」からなる今回の展示には、実はある共通点がありました。それは「福岡市美術館のコレクションにはない!」という点です。あの人の作品もこの人の作品も、残念ながら当館には所蔵されていません。ですので、ぜひ、この機会に多くの方に見ていただきたいと思います。そして、四人のコレクターたちの世界観にふれてください。会場を出る時には、自分だけの作品を探しに行きたくなるかもしれません。

「コレクターズ アートと生きる四人」
9月23日(金祝)~10月10日(月祝)
福岡市美術館 近現代美術室B
*要コレクション展観覧券

★おしらせ
FaN Week 期間中には、Artist Café Fukuoka(旧舞鶴中学校内)にて、今年アジア文化賞を受賞された、シャジア・シカンダー氏による大迫力アニメーション《視差》をご覧いただけるほか、9月23日13時~17時は、アーティスト・イン・レジデンス専用の制作スタジオの「オープンスタジオ」を開催します。
福岡市美術館から徒歩5分!ぜひ、どちらにもお運びください。

(館長 岩永悦子)

 

 

館長ブログ

「福岡アートアワード」創設!

9月1日、中央区城内の旧舞鶴中学校南棟1階が、アーティスト・イン・レジデンスの拠点かつ、展示スペースも備えたコミュニティスペースに生まれ変わり、Artist Cafe Fukuokaとしてオープンしました。福岡アジア美術館で長年続けられてきたアーテイスト・イン・レジデンスが、規模を拡大して新たな展開を迎えます。

福岡のアートのこれからを期待させる、刺激的かつ居心地のいい場所になる予感。今後どんな連携ができるかな、とワクワクしています。

 

さて、同じ9月1日に、福岡市美術館でも新しい物語がはじまります。
それが「福岡アートアワード」です。福岡市内で過去1年間に作品の発表などの活動をしたアーティストが対象となる賞で、目覚ましい活躍をし、これからさらなる飛躍が期待できるアーティストの作品を買い上げる形で賞を贈ります。買い上げた作品は、福岡市美術館の所蔵品として展示活用されます。

 

アワードの選考委員は、水沢勉さん(神奈川県立近代美術館 館長)、植松由佳さん(国立国際美術館 学芸課長)、堀川理沙さん(ナショナル・ギャラリー・シンガポール、キュレートリアル&コレクションズ ディレクター)の御三方にお願いしました。みなさん国際経験が豊かで、広い視野で評価をしていただけることと思います。

 

通常、アーティストに賞が授与される場合、賞金が贈られることが大半です。それらはもちろん、アーティストにとって、大きな後押しになることでしょう。ですが、このアワードはこれからのアーティストの経済的な支援となるだけでなく、作品が美術館に収蔵されるという、アーティストにとっての新たなステップが付け加わります。そして、美術館にとっても、福岡のアートシーンを語る優れた作品が収集でき、それを、市民に長く楽しんでいただけることになります。

 

「福岡アートアワード」を通して、アーティストと美術館と市民の間に「作品」という絆ができる。そして、福岡市内での発表などの活動実績が条件となりますので、多くのアーティストの皆さんが「福岡で発表すると、チャンスが巡ってくる」「面白そうだ」と思ってくださったら、福岡市民にも意欲的な作品を見る機会が増えることになります。

 

対象となるアーティストは、公募いたします。自薦、他薦は問いません。募集内容の詳細をご確認いただき、9月15日~10月31日の間に、ウェブサイトのフォームからご応募ください。
お待ちしております!

(館長 岩永悦子)

 

新着投稿

カテゴリー

アーカイブ

SNS