2025年4月23日 15:04
さて、3月29日(金)から6月1日(日)まで、近現代美術室Bにて「第3回目福岡アートアワード受賞作品展」を開催しています。(福岡アートアワードについて概要はこちら)
展覧会初日には展示室内でギャラリートークを行い、4組の作家に「これまでの活動」「受賞作品について」「これからの活動」を軸として自由にお話いただきました。以下はトークを要約したものに筆者の個人的な感想を含めたものとなります。作家許諾の上、掲載いたします。
はじめは市長賞を受賞された牛島智子さんからです。牛島さんは、現代美術のオルタナティブ・スクール「Bゼミ」に所属し東京で活動していました。その後、90年代末に拠点を八女市に移し、風土や人物、労働などをモチーフとした作品を発表しています。トークの冒頭では、インドの人生論である「四住期」を基に、独自の数学的なルールに従って作った幾何学的な図形について紹介されました。今回の受賞作品《家婦》を構成する一つの幕絵にも、「四住期」に基づいた幾何学的な図形が反映されています。注目すべきは、その幕絵の素材は祖父母の代から使われてきた古布が使用されていることです。トーク中に「手を動かすことで作品が決まっていく」と牛島さんはお話されたように、牛島さんにとって、作品を作ることと、生きることがほぼ同意義である、ということが強く伝わってきました。お話を聞いた後、改めて今回の受賞作品を鑑賞すると、仕事や家事、育児等の様々なご経験をされた牛島さんの生き方そのものが重なって見えました。
次に優秀賞を受賞されたオーギカナエさんです。大学卒業後、東京での活動を経て、福岡へ拠点を移し、大型インスタレーションの他、壁画やステンドグラス制作等、建築にも携わってきました。大きなものを作りたい、包まれたいという欲求が制作の根幹にあったとオーギさんは話されていました。その後、子育てを行いながらワークショップ開催、キッズスペースの設置、現在にも続いているスマイルの旅プロジェクトなどの活動を行いました。2023年、オーギさんの拠点が山津波により被災しました。その災害そのものをモチーフに、制作しようとしたところうまくいかなかったそうです。一旦距離をおき、純粋に造形する欲求に従い制作していくことで、自然と災害について自分が求めていた答えにつながっていったといいます。山津波がテーマであるものの、作品の色や形は明るく軽やかなイメージで前向きな気持ちにさせられます。「自然の中で、雨だらけの大地に光が集まり浸透して、自然のサイクルで回復する作業に、希望が見いだせた」というオーギさんの言葉が印象的でした。
オーギカナエさんと同じく優秀賞を受賞されたSECOND PLANETからはメンバーの宮川敬一さんにお話いただきました。SECOND PLANETは宮川さん、外田久雄さん、岩本史緒さんの3名で構成される北九州のアーティストグループです。受賞作となった《カタストロフが訪れなかった場所》は、2019年から開始したプロジェクトで、1945年8月9日に起きた長崎の原爆投下が、当初は彼らが拠点としている北九州小倉で予定されていたことをきっかけに作られました。
原爆の問題だけ語るのではなく、何も起こらなかった場所も何某かの歴史があり、多角的にリサーチして歴史を捉えなおそうする試みをテーマとし、はじめはパフォーマンス、2021年にオンラインプロジェクトに形をかえ、2024年にミュージシャンであるibi Ryota氏と写真家の鶴留一彦氏の技術的な協力のもと、現在の形となりました。過去の歴史だけでなく、現在も起きている世界中の凄惨な状況に対しても、一方的ではなく色々角度で調べ理解し作品として表現することで、芸術活動が戦う手段として残されているのだと希望を持たせたい、という宮川さんの言葉が心に響きました。
最後は同じく優秀賞受賞の興梠優護さんです。興梠さんは東京を拠点に活動しておられましたが、レジデンス活動等を経た後に昨年より福岡を拠点に移し、作家活動をされています。「光」、「レイヤー」、「イリュージョン」をテーマとしながら「根源性と現代性」を兼ね備えるような作品を制作しています。モチーフやタイトルには具体的なストーリーや感情設定を持ち込まず、可視光を超えた曖昧なゾーンの美しさ等、あくまで視覚的な構造と認識として絵画を捉えていることを強調されていました。個人的に興味深かったのは作品の側面に対する意識でした。作品側面にも色が塗られていることで、側面にあたった光が反射し、色が壁などに映り込む色なども計算して描かれたそうです。画集やモニター越しではトリミングされ見ることが出来ない側面を、生で見る方が良いという、リアリティへの追及が伺えました。
展覧会は6月1日までです!ぜひご来館いただき、現物をご鑑賞ください。
(学芸課 近現代美術係 渡抜由季)