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福岡市美術館ブログ

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「ADAPTATION – KYNE」展、ただいま会場設営中!空間・プロダクトデザイナー 二俣公一さんインタビュー

今回の展覧会には、福岡市美術館の展覧会では初めてご一緒させていただく方々がおられます。前回ご紹介した、展覧会のキービジュアルと図録のデザインを担当してくださっているチロン&チビン・トリュー兄弟のお二人もそうですし、今回ご紹介する、空間・プロダクトデザイナーで「ケース・リアル(CASE-REAL)」を主宰されている二俣公一(ふたつまたこういち)さんもそうです。今回はまたとないチャンスなので、インタビューをさせていただきました。

二俣公一さん

実は二俣さんが作られた空間には、それと知らず何度も出入りしていました。福岡には、このお店があってよかった、と思える心の拠り所のような和菓子店があります。本店は福岡アジア美術館の、道路を挟んでお向かいにあり、いつも賑わっています。重厚だけど圧を与えず、清々しくて居心地がよい、そんなお店の佇まいを作り出しておられたのが、二俣さんでした。最近、警固神社の境内地に降臨したコーヒー店も二俣さんのデザインです。

受賞歴もあまたあり、今、話題のインテリアや建築 を多く手がけられている二俣さん。その腕を見込んでKYNEさんが会場デザインをオファーされたのかと思いきや、実は、KYNEさんと二俣さんは、共通の知人を通じて出会い、かれこれ10年近く前からのお知り合いだったとか。一見、接点のなさそうなお二人の長いお付き合いに驚きました。

「KYNEくんは、出会った頃から変わらないですね。策を弄したりしないで、やりたいことだけをずっとやっている。一見対極のような要素も、彼のなかで自然とクロスしていますね。」

「僕は建築家のお手伝いをしながら、大学を出てすぐに自分の活動を始めたので、小さな仕事の積み重ねからのスタートでした。 大きな事務所で鍛錬を積んでいきなり華やかにデビュー、という歩みではないので、KYNEくんのように東京での活動がありつつ、あくまで福岡にいる、というスタンスはとても理解できるというか、共感できます。」

「(仕事に対しては)プロジェクトとしての責任は自分がとらないといけないけれど、独りよがりになるのは、いやです。目的を成就していくことが重要なので、そのために空気を読みます。」

今回の仕事はKYNEさんから、空間に対して具体的な細かいリクエストがあった訳ではなかったので、特に言外の思いを読み取ろうとしたとのことでした。
美術館での大型展のデザインという今回のプロジェクトに、どのような視点で取り組まれているのかという問いには、こんな風に答えられました。

「既存の空間をねじまげたくない、と思っています。美術館の展示室として一見普通に見え、福岡市美術館のイメージもありつつ、よくよく見てみると、なにか良い違和感や発見がある、という空間を目指しています。」

古民家の再生を手がけることも最近は多いという二俣さんは、あらゆる想定をしておいた上で、例えば、一本の柱を残すか残さないかの判断を、現場で変えることがあるといいます。

「きちんと想定しておけば、不測の事態にも対応できるので。机上で決めたことを変えないという考えもあるだろうけど、僕は現場で起きる出来事に柔軟に対応したいと思っています。そうでないと面白くないじゃないですか。だから自分の想定を超えた要素は、有難いなとも思います。」

細かいディテールまでしっかり煮詰めておけば、偶然の出来事を活かすことができる。その言葉のとおり、インタビューの途中で興味深い事が起こりました。会場造作作業の状況を見に行かれる二俣さんについて行ったのですが、施工途中のある部分を見られて、「これ相当にいいんだけど。」と、ポツリ。その未完のパーツを会場造りに取り込めないかと、真剣に検討されはじめたのです。

インタビューを再開した時に、その新しいアイディアについて「KYNEくんが感じてきたストリートの空気感を、つくり物でない形で表現できるかもしれない」と、楽しみにしておられました。なおかつ、それがさまざまな検討のなかで採用されなくとも、会場がよくなるためなら構わない、とも。さあ、この偶然の出会いは、会場で生き残るのか、それともよりよい形へと変化していくのか。本展覧会は4月20日に開幕です。KYNEさんの作品だけでなく、作品と空間の響き合いも、楽しんでいただければ幸いです。

(館長 岩永悦子)

 

 

教育普及

65歳以上限定!いきヨウヨウ講座「のびのびアート鑑賞」

毎年3月に65歳以上限定のプログラム「いきヨウヨウ講座」を開催しています。早いもので9回目となる今回は「のびのびアート鑑賞」と題し、ストレッチするときにうーんと腕を伸ばすように、心と身体を広げるようなプログラムをしたいと企画しました。その内容は、さまざまな感覚を使って作品鑑賞をし、自分の気持ちをことばや形で表現してみようというものです。

今回は60代から80代までの皆さんが参加してくださいました。偶然だと思いますが、お1人で参加された方がほとんどで、始まる前はすこし緊張した様子もありましたが、そんな中プログラムのスタートの時間です。はじめは、いろいろな感覚を使っての作品鑑賞。当館のコレクション展示から、選んだ作品を一緒に鑑賞していきました。

インド更紗を鑑賞

はじめに、古美術企画展示室の「アジアの染織」展(~4/21)から、インド更紗(さらさ)を1点選び、全員で鑑賞しました。いわゆる作品解説によって受動的に鑑賞をするのではなく、対話型という方法で、参加者は能動的にじっくりと作品を観察していきます。「ハートの模様がある」「結婚式で使われた布かな」「黒い部分が気になる」など、作品をよく観察し、発見を共有していきました。「触ってみたら、木綿のような手触りかな」「触ってみたい」という声があがったところで、教育研究資料として収蔵した、インド更紗裂(さらさきれ)の登場です。実際に鑑賞した作品と近い時代の裂(きれ)にやさしく触れてみると、それぞれ微妙に異なる肌触り。「木綿だけど、なめらかで絹のように感じる」など、皆さんいろんな感想を口々に言いながらその感覚を確かめ合いました。

触って手触りを楽しみました

次は近現代美術のコレクション展示室へ場所を移し、サルバドール・ダリ《ポルトリガトの聖母》を鑑賞しました。今度は香りがテーマです。作品に描かれたさまざまなモチーフを見つけたり、キリスト教につながる意味を発見したり、最後にキリスト教にまつわる香りとして、乳香(フランキンセンス)の香りを嗅いでみました。香りを楽しみながら鑑賞するのは初めて!という声に包まれ、皆さんも興味津々でした。

乳香のにおいを嗅ぐ参加者

最後はザオ・ウ―キー《僕らはまだ二人だ-10.3.74》を選び、「音」をイメージしながら鑑賞をしました。3作品目になると、自然とみなさんが作品から連想される「音」やその場面を、次々に表現してくれて、多様なイメージを共有しながら1つの作品を見ることができました。

「音」をイメージして作品を鑑賞

さて、ここで突然配布された1枚の紙。何だろう?と戸惑う参加者たち。ここからは、参加者1人ひとりに1つ作品を選んでもらい、その作品を見て考えたこと、浮かんできた感覚や気持ちをたくさんメモしてもらいました。このメモが、後半の制作活動へとつながります。

メモを書き込む参加者の様子

お茶とお菓子で休憩タイム

お茶とお菓子で休憩を挟んだら、後半は作品鑑賞をして広がった感覚を、表現する時間です。大人になるほど、自分の気持ち、内面をそのまま表現する機会って、少なくなるのかもしれません。メモに残した自分の言葉を見ながら、少し客観的に自分の気持ちをとらえ、それをことばや形にしていきます。さあ、どんな表現にするか、用意された素材を選びながら、各自考えていきました。

素材を見ながら、表現方法を考えます

真剣な表情で制作中!

自分の気持ち、内面という、形のないものを表現するということ。最初は「えー!」「できない・・・」なんて呟いていた皆さんも、最終的には、私たちがびっくりするような創造をしてくれました。談笑しながら、ときに真剣な表情で、制作に没頭する参加者の態度からは、作品を鑑賞して感じた自分の気持ちという、目に見えないイメージを表現しようという意欲が伝わってきました。

最後に、全員でお互いの作品を見せ合って、いきヨウヨウ講座は終了です。アンケートでは「とにかく“いきようよう”とした気分になって楽しませてもらった」「他の人と話が出来たことが楽しかった!」「作品を見て、人それぞれ感じ方が違う事が大変おもしろく、気づきがたくさんあった」などの声が寄せられました。

メモと制作した作品

お互いの作品を見せ合いました

美術館で仕事をしていると、つい利用者を「高齢者」など属性で一括りにしてしまいがちですが、きっと次回の「いきヨウヨウ講座」を企画するときには、今回参加してくださった皆さんのことを思い出すでしょう。届けたい相手のことをイメージしながら「いきヨウヨウ講座」をこれからも継続していきたいと思います。

(学芸員 教育普及係 﨑田明香)

 

 

 

 

コレクション展 古美術

VSインド産更紗儀礼用布(インドネシア向け)の巻

現在、古美術企画展示室では「アジアの染織 インド、インドネシア、カンボジア」が開催中です(4月21日まで)。この展覧会では、福岡市美術館の染織コレクションの中から、インド、インドネシア、カンボジアの三カ国に焦点を当て、これらの国々の優れた染織作品を展示しています。中でも目玉のひとつは、18世紀にインドで制作されたとされる《グリンシン文様更紗儀礼用布》です。

《グリンシン文様更紗儀礼用布》

こちらは防染と媒染の技法を用いて染められた木綿の布です。グリンシンとは、インドネシアのバリ島で制作された絣のことで、四芒星が連なる文様を特徴とします。《グリンシン文様更紗儀礼用布》の中央部にも同様の文様が描かれており、そのためこの作品は、インドネシアに輸出するために同地の好みに合わせてインドで制作されたと考えられます。インドとインドネシアの染織文化の交流が感じられる重要な作品なのですが、何と言ってもこの《グリンシン文様更紗儀礼用布》、まず目を引くのはその大きさです。展示室に入って右側のケースの中央にどーんと鎮座しており、その迫力といったら横綱級と言えましょう。縦は2m29cm、横は3m23cm、裏地を合わせるとさらに大きいこの作品は、華やかな染織品が並ぶ中でも圧倒的な存在感を誇ります。最後に展示したのは2014年ということで、10年ぶりとなるこの機会にぜひ展示したい!と思い、展示作品に加えました。しかし、展示プランを考え始めたときの私はまだ知らなかったのです。この作品の展示は、その破格のサイズゆえ、一筋縄ではいかないということを。

その大きさを目の当たりにしたのは作品チェックの時。《グリンシン文様更紗儀礼用布》(以下、グリンシン更紗と呼ばせていただきます)と初対面です。収蔵庫からグリンシン更紗の箱を見つけ出し、腰を痛めるのではないかとひやひやしながら、M学芸員と二人で棚から箱を下ろします。よく見ると、やたら立派な桐の箱。すでに物々しいというか、なんだか威圧感がある…。気を取り直して、さあいざ作品を箱から出して作業スペースに広げてみようとするものの、案の定作業スペースにうまく収まらない。方向を変えたり一部折りたたんだりしてなんとか広げたものの、まず抱いた感想は、「で、でかい・・・」。大きいのは知っていた、知っていたけど、いざ目の前にすると、あまりの横綱感に圧倒されます。こんなの展示できるのか?若干の不安を感じたものの、ありがたいことに、この作品は裏地がしっかり付いており、なんと裏地に棒を通して吊り下げられる部分までありました。これなら問題なく展示できそう!ととりあえず一安心です。

しかし、まだ安心するのは早かった。作品チェックを終え、張り切って古美術のG学芸員に展示プランを見せてみると、「展示ケースの高さって2m50cmだよね、グリンシン更紗の縦の長さは?」とG学芸員。対する私は、「裏地を合わせて2m53cmです」。なんてこった、これでは微妙に展示ケースに収まらない!そんなことある?それにしてもさすが名品、スケールが違うぜ、と動揺しながら感心しつつ、展示プランは練り直しかなーと遠い目をしたところへ、「布の裏側にパネルか台を置いて、布の下の部分を前方に斜めに流すようにしたら収まるんじゃないかな」と一言。それだ!!その手があったか!経験豊かな学芸員の皆さんのアドバイスに感謝です。これでなんとかグリンシン更紗も展示できそう、と胸をなで下ろしました。

展示プランはOKをもらえたものの、やはり最後の難関は実際の展示作業。果たしてこのヘビー級染織品を無事にプラン通り展示できるのか・・・。
どきどきしながら迎えた当日。まずは展示ケースの中に台を置きます。積み木のように台をいくつも組み合わせて、斜めの土台を作りました。

 

グリンシン更紗用の土台。長方形や三角形の台を積み上げています。

さあ、準備は整った。いざ!と、まずは仰々しい桐の箱から作品を取り出しますが、やはりでかい・・・何度見てもでかい・・・。作業台の上で少し広げ、それから展示ケースの中に運び、4人がかりで布を吊るします。

作業台の上のグリンシン更紗。台から溢れんばかり。

作品の裏地に棒を通し、棒を金具に引っ掛け、高さや位置を調整、そして布を広げ、しわを伸ばして・・・。固唾を呑んで作業を見守っていると、ついに、おおー!グリンシン更紗が無事に吊り下がっている・・・。ケースの真ん中にどっしりそびえ立って、なんだか誇らしげにすら見えます。もう感無量としか言いようがありません。近づいてよく見ると、作品の上端は天井すれすれ、下端は地面すれすれ。これがシンデレラフィットというやつか。何はともあれ、無事に収まって本当によかった・・・。最終的に他の作品もプラン通りの位置に落ち着き、展示作業はなんとか時間内に完了しました。

無事に展示されたグリンシン更紗。よかったね!

こうして、最初はどうなることかと思われた《グリンシン文様更紗儀礼用布》との闘いも大団円を迎えたのでした(展覧会終了後の片付けのことはまだ考えないでおきましょう)。その奮闘の成果物たる「アジアの染織 インド、インドネシア、カンボジア」展は4月21日(日)まで。まだご覧になっていない方は、ぜひこの機会をお見逃しなく~。

(国際渉外担当 太田早耶)

 

 

 

 

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