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福岡市美術館ブログ

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コレクション展 近現代美術

ロンドンのYOSHIDA展

 6月、イギリス・ロンドンへ出張してまいりました!福岡市美術館所蔵作品の貸出に伴う、クーリエ業務のためです。
クーリエとは、他の美術館への作品貸出・輸送に伴って現地へ行き、開梱・作品チェック・展示等に立ち合う業務です。安全・適切に作品が取り扱われていることを確認し、何かあったら助言をすることもあります。
 福岡市美術館のコレクションを海外にお貸し出しする機会はこれまでにもあったのですが、私がクーリエとしてお仕事をするのはこれが初めてでした。というか、ヨーロッパ一人渡航自体が初めて…!Google翻訳に頼りながら、終始きょろきょろしっぱなしでしたが、業務をなんとか遂行してきました。
今回は、そのご報告をしつつ、この出張での出来事や発見をシェアしたいと思います。

ダルウィッチ・ピクチャー・ギャラリーについて

 今回の用務先は、ダルウィッチ・ピクチャー・ギャラリーです。ダルウィッチ・ピクチャー・ギャラリー(以下DPG)は、ロンドンの南にある美術館で、ある画商のコレクションを公開する施設として、1817年に設立したそうです。現代アーティストとのコラボレーションも行っており、敷地のお庭にはなんと、福岡市美術館にも所蔵されているインカ・ショニバレCBEのウィンド・スカルプチャーの別バージョンがありました。
 自然光を取り入れたギャラリーには、オールド・マスターの絵画が数多く展示されています。ギャラリーの中にはどの作品を見たらよいか、くじ引きのように決めるカードが置いてあったり、子供向けのガイドがあったりして、初心者にも楽しめる仕掛けがたくさんありました。
 美術館のスタッフは、お庭でランチ休憩していたりと、朗らかな雰囲気です。6月はプライド・マンスということもあり、スタッフ証を首から下げるひもがレインボーに彩られていたり、「he/him」「she/her」「they/them」など、どのように呼んでほしいかを示すバッジを付けていたのも素敵でした。

福岡市美でもおなじみのインカ・ショニバレに再会

ギャラリーの様子

子ども向けのガイド冊子。「ギャラリーの建物をみて・きいて、冒険を始めよう!」

今回の業務

 今回の業務は、DPGでの展覧会「Yoshida: Three Generations of Japanese Printmaking」の設置に立会うことです。この展覧会は、木版画家・吉田博から始まり、妻のふじを・長男の遠志・次男の穂高・その妻千鶴子、そして孫の亜世美の、3世代にわたる版画制作の系譜をたどるというものです。当館からは、吉田博・遠志・穂高の作品全49点をお貸出ししています。
 担当のキュレーターにお聞きしたところ、展覧会企画のきっかけになったのは、ギャラリーの芳名帳だったそうです。吉田博は、1899年から1900年にかけて、中川八郎とともにアメリカ・ヨーロッパを周遊しており、その過程で様々な美術館を訪ねました。そして、1900年5月にロンドンを訪れ、DPGでレンブラントやルーベンスの作品を見ているのです。ギャラリーの芳名帳も展示されており、たしかに「Hiroshi Yoshida」の名前を見つけることができました。

芳名帳。上から5行目に「Hiroshi Yoshida」のサインがあります

 

 展示室でチームの皆さんにご挨拶し、作業をスタート。出国前にチェックしたリストをもとに、開梱し、状態を確認し、4つの展示室に設置をしていきました。
 展示する作品はすべて、DPG側のコンサバターと一緒にチェックしました。折れじわやシミなどの状態を確認し、記録をつけていくのですが、「これは表現の一部だよね」「ここが面白いね」など、話しながら進めていきます。拙い英語でも、美術作品に関わることは、言葉以上にニュアンスが共有できている感触があります。おかげさまで、4日間にわたる展示作業は、大きなトラブルなく進みました。

展示が完了した作品には、ホコリ除けのカバーをかけています

吉田家の120年を辿る展覧会の幕開け

 6月18日、無事に展覧会がオープンしました。展示室全体を見渡すと、木版画の技術と風景画の魅力が感じられる吉田博作品から、抽象表現を取り入れるふじを、穂高、時代風俗を反映する遠志、音楽やリズムの要素が感じられる千鶴子と、作家ごとの特徴を味わうことができます。吉田家の人々が、版という表現手段を極めながら、各々に個性的な表現を開花させていく様子が分かります。博は青、ふじをはえんじ色など、作家ごとにテーマカラーが敷かれている演出も効果的でした。
 最後の部屋では、吉田博の孫であるアーティストの吉田亜世美さんによる新作のインスタレーションを見ることができます。和紙による1万枚の桜の花びらがちりばめられており、風や雨などをくぐり抜けながら花吹雪が舞っているような空間です。博がDPGを訪れてから現在にいたるまでの、吉田家の120年を象徴するようなインスタレーションで、大変感動的でした。(制作過程はこちらhttps://x.com/DulwichGallery/status/1817937645357433185)
 ぜひ多くの方に見ていただきたいと思います。

吉田博の部屋

吉田穂高・千鶴子の部屋

美術館=みんなの居場所

 空き時間に、時間が許す限りミュージアムやギャラリーを見て回りました。紹介するときりがないので割愛しますが、DPGも含め、展示解説が豊富にそろっていたり、少し休憩したいときに使える椅子が展示室にそっと置いてあったりと、ロンドンの美術館はみんなの居場所、という意識が強いと感じました。インプットしてきたことは、これからの福岡市美術館にも生かしていきたいと思いました。

(近現代美術係 忠あゆみ)

 

コレクション展 古美術

江戸の表具師 たむらさん

こんにちは。あまりにも暑い日が続いていますね!美術館は温湿度管理が徹底されていて、中にいると快適なのですが、外に出た瞬間、じゅわっと自分が蒸発するかのような感覚をおぼえます。地面で干からびているミミズたちを見るたび、他人事ではない気持ちがします。

それはさておき、現在、古美術の松永記念館室では「表具のキホン」展が開催中です(8月18日まで)。みなさんは、表具についてどれくらいご存知でしょうか?表具って、見たことも聞いたこともあるけど、そんなによく知らない…という方も少なからずいらっしゃるのではないでしょうか。恥ずかしながら、かく言う私もその一人でした。表具ってあれだよね、ほら、掛軸とか屏風とかの、きれいな色とか模様のあれ・・・という理解が関の山。そんな私がひょんなことから表具の展示を担当することになったのですが(本当に大丈夫か?と何度か思いました)、せっかくなら初心者としての立場から、表具の基本中の基本を扱うものにしよう!と思い、そんなこんなで「表具のキホン」という展示が出来上がりました。展示では、松永コレクションを中心とした作品を3つのコーナーに分けて紹介しています。また、掛軸の表具の各部分の名称や、表具の形式を図で紹介したパネルなども用意したので、実際に作品を鑑賞する際の手がかりにしていただけたらと思います。

ちなみに図解パネルは日本語のみならず、英語も併記してあります。

そしてそして、今回は表具の展示ということで、展示室には作品と一緒にこんなものも並んでいます。

写真だと見にくいと思いますが、ご容赦ください…。

なんだか分かりますか?向かって右は古い軸木、左は添え状です。軸木とは、掛軸の下端に通してある軸で、両端に象牙などの素材でできた軸先が取り付けられます。これらは、今回の展示作品のひとつである牧谿作の三幅対《韋駄天・猿猴図》の古い箱にしまってあったもの。表具の展示だし、せっかくなら表具らしいものを何か展示したいな~、という私の胸の内を知ってか知らずか、こんなのあるよ、と古美術のM学芸員が見せてくれたのでした。

《韋駄天・猿猴図》の昔の箱にしまわれていた昔の軸木etc.

添え状には、表具の各部分の寸法が書かれています。一方の軸木は、2003年に修理を行い、表具を新調した際に取り外されたものです。この古い軸木に何が書かれているのか読んでみると、その内容は、「我が藩主である松平不昧公所蔵の牧谿の三幅対を、弘化3年の仲秋上旬に修理しました。江戸城の南、三田に住む表具師、田邨藤七(たむらとうしち)」というもの。おお、これはまごうことなき修理の記録!作品の管理等を担当していた当時のお役人が書いたものだそうです。ちなみに松平不昧公は江戸時代の松江藩のお殿様で、茶人としても有名です。弘化3年仲秋上旬は1846年の秋で、江戸城の南の三田は今の港区の辺りのことでしょうか。江戸時代にはどうだったか分かりませんが、今は洒落たエリアのイメージですね。そういう所で田邨さんは、日々忙しく表具を仕立てたり修理したりしていたのかしら…。お殿様の愛蔵品を修理するくらいなのだから、腕のいい表具師さんだったのではないかと想像します。それにしても、まさか田邨さんも、150年の時を超え、自分が直した軸木が福岡市美術館の展示室にそのまま並べられることになるとは思いもよらなかったことでしょう。

展示ケースの真ん中に鎮座する旧軸木&添え状。向かって右隣りには《韋駄天・猿猴図》。

過去の表具の一部を見ると、多くの貴重な作品を守り伝えていくのに、表具師の方々が重要な役割を果たしてきたことがよく分かります。このような古い軸木や添え状は普段の展示ではなかなか出品することもないので、この機会にぜひご覧いただけると嬉しいです。そして何と言っても、松永コレクションは名品ぞろい!これらの作品を通して表具について学ぶなんて、なんだか贅沢な気分になりますよ。「表具のキホン」展は8月18日(日)まで。どうぞお見逃しなく~。

(国際渉外担当 太田早耶)

 

 

 

 

 

 

 

教育普及

福岡市美術館のボランティアを募集します

福岡市美術館は1979年に開館し、今年で開館45年を迎えます。実は、それより前の開館準備室当時にボランティア活動を開始しました。現在も143名のボランティアの皆さんが、ギャラリーガイドボランティア、新聞情報ボランティア、図書整理ボランティア、美術家情報整理ボランティアのグループに分かれて活動をしています。ボランティアの募集は5年に一度行っていますが、2024年は5年ぶりの募集の年です(7月16日から8月18日まで募集を行います)。そこで、今回のブログでは、当館のボランティア活動の一部を少しご紹介いたします。

当館のボランティア活動の一つとして、年に一度行っているのが、館外研修です。館外研修では、ボランティア活動を行う他館を訪問し、お互いの館のボランティア活動について情報交換をしたり、ボランティア同士の交流をしています。今年は久留米市美術館で開催しました。当日は少し雨が降っていたのですが、ひどくならなかったので一安心。久留米市美術館の正門をくぐると、噴水と鮮やかな花々が咲く庭園が、私たちを迎え入れてくれました。

正門からみた久留米市美術館。3月の訪問時に撮影したものです。

久留米市美術館では約40人がボランティアとして活動されているそうです。ボランティア同士の自己紹介が済んだあと、まず前半は、久留米市美術館のボランティアの皆さんが当日開催されていた「ちくごist尾花成春」展の作品を紹介してくださいました。作者について、また作品が描かれた背景などの解説をしていただきましたが、解説の際に資料を用いたり参加者に語りかけるような口調で話しておられ、驚くほどすんなりと内容が頭に入ってきました。

後半は交流会の時間です。久留米市美術館と福岡市美術館の職員がそれぞれの活動内容を紹介し、ギャラリートークの感想やお互いの美術館のボランティア活動について意見交換をしました。

久留米市美術館のボランティア活動紹介。

大きく盛り上がったのは、両美術館のギャラリートークの内容についてです。福岡市美術館では、ボランティアと参加者で作品について対話をしながら鑑賞を深める「対話型鑑賞」をしていますが、久留米市美術館では解説型のギャラリートークを行っているそうです。久留米市美術館のボランティアの方からは、福岡市美術館の対話型鑑賞に対して「時間がもつのか」や「実際に体験してみたい」という声が上がっていました。解説型と対話型で手法は違いますが、ボランティアの方々の活動に対する熱意は共通していました。

交流会の様子。

今回の研修が、ボランティアの皆さんにとって普段の活動を振り返るきっかけとなり、また今後の活動につながる有意義なものになればと願っています。

さて、上記の館外研修は当館のボランティア活動のほんの一部です。もっと知りたい、一緒に活動してみたいな、と興味を持ってくださった方は、ぜひ当館ホームページから募集についての詳細をご覧ください。(https://www.fukuoka-art-museum.jp/topics/137352/
応募用紙のダウンロードも可能です。皆さまのご応募をお待ちしております。
募集期間:令和6年7月16日(火)~8月18日(日)必着

(福岡市美術館 教育普及係 姜知潤、﨑田明香)

 

 

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