2024年5月22日 09:05
福岡市美術館1階の古美術企画展示室では、ただいま、「新収蔵品展」(~6月16日(日))を開催中です。当館の古美術部門は、昨年度(2023年度)も篤志家からのご寄贈により、134件の美術品を収蔵することができました。本展ではその中から選んだ45件をご紹介しています。

展示風景の写真をご覧いただいてお分かりのとおり、陶磁器、染織品、絵画など実に幅広いジャンルの作品をご寄贈いただきました。このブログでは本展出品作の中からオススメの作品をいくつかご紹介します。
筆《四季花鳥画帖》(小西健太郎氏寄贈-scaled.jpg)
【上】岡本秋暉(1807-1862)筆《四季花鳥画帖》(小西健太郎氏寄贈)
四季折々の花鳥を12図貼り込んだ画帖です。特筆すべきはその大きさで、縦横8㎝に満たない小さな画面に色鮮やかな花鳥の姿が細やかに描かれています。

同《四季花鳥画帖》のうちカワセミ図
水面に視線を落とすカワセミなどは、その愛らしさに思わず目を奪われてしまいます。
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バリ島《人物幾何学文様経緯絣経糸緯糸紋織(グリンシン)》(一杉秀樹氏寄贈)
一万数千の島々からなるインドネシアでは、島ごとに特徴ある染織品を生み出してきました。中でも異彩を放つのが、バリ島で作られたグリンシンと呼ばれる絣です。暗褐色を用いて四つの角を持つ星をあしらった神秘的なデザインが特徴で、よく見ると影絵人形のようなモチーフがいくつも配されているのも分かります。

バンチェン《黒陶刻線文広口壺》(尾﨑直人氏寄贈)
黒色を呈し、表面にうねるような波状の文様が陰刻線で彫り出された土器です。これはタイのバンチェン遺蹟から出土したバンチェン土器の特徴です。力強い文様や、シャープで堂々とした姿が見どころです。
筆《金龍寺宛書簡》(加野象次郎氏寄贈-scaled.jpg)
仙厓義梵(1750-1837)筆《金龍寺宛書簡》(加野象次郎氏寄贈)
仙厓義梵は江戸時代に活躍した禅僧で、日本最初の禅宗寺院である博多・聖福寺の住職を務めたことでも有名です。親しみやすい書画を通して禅の教えを分かりやすく伝えたことから「博多の仙厓さん」と呼ばれて人びとに慕われました。本作は、仙厓が金龍寺の和尚へ宛てた書簡で、「菊の花が見事に咲いたのでぜひ見に来てほしい」という内容です。仙厓の飾らない人柄を伝える微笑ましい作品です。
以上、本展出品作品をいくつかピックアップしてご紹介いたしました。本展覧会を通して、作品だけでなく、作品を蒐集されたご所蔵者の方々の思いや人柄にも思いを馳せていただけると幸いです。最後になりましたが、貴重な蒐集品をご寄贈くださった方々に心より感謝申し上げます。
(学芸員 古美術担当 宮田太樹)
2024年5月15日 09:05

ADAPTATION – KYNE展に、たくさんの方にご来場いただいています。本当にありがとうございます。美術館のロビーに行きかう人びとのファッションも、ストリート系の方が多くて楽しいです。男性のお客様が多いと感じてもいて、それも嬉しいことです(いつもは圧倒的に女性が多いので)。
毎日のように展覧会の会場の内外をうろうろしていますが、ある日女性のお客様が、「…どこをどう見たらいいのかしら。なにか(手がかりが)あるといいのに」と、そばにいた男性に話すともなく話しておられました。
いわゆる展覧会をよく見ている方ほど、そんな風にとまどうのかもしれない、と思いました。確かに絵柄はマンガっぽいし、そもそもこれはいわゆるイラストというもの?絵画?現代アート?よくわからなくて、ちょっと二の足を踏んだりするかもしれません。
そう、実は、KYNEさんの作品は「かくかくしかじか」と定義するのが難しいのです。それは、いろいろな分野にまたがっていて、1か所に収まりきれないからです。でも、KYNEさんが描いているのがなにか、ということは言えます。「女性」です。
若くてきれいな女の子の絵ばかりだもんねー。そう、それは間違っていない。絵柄が単純すぎて偉大な芸術って感じがしない。そう、それもその通り。
でも、かつて一度でも、笑いたくないし、言葉にしたくないし、声を掛けないでほしいし、そばにこないでほしい、と思ったことがある人には、ぜひ、その時の「鏡に映ったわたし」を見に来てほしいと思います。
筆者自身、目の前の絵とは似てもにつかないけど、そんな気持ちにあふれていた時の自分を鏡でみるようだと思います。特にZONE1の作品群でそう感じます。KYNEさん自身は、一作一作に特別な物語を与えてはいないといわれていますが、そこに自分の物語を読むことを否定されてはいません。もしかしたら、その余地のために物語を与えていないのかもしれません(これは個人的な感想です)。
KYNEさんのドローイング(ZONE3)を見ると、鉛筆で描かれたデッサンはふんわりやさしいのですが、最終的な線を決めてペン入れした後は、強い表情へとスイッチが入る感じがします。特に、首から上だけのアイコン化されている女性像は、笑顔でしっかり他に対して武装しているように感じます。そのアイコンを「FRAGILE(こわれやすい、傷つきやすい)」という輸送用のステッカー風に仕立てた作品があります(ZONE2)。つい、深読みしたくなります。

一方で、最新作の女性たちは、もう少しのびのびした(ゆるい?)感じも加わっています。人生怒ってばかりはいられないし、リラックスできる時間もある。つまり、ひとつのイメージにしばられなくていい、変化していい、矛盾していい、というようにも見えます(これも個人的な感想です)。

KYNEさんは、そういう気持ちわかっているよ、というメッセージを発しているのでは、決してありません。そんなに単純に人の内面なんかわからない。だから、だれかの人生のストーリーを表現=消費するようなこともしない。だから、誰とわからない人の表面のみを描く。しかし、その背後がからっぽなのか否かの答えは、むしろ見る人の方に委ねられているのではないかと思うのです。
ぜひ、出会いに来ていただければと思います。
(館長 岩永悦子)
2024年5月9日 09:05
タイトルを見て、何のことだろう?と思った方も多いと思います。これは、本年の国際博物館の日のテーマです。ICOM(国際博物館会議)によって5月18日は国際博物館の日と定められており、毎年異なるテーマが設定され、世界中のミュージアムでこの日にちなんださまざまな記念行事が実施されています。ちなみに2023年のテーマは博物館と持続可能性・ウェルビーイング(Museums, Sustainability and Well-being)でした。昨年のブログはこちら
毎年、国際博物館の日を記念し、福岡市では「福岡ミュージアムウィーク」を開催しています。本年は5月18日(土)~26日(日)に市内の18館を会場にさまざまなイベントが行われます。
ミュージアムウィークのチラシ
当館でも、講演会、ベビーカーツアー、建築ツアー、ボランティアによるギャラリーツアーなどのプログラムを予定していますが、今回は市内18館で行われる「福岡ミュージアムウィーク」ならではの魅力を2つご紹介しようと思います。
まず1つは、コレクション展/常設展の入場無料です(ただし半額・割引の館もありますので詳細はHP・チラシ等でご確認ください)。「コレクション展て何?」「常設展はいつも同じでしょ?」と思うかもしれませんが、当館の場合は2、3か月に1度展示替えをして、展示内容を変えながら、多くの作品をご紹介しています。そして、このコレクション展こそ、美術館職員である学芸員の腕の見せ所。美術館に勤めていると「福岡市美術館の魅力は何ですか?」と聞かれることがよくありますが、その時、私は(きっと他の職員も)自信をもって「古美術から近現代美術まで幅広く所蔵しているコレクションです!」と話しています。当館の学芸課は古美術係、近現代美術、教育普及係という3係に分かれていますが、それぞれ専門分野を活かしてコレクション展示を行っています。

古美術のコレクション展示より「東光院のみほとけ」

近現代美術のコレクション展示
他の館に目を移すと、福岡市博物館ではあの「金印」が常設展で見られますし、福岡アジア美術館では開館25周年記念の「アジアン・ポップ」展も面白そうだし、福岡県立美術館や九州産業大学美術館もコレクション展無料なら行ってみようかな、なんて独り言になっていますが、ぜひ各館のコレクションを楽しんでいただきたいと思います。福岡市にこれだけたくさんの文化施設があることも、改めてすごいことだと実感します。
そして2つ目はスタンプラリーです。福岡ミュージアムウィークといえばスタンプラリー!とは言いすぎかもしれませんが、18館のうち3館のスタンプを集めて応募すると、抽選で素敵なプレゼントが当たるというものです。私が注目するのが、各館のスタンプ。実は、それぞれの館で準備している全くのオリジナルです。私も昨年こどもを連れて、スタンプラリーに参加したのですが「この館はこんなスタンプなのか!」と意外な発見と楽しみを見つけて、いつか全種コンプリートしたいと思ったのでした。

チラシにスタンプラリーの台紙がついています。
昨年、スタンプへの想いを熱くした私は、当館のスタンプを今年から新しいデザインにしました。これまで福岡市美術館はロゴマークのスタンプを使っていたのですが、今年からある作品をモチーフにしたスタンプになります!どうぞお楽しみに。ぜひ、スタンプを集めに、そしてコレクション展を楽しみに、5月18日~26日は福岡市内のミュージアムへ足を運んでいただけると嬉しいです。
(学芸員 教育普及係 﨑田明香)