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福岡市美術館ブログ

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特別展

鳥獣戯画展開催中です

 9月3日(土)から開催中の特別展「国宝 鳥獣戯画と愛らしき日本の美術」。27日(火)から後期展示が始まりました。

《鳥獣戯画 乙巻》(京都・高山寺蔵)展示風景

 前期では、《鳥獣戯画》の甲・丁巻を展示していましたが、後期からは乙・丙巻をご紹介いたします。(10月4日(火)からは場面を変えて展示します。詳しい展示場面についてはこちら
https://www.fukuoka-art-museum.jp/uploads/chojugiga_scenechange.pdf

 「ウサギ、カエル、サルが出てくる有名な甲巻は展示されていないんでしょ?」なんてお思いのあなた。本展のみどころは鳥獣戯画だけではありません!(もちろん、「鳥獣戯画」もご覧いただきたいですが)ということで、今回のブログでは鳥獣戯画以外の出品作品の魅力をご紹介いたします。

黒田家と動物
本展では、鳥獣戯画にちなんで動物を表した美術作品を数多く紹介しています。中でも私が関心を持ったのが、福岡の人びとがどのように動物を表した作品を楽しんでいたのか?ということ。そこで、福岡藩を治めていた黒田家に関わりのある動物関連作品及び資料を調べてみることにしました。まず、ご紹介したいのが《黒田忠之像》です。福岡藩黒田家第二代藩主・忠之(1602~1652)の肖像画で、白い犬と視線を交わすように描かれるのが特徴です。

狩野探幽筆《黒田忠之像》(福岡市美術館蔵)

 殿様の肖像画といえば、武具甲冑に身を固めた勇ましい姿や、貴族の正装である束帯姿で威儀を正した様子で描かれる場合が多いです。こうした一般的な肖像画とは大きく異なる本作がどういった経緯で描かれたのか、ついつい妄想が膨らんでしまいます。「オレの肖像画はこの犬と一緒がいい!」「見つめ合っているところを描いてくれ!」などなど、絵師に注文をつける忠之の様子が目に浮かぶようです。残念ながらこの妄想を裏付ける資料は全く見つけることができていません。ですが、忠之がこの犬に深い愛情を注いでいたからこそ、本図のような作品が生み出されたのではないでしょうか。
妄想ついでにこの犬についてもう少し見て見ましょう。

《黒田忠之像》(部分)

 そこまでリアルに描かれてはいませんが、垂れ耳にシャープな顔立ちというのは、例えば、イタリアングレーハウンドのような洋犬の姿を思わせます。「江戸時代に洋犬なんていたの?」なんて声が聞こえてきそうですが、当時、洋犬は唐犬とも呼ばれ、外交や貿易を通して海外からもたらされていました。忠之をはじめ、黒田家の藩主たちは、海外との窓口であった長崎の警備を任されていた関係で舶来の動物に接する機会は多かったようです。忠之の時代に黒田家で唐犬(洋犬)が飼育されていたのかどうか、やはり、資料がなく不明と言うほかありません。ですが、忠之よりは時代が降るものの、ある時期より黒田家で唐犬が飼育されていたことは確かです。
それを物語るのがこちらの《カワウソのヒゲ》。

《カワウソのヒゲ》(福岡市博物館蔵)

 かつて、福岡藩士の子孫のお宅に伝来したもので、現在は福岡市博物館に所蔵されています。このヒゲの包紙には発見の経緯が記されており、慶應2年(1866)の9月4日、昼の12時から14時の間頃に福岡城の庭で唐犬とカワウソが戦って採取されたそうです。
福岡城の庭とは、地図にもお示ししている通り、福岡市美術館からもほど近い、舞鶴公園三の丸広場と思われます。

福岡城周辺の地図。赤枠の外側はかつてはお城を巡るお堀でした

どうです?だんだんと他にどんな動物についての作品があるか気になってきたのではないでしょうか?あとはどんな作品が展示されているか、ぜひ美術館にいらしてご覧いただければと思います。そして、展覧会場で動物たちをご覧いただいたあとは、広場にもお立ち寄りいただき、動物たちでにぎわっていたかつての様子に想いを寄せていただければ幸いです。

宮田太樹(福岡市美術館 学芸員)

館長ブログ

FaN Week「コレクターズ アートと生きる四人」展とは⁈


 今年は、福岡市が福岡市美術館やアジア美術館のこれまでの取組みをさらに発展させ、彩りにあふれたアートのまちをめざす「FaN(Fukuoka Art Next)」の元年。

市民にとってはアートに親しむ機会が増え、アーティストにとっては活動、交流がしやすくなる、そんな街を目指してさまざまな取り組みを行っています。

 そうした取り組みが、ぎゅぎゅっと集中しているのが、9月23日(金祝)~10月10日(月祝)のFaN(Fukuoka Art Next)Week。福岡市美術館では、参加型ワークショップ(9月23,24日)やアート・マルシェ(9月23~25日)が開催されますが、なんといっても、ぜひ皆さんに見ていただきたいのが、家入一真氏、榎本二郎氏、小笠原治氏、熊谷正寿氏(50音順)の四人のコレクターの方々が出品してくださっている「コレクターズ アートと生きる四人」展です。

 通常美術館では、テーマを立てて展示を考えるか、一人のコレクターに集中して紹介するか、どちらかなので、4人のコレクターを一度に紹介する、ということに関わるのは、新しい経験でした。FaNを統括する福岡市経済観光文化局の仲間や、キュレーションを引き受けてくださった佐賀大学の花田伸一准教授、運営スタッフがそれぞれ役割分担をするという仕組みも初めて。その、どのチームが欠けてもてきなかったのが、この展覧会です。

 美術の世界、ことに展覧会は、アートコレクターの存在抜きには、成立しないというのが実情です。作品を収集し、さまざまなリスクから作品を護り、後世に伝えるということを、個人の力で行っているコレクターの協力なくしては、展覧会の開催はできません。

 いままで、どちらかというと、コレクターの皆さんは、スポットライトを作品に譲り、図録には「個人蔵」とだけ記されることが多い存在でした。ですが、この展覧会は、展示される作品とそれを所蔵するコレクターの皆さんの両方が「主役」です。アートファンであっても、作品を買うなんて考えたこともない、という方も多いでしょう。その対極にある「コレクター」は、どんな人たちなのか?を垣間見るチャンスでもあります。

 本展で紹介するコレクターの方々は、みなさん新しい分野で活躍されている経営者で、ご存じの方も多いのではないでしょうか。親子2代で美術コレクターの方もおられれば、美大を目指していた方、全くの畑違いだったのに⁉という方も。みなさん「コレクションをはじめたきっかけ」「コレクションのポリシーや楽しみ」「今回の出品作について」という質問にも答えてくださっています。仕事とアートと人生について、ストレートに語られているので、ぜひ、会場で作品とともにご覧いただきたいと思います。


 展示は、コレクションごとに、4つの壁面に展開しています。つまり、本来的には関連のない4つの個人コレクションが一つの空間に並ぶわけですが、結果として、ピカソなどの巨匠の作品にはじまり、イギリスを代表する現代美術アーティスト、ジュリアン・オピーへ、そして、日本の若手作家による2020年代の表現へと、4つの個性的なコレクションが、あたかも次々とバトンを渡していくような流れになっています。

 さて、「本来的には関連のない4つのコレクション」からなる今回の展示には、実はある共通点がありました。それは「福岡市美術館のコレクションにはない!」という点です。あの人の作品もこの人の作品も、残念ながら当館には所蔵されていません。ですので、ぜひ、この機会に多くの方に見ていただきたいと思います。そして、四人のコレクターたちの世界観にふれてください。会場を出る時には、自分だけの作品を探しに行きたくなるかもしれません。

「コレクターズ アートと生きる四人」
9月23日(金祝)~10月10日(月祝)
福岡市美術館 近現代美術室B
*要コレクション展観覧券

★おしらせ
FaN Week 期間中には、Artist Café Fukuoka(旧舞鶴中学校内)にて、今年アジア文化賞を受賞された、シャジア・シカンダー氏による大迫力アニメーション《視差》をご覧いただけるほか、9月23日13時~17時は、アーティスト・イン・レジデンス専用の制作スタジオの「オープンスタジオ」を開催します。
福岡市美術館から徒歩5分!ぜひ、どちらにもお運びください。

(館長 岩永悦子)

 

 

コレクション展 古美術

鳥獣戯画展と明恵礼讃展が始まるまでのお話

 当館では現在、大小ふたつの企画展が、下記の通り開催されています。

★特別展「国宝 鳥獣戯画と愛らしき日本の美術」(会期:9/3~10/16、会場:特別展示室)
https://artne.jp/chojugigafukuoka/

★関連企画「明恵礼讃“日本最古之茶園”高山寺と近代数寄者たち」(会期:8/31~10/23、会場:古美術企画展示室)
https://www.fukuoka-art-museum.jp/exhibition/cyoujyuu2/

 どちらも京都・高山寺の宝物を中心に構成された展覧会で、前者を同僚のM学芸員、後者を私が企画担当しました。古美術係の学芸員2人が、ともに開催時期を同じくする2つの企画展をそれぞれ担うのは、少なくとも私が当館に就職してから約20年の間では初めてのことです。
 開催情報や展示内容についての詳細はURLをご参照いただくことにして、ここでは両展が開催に至るまでの経緯や裏話を書こうと思います。

 *

 西日本新聞社を通じて高山寺の国宝・鳥獣戯画を公開する展覧会を企画できないかという相談を受けたのが2019年の夏、当館がリニューアルオープンして幾ばくも経たない頃でした。M学芸員が主担当となり、鳥獣戯画を中心に、「愛らしき」動物たちへの眼差しに焦点を当て、全国各地から作品を集めた企画案が出され、館内、同社との協議、そしてお寺様にご相談しながら、2022年の開催を目指して実現可能性を高めてゆきました。年が明けて2020年はコロナ禍の到来で右往左往しましたが、文化庁や作品寄託先の館とのやりとりなどを経て、計画は着々と進んでいました。
 その過程で、高山寺の事実上の開山・明恵上人を顕彰する何らかの企画を盛り込む必要性が検討され、私が担当することになりました。ちょうどコロナ感染防止のための臨時休館に伴って在宅勤務をしていた時でした。以前に知己を得た大学の先生の論文を通じて、近代数寄者たちが高山寺に寄進した茶室「遺香庵」とその什物たる多くの茶道具が伝存していることを思い出して「明恵礼讃」展の企画案を作り、鳥獣戯画展の関連企画として同時期に別室にて開催することが決まりました。ちょうど翌年秋に開催を控えて担当していた特別展「没後50年 電力王・松永安左エ門の茶」の内容を具体化しようとしていた時でもあり、別個の企画が「近代数寄者」というキーワードでつながったことの幸運を感じたものです。

 2021年秋の「松永安左エ門の茶」展が終ると同時に、両展の準備が本格化しました。M学芸員はこの年、松永展の副担当として私にコキ使われながらも、鳥獣戯画はじめ借用予定の重要文化財の展示計画の具体化-例えば文化庁及び文化財活用センターの指導を受けながら、作品を陳列する展示ケースの環境調査など-、関係機関との折衝、それに明恵礼讃展の作品調査の段どり等を進めていました。作品の実見調査、写真撮影、出品交渉、そしてポスター、チラシ等の告知物の製作を進め、両展の実行委員会が立ち上がったのは2022年の春。
 いつも、実行委員会が立ち上がる頃から、図録原稿執筆のプレッシャーが強まってきます。カレンダーやスケジュール帳を見るのが異常におそろしくなるのもこの頃からです。図録印刷会社のご担当から編集スケジュールを渡され、恐る恐る覗き見て、胃がキュウ~ッとなります。とくに入稿締切までのひと月が佳境であり、この時期は、ひと月が60日あるはずだと本気で信じたくなります。あくまで遅筆である私個人の話ですが。
 ともあれ、事情にもよりますが、図録の完成が展覧会の開幕に間に合わないというのは、学芸員として最大級の恥だと教えられましたし、実にその通りだと思っています。だから、原稿をかかえている同士で、互いの執筆状況を尋ね合っては一喜一憂したり、励まし合ったりして、何かと気ぜわしい時を過ごしました。
 図録原稿が館内決裁を終え、デザイナーによるレイアウトを経て印刷会社に入稿されると、ひとまず大きな肩の荷が下ります。そして図録の文字校正・色校正、展覧会場の図面、パネル、キャプション・作品解説等の校正、各所蔵先に展示作品を拝借にうかがうためのスケジュール、展示作業の詳細スケジュール調整などなど…膨大な作業がのしかかってきます。体力を消耗しますが、頭の中にあるイメージが次々と目に見える形になってくることで気分が高揚します。

 作品集荷及び輸送トラック添乗の旅は、今回、展覧会開幕のひと月前から始まりました。私は、お盆明けに京都へ4日間の集荷、その翌週に3日間をかけて東京から福岡までの作品輸送トラックに添乗するのを任されていました。
 盆明けに予定通り図録が校了し、京都にてお寺様、寄託先にて宝物の拝借に伺い、万事順調に帰福。さぁいよいよ展示作業、ラストスパートだと駆けだした数日後、スッ転んでしまいました。8月21日にコロナに罹ってしまったのです。恐れていた事態でした。展示作業は8月29日~9月1日まで。療養期間は9月1日まで。そう、明恵礼讃展の担当者で、鳥獣戯画展の副担当でありながら、どちらの展示作業にも参加できなくなったのです。
 発熱の苦痛の半分は、職場に行きたくても行けない現実に直面した心の苦しみでした。M学芸員が引き受けてくれたものの、鳥獣戯画展とほぼ同時の作業日程とあってはあまりに負担が大きく、彼が倒れてしまっては両展とも開幕できなくなるので無理はさせられません。
 そんな時、課の仲間、上司から、私へのお見舞いメッセージとともにM学芸員と私をサポートする「明恵展 展示作業チーム」が結成されたとの知らせがありました。皆、それぞれに大きな仕事を抱えている中、係を超えて、私が作った図面やキャプション、パネルなどのデータを探して、すでに必要な準備を進めてくれていたのです。胸に込み上げてくるものが解熱を早めてくれたと思うのは、気のせいではないと思います。
 熱が下がっても、自宅に居るしかありません。せめて展示作業チームが少しでも作業をしやすいよう、展示平面図とは別に、いつもは作らない立面図を作ることにしました。これがやりだすと結構楽しく、かえって作業を複雑にしてしまったような気もしますが、チームは私がイメージした明恵礼讃展の空間を見事に作ってくれました。
 M学芸員は休みなく鳥獣戯画展の展示作業に取り掛かり、両展とも無事に?開幕したのでした。

 お蔭様で両展ともに好評開催中です。開幕してからやろうと後回しにしていた仕事がたまっていて、開幕しても結局休めないというのも「あるある」なのですが、私はコロナ療養で充分すぎるほど休んだので、今回はそれがありません。少しでも取り戻せるようにガンバリます!

(主任学芸主事 古美術担当 後藤 恒)

 

鳥獣戯画展 展示作業風景

明恵礼讃展 会場風景

 

 

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