2021年11月18日 13:11
11/16より、近現代美術室Aの一角を使い、「特集展示:菊畑茂久馬」を開催しています。これは年間スケジュールにはない、臨時の展覧会でして、「近代日本の美術:明治から昭和初期まで②」の半分を展示替えする形で行っています。
なぜ急遽特集展示をすることになったと言えば、NHK「日曜美術館」で、菊畑茂久馬の活動と作品が特集されることに決まり、当館としても、少しでも画家の活動を全国の皆さんに理解していただければ、と考え番組制作にご協力することにしたからです。
NHKのディレクターさんが特に撮影を所望されたのが、《天河 十四》でしたが、こちら、200号のカンバスを3枚つないだ、縦294㎝、横582㎝の大型絵画です。映像映えさせるには、展示室で撮影して戴くのが一番。そのほかに《ルーレット No.1》の撮影も必要でした。そこで、初期の作品である《葬送曲No.2》も加え、初期から後年までの主要作3点を展示し、菊畑の生涯を駆け足でたどる内容としました。「日曜美術館」の司会である作家の小野正嗣さん、柴田祐規子アナウンサーがいらっしゃり、この展示室内で、作品を見ながら、お二人からの質問に私が答える形で、収録を進めました。
本来ならば、撮影が済めば作品は片づけて元の展示に戻すべきところですが、番組をご覧になった方が当館にいらっしゃった時に、テレビで見た作品がないとがっかりされるかも、と思いまして、年末の12/26までこの特集展示を続行します。
私自身、これまで展覧会の紹介などで、テレビに出演した経験は何度かありましたが、全国放送の長尺番組に出演するのは初めての経験で、緊張の連続ではありましたが、事前打ち合わせもしっかり行え、また司会の小野さん、柴田さんの当意即妙のご質問やご感想が実に適切で、いい内容に仕上がったのではないかと思います。
菊畑の活動を紹介するドキュメンタリー番組は、NHK福岡放送局やRKB毎日放送でしばしば制作されてきましたが、いずれもローカル枠での放送でした。今回は全国で放映されます。福岡の文化人や戦後美術の研究者の間ではよく知られていた方ですが、一般的な知名度としては今一つのところがありますので、この特集番組をきっかけに、菊畑茂久馬への理解が一層広まることを期待したいと思います。
撮影中の一コマ。
【放送データ】日曜美術館「孤独と反骨の画家 菊畑茂久馬」
NHK(Eテレ) 11月28日(日)午前9時~9時45分
*再放送:12月5日(日)午後8時~8時45分
(学芸係長 山口洋三)
2021年11月11日 14:11
緊急事態宣言もあけ、まだまだ油断できないものの、新型コロナウイルス感染症の患者数もずいぶん減ってきて、なんとなく解放感を味わっている人も多いのではないでしょうか。気が付けばもう秋ですし、秋と言えば、食欲、読書、スポーツ、そして芸術の秋ですよね。実は、福岡市美術館では、毎年11月3日の開館記念日とその前後の休日の3日間、ファミリーDAYを開催しています。この期間中は、親子で一緒に美術館を楽しんでもらうために、館内のあちこちでワークショップやギャラリートークが同時に行われます。今年はどんなプログラムが行われたのか、ちょっとここでご紹介したいと思います。今年、参加し損ねた!という方は、ぜひ、来年の参考にしてください。
さて、冒頭で「新型コロナウイルス感染症の患者数もずいぶん減ってきて・・・」と書きましたが、しかし、まだまだ対面のワークショップやギャラリートークを行うのは難しい状況です。そこで、今年のファミリーDAYも、オンラインギャラリートークを盛り込んだり、作品紹介動画も作ってみました。しかも、今年はどちらもボランティアさんにチャレンジしてもらいました。
ボランティアさんによる作品紹介動画「おうちでアート1分コレクション紹介」
展示室では、参加者に作品についてのクイズを解いてもらう「かいとうキッズ 美術館の謎をとけ!」と、双眼鏡などを使って作品をじっくり観察してもらう「アート観察隊」の2種類のワークシートを使ったプログラムを展開しました。親御さんと一緒に一生懸命クイズを解いたり、夢中で双眼鏡を覗いていろいろな作品を拡大して見たりしている子どもたちを見ていると、少し日常が戻ってきたような気もして、こちらも嬉しくなりました。
そして、人数を絞ってですが、対面でのワークショップも2つ行いました。一つは、「アフリカンプリントなバッジをつくろう」です。講師は福岡教育大学の加藤隆之先生がつとめてくださいました。このプログラムは、今年7月に設置されたインカ・ショニバレCBE《ウィンド・スカルプチャー(SG)Ⅱ》を見ながら、当館所蔵のアフリカンプリントをもとにした「ぬりえ」に、用意された4種類の画材から好きな色を選んでぬり、それをさらに缶バッジにしてしまうというものです。以前ブログでも紹介されたかと思いますが、《ウィンド・スカルプチャー(SG)Ⅱ》自体が、当館所蔵のアフリカンプリントを元に構成されています。一枚の布が彫刻になったことを想像しながら制作して欲しいと缶バッジマシーンは、もちろんこの作品が見える場所に設置しました。作品を見ながら、「ぬりえ」を缶バッジにしていく子どもたち。制作後は、しっかり胸に缶バッジをつけて他のプログラムに参加していました。
そして、もう一つのワークショップも、同じく《ウィンド・スカルプチャー(SG)Ⅱ》にちなんだ「アーティストと一緒に風の彫刻をつくろう!」というもの。今、とても精力的に個展やグループ展に出品されている、八女市在住のアーティスト牛島智子さんがワークショップを行いました。このワークショップのために、自分の作品も持ってきてくれた牛島さん。和紙でできたその作品をもって風をはらませながら、まずは《ウィンド・スカルプチャー(SG)Ⅱ》を鑑賞しました。鑑賞後は、いよいよ自分の「風の彫刻」を制作します。和紙を折り、色や模様をつけ、そして紙の合わせ目を糸で縫っていきます。皺を寄せてひっくり返すと、和紙の内側に空間ができ、風をはらんだ彫刻ができあがりました。ノリやボンドを使うのではなく、「縫う」という作業が子どもにも大人にも新鮮だったのか、まだ裁縫をしたことのない小さい子も、久々に縫物をする保護者の皆さんも皆ものすごく集中して制作していました。完成した作品には、皆ものすごく満足げで、風を想像しながら作品をかざしたり、誰ともなく頭にかぶったりしながら、牛島さんの作品の前で記念撮影をしていました。
そして、実は、いつもは11月3日とその前後の土日の3日間がファミリーDAYの期間なのですが、今年は、平日の11月4日、5日にもプログラムをしました。「初めてのベビーカーツアー」です。小さいお子さんがいると、なかなか美術館に来られないという保護者の方々が参加してくださいました。
さて、毎年のことですが、今年も当館のボランティアさんは大活躍でした。オンラインツアーはもちろんのこと、ワークシートの受付から展示室での見守り、そしてワークショップのサポートなど、ファミリーDAYの活動はボランティアさんたちの支えによって成り立っているといっていいでしょう。また、福岡教育大学や九州大学の学生さんもボランティアで参加してくれ、スタッフとして素晴らしい働きをしてくれました。そして、博物館実習生の皆さんも、将来学芸員となるため、来館者と直接触れ合う機会として、ファミリーDAYスタッフとして活動しました。昨年は人が集まること自体困難でしたが、コロナ前のようにはいかないものの、今回はさまざまな人がファミリーDAYに関わってくれ、それがまたこの活動を活性化させていると改めて気づいた次第です。
もう一つ、ファミリーDAYでは必ずアンケートをとっています。特に今年は、「小さい子どもを連れて美術館に行くのは、はばかられるので、こういう企画があるとすごく嬉しい」とか「昔はよく美術館に行っていたのですが、子ども連れでは初めてです」というご意見を目にしました。普段子ども連れで美術館に行くのはなかなかハードルが高いんだな、とここでも改めて気づかされました。ですが、一方で、親子で参加できる企画が望まれていることがよくわかり、毎年やっている意味はあるな、とも思います。
また、今回のオンラインギャラリートークでは、昨年のアンケートには見られなかった「子どもが騒がしくて美術館には連れて行かれないけれど、オンラインなら」という理由で参加してくださった方、さらに子どもが入院中で外出できないのでオンラインでのプログラムはありがたい、というご意見もいただきました。
これからも、皆さんが自分たちのペースで美術館が利用できるような、そんな企画を考えていきたい、そして、これまで以上に美術館という「場」がさまざまな人たちの拠り所になればと、気持ちを新たにした今年のファミリーDAYでした。
(主任学芸主事 教育普及担当 鬼本 佳代子)
2021年11月3日 09:11
どーも。総館長の中山です。お元気でしたか?
11月3日は文化の日ですね。1979年に当館が開館した記念日でもありますし、毎年コレクション展示が観覧無料になり、ファミリーDAYとしていろんなプログラムも開催しています。
ところで、文化の日は「国民の祝日に関する法律」によれば、「自由と平和を愛し、文化をすすめる」日だそうです。「文化をすすめる」日って、ちょっとすごいですね。簡単そうに書いてあるけど、そんなことできるのかなあ。
むかし学芸員になりたての頃、福岡市の職員研修で、ある講義の冒頭に「文化とは何ですか?」と講師から質問されたことがありました。情けないかぎりですが、わたしも含めた何人かが当てられ、誰もまともに答えられませんでした。質問されたのは文化学芸職や文化財職の人間だったので、職名に「文化」がついているのだから答えられるでしょ、という期待があったのでしょう。それとも、ちょっとした意地悪だったのでしょうか。まあ、ふつうは答えられないですよね。突然「文化とは何ですか?」なんて。答えられます?
講師は「文化とは、物差し、尺度である」と教えてくださいました。なるほど。尺度ですか。いまの日本ならメートル法、という意味では断じてないですね。さまざまな事象や対象に対して、ゆるぎない物差しではかり、評価したり批評したりする価値基準を尺度、イコール文化だとおっしゃったと記憶しています。「実体としてはもうそれほどの実力もないのに、いまだに世界の文化の中心はウチだ、みたいにえばっているところがあるのも、この物差しを捨てていないせいだ」みたいなお話もあったな。虚勢で胸を張っているのがどこの国の都かは忘れました。
40年たっても、わたしはいまだに「文化とは〇△□だ」、などと明確に答えられませんが、最近気になるのは、その尺度のほうなんです。若い学芸員がわたしとのある会話のなかで、ネットの書き込みなどは「白黒をつけたがりますよね。グレーがない」というようなことを言ってくれました。わたしもそうだなあと思うのです。白と黒しか目盛りが刻まれていない物差しではかるとそうなる。物事をなんでも二項対立的にとらえてしまいがちになる。ひょっとしたら、効率的で正確で、あいまいさがないデジタル的な考え方かもしれないなどと、デジタルを悪者にしたくなってしまいます。なんでもかんでもデジタル化の時代ですが、デジタルデータって、一瞬で消えてなくなる危険性もかかえているんです。
わたしは仕事に関しては速さや効率を重視してきましたし、むかしからコンピュータ大好き人間で、自宅の書斎は新旧のパソコンに占拠され、仕事場でも家でも、つまり人生の相当な割合をパソコンの画面を見てすごしてきました。20年前は一晩かかっていた処理が、わずか数秒で完了するさまを目の当たりにして、ひとりでニヤニヤするような人間です。ですから不可逆的に進行するだろうデジタルトランスフォーメーションに対しても文句を言うつもりはありません。運用を誤らなければメリットは大きいですから。
でも、デジタル化はすべての社会問題を解決するわけではないことくらいわかっています。数字で割り切れない、割り切ったら正体がわからなくなってしまうモノで現実の空間はあふれかえっています。物体や身体や、その他もろもろのモノ。万物。森羅万象。全部をデジタル表記にいつかできるかもしれませんが、まあ、現時点では誰もそんなことは考えていないでしょうし、すべての情報をデジタル化できたとしても正体不明のモノはあいかわらずそのまま実体として目の前に残っているわけですから。
あれ、でもよくよく考えてみたら、物差しはアナログな物体ですが、デジタル機器とも言えますね。いろいろはかれますし、読み取るのはいつも数字ですし。デジタル表記って、結局数字ですから。いや、どう見ても目盛りと目盛りのあいだなので、困ることもあるけど。
むかしから、わたしたちは物差しでいろんなものをはかってデジタル化してきたことになるのでしょうか。だったら、むかしもいまも、物差しの精度は大事かもしれません。白と黒のふたつの目盛りだけでは、はかれないものが多すぎる。がんばって、目盛りを増やしましょう。見たことのないものをミュージアムで見たら、ひょっとすると、目盛りがひとつ増えるかもしれない。ひょっとして、目盛りがひとつ増えると、文化もひとつ、すすむかもしれない、なんて。うーんちょっと、違いますかね。
(総館長 中山喜一朗)
<エジプトのネコの物差し>
随分前にお土産でもらって、ずっと愛用しています。大英博物館では物差しも売っているみたいです。さすがというか。でも、はかれるのはセンチとインチだけです。