開館時間9:30~17:30(入館は17:00まで)

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福岡市美術館ブログ

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特別展

美術館で感じる!博多の祈りの世界

先月26日から特別展示室にて「博多のみほとけ」を開催中です(~12月8日)。
この展覧会のテーマはずばり、「展示室に博多湾の祈りの世界を再現する」ということです。
これを表現するため、展示室入ってすぐの壁には海側からみた博多湾の写真を大きく掲示しています。

博多湾遠景。左が志賀島で右が糸島

本展はコの字の形をした展示室全体を博多湾に見立てて、それぞれの地域に伝わる尊像や宝物を紹介していて、展示室の入り口がちょうどロゴマークの位置にあたります。
ちょうどこの位置から右(西)を見ると、糸島半島の北東部・小田(こた)にある小田観音堂に祀られる観音菩薩をご覧いただけます。

小田観音堂に祀られる観音像。左から六臂観音菩薩立像、千手観音菩薩立像、十一面観音菩薩立像。(いずれも福寿寺蔵)

左(東)に目を移すと、志賀島の荘嚴寺に祀られる観音菩薩をご覧いただけます。

《聖観音菩薩立像》(荘嚴寺蔵)

糸島と志賀島はそれぞれ博多湾の東西の出入り口にあたります。博多湾を出入りする船を見守るような場所に航海の守護神でもある観音菩薩が祀られているというのは、アジアとの交流をとおして歴史を育んできたこの地域を象徴しているように思います。

古来、大陸の最新の文化を伝えるため、多くの中国人が日本へやってきました。博多は彼らが日本で最初に足を踏み入れる地であり、都がある京都や鎌倉へ上る前にしばらく滞在することもありました。

清拙正澄筆《清拙正澄墨蹟》(福岡市美術館蔵)

本作は、鎌倉時代に中国から来日した禅僧・清拙正澄が、博多の円覚寺の長老であった秀山元中という僧へ贈った漢詩です。恐らく、清拙正澄が来日後、博多へ滞在していた折に依頼されたものでしょう。博多で繰り広げられた国際交流の様子をしのぶことができる貴重な墨蹟です。

僊厓義梵筆《博多図並賛》(福岡市美術館蔵)

本展では博多を代表する名僧として僊厓義梵(仙厓と書かれることが多いですが、本展では正式な僧名である僊厓の表記を用います)の書画も紹介しています。
この作品は石積みの壁に覆われた博多の外観を描いたもの。上部には博多という地名の由来を説いた僊厓による賛(コメント)が記されます。それによると、博愛の君子や博物豪傑が多いから博多というのだそうです。その後に、決して博奕を打つ小者が多いからではないと続けています。博多の人びとを皮肉っているようにも聞こえますが、愛のあるユーモアととらえるべきでしょう。

本展をとおして博多のもつ豊かな歴史を感じていただけると幸いです。
一部の仏像は撮影も可能です。是非みなさま、会場へ足をお運びください!!

(学芸員 古美術担当 宮田太樹)

教育普及

ファミリーDAYで芸術の秋!

 みなさん、こんにちは。美術館に植えてあるイチョウの木がだんだんと黄色に染まり、ひんやりとする空気に秋の深まりを感じます。秋といえば、芸術の秋ですね。福岡市美術館では、毎年開館記念日の11月3日に合わせて「ファミリーDAY」を開催し、未就学児から中学生まで、そしてその保護者の方を対象に、家族で美術館やアートを楽しむプログラムを企画しています。今年は、11月2日(土)、3日(日・祝)の2日間の開催で、3日(日・祝)は大人の方のコレクション展の観覧料が無料となり、家族のお出かけにもピッタリです(福岡市内在住65歳以上と中学生以下はコレクション展観覧料無料)。プログラムには事前応募が必要なプログラムと予約なしで参加できるプログラムがありますが、今回は予約なしで参加できるプログラムについて紹介していきます。

【かいとうキッズ 美術館の謎をとけ! 】2日(土)・3日(日・祝) 対象:5歳くらい~
 福岡市美術館の特色でもある古美術から近現代美術までの幅広いコレクションを活かして、美術館職員が頭をひねって考えたクイズに挑戦するプログラムです。「やさしいクイズ」か「むずかしいクイズ」を自分で選び、名探偵気分で作品を鑑賞しながらクイズを解いていきます。見過ごしてしまいそうなところに新しい発見がかくれています。お子さんと気づいたことをお話ししながら一緒に作品を観賞してみてくださいね。

【お面をつくって作品にへんしん!】2日(土)・3日(日・祝) 対象:3歳くらい~ 定員10人程度(入れかえ制)
 福岡市美術館に展示中の作品をモチーフにしたぬり絵に色を塗ってお面を作ります。作品どおりの色を塗る必要はありません。好きな色を使って、自分だけのお面を作ります。お面の図柄は、なんと13種類!お面を作った後は、本物の作品を見に行くのも楽しみの一つです。

【ミニミニワークショップ】3日(日・祝) 対象:未就学児とその保護者 定員:8組(入れかえ制)
 2階の「キッズスペース 森のたね」に大きなタネのオブジェが登場!これは、アーティストのオーギ・カナエさんがこのワークショップのために制作してくださったものです。このタネのオブジェの中には身近な素材がたくさん入っています。そのタネの中から素材を取り出して、自由に組みあわせながら「森のなかま」を作ります。いろいろな素材に触れて、手触りを楽しむこともできるワークショップです。

【つくって、あそぼう!コブウシくんとおすもさん】3日(日・祝) 対象:小学生~ 定員:6人程度(入れかえ制)
 福岡市美術館の愛すべきキャラクターであるこぶうしくんのもとになった作品《コブウシ土偶》と、誰もがその大きさに圧倒され、つい相撲を取りたくなる中ハシ克シゲ作《Nippon Cha Cha Cha》の動く紙製人形を作ります。動かすための紐を引っ張ると、思いもよらない動きに大人も子どもも笑みがこぼれます。そして、実はチラシには載ってないニューバージョンも登場します…!お楽しみに。

 普段なかなか一緒に作品を見たり、作品をつくったりする機会が少ないご家族や、美術館がなんとなく遠い存在と感じるご家族にとっても気軽に参加できるプログラムとなっています。芸術の秋を家族で楽しめる「ファミリーDAY」へのご参加お待ちしています。

各プログラムの詳細は、ファミリーDAY 2024のチラシを下記よりダウンロードしてご覧ください。 
https://www.fukuoka-art-museum.jp/event/146649/

 

(教育普及専門員 冨坂綾子)

 

 

 

 

 

コレクション展 近現代美術

感動的な作家スピーチ
~モナ・ハトゥム《+と-》を恒常展示しました~

 ちょっと長くなりますが、今回はとても感動的なスピーチをご紹介いたします。
 去る9月14日、「第3回福岡アート・ネクスト・ウィーク」の開会式典にあわせて、モナ・ハトゥム氏による《+と-》を披露しました。これは、1994年の「ミュージアム・シティ・天神 ’94[超郊外]」で初めて公開された伝説的な作品の新バージョンになります。今回、開館45周年を迎える当館の記念として、恒常的に展示するために特別に制作していただきました。
 直径約4mの砂の上をゆっくり回るバーの半分が砂に模様を刻みながら、同時にもう半分が模様をかき消していく作品で、連続するサイクルの中で、ポジティブとネガティブ、創造と破壊、構築と解体など、対立するふたつの力の相互作用が表現されています。いまや国際的に活躍する作家の代表作のひとつに数えられています。

***

[モナ・ハトゥム氏のスピーチ]

 この作品には長い歴史があり、1979年、学生だった頃に制作した作品がもとになっています。それは、砂が入った30㎝四方の小さな箱でした。そこに取り付けられたアームが回転すると、アームの一方が砂の表面に線を描き、同時にもう一方が線をかき消していきました。当時のわたしにとって、この作品は瞑想的で眠りを誘うようなオブジェであり、また一方で、陰と陽の対立する力を想い起させるものでした。
 これは45年前のことになりますが、わたしはそのころからすでに、このオブジェをより大きな作品として実現させたいという野心をもっていました。
 その最初の機会が訪れたのは15年たってからで、福岡で開催された「ミュージアム・シティ・天神 ’94[超郊外]」という展覧会に招待されたときでした。いまからちょうど30年前になります。
 この大きなバージョンの作品は、連続するサイクルの中で、光と闇、戦争と平和、生と死、あるいは創造と解体、構築と破壊などの対立する二つの力の相互作用について考えさせる、ひとつの風景のような作品となりました。
 1994年に福岡で展示されて以来、この作品の別バージョンが、世界中の数多くの美術館で展示されました。そしてこのたび、福岡市美術館の建物に恒久的に埋め込まれることになりました。まるで世界をぐるりと一周して、これから永遠にここで暮らしていくために、もとの家に帰ってきたように思いますし、そうあってほしいと願っています。
 何年もの歳月をへて、この作品は、わたしのもっとも重要な代表作のひとつになりました。そのため、これがこの美しい場所に永遠に根を下ろしたのを見ることができ、大変満足しています。あらためて、アートやアーティストの積極的な支援者である高島市長、美術館のロビーで作品が恒久展示できるようご尽力くださった福岡市美術館の中山総館長、岩永館長に心よりお礼申し上げます。
 わたしは、物事に変化をもたらすアートの力を信じており、アートは鏡のように、見る人それぞれの心の中に、多くの疑問や解釈、異なる物語を浮かび上がらせるものだと思っております。
 わたしは、この作品が福岡の皆様に愛されることを、そして、人々に立ち止まって考える瞬間を与え、わたしたち自身や世界全体がどんなにネガティブな状態に落ち込もうとも、ポジティブなものがすぐそこまで来ているという希望のメッセージを伝えてくれることを願っています。

(英文和訳:太田早耶)

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 1979年は福岡市美術館が開館した年です。そのとき、モナ・ハトゥム氏が《+と-》のもととなる小さな作品を生み出されていたことに、不思議な縁を感じます。
 そして、1994年は、「第4回アジア美術展」を開催した年で、「ミュージアム・シティ・天神 ’94 [超郊外]」はこの「アジア美術展」と連携していました。この翌年には、福岡アジア美術館の建設に向けた準備室がたちあがり、アジア美術館が当館から独立していくことになります。1994年とは、福岡市美術館にとって、開館15周年というだけではなく、次のフェーズに移る節目の年だったのです。まさにその時、その場にモナ・ハトゥム氏が立会い、この《+と-》が初披露されたことに感慨深いものがあります。
 モナ・ハトゥム氏が語るように、まるで福岡から旅に出たかのような《+と-》は、世界を巡り、当館の開館とモナ氏の最初の構想から45年たった今年、福岡に帰郷したように思えてきます。これからは、いつも、ここ福岡市美術館の2階コレクション室のロビーでみなさまをお迎えします。どうぞ、“帰ってきた”《+と-》に会いに来られてください。お待ちしています。

 

[モナ・ハトゥム]
1952年、パレスチナ人の両親のもとに、レバノン・ベイルートに生まれ、現在は英国ロンドンに在住。1975年、ロンドンを訪問中にレバノンで内戦が勃発したことにより帰国できなくなる。そうした自身の人生経験をもとに、居場所の喪失や追放、対立する世界がかかえる矛盾を、インスタレーションや彫刻などさまざまな形式で表現し、世界的に評価されている。
1994年に福岡の街中で行われた「ミュージアム・シティ・天神 超郊外’94」に参加。
2017年にはヒロシマ賞、2019年には高松宮殿下記念世界文化賞を受賞。

 

Portrait Mona Hatoum. Courtesy Neuer Berliner Kunstverein. Photo by Jens Ziehe_cropped

 

(近現代美術係長 ラワンチャイクン寿子)

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