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福岡市美術館ブログ

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植物園で「想いの種」を作ろう!

先日、10月2日(土)、福岡市植物園とのコラボ企画「植物園で『想いの種』を作ろう!」というワークショップを開催しました。今回はその様子をご報告します。

これまで植物園とは何度かコラボ企画を行ってきました。植物園と美術館、普段はそれぞれの分野で活動を行っていますが、コラボすることで参加者にも私たちにもいつもとは違った視点でアートや自然に目を向ける機会になるのではないかと思っています。

今回のワークショップは「種」がテーマ。誰かに届けたい想いを植物の種に見たてて作品にするちょっと変わったワークショップです。なぜ種なのか?そこにはひとつの理由があります。

実はこのワークショップ、北海道出身のアーティスト・小林重予さん(1957-2017)が全国各地で行なっていたものを、当館のアウトリーチプログラムのひとつとして再構成したものなんです。植物、特に種や果実をモチーフにした作品を多く手がける小林さんは、神秘的な植物の世界に影響を受け、日々感じる想いを植物の姿に重ね表現しています。このワークショップには、種の持つふしぎな力や植物の生きる姿に触れ、自分の想いを形にする体験を楽しんでほしいという小林さんの想いが込められているのです。

この日は福岡でも緊急事態宣言が解除された直後の週末、秋晴れの良いお天気にも恵まれて、会場となった植物園も朝から多くの来場者で賑わっています。参加者のみなさんも朝10時の開始時刻にあわせて次々に到着、3組の親子を含め12名の方にご参加いただきました。

ワークショップは最初に植物園スタッフの佐藤ひとみさんに種の話を聞き、小林さんの紹介と作品鑑賞をした後、園内の植物の種を観察、お昼をはさんで午後から作品制作という流れで進めました。

大切なのは種の形やはたらきを見て、そこから作品のイメージをふくらませること。なんといっても植物園は種の宝庫!いろんな種類の種に触れることができるのも植物園ならではです。植物は子孫を増やすため、種にさまざまな仕掛けや工夫をこらしています。風にのって運ばれる種、鳥や動物に運ばれる種、なるべくタイプの違う種を観察できるよう佐藤さんに案内してもらいました。

種の説明をする佐藤さん

先端がカギ状になって人の服や動物の毛にくっつくダイコンソウの種、さやがはじけて遠くへ種を飛ばすゲンノショウコ、プロペラのような形でくるくる回りながら落ちていくミツデカエデやメグスリノキの種など。遠くへ運ばれるために進化した種の形にみなさん興味津々で、種を服にひっかけてみたり、手にとって飛ばしてみたり、普段なかなか気づかない種の魅力に惹きつけられていました。種や植物にまつわる佐藤さんの話も興味深く、参加者からもたくさんの質問が出ます。園内を歩くこと1時間、部屋に戻ったときにはみなさんの手にたくさんの種がありました。 

午後はいよいよ作品作り。気になった種の形や特徴をヒントに、誰にどんな種を届けたいか、まずは言葉にしてみます。形は?においは?もらった人はどんな気持ちになる?などなど。身近な人への想い、たくさんの人への想い、参加者のみなさんが言葉にした想いの種には、想いを馳せた人への大切な気持ちが込められていました。

一緒に参加したお子さんや遠く離れた外国で暮らす娘さんを愛おしく思う言葉にはじんとしましたし、お友達にチョコレートのようなにおいのする楽しい種を贈りたいなんていう微笑ましい言葉もありました。一方で困難な状況にある人へ届けたい希望の種、未来への不安をかかえる人に幸福を届ける種もあります。全国各地に飛んで行って、ワクワクドキドキを届けたいなんていう種も。

 

 

 

 

 

 

 

 

最後は自分がつづった言葉からイメージする種の形を考えました。形は小林さんが描いた種のパーツを組み合わせて作るのですが、もちろん自由に描くのもOK。ただ、小林さんの種の絵はどれも魅力的でかわいらしく、それを選ぶのも楽しい作業です。気に入ったパーツをひとつひとつ向きや配置を考えて、丁寧に形を作っていきます。形ができたら、色を塗ったり、毛糸やリボンで飾りをつけたりして完成です。


長時間のワークショップにもかかわらず、参加者のみなさんは、屋外での植物観察や作品作りを楽しんでくれたようでした。小林さんの想いから生まれたこのワークショップ。まだ始まったばかりですが、その想いとともにこれからもいろいろな場所で自然とアート、人と人のつながりを感じられる機会を作っていければと思っています。

次回は、油山市民の森とのコラボです!

こちらは11月23日(火・祝)と28日(日)、2日間を通してのロングバージョン。1日目は油山市民の森で、森を散策しながら種を観察します。そして2日目は美術館で「想いの種」を制作。こちらは今回と少し違って、粘土などを使った立体作品を作ります。こちらも楽しく2日間を過ごしてもらえると思いますので、ぜひみなさんご参加ください。

応募方法など、詳細はこちらをご覧ください。

教育普及専門員 中原千代子

教育普及

オンラインギャラリーツアーって何をするの?

コロナ禍での教育普及活動のひとつとして、Zoomを使ったオンラインギャラリーツアーを開催していることは、5月にブログでもご紹介いたしましたが(「福岡ミュージアムウィーク2021はオンラインで楽しんで!」)オンラインでの作品鑑賞は、その後も継続して開催しています。

今年の夏休みこども美術館2021(展覧会は終了)では、当館のギャラリーガイドボランティアが、小・中学生を対象にオンラインで所蔵作品を紹介しました。5月のミュージアムウィークでは大人を対象にしていたので、小・中学生へのオンラインツアーは初めての試みです。

ところで、オンラインギャラリーツアー、つまりオンラインの作品鑑賞っていったいどんなことをするの?という疑問を持った方もいらっしゃるのではないでしょうか。そこで、今回は「夏休みこども美術館」の例を引き合いに、具体的にその内容をご紹介したいと思います。

8月某日のオンラインツアーの参加者は小学6年生(A君)と小学5年生(B君)の2名。ボランティア2名がチームを組み、事前に展示作品から選んだ作品を、1人1つずつ紹介します。

この日最初の作品は古美術作品の《風神像》。髪が逆立ち、険しい表情の風神が、左足を前に踏み出したような姿をしています。オンラインツアーでは、まず作品画像を画面共有し、作品をよく観察してもらいました。ボランティアが参加したA君とB君に「何か発見したことはありますか?」と聞くと、画面に顔を近づけて、じーっと作品を見ているA君とB君。ボランティアの「A君何か気づいたことがありますか?」で始まった3人のやり取りを実況中継風にレポートします。

《風神像》鎌倉時代13世紀、松永コレクション

A君:「この人、走っているみたい。右足をあげて、左足を踏み込んでるように見えるから、走っているのかなって。」

ボランティア(以下ボラ):「なるほど。面白いですね。どこに向かって走っているのかな?」

A君:「走りながら何か押してる??・・・・岩?」

ボラ:「岩ですか!岩を押しながら走っているの!!けっこう大変そうだね~。」

 ―A君、B君、ボランティア みんなで笑う―

ボラ:「B君はどうかな?」

B君:「ぼくは、岩じゃなくてもう少し軽いものだと思う。手をめいっぱい広げてるから、そんなに重いものじゃくて、、、えっと、押し車だと思う!」

ボラ:「押し車ですね。どうして押してると思いますか?」

B君:「何かを運んでるんですかね。うーん・・・・・・難しいです(笑)。」

ボラ:「Aくん、どうですか?」

A君:「あの、でも押し車だったら、手が縦向きじゃなくて、横向きだと思います。」

ボラ:「あー!拳の向きですね。確かに!これは縦向きになっているよね。押し車を押すなら手の向きが横。そうですね~。」

・・・・この後も楽しそうな雰囲気で3人のやり取りは続く。

《風神像》の左手。確かに拳の向きが縦になっています。

私は、この様子を画面上でずっと見ていたのですが、初めて(しかもオンライン上で)会ったとは思えない、A君、B君そしてボランティアさんの息の合った掛け合いと、相手の主張を否定せずに違う意見を楽しむ姿勢に、思わず嬉しくなり、ずっと見ていたいと思ってしまいました。

この後、2つ目の作品も同じようにみんなで話しながら楽しく鑑賞し、あっと言う間に約40分のツアーは終了しました。

ちなみに、この日参加してくれたA君とB君は、関東から参加してくれました。他にも福岡市内はもちろん、県外や遠くはシンガポールから参加してくれた子もいました。オンライン上で初めて会ったこどもたちが、なんだか夏休みに親戚が集まったみたいに楽しくやり取りをしている様子は、人と会って会話して笑う、というコロナ前は普通にしていた人の営みを、改めて思い出させてくれました。やっぱり、この感覚って大切ですよね。

当館では、オンラインでの活動を今後も教育普及活動の1つとして継続していく予定です。次回のオンラインツアーは11月3日(水祝)~7日(日)のファミリーDAY2021で開催します。小学生が対象となりますが、皆さんのご参加をぜひお待ちしています!※ファミリーDAY2021の詳細は当館HPやSNSなどで近日中に公開します。

(学芸員 教育普及係 﨑田明香)

その他

「欲しい」作品はありますか?

「アートフェアアジア福岡2021」が、博多阪急のイベント「HAKATA ART STATION」のメイン企画として始まりました(9月26日まで)。

「アートフェア」とは、いわば美術作品の見本市。美術作品を売買する画廊が集まりブースを出して、各社で売れ筋、または売り出し中の作家の作品を並べているもの。もちろん、そこに並んだ作品は、お客さんがその場で買うことができます。

欧米では、美術市場どころか美術界全体に影響を与える大規模なアートフェアが知られており、日本からもいくつかの画廊が出展しています。様々な国からコレクターがやってくるアートフェアは、国際美術展と並んでその先の美術界を占うものとして毎回話題となります。

美術市場規模の小さい日本のアートフェアはそこまでは成長してないですが、東京や大阪で開催されており、2015年から福岡の画廊関係者が中心になって福岡市でも開催されるようになり、話題を集めています。

そもそもコレクターの少ない福岡でどれくらい持ちこたえられるか?と当初は半信半疑だった私ですが、最近の美術動向に一端に触れることのできるまたとない機会で、しかも自身の好みやお財布情況に見合った作品を購入できるし、何より、本格的画廊の少ない福岡に期間限定とはいえ多くの画廊が集まるわけですから、当初より人気が上がってきているように見受けます。また今年は、市内中心部の再開発地域の仮囲いに作品を展開する福岡市主催の「福岡ウォールアートプロジェクト」と連携が生まれ、アートフェア会場内で入選作品が展示・販売されています。

様々なブースをざっと見たところ、ほとんどの出品作が絵画でしたが、その作品傾向として以下の点を指摘できるかと思います。

①アニメの絵のような人物表現が増えている。

②技巧を凝らして描いた花鳥風月主題の作品が目立つ。

③明るい色彩を使った作品が多い。

こう書いてみて、まあ確かに「売れ筋」はあるのだろうけど、作家の皆さんは「描きたいもの」がきちんと表現できているのかどうか、自分の作品の着地点を想定しているのか、といったことは気になり続けました。

若い作家にとっては、自らが現代社会の中で作家として生き抜く縁(よすが)としての市場的価値を得る機会となります。それがやがて、長い時間の中で淘汰され、歴史的評価を得る(すなわち、死後に彼・彼女の活動と作品が芸術的評価を得る)とつながるかどうか・・・?は、また別の話。

唐突ながら、ここでゴッホの話。ゴッホは生前1枚しか作品が売れなかった、というのはよく知られた話。しかし、彼の死後、ヘレーネ・クレラー=ミュラーといったコレクターが作品を収集し、やがて美術館となったことで現在の評価の一端につながりました。彼よりやや先輩となる印象派は、登場してすぐのころは多くの批判を浴びたものの、現在につながる印象派人気と評価は、当時の熱心な画商と個人コレクターが作品を購入し支えたからでした。19世紀末+20世紀初頭の話です。美術館が現在のようにあちこちにあったわけでもないし、また現在とは役割も違っており、同時代の美術を評価、収集することはありませんでした。

「美術館が収集したからすごい」ではなく「私が収集したのですごい」という価値観、もっと日本人は持っていいのではないかと思います。

(学芸係長 近現代美術担当 山口洋三 )

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