2025年5月7日 10:05
4月で新年度を迎えたとばかりと思っていたのですが、いつの間に桜の季節はとうに過ぎて、このブログを準備している今は5月の連休真っただ中です。皆さんどんな時間の過ごし方をしてらっしゃるでしょうか?美術館の周辺は、桜の頃は夜間のライトアップなどもあって賑やかだった大濠公園から舞鶴公園エリアが、今は藤の花が見ごろになってきています。さらに水辺に目をやると菖蒲や睡蓮のつぼみも見えてきました。5月の初旬から6月にかけては公園の新緑が美しく、寒くもなく、暑くもなくで、お散歩や外出を楽しむには最適な季節ではないでしょうか。
そうした気候のさわやかな5月の時期に例年、福岡市内のミュージアムが一斉に参加して行っているイベントをご存じでしょうか?「福岡ミュージアムウィーク」といいます。
5月18日は、博物館・美術館の役割を広く周知するために制定された「国際博物館の日」(1977年制定)なのですが、その18日に合わせ前後の期間に行っている催しです。期間中は福岡市美術館をはじめ、常設展やコレクション展示が無料になる施設があったり、各参加施設で関連講演会やワークショップ、ギャラリートークやバックヤードツアーを行ったりと、ミュージアムを楽しんでもらうプログラムを企画、開催しています。
福岡ミュージアムウィーク2025・公式サイト
今年の開催期間は2025年5月17日(土)~5月25日(日)の9日間。福岡市美術館でもこの間、いくつかのプログラムを予定していますので、事前予約が必要なプログラムもありますが、このブログでご紹介したいと思います。
事前予約不要でご参加いただけるプログラム:
◆記念講演会とつきなみ講座スペシャル◆
福岡ミュージアムウィーク2025記念講演会
「鉛・埃・記憶―作品の『保存修復』がめざすもの」
日時:2025年5月17日(土) 14:00~16:00
講師:田口かおり氏(京都大学大学院人間・環境学研究科 准教授)
会場:福岡市美術館 1階 ミュージアムホール
定員:180人(先着順。開場は13:30)
詳細はこちらをご覧ください。
ミュージアムウィークにはミュージアムの役割や機能、或いはミュージアムと社会の関わりについて考えるなど、その都度テーマを設け様々な分野の方に講師を依頼し、講演会を行っています。今年は美術作品の保存修復について、修復士でもあり、研究者でもある田口かおり氏をお招きしてお話いただきます。当館のコレクションには絵画や彫刻、工芸など美術作品として比較的ベーシックな素材や技法を用いて作られた作品のほか、形態も素材もバリエーションに富んだ現代美術作品もたくさんあります。講演会ではそうした作品の保存や修復のことにも話がおよぶかもしれません。

講師の田口かおり氏
つきなみ講座スペシャル
「九州の古陶に魅せられた田中丸善八の眼」
日時:2025年5月18日(日) 15:00~16:00
講師:久保山炎氏(一般財団法人 田中丸コレクション 学芸員)
会場:福岡市美術館 1階 ミュージアムホール
定員:180人(先着順。開場は14:30)
詳細はこちらをご覧ください。
「つきなみ講座」は、美術館の仕事と美術のさまざまな側面を知っていただくため、当館職員が自身の研究や仕事にかかわるテーマでお話する、月1回の連続講座です。5月は“スペシャル”ということで、田中丸コレクション学芸員の久保山炎氏に講師を務めていただき、日曜日にホールで開催します。講演テーマは、当館が寄託を受けている九州古陶磁の一大コレクションである、「田中丸コレクション」についてです。美術館の展覧会としてはこれまでも年度ごとに様々な切り口でコレクションを展示、紹介してきましたが、今回の講座では古美術企画展示室で開催中の展覧会、「九州の古陶に魅せられた 田中丸善八の眼」のテーマに沿って、田中丸善八翁が収集したやきものをどのように愛で、実際に使って楽しんだかなど、エピソードを交えてご紹介いただきます。展示を見た後に講座を聴いても、聴いた後に展示を見ても、どちらでも楽しめる内容かと思います。
展覧会情報: 「九州の古陶に魅せられた 田中丸善八の眼」(開催中~6月22日[日]まで)

講師の久保山炎氏
◆コレクション展示のギャラリーツアー◆
ボランティアによるギャラリーツアー
日時:5月17日(土)~25日(日) 毎日11:00~/14:00~、午前と午後にそれぞれ実施。
※5月19日は休館日につき除く。
定員:なし
集合:美術館 1階 ロビー
当館のガイドボランティアがコレクション展示から3作品を選び、参加者の皆さんと一緒に対話をしながら鑑賞するギャラリーツアーです。作品解説や展示説明をただ聞くのではなく、参加者それぞれが作品を見て感じたことや気づいたことを自由に話しながら鑑賞を深めていきます。当日、予約不要でどなたでもお気軽にご参加いただけます。
事前予約制のプログラム:
以下は事前応募制で、申し込みが定員を超えた場合は抽選となります(5月12日必着)。応募の詳細はそれぞれHP掲載欄を確認ください。
◆ベビーカーツアーと建築ツアー◆
(1)初めてのベビーカーツアー
日時:①5月21日(水)10:00~10:40
②5月22日(木)10:00~10:40
会場:コレクション展示室
定員:5組(1組3名まで)1歳半くらいまでのこどもとその保護者(ベビーカーか抱っこひもで移動)
詳細はこちらをご覧ください。
小さなお子さんと一緒に展示室や館内をまわりながら美術館を楽しんでいただくツアーです。参加者の皆さんには、ベビーカーや抱っこ紐を使って参加いただき、こどもたちの様子を見ながら安心して鑑賞を楽しんでいただけます。

(2)建築ツアー
日時:5月24日(土)10:30~12:00
講師:中山喜一朗(当館総館長)
定員:20人
詳細はこちらをご覧ください。
ミュージアムウィーク期間中に開催することの多い、福岡市美術館の建築をじっくりご覧いただくツアーです。当館は、建築家の前川國男(1905~1986)による設計で、開館から約47年間使い続けている建物です。1979年の開館から、2019年のリニューアル工事を経て大切に使ってきた美術館の建物について、中山総館長の案内でバックヤードも含めて見どころをご紹介します。

いずれのプログラムも、すでにHPのイベント情報や市政だよりに掲載しており、事前応募制のプログラムはご好評いただいてすでに抽選必須(!)ではありますが、応募の締め切りは5月12日(月)までとなっていますので、まだ間に合います。もし参加してみたいと思われた方はぜひ、リンク先の詳細をご覧いただければと思います。
そしてもちろん、ミュージアムウィークの参加の仕方としては、講演やプログラムに参加いただくだけではなく、コレクション展の観覧料が無料になるこの期間を利用して、たっぷりのんびり、作品鑑賞を楽しんでいただく過ごし方もおすすめします。美術館を見た後に公園を散歩して、疲れたらカフェやレストランで一息、最後にも一度お気に入りの作品をチョロっと見て帰る、など一日ゆっくりと過ごしてみるのはいかがでしょうか。さらにもし、当館だけではなく、たくさんのミュージアムを巡ってみよう!という方はミュージアムウィーク参加館で開催する「スタンプラリー」へのチャレンジもぜひ。各館で配布するパンフレットに施設3館分のスタンプを集めて応募いただくと、豪華賞品が当たるかもしれません。私自身も興味ある展示や企画もあるので、お休みを利用して他館を訪ねてみたいなと思っています。
今回のブログは5月17日から始まるミュージアムウィークについてご案内しました。そして次回は来週14日に、中山総館長に登場いただきます。来週でなければならない理由があるのです。その理由が気になる方は・・・ぜひ、来週のブログもご覧ください!
(教育普及係長 髙田瑠美)
2025年4月23日 15:04
さて、3月29日(金)から6月1日(日)まで、近現代美術室Bにて「第3回目福岡アートアワード受賞作品展」を開催しています。(福岡アートアワードについて概要はこちら)
展覧会初日には展示室内でギャラリートークを行い、4組の作家に「これまでの活動」「受賞作品について」「これからの活動」を軸として自由にお話いただきました。以下はトークを要約したものに筆者の個人的な感想を含めたものとなります。作家許諾の上、掲載いたします。
はじめは市長賞を受賞された牛島智子さんからです。牛島さんは、現代美術のオルタナティブ・スクール「Bゼミ」に所属し東京で活動していました。その後、90年代末に拠点を八女市に移し、風土や人物、労働などをモチーフとした作品を発表しています。トークの冒頭では、インドの人生論である「四住期」を基に、独自の数学的なルールに従って作った幾何学的な図形について紹介されました。今回の受賞作品《家婦》を構成する一つの幕絵にも、「四住期」に基づいた幾何学的な図形が反映されています。注目すべきは、その幕絵の素材は祖父母の代から使われてきた古布が使用されていることです。トーク中に「手を動かすことで作品が決まっていく」と牛島さんはお話されたように、牛島さんにとって、作品を作ることと、生きることがほぼ同意義である、ということが強く伝わってきました。お話を聞いた後、改めて今回の受賞作品を鑑賞すると、仕事や家事、育児等の様々なご経験をされた牛島さんの生き方そのものが重なって見えました。

次に優秀賞を受賞されたオーギカナエさんです。大学卒業後、東京での活動を経て、福岡へ拠点を移し、大型インスタレーションの他、壁画やステンドグラス制作等、建築にも携わってきました。大きなものを作りたい、包まれたいという欲求が制作の根幹にあったとオーギさんは話されていました。その後、子育てを行いながらワークショップ開催、キッズスペースの設置、現在にも続いているスマイルの旅プロジェクトなどの活動を行いました。2023年、オーギさんの拠点が山津波により被災しました。その災害そのものをモチーフに、制作しようとしたところうまくいかなかったそうです。一旦距離をおき、純粋に造形する欲求に従い制作していくことで、自然と災害について自分が求めていた答えにつながっていったといいます。山津波がテーマであるものの、作品の色や形は明るく軽やかなイメージで前向きな気持ちにさせられます。「自然の中で、雨だらけの大地に光が集まり浸透して、自然のサイクルで回復する作業に、希望が見いだせた」というオーギさんの言葉が印象的でした。

オーギカナエさんと同じく優秀賞を受賞されたSECOND PLANETからはメンバーの宮川敬一さんにお話いただきました。SECOND PLANETは宮川さん、外田久雄さん、岩本史緒さんの3名で構成される北九州のアーティストグループです。受賞作となった《カタストロフが訪れなかった場所》は、2019年から開始したプロジェクトで、1945年8月9日に起きた長崎の原爆投下が、当初は彼らが拠点としている北九州小倉で予定されていたことをきっかけに作られました。
原爆の問題だけ語るのではなく、何も起こらなかった場所も何某かの歴史があり、多角的にリサーチして歴史を捉えなおそうする試みをテーマとし、はじめはパフォーマンス、2021年にオンラインプロジェクトに形をかえ、2024年にミュージシャンであるibi Ryota氏と写真家の鶴留一彦氏の技術的な協力のもと、現在の形となりました。過去の歴史だけでなく、現在も起きている世界中の凄惨な状況に対しても、一方的ではなく色々角度で調べ理解し作品として表現することで、芸術活動が戦う手段として残されているのだと希望を持たせたい、という宮川さんの言葉が心に響きました。

最後は同じく優秀賞受賞の興梠優護さんです。興梠さんは東京を拠点に活動しておられましたが、レジデンス活動等を経た後に昨年より福岡を拠点に移し、作家活動をされています。「光」、「レイヤー」、「イリュージョン」をテーマとしながら「根源性と現代性」を兼ね備えるような作品を制作しています。モチーフやタイトルには具体的なストーリーや感情設定を持ち込まず、可視光を超えた曖昧なゾーンの美しさ等、あくまで視覚的な構造と認識として絵画を捉えていることを強調されていました。個人的に興味深かったのは作品の側面に対する意識でした。作品側面にも色が塗られていることで、側面にあたった光が反射し、色が壁などに映り込む色なども計算して描かれたそうです。画集やモニター越しではトリミングされ見ることが出来ない側面を、生で見る方が良いという、リアリティへの追及が伺えました。

展覧会は6月1日までです!ぜひご来館いただき、現物をご鑑賞ください。
(学芸課 近現代美術係 渡抜由季)
2025年4月16日 17:04
昨年度で3回目となる福岡アートアワード。
第3回目は福岡県を拠点として活動する作家が賞を占めました。受賞作家は、市長賞が牛島智子さん、優秀賞がオーギカナエさん、SECOND PLANETさん、興梠優護さんの、4組の作家です。
3月28日(金)、福岡市美術館2階近現代美術室前ロビーにて、第3回福岡アートアワード授賞式が行われ、また29日より受賞作品展も開催されました。

授賞式記念撮影の様子(左からSECOND PLANET岩本史緒氏、外田久雄氏、宮川敬一氏、高島市長、牛島智子氏、オーギカナエ氏、興梠優護氏)
授賞式では皆さんに記念スピーチをご披露いただきました。
今回は作家さんに許諾いただき、下記の通り掲載いたします。
牛島智子氏(市長賞)
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牛島智子《家婦》2020年(市長賞)
福岡アートアワードで市長賞をいただいた「家婦」は、5年前に福岡市民ギャラリーのE室をお借りして展示しました「40年ドローイングと家婦」の作品です。この展示から評価や企画や展示が次々に進みました。お世話になった皆様にお礼を言う間もなくこの場に立っています。この賞はその方々へ感謝を述べる節目です。本当にありがとうございました。
さて、私が初期から一貫してやってきたことは物質、モノとの対話のような気がします。市美術館がリニューアルされて高さ5mの市民ギャラリーの白い壁を見た時、ここで展示したいと強く思いました。いつも床置きで何やら作っているのですが、ビニールシートを引けばいくらでも広げられ、土から伸びあがってくる作物のようにつくれます。でも壁の高さはそうはいきません。おんなじ布でも壁に貼ると全体が見えて抽象性が高まっていき、作品になる気がします。床と壁の両方を使いインスタレーションのスタイルをよくとってきました。また八女和紙をたくさん使っていますが、その職人さんから「和紙は水素結合だから」と聞いたことから『何だろう』と思い、素材の原子の状態を考えるようになりました。物は動かないようでミクロの世界の原子レベルでは動いているのではないか。作品に取り囲まれる美術館は海水浴や森林浴のように美術浴ができる場所、市民に開かれた場所、コレクションしていただくことは大変うれしいです。生涯作物作品を作っていくと思います。また見て頂けることを願っています。
最後になりましたが、福岡アートアワードというチャンスを作って頂きありがとうございました。
オーギカナエ氏(優秀賞)

オーギカナエ《空に登って集まって、めじろ眼鏡の森、白い花~植物は考え歩き行動する~》2024年(優秀賞)
皆さんこんにちは。本日はお集まりくださりありがとうございます。
私は作品を作りはじめて40年近くになります。そんなに経ったなんて本当に信じられません。
生きていると色々ありますが、2023年は本当にいろんなことがあった年でした。中でも私たちが拠点にしている久留米市竹野地区で山津波が起こった事は忘れられません。家の横を流れる激流が家の中に入り、道は土砂で埋まり外へ行くことはできませんでした。
のちに私はこのことを作品にしようとしたのですが、恐怖や悲しみ虚無感といった表現をすることはできませんでした。このことは作品にはしない方がいいと思いました。一旦そこからは離れて、やはりワクワクするものをつくりたいと思いました。時が過ぎて周りを長く観察することができました。自然もまた違う時間で回復の作業を行なっていることに気がつきました。ふと気持ちが楽になり、そのことをモチーフに手を動かし、今回の受賞作品をつくることができました。
世界をどのように捉えるのかで自分を取り巻く世界は変わります。永遠に続くものはないけれど希望を持つことはできます。これからもそのことを考え、つかみにくく形も言葉にもしにくいけれど心を動かすものを作品にしていきたいと思います。
最後にこのような賞を与えてくださった福岡市と審査員の方々、福岡市美術館、美術関係者の皆さん、私の作品に興味を持って見てくださる方々、家族のウシジマケに心から感謝します。ありがとうございました。
SECOND PLANET(優秀賞)
スピーチ:宮川敬一氏
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SECOND PLANET《カタストロフが訪れなかった場所》2024年(優秀賞)
今回、このような賞をいただき誠にありがとうございました。今回の受賞作品はSECOND PLANETの3人に加え、音楽家のIbi ryotaさん、写真家の鶴留和彦さん、ギャラリーソープのスタッフなど多くの方々の協力のもと制作されました。この作品は、2019年のギャラリーソープでのパフォーマンスとして始まり、2021年にオンラインプロジェクトを公開した「カタストロフが訪れなかった場所」シリーズのサウンドインスタレーションのバージョンで、昨年、福岡市のOVERGROUNDで発表した作品です。
この作品は、歴史を一つの方向から見ていくのではなく、色々な方向から見ていこうとする試みです。大きな歴史がある一方で、弱者であるとか他者から見たもう一つの歴史もあります。あるいは消されてしまった、忘れ去られた歴史もあります。そういった見えにくくなった歴史を、ひとつずつ資料を集めて、多様な歴史のあり方を考えてみようという試みがコンセプトでもあります。
いっぽうで過去の歴史だけではなくて、最近の私たちの周りで起こっている酷すぎること、過去の物語みたいな、帝国であるとか、行き過ぎた民族主義であるとか、どこかそういったものが再生されて、主張するだけ主張して相手の価値観を受け入れない虐殺や侵略が世界中で起こっています。そういった問題に対しても、大きな仕事はできないかもししれませんが、芸術が出来ることがまだ残されていると思っています。
可能な限りそういった出来事に多様な視点を持ち込み、そして歴史を単純化せずに、あるいは複雑さであるとか、ある種の曖昧さを受け入れながら、向かっていければなと思っています。そしてまた芸術表現でも元々近代以降は権力や常識に対抗するような機能があって、今でもその機能を持っている、と希望をもっています。単に沢山売れて有名になるだけじゃなくて。そもそも芸術作品は、どの作品にもある種の批評性みたいなものがあります。そういったものに焦点をおいて作品を作りながら新しい概念を提示してくれる作家も沢山いて、Fukuoka Art Nextという、芸術で福岡市を活性化して国際的な都市にしていこうという概念も数年間進められていると聞いていますが、そういった新しいアイデアであったり新しい概念を提示してくれる作品を沢山生み出していく人たちの作品に触れる機会を作ってもらえると嬉しく思います。どうもありがとうございました。
興梠優護氏(優秀賞)
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興梠優護《 /72》2018(加筆2020)年(優秀賞)
このアワードに選定していただきましたこと、審査員の皆さま、事務局・美術館スタッフの皆さま、そして家族や、友人、これまで関わっていただいた皆様に感謝申し上げます。ありがとうございます。
昨今、テクノロジーの進化で、あらゆるものが人間では無いものに、取り換え可能な領域に踏み込んでいくような社会になっていると思うんですけれども、改めて、人間らしさ、というものが見つめ直されているように感じています。そしてその人間臭さというのは「無駄」とか「無意味」のなかにあるような気がするんです。効率とか生産性とかバズるとかの外側にある、意味不明で、だけど心の底から込み上がってくる欲求にどれだけ正直になれるかということが作品制作の根本にはあります。もちろん、そこから社会や歴史との接続を経て真の作品となるわけですけれども、こんな時代に、そうした行為を評価していただけること、本アワードの器の大きさが、とても嬉しかったわけです。
豊かさの本質とは、私たちが生きている前提となっている「当たり前のもの」をいったん立ち止まって見つめ直すことの中にあるように思います。作品を見ることを思い浮かべると、見ることは立ち止まることでもあるんですね。
例えば晴れた午後の一日に、そうだあの作品を見に行こうと思い立って、そこでの気づきが、それは歌でも文章でも洋服選びでもなんでもいいんですけれど、少しでもなんかいい一日だったなあと思えることってに繋がるって、素晴らしいと思うのです。そういったきっかけにこの作品がなることができたら、本当に嬉しく思いますし、そうした機会を与えていただいた本アワードに改めて感謝申し上げます。
今年度も無事受賞者・受賞作品が決定し、作品を収蔵し展示する機会を設けられました。
受賞者のみなさま、選考委員のみなさま、また応募していただいたすべてのアーティストのみなさま、また関わっていただいたすべての方々に改めて感謝申し上げます。
受賞作品展は6月1日(日)まで開催します。ぜひご高覧ください。
(学芸員 作品保存管理担当 渡抜由季)