2020年11月18日 10:11
これは、こぶうし君が身に着けている「ヒーローマフラー」のキャッチコピーです。ヒーローになりたい、でも風が吹いていない…!そんな時におススメのアイテムです。
「どうして風が吹いていないとヒーローになれないの?」と思わずツッコみを入れたくもなりますが、仮面●イダーやサイ●ーグ009を例にあげるまでもなく、赤いマフラーをなびかせるのはヒーローにとってお約束のビジュアルと言ってよいでしょう。マフラーを身に着けたこぶうし君の表情がいつもより凛々しく感じられるのはきっと私だけではないはずです。
昨日から開幕した「風を視る」(~2021年1月31日)はこのような風を目にした時に生じる心の動きをテーマに企画したものです。というのも、東アジアの美術を勉強していると、「呉帯当風(ごたいとうふう)」(衣服が風に翻るように見える様)や「翻波式衣文(ほんぱしきえもん)」(衣が波打つように動く様)などなど、風や布にまつわる専門用語にやたらと多く出くわすのです。
これは、古来、人々が風、あるいは風になびく布をあらわすことに力を注いできたからに他なりませんが、彼らはこうしたモチーフに何を期待していたのでしょうか。ひょっとしたら、私たちがヒーローの首元でなびくマフラーを見て感じるような熱い気持ちを抱いていたのではないか、そんな仮説が出発点になっています。
この仮説を証明するために一番手っ取り早いのは、風が表現されている美術作品と、それに対する当時の鑑賞者のコメントを見つけ出すことです。ですが、現存作品や資料に限りがある古美術においてこの方法は現実的ではありません。
そこで、次なるアプローチとして仏教の経典や解説書の記述と作品の描写を対照してみる、という方法があります。もちろん、あらゆる仏教美術が経典の記述に忠実、というわけではありませんが、文献史料に乏しい古美術を考察する上では有力なてがかりであることは間違いありません。また、仏教美術には風をあらわした作品が多く存在することも見逃すことのできないポイントです。
例えば、風を神格化した風天や、空を自由に飛ぶ天人などからは、身に着けた衣裳や髪の毛が勢いよくなびく様子を見てとることができます。
風天図 室町時代 16世紀
繍仏裂 飛鳥時代 7世紀
これらは、自然現象や身体運動に伴って生じた風をあらわしたもので、それほど不思議な感じはしません。ですが、仏教美術を見ていると理屈では説明がつかない風の表現にでくわすことも珍しくないのです。
線刻十一面観音鏡像 平安時代 長承3年(1134)
これは、十一面観音の姿を線彫りであらわしたものです。脚を組んで座る静かなたたずまいですが、肩に羽織ったショールは強風にあおられたかのように舞っています。この風は一体どういう理由で吹いているのでしょう?
そこで、経典の記述に目を向けてみると、仏像に祈りを捧げたときに起きる奇跡として、像が動くことがしばしば説かれることに気が付きます。これを踏まえるならば、仏像の周りに吹いている風は、像がまさに奇跡を起こした瞬間であることを示していると考えることができるのではないでしょうか。つまり、風の表現は人々に対して自身の祈りが確かに仏像へと伝わったということを印象づける効果があったと想像されます。
当時の人々に聞いてみないと確実なことは分かりませんが、仏教美術に見られる風の表現に抱いていた想いは、私たちがヒーローのマフラーを見て感じる興奮とそれほど違いはないのではないかと思います。
(学芸員 古美術担当 宮田太樹 )
2020年11月12日 13:11
最近、美術館で小さなこどもを連れた人をよく見かけるようになったと思いませんか?え、こどもと美術館?無理でしょ、と思った方も多いかもしれません。
福岡市美術館では、毎年11月3日の開館記念日の前後3日間に、ファミリーDAYを開催しています。ファミリーDAYはこどもと一緒に親子で美術館を楽しむための3日間です。毎年、美術館に初めて来たというファミリーがたくさん参加しています。
今年は、新型コロナウイルス感染症の影響もあって、美術館で開催するプログラムに加えて、オンラインのワークショップや、動画の制作にも初挑戦しました。10月22日のブログで紹介した、飼育員さんとのコラボ企画もその1つです。(ブログはこちらから)
中でも、オンラインワークショップは全く初めての試みです。タイトルは「つくろう!羽ばたく色トリ鳥」(ダジャレ)。アーティストの佐土嶋洋佳(さどしまひろか)さんを講師に迎え、当館所蔵の古美術作品《百鳥図》を鑑賞した後で、自分の「羽ばたくトリ」を制作するワークショップを行いました。
伝・辺文進《百鳥図》明時代
初めての試みで、苦労もありましたが、当日は佐土嶋さんが丁寧に制作の説明をし、分からないところは質問をしてもらうという流れで、順調に進みました。分割されたモニター画面の中で、24組の親子が、楽しそうに会話しながら、時に真剣に「羽ばたくトリ」を作る姿は、見ているこちらも思わず微笑んでしまうような光景でした。最後に、全員で自分の作った「トリ」を画面いっぱいに羽ばたかせて、ワークショップは無事に終了しました。
オンラインワークショップで、講師の佐土嶋さんが参加者に話しかけている様子。
モニターを見ながら参加者とコミュニケーションをとります。
オンラインワークショップの難しいところは、参加者と「場の空気」を共有できないこと。当たり前かもしれませんが、実際に面と向かって「対話」するのと、画面を通して「会話」するのとは、違うものです。オンライン上では、相手の細かい表情の変化を読み取ることが難しく、伝わっているか、退屈していないか、判断しにくくなります。人って(もしかすると動物も?)相手の顔色を見ながら、コミュニケーションを取っているんだなーとつくづく感じました。
一方で、美術館で開催したプログラムにも、たくさんの親子が参加してくれました。展示作品のクイズに答えてお宝をみつける「かいとうキッズ!お宝みっけ」や、ガイドマップを見て、親子で会話をしながら作品鑑賞をする「ガイドマップで君もアートマスター」など、驚くことに参加者数は過去最大となりました。
作品のクイズに答える「かいとうキッズ!お宝みっけ」に挑戦。
クイズの答え合わせをしたら、くじ引きをしてお宝を手に。やった!
美術館に来た親子のアンケートでは「普段は子連れで気軽には入れないので、今日は楽しかった」「おしゃべりしていいのが良かった」という声が多く、今後も「行ったことないけど、こどもと美術館に行ってみようか!」と思ってもらえる活動を続けていきたいと心新たにしました。やっぱり親子の笑顔があふれる美術館っていいものです。
ガイドマップをヒントに作品鑑賞中。何が描いてあるのかな?
(学芸員 教育普及担当 﨑田明香)
2020年11月4日 12:11
どーも。総館長の中山です。昨日、11月3日文化の日は、当館の41回目の誕生日だったのですが、そんな開館記念日にふさわしく、うれしいことがありました。福岡市美術館の最初の学芸員であり、福岡アジア美術館の初代館長を務めた安永幸一さんが、西日本文化賞(地域の文化向上や発展に貢献した個人・団体に西日本新聞社から贈られる賞)を受賞され、その授賞式があったのです。
ダイバーシティ(多様性)を謳い、アジアのリーダー都市をめざす福岡市ですが、40年前に福岡市美術館が開館特別展「近代アジアの美術 インド・中国・日本」を企画、開催し、その後もアジア美術展を継続してきたことは、欧米偏重だった日本の美術館や美術界に、それこそ多様な視点と多様な価値観を持ち込んだ第一歩だったように思われます。その陣頭指揮を執ったのが安永さん。1999年には20年間の活動の結実として福岡アジア美術館が開館し、初代館長に迎えられました。
ところで、安永さんはわたしが学芸員として採用された時(1981年)の学芸課長でした。今でも鮮明に覚えてますが、私ともうひとりの新人学芸員が並んで座っている机から、応接セットを挟んだ真正面に安永さんの机があって、何しろ顔をあげると目と目が合う”危険性”が常にあったんです。いやあ、ビシビシ鍛えられました。誰かが「鬼軍曹」と言っていたようなおぼろな記憶もあります。ミスをしたり期待に応えられなかったり、出来の悪い私としては反論の余地なしなんですが、褒められたことよりも叱られたことのほうが圧倒的に多かったりして。企画展カタログのエッセイを最初から全部書き直し、ということもありましたね。
安永さんから、学芸員は時に勇猛果敢に決断し、実行し、どんどん前に進んでいくべきだということを学びました。いまだに、安永さんほどエネルギッシュな学芸員を知りません。ほぼ40年前のことです。え、そんな昔になるのか…。不肖の弟子も年をとりました。
これからも福岡の文化のため、お元気で活躍していただきたく思います。いつまでも偉大な大先輩としてご指導ください。ただ、さすがにビシビシは勘弁ですけど。そういえば、あの頃、六本松の雀荘でも週に数回、中国語の勉強をビシビシ指導されたなあ。
(総館長 中山喜一朗)
前列右から2番目が安永幸一大先輩。後ろ中央は奥様(中山撮影)