2019年6月19日 16:06
1階・松永記念館室にて「松永耳庵の茶」展を開催中です(7/28まで)。松永耳庵翁の茶事・茶会に実際に用いられた茶道具を、エピソードとともに紹介するものです。趣旨はシンプルなのですが、今回の展示構成にはけっこうな労力を要しました。そのあたりの事情も含め、本展をより楽しんでいただくために知っておいていただければ、と思うことを書きつらねてみます。
◆耳庵・松永安左エ門と「松永コレクション」
戦前戦後の電力業界で活躍し「電力王」「電力の鬼」などと称された松永安左エ門(1875-1971)は、還暦を迎える頃から耳庵と号し、茶の湯の世界に足を踏み入れました。
やると決めたら徹底して、やる!持ち前の実行力をもって破竹の勢いで茶道具の名品を蒐集し、戦中にあっても茶に明け暮れ、やがて益田鈍翁、原三溪とならび称される高名な茶人となったのでした。
その過程で蒐集した古美術品は、日本・東洋美術の名品コレクションとして屈指の質を誇ります。主に戦前に蒐集したものが東京国立博物館に、戦後に蒐集したものが当館に寄贈されています。当館では「松永コレクション」と呼ばれています。
ちなみに当館職員の多くは松永翁のことを「松永さん」と呼んでいます。「うちのおじいちゃん」と呼ぶ人までいます。偉人に対して失礼かとも思われるでしょうが、なぜかそう呼んでしまうのです。鬼とまで呼ばれた男のことを知れば知るほど、その柄の大きさに感じ入り、底なしの懐の深さに吸い込まれ、自然と親しみを抱いてしまうのです。
松永耳庵
◆茶風と道具組
松永さんの茶風はといえば「荒ぶる侘び」などと形容される(『芸術新潮』2002年2月号)ほどに、豪胆なイメージで語られることが多いです。それもそのはず、点前などの作法については、茶匠から一定の手ほどきを受けることはあったものの、ついに所定の作法を身に付けることはなく、最後まで我流を貫いたようです。あるとき招客から流派を聞かれ、「新派、柳瀬流です」と冗談めかして答えたそうです(この「柳瀬」とは、埼玉に構えた自身の別荘「柳瀬山荘」に由来します)。人はそれを「耳庵流」などと呼びました。ついには松永さんを指導したはずの茶匠が「耳庵流」の影響を受けて作法に変化をきたしてしまったという逸話もあります。
よく言えば個性的、悪くいえば無作法な松永さんの茶。それはどこまでも簡素な侘びの美意識に基づくものでした。原三溪や仰木魯堂の薫陶を受け、因習的な作法にこだわらず、生活に密着した実践的な茶で客人をもてなしたのでした。それを体験した人々は、儀礼的、形式的な美を超越した類のない魅力に引き込まれ、喜び、親しみ、笑い、敬い、様々に語り継ぐことで、一大茶人を育んだといえるでしょう。
では、松永さんは実際にどんな道具組で茶事を行ったのでしょうか?それを明らかにするためには、残された記録(茶会記)を読んで情報を整理することと、記録と現存する美術資料とを照合してゆくことが必要です。実はこれがあまり進んでいません。
戦前については『茶道三年』『茶道春秋』という自著の中で、松永さん自身の茶会記や独自の茶論が記述されています。いっぽう戦後については、電力事業再編成の主導役に抜擢されるなど多忙な日々にあって自身の茶会記を残していないか、あるいは残していたとしても、その存在は明らかになっていません。
◆『雲中庵茶会記』の重要性
前述の通り、当館の松永コレクションの殆どは戦後の蒐集品であるため、松永さん自身の記録から茶事の道具組を再現することは現状において不可能です。そんな中、よりどころになるのが、松永さんの茶事に招かれた人が残した記録です。なかでも仰木魯堂の弟・政斎が著した『雲中庵茶会記』は、松永さんをはじめ同時代の名だたる近代数寄者の茶事が記録されています。仰木兄弟はともに松永さんと親密に交流したのですが、とくに政斎さんは戦時中、松永さんの別荘「柳瀬山荘」に疎開し、戦火におびえる日々の中でも、松永さんの茶にとことん付き合いました。戦後も、小田原へ引っ越した松永さんのもとへ何度も招かれ、耳庵流のもてなしを何度も体験しました。
『雲中庵茶会記』には、松永さんの動向を客観的に、かつ実時間的に描写した記述が非常に多く、茶事の様子を垣間見られるばかりか、人間・松永耳庵の横顔を生き生きと伝えてくれます。戦後の蒐集品を主とする当館の松永コレクションがどのように茶事で用いられたかを再現する上では、必読の書なのです。しかし本書は非売品の影印本(原書を写真撮影して印刷したもの)が知られるのみであるため、研究資料として広く活用されるには翻刻(活字化)が強く望まれます。
『雲中庵茶会記』
そこで数年前から本書の翻刻に着手しました。できた分から当館の紀要(当館ホームページからダウンロードできます。第5号、第6号をご覧ください)に掲載しています。でも本書は総じて1200頁を超すぶ厚さであり、今のペースだと私が定年退職するまでに全頁翻刻を果たせるかどうかも微妙なところ。まぁ、出来るだけ頑張ります!ともあれ全体の粗読みは行い、目次づくりや記録された茶事の席主、招客、用いられた主な道具の情報を整理する作業は地道に進めています。
◆「松永耳庵の茶」展の試み
このたびの「松永耳庵の茶」展は、『雲中庵茶会記』の読書、翻刻をする中で得られた成果の一部を発表する場として企画したものです。政斎さんが記録した膨大な道具組の情報の中から、当館の松永コレクションに同定される作品を抽出し、出陳リストを構成。今回は4の茶事について、断片的ではありますが可能な限りの再現を試みました。(出陳リストはこちら)
「松永耳庵の茶」展示風景
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今後、成果に応じて随時開催したいと思っています。戦後の松永さんの茶事、その道具組を少しでも明らかにしてゆくことで、当館の松永コレクションがかつて演じた舞台の光景がよみがえってきます。その光景は、皆さんの眼にどう映るでしょうか。まさしく「荒ぶる侘び」でしょうか、それとも…?
(主任学芸主事 古美術担当 後藤 恒)
2019年6月12日 10:06
こんにちは。教育普及を担当している鬼本です。気が付けば、もう6月・・・暑い・・・そして、ただいま「夏休みこども美術館」の絶賛準備中です。そんな中、ミュージアムウィークについてブログを書かないといけなかったことを思い出し、慌てて記憶の巻き戻しをしています。
え~、まず、「福岡ミュージアムウィーク」とは何か?ですが、国際博物館の日(5月18日)をいいことに?福岡市内の美術館博物館18館が、この日を含む9日間、観覧料割引やイベント、そしてスタンプラリーを行うというものです。すでに館長が「建築ツアー」のレポートをしていますが、当館でも、リニューアルオープン記念展の割引に加え、さまざまなイベントをやりました。ちなみに、「国際」と名前につくからには、何か世界的機構が絡んでいると思ったあなた、勘がいいです。国際博物館会議(ICOM)が、1977年に「5月18日を博物館の日にしよう!」と制定し(意外に昔でした)、毎年、テーマも決めています。今年のテーマはMuseums as Cultural Hubs : the Future of Tradition(文化をつなぐミュージアム―伝統を未来へ―)でした。
そんなテーマにふさわしく、ミュージアムウィーク初日の5月18日に、「野村誠コンサート『ノムラノピアノ×福岡市美術館』」を開催しました。実は10年前、当館30周年に、作曲家・音楽家である野村誠さんによるワークショップを開催し、一般参加者と野村さんとで、所蔵品をもとにピアノ曲を作曲しました。このコンサートでは、それらの曲に加え、所蔵品をもとに新たに野村さんが書き下ろした曲など、全31曲を、野村さんご本人に演奏していただきました。美術作品がピアノ曲という新しい表現へと生まれ変わるのは、本当に聞いていてわくわくしますし、ワークショップの体験が、ピアノ曲という形で他の人に伝わったり、残っていったりするということにも、なんだかロマンを感じるじゃないですか!なんとも贅沢な時間でした。
といって、感慨に浸っている暇もなく、翌日は「子ども探検隊」-子ども向けバックヤードツアーです。実はこのプログラム、10年ほど前まで夏休みにやっていたのですが、しばらくお休みしていたところ、せっかくリニューアルしたのだから、子どもたちにもバックヤードを見せて、「美術館って作品保存するためにこんないろいろ気を使ってるんだ~!」ということを改めて伝えようと、このたび復活しました。しかし・・・子どもたちは、館長室で館長からのメッセージに突っ込んだり、空調機械室で驚いたり、と10年前と変わらないのですが・・・こちらの体力が追いつかない!今度やるときは、もっと若い学芸員にやってもらおう・・・と固く誓ってしまいました。
そして、5月25日には毎月恒例のつきなみ講座を、リニューアルオープン記念展期間とミュージアムウィーク期間ということで、特別にゲストを迎えて対談形式で開催しました。ゲストは九州産業大学教授の古賀弥生さん。司会&対談相手は、不肖、鬼本が務めさせていただきました。まずは、古賀さんから障害をもった方が寄席を楽しむための試みについてお話しいただき、その後、福岡市美術館での未就学児童向けプログラムと高齢者プログラムについて語ったあと、美術館になにができるのか、できないのか、ホールでの試みなども絡めながらディスカッションしました。正直、「これからどうする?」という話なので、結論はでないけれど、ともかくも障害を持っているか持っていないかにかかわらず、利用者が選択できる、その選択肢がいろいろあるといいよね、さらに、自分が高齢者になったときに行ってみようか、と言える美術館になっていたいよね、という話で終わりました。
こんな感じで、筆者的には、過去現在未来を行きつ戻りつ・・・のミュージアムウィークでした。まさに、Museums as Cultural Hubs : the Future of Traditionだったなぁ、というのはこじつけすぎでしょうか?
実は、ミュージアムウィーク期間中も毎日ボランティアさんによるギャラリーツアーがあり、そして週末には学芸員によるギャラリートークもありました。特にボランティアさんのツアーついては、またいずれ書こうかなぁ、というところで、今回のブログは終わりにしたいと思います。
(主任学芸主事 教育普及担当 鬼本佳代子)
2019年6月10日 17:06
爽やかな風を感じたのも束の間、日中は汗ばむほどの暑さ感じる季節。ビールが美味しい“夏”がやってきました!
一日の終わりに、美しいサンセットを眺めながら、みんなで“かんぱぁ~~~ぃ!”とグラスを傾ける幸せな時間をお過ごしになりませんか。
一日の疲れを癒すひと時を過ごすのに、最強のスポットが福岡市美術館の2階にあります。ホテルニューオータニ博多直営のレストラン「プルヌス」です。
レストラン「プルヌス」は、大濠公園を望む抜群のロケーション
レストラン「プルヌス」から望む、福岡タワーに沈む夕日。
レストラン「プルヌス」では、10名さまから50名さままでご利用できる「パーティプラン」をご準備しています。ホテルクオリティのお料理とお飲物を用途に合わせた内容でお選びいただけます。
レストラン「プルヌス」の2つのパーティプラン
初夏の夕暮れを華やかに演出してくれること間違いなしのレストラン「プルヌス」での極上の時間をパーティプランでお過ごしください。
もちろん、“おひとりさま”から少人数でのご利用も承っております。どうぞお気軽にご相談ください。
レストラン「プルヌス」
営業時間
平日:11:00~20:30(ラストオーダー 19:30)
土・日・祝日:09:30~20:30(ラストオーダー 19:30)
TEL 092-983-8050
HP: http://www.kys-newotani.co.jp/hakata/restaurant/museum-restaurant/