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館長ブログ

鏡に映ったわたし

ADAPTATION – KYNE展に、たくさんの方にご来場いただいています。本当にありがとうございます。美術館のロビーに行きかう人びとのファッションも、ストリート系の方が多くて楽しいです。男性のお客様が多いと感じてもいて、それも嬉しいことです(いつもは圧倒的に女性が多いので)。

毎日のように展覧会の会場の内外をうろうろしていますが、ある日女性のお客様が、「…どこをどう見たらいいのかしら。なにか(手がかりが)あるといいのに」と、そばにいた男性に話すともなく話しておられました。

いわゆる展覧会をよく見ている方ほど、そんな風にとまどうのかもしれない、と思いました。確かに絵柄はマンガっぽいし、そもそもこれはいわゆるイラストというもの?絵画?現代アート?よくわからなくて、ちょっと二の足を踏んだりするかもしれません。

そう、実は、KYNEさんの作品は「かくかくしかじか」と定義するのが難しいのです。それは、いろいろな分野にまたがっていて、1か所に収まりきれないからです。でも、KYNEさんが描いているのがなにか、ということは言えます。「女性」です。
若くてきれいな女の子の絵ばかりだもんねー。そう、それは間違っていない。絵柄が単純すぎて偉大な芸術って感じがしない。そう、それもその通り。

でも、かつて一度でも、笑いたくないし、言葉にしたくないし、声を掛けないでほしいし、そばにこないでほしい、と思ったことがある人には、ぜひ、その時の「鏡に映ったわたし」を見に来てほしいと思います。

筆者自身、目の前の絵とは似てもにつかないけど、そんな気持ちにあふれていた時の自分を鏡でみるようだと思います。特にZONE1の作品群でそう感じます。KYNEさん自身は、一作一作に特別な物語を与えてはいないといわれていますが、そこに自分の物語を読むことを否定されてはいません。もしかしたら、その余地のために物語を与えていないのかもしれません(これは個人的な感想です)。

KYNEさんのドローイング(ZONE3)を見ると、鉛筆で描かれたデッサンはふんわりやさしいのですが、最終的な線を決めてペン入れした後は、強い表情へとスイッチが入る感じがします。特に、首から上だけのアイコン化されている女性像は、笑顔でしっかり他に対して武装しているように感じます。そのアイコンを「FRAGILE(こわれやすい、傷つきやすい)」という輸送用のステッカー風に仕立てた作品があります(ZONE2)。つい、深読みしたくなります。

一方で、最新作の女性たちは、もう少しのびのびした(ゆるい?)感じも加わっています。人生怒ってばかりはいられないし、リラックスできる時間もある。つまり、ひとつのイメージにしばられなくていい、変化していい、矛盾していい、というようにも見えます(これも個人的な感想です)。

KYNEさんは、そういう気持ちわかっているよ、というメッセージを発しているのでは、決してありません。そんなに単純に人の内面なんかわからない。だから、だれかの人生のストーリーを表現=消費するようなこともしない。だから、誰とわからない人の表面のみを描く。しかし、その背後がからっぽなのか否かの答えは、むしろ見る人の方に委ねられているのではないかと思うのです。

ぜひ、出会いに来ていただければと思います。

(館長 岩永悦子)

 

 

 

 

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「ADAPTATION – KYNE」展、ただいま会場設営中!空間・プロダクトデザイナー 二俣公一さんインタビュー

今回の展覧会には、福岡市美術館の展覧会では初めてご一緒させていただく方々がおられます。前回ご紹介した、展覧会のキービジュアルと図録のデザインを担当してくださっているチロン&チビン・トリュー兄弟のお二人もそうですし、今回ご紹介する、空間・プロダクトデザイナーで「ケース・リアル(CASE-REAL)」を主宰されている二俣公一(ふたつまたこういち)さんもそうです。今回はまたとないチャンスなので、インタビューをさせていただきました。

二俣公一さん

実は二俣さんが作られた空間には、それと知らず何度も出入りしていました。福岡には、このお店があってよかった、と思える心の拠り所のような和菓子店があります。本店は福岡アジア美術館の、道路を挟んでお向かいにあり、いつも賑わっています。重厚だけど圧を与えず、清々しくて居心地がよい、そんなお店の佇まいを作り出しておられたのが、二俣さんでした。最近、警固神社の境内地に降臨したコーヒー店も二俣さんのデザインです。

受賞歴もあまたあり、今、話題のインテリアや建築 を多く手がけられている二俣さん。その腕を見込んでKYNEさんが会場デザインをオファーされたのかと思いきや、実は、KYNEさんと二俣さんは、共通の知人を通じて出会い、かれこれ10年近く前からのお知り合いだったとか。一見、接点のなさそうなお二人の長いお付き合いに驚きました。

「KYNEくんは、出会った頃から変わらないですね。策を弄したりしないで、やりたいことだけをずっとやっている。一見対極のような要素も、彼のなかで自然とクロスしていますね。」

「僕は建築家のお手伝いをしながら、大学を出てすぐに自分の活動を始めたので、小さな仕事の積み重ねからのスタートでした。 大きな事務所で鍛錬を積んでいきなり華やかにデビュー、という歩みではないので、KYNEくんのように東京での活動がありつつ、あくまで福岡にいる、というスタンスはとても理解できるというか、共感できます。」

「(仕事に対しては)プロジェクトとしての責任は自分がとらないといけないけれど、独りよがりになるのは、いやです。目的を成就していくことが重要なので、そのために空気を読みます。」

今回の仕事はKYNEさんから、空間に対して具体的な細かいリクエストがあった訳ではなかったので、特に言外の思いを読み取ろうとしたとのことでした。
美術館での大型展のデザインという今回のプロジェクトに、どのような視点で取り組まれているのかという問いには、こんな風に答えられました。

「既存の空間をねじまげたくない、と思っています。美術館の展示室として一見普通に見え、福岡市美術館のイメージもありつつ、よくよく見てみると、なにか良い違和感や発見がある、という空間を目指しています。」

古民家の再生を手がけることも最近は多いという二俣さんは、あらゆる想定をしておいた上で、例えば、一本の柱を残すか残さないかの判断を、現場で変えることがあるといいます。

「きちんと想定しておけば、不測の事態にも対応できるので。机上で決めたことを変えないという考えもあるだろうけど、僕は現場で起きる出来事に柔軟に対応したいと思っています。そうでないと面白くないじゃないですか。だから自分の想定を超えた要素は、有難いなとも思います。」

細かいディテールまでしっかり煮詰めておけば、偶然の出来事を活かすことができる。その言葉のとおり、インタビューの途中で興味深い事が起こりました。会場造作作業の状況を見に行かれる二俣さんについて行ったのですが、施工途中のある部分を見られて、「これ相当にいいんだけど。」と、ポツリ。その未完のパーツを会場造りに取り込めないかと、真剣に検討されはじめたのです。

インタビューを再開した時に、その新しいアイディアについて「KYNEくんが感じてきたストリートの空気感を、つくり物でない形で表現できるかもしれない」と、楽しみにしておられました。なおかつ、それがさまざまな検討のなかで採用されなくとも、会場がよくなるためなら構わない、とも。さあ、この偶然の出会いは、会場で生き残るのか、それともよりよい形へと変化していくのか。本展覧会は4月20日に開幕です。KYNEさんの作品だけでなく、作品と空間の響き合いも、楽しんでいただければ幸いです。

(館長 岩永悦子)

 

 

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「インタビュー with KYNE」

展覧会キービジュアル

4月20日からはじまる「ADAPTATION – KYNE」展の準備が佳境です!本日(3月5日)、ポスター、チラシができあがりました。チラシはもう館内に置いていますので、ぜひ、お手に取ってくださいね。会場造作もデザインの段階から制作へと本格始動です。

展覧会のキービジュアルを制作してくださったのは、チロン&チビン・トリュー兄弟。兄のチロンさんは、ローザンヌ美術学校の講師。弟のチビンさんは大阪在住で、おふたりでタイポグラフィの事務所を運営されています。文字のエキスパートのお二人が作ってくださった、ロゴはガッチリ強くてすごいインパクト。ほれぼれします。このビジュアルと街で遭遇する日が楽しみです。展覧会の特設サイトも3月半ばにはオープンします。お楽しみに!

と、いろいろ佳境なのですが、今日は図録について少し。

KYNEさんと展覧会の打ち合わせを始めたのは、もう思い出せないぐらい前のことですが、図録の準備に本格的に取り掛かったのは、半年前の昨年9月。その皮切りが、KYNEさんへのインタビューでした。展覧会全般の打ち合わせは美術館でしていましたが、インタビューは資料があるKYNEさんのスタジオで。相棒のY係長と午後にお邪魔して、だいたい18時頃までノンストップでお話うかがったのですが、毎回あっという間でした。

インタビューさせていただいて最も心に残ったことのひとつが、「KYNEさんは福岡の作家」だ、ということです。クールで都会的な作風の内に、福岡の匂いや景色があります。わたしたちにもなじみ深い、国道3号(普段、3号線と呼んでいるあれです)と並走する福岡高速を中心にした地域で、子供時代から積んできたさまざまな体験が、今のKYNEさんに結実しているのです。

インタビューを重ね、3号線界隈を歩き、参考文献を読んで、年表を作って、寝ても覚めてもKYNEさんをどう描くかで頭の中がいっぱい。という状態を経て、今なんとか形になりつつあります。まだ図録ができたわけではありませんが、出品作品の写真や会場風景とともに、インタビューの成果も無事みなさまに届けられますように。

ちなみに、図録のデザインも、チロン&チビン・トリュー兄弟が手掛けてくださいます。楽しみすぎる!

(館長 岩永悦子)

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