開館時間9:30~17:30(入館は17:00まで)

メニューを閉じる
ホーム > ブログ
福岡市美術館ブログ

新着投稿

カテゴリー:教育普及

教育普及

パンと中学生と美術館

美術館で働き始めてから、気づいたことがあります。お会いした方に「福岡市美術館に行ったことありますか?」と聞くと、「中学校の時に絵が飾られたのを見に行った」とか「こどもの絵が展示されたので行った」という声がとても多いということです。
2月8日~13日に、館内のギャラリーで「第71回福岡市中学校美術展」が開催されました。毎年、この時期に開催される展覧会で、福岡市内の中学校の授業で生徒さんたちが制作した美術作品が一堂に展示されます。冒頭に書いたように、自分やお子さんの作品を見に美術館に行ったことがある、という方もいらっしゃるかもしれません。

ちなみに、ギャラリーは休館日の月曜に展示作業をするので、7日には中学校の先生方が集まって、忙しく展示作業をされていました。来館されていた先生の1人が、平尾中学校美術科の綱崎璃図夢(りずむ)先生。この日、展示作業の合間に、当館季刊誌「エスプラナード」記事のため取材をさせていただきました。

「こんにちは~。」と学芸課にやってきた先生の手には、大きなケースが2つ。「何ですか?これ?」と覗き込む私たちに先生が見せてくれたのは、こどもたちが授業で制作した「パン」。パンと言っても売店で売っているパンではなく、パンそっくりに粘土で作った「パン」です。食品サンプルを見ながら「そっくりに作ろう」というテーマで制作された「パン」は、質感や色合いなど本物のパンそっくり。驚きました。こどもたちの「パン」を見ながら、綱崎先生は「自分も結構、自信があるんです。飾るのが楽しみなんですよ」と、おおらかな笑顔でおっしゃっていました。その後、ギャラリーに展示された「パン」を見に行くと、それぞれの作品がとっても個性的。他の中学校の生徒さんたちの作品もじっくり鑑賞させてもらいながら(もちろん「パン」以外の作品もあります)、思わず制作しているこどもたちの姿を想像して嬉しくなりました。

この日、綱崎先生へのインタビューを終えて、改めて中学校と美術館のことを考えていました。過去10年を振り返ってみると、実は(少なくとも当館では)中学生が学校の授業などで美術館に来る機会は減っていることが分かります。例えば2012年には22校あった中学校団体の来館が、2019年(コロナ以前)には2校になっていました。おそらく背景には様々な理由があると思いますが、美術館で教育普及を担当する者の現場感覚として、中学生に美術館で出会う機会が減ったことは実感しています。さあ、これから美術館は中学生たちにどうかかわっていけるか。学校現場の先生とも一緒に、考えていきたいと思っています。なんだかまとまりのない終わり方ですが、こどもたちの「パン」を見てからずっと考えていることです。

(学芸員 教育普及担当 﨑田明香)

綱崎先生へのインタビューは季刊誌「エスプラナード」207号(2022年4月発行)に掲載予定です。4月からは当館HPからも閲覧できますので、ご覧ください。

 

教育普及

福岡市美術館と油山市民の森で「想いの種」をつくろう!②福岡市美術館編

先週のブログでお届けした「『想いの種』をつくろう!」ワークショップ。油山市民の森で開催した1日目につづき、今回は福岡市美術館で開催した2日目についてご紹介します。

 

なお、先週のブログを読んでいない方のために、「想いの種」ワークショップとは何か簡単にご紹介しておくと(以下先週のブログより)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「想いの種」をつくるワークショップを、11月23日と28日に油山市民の森と福岡市美術館で共同開催しました。「想いの種」とは何か?このワークショップはアーティストの小林重予さん(1957-2017)が行っていたものを、当館で再構成して実施するものです。小林さんは北海道に生まれ、幼少期から植物の神秘性や不思議な物語性を感じながら育ったそうです。その中で、特に人間の感情について、自分が悲しいときには「相手の気持ちが毒のある種になって、自分の中で芽を出し」たり、誰かを喜ばせたときには「自分の気持ちが誰かの心で花を咲かせ」たり、まるで『植物の種』が人の中に飛び込んで芽吹いているみたい、と感じていたそうです。そして、それをテーマに「自分の感情を、種の持つ物語に重ねて表現する」というこのワークショップが生まれました。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

【2日目】11月28日(日)

場所:福岡市美術館 天気:晴れ

 

ワークショップ1日目は雨模様でしたが、2日目は晴れ。この日は美術館のアートスタジオで、「想いの種」を立体作品にして制作します。

 

始めに、1回目の最後に考えた「種の物語」のワークシートを読み返しました。油山市民の森でひろった種で作った標本も机に並べてワークシートを見ると、どんな「想いの種」をつくろうとしていたか、皆の中にイメージがよみがえってきたようです。

準備万端になったところで「種」の設計図をつくります。アーティストの小林重予さんが残してくれた種のパーツから「自分の気持ちに似ている」ものを選びます。パーツはすごくたくさんあって、選ぶだけでもワクワクです。そして、選んだパーツを全てトレーシングペーパーを使って丁寧にうつしとっていきます。

このとき、コピーしてしまえば一瞬で済むけれど、あえて線をなぞるという時間がかかって地道な作業をしました。でも、とっても細かい線を真剣になぞっていると、同じ種のパーツでも、なぞった線の微妙な太さや揺らぎによって、その人だけのものになっていくような感覚があります。そして、こうやって意識を集中させて線を引くという、普段は効率が悪くて避けてしまう作業も、やってみると意外と楽しくて、年齢にかかわらず夢中で線をなぞっていました。

 

次に、なぞった数々のパーツを組み合わせて、種のかたちを設計していきます。小林重予さんの言葉を借りると「種が外へはじけていくのか、内に入っていくのか、密になっているのか。同じパーツでも少し動かすと印象がかわっていくのがわかるはず」ということ。自分の「想いの種」はどんな形をしているのか、手を動かしながら考えていきました。

昼食をはさんで、午後からはついに材料を使っての制作です。石塑粘土を中心に、針金やコットンパール、フィルムなどさまざまな素材を使って設計図を立体にしていきます。つかう素材はさまざまですが、色は全て「白」を選びました。これは小林さんのアイディアで、生前「白いほうが、かたちがよく分かるよね」とおっしゃっていたそうです。

石塑粘土を手の中でこねたり、水をつけて表面を滑らかにしたり、針金で不規則なパーツを作ったり。そんな作業をしながら、親子で笑ったり、美術館のスタッフに質問したり、隣のテーブルをのぞいて驚いたり、いつの間にか、知らない人同士だった参加者が、自然と打ち解けていく空間がありました。この2年、新型コロナウイルスが、人々に物理的な距離を強制し、それがいつの間にか心理的距離も助長させていたような毎日の中で、こういった空間は心を温かくしてくれて、個人的にも嬉しいものでした。

午後はしっかり時間を制作に費やし、ついに作品が完成。どんな「想いの種」をつくったか、みんなで見せあいました。親からこどもに届ける種、おばあちゃんに飛んでいく種、未来への種・・・いろいろな種がありそれぞれに物語がありました。

2日間のワークショップはこれで終了です。このワークショップは来年からも継続して開催する予定です。たくさんの「想いの種」が芽を出すことを想像すると今から楽しみでなりません。

(学芸員 教育普及担当 﨑田明香)

教育普及

福岡市美術館と油山市民の森で「想いの種」をつくろう!①油山市民の森編

寒くなってきましたね。紅葉がきれいだった大濠公園の木々もあっという間に散って、師走だなと実感します。

さて、10月7日のブログでご紹介した「想いの種」をつくるワークショップを、11月23日と28日に油山市民の森と福岡市美術館で共同開催しました。「想いの種」とは何か?このワークショップはアーティストの小林重予さん(1957-2017)が行っていたものを、当館で再構成して実施するものです。小林さんは北海道に生まれ、幼少期から植物の神秘性や不思議な物語性を感じながら育ったそうです。その中で、特に人間の感情について、自分が悲しいときには「相手の気持ちが毒のある種になって、自分の中で芽を出し」たり、誰かを喜ばせたときには「自分の気持ちが誰かの心で花を咲かせ」たり、まるで『植物の種』が人の中に飛び込んで芽吹いているみたい、と感じていたそうです。そして、それをテーマに「自分の感情を、種の持つ物語に重ねて表現する」というこのワークショップが生まれました。

10月に福岡市植物園でも同ワークショップを行いましたが、今回それと大きく違うのは2つ。1つは、油山市民の森と福岡市美術館と場所を変えて計2日間のワークショップであること。もう1つは、制作するものが平面ではなく立体作品であることです。

で、結局なにしたの?って声が聞こえたような。もったいぶってごめんなさい。では、どんなことをしたのか、時間軸に沿ってご紹介します。

【1日目】11月23日(火祝)
場所:油山市民の森 天気:寒気が流れ込み、朝から雨

この日は朝から福岡市内に厚い雨雲が垂れこめ、あいにくの雨模様。前日から天気予報を見てはハラハラしていましたが、やっぱり雨か。。と嘆きながら10時にワークショップ開始。このワークショップを考案した小林重予さんについて、また彼女の作品を鑑賞し「想いの種」とは何か、2日間でどんなことをするのか、を共有しました。

そんな話をしていると、奇跡的に雨雲が流れて雨がやみました!「いまだ!」と全員で植物の種を探しに施設内の散策へ。散策のナビゲーターは油山市民の森の小川さんです。

はじめに「種はその生存戦略として『遠くへ、遠くへ』いこうとする」という話を小川さんから聞き、種をさがして草むらに入ると「あー!服に何かついてる!」「ギャー」とこどもたちは大騒ぎです。「種の作戦に引っかかりましたね」としたり顔の小川さん。そうです、皆さんも小さいころに外で遊んで帰ると、洋服に何かくっついていたことがありませんか?私の住む地域ではくっつき虫とその草を呼んでいました。こんなふうに獣にくっついて「遠くへ、遠くへ」いこうとする種がいます。

また、ちょうどこの日は紅葉まっさかりで、モミジの葉が黄色や赤に色づいていました。思わずその美しさに見とれていると、小川さんから「種がついてるの見つけられた?」と。「え?種?」と、みんな一斉に木の下に集まって種を探します。少しすると「あった!見つけた!」の声が。

モミジってこんな種をつけるんですね。羽のような、ブーメランのような形で、風にのって「遠くへ、遠くへ」行こうとする種だそうです。

その後も、油山市民の森を散策し、いろいろな種(や葉っぱや枝など)を見つけました。散策の時間が終わりになると、タイミングよくちょうど雨雲が戻ってきたので、急いで室内に戻ると、ちょうどお昼の時間。それぞれ昼食をとって、午後の活動へ。

午後からは、まず集めた種をボードにならべて小さな標本をつくります。種それぞれの特徴(物語)を思い出しながら、標本をデザインしていきました。みんなの作った標本を見比べてみると、それぞれの個性があふれていて、外の寒さとは裏腹に、会場がとっても暖かい雰囲気になりました。

そして、最後に行うのは2日目に美術館で制作する「想いの種」に向け、自分の気持ちを重ねて種の物語を考えるということ。うーん、ちょっと難しそう?小林さんが残してくれたワークシートを使いながら、どんな種に、どんな気持ちを乗せていくかを考えました。

「自分の気持ちを種に重ねて物語にする」ことに、苦労していたのは、実は大人です。(保護者も1人の参加者として自分の作品をつくります!)こどもたちは、驚くほどあっと言う間に自分なりの種の物語を想像していました。「おかあさん、がんばって~」という声が微笑ましい時間でした。

さあ、これで1日目は終了です。2日目は福岡市美術館に場所を変えて、立体作品を制作します。ブログも長くなってきましたので、続きは次回のブログでご報告いたします!

(学芸員 教育普及担当 﨑田明香)

 

新着投稿

カテゴリー

アーカイブ

SNS