2020年12月10日 10:12
皆さま、師走ですね。師走と言えば大掃除です。今年はなかなか難しい年でしたが、そんな困難さも払ってしまおうと、私たち教育普及係も、これまで引っ越ししてきたままになってきた資料やら、この1年でいらなくなってしまったものなどちょっと整理しようということなりました。資料室の奥やキャビネットの中を出し、いるものいらないものと分類していると・・・なんと、出てきました!1991年からの「夏休みこども美術館」のワークシートが!夏休みこども美術館は1990年から始まっているのですが、その頃は、教育専門の学芸員がおらず、さまざまな専門の学芸員たちが持ち回りで担当していたそうです。90年代の最初のころはまだ常設展示のリーフレットを転用してワークシートにしており、デザインもちょっぴりそっけないものですが、解説あり、クイズありと、それぞれ担当した学芸員が試行錯誤しながらワークシートを作っているようすが垣間見られます。
常設展示のリーフレットを転用した「夏休みこども美術館」のワークシート
1990年代半ばからは、ワークシートも豪華になり、カラー化。デザインも凝ったものになり、ちょっとしたお土産のような感覚のものに。正直、今のワークシートより、だんぜん紙も印刷もいいです・・・。だんだんと「夏休みこども美術館」に、学芸員たちが力を入れだしたことがわかります。それにしても、判型も内容も雰囲気も年ごとに違っていて、担当者の個性が爆発!していますね。
担当者の個性が爆発?なワークシートたち
そして、90年代末から教育専門学芸員が「夏休みこども美術館」を担当することになり、1999年から2007年まで「美術館蔵おじいさん」が登場して作品案内をするワークシートになりました。
「美術館蔵おじいさん」が作品紹介をするワークシート
実は、私、このワークシートを2007年まで担当しておりました。ついつい、ページをめくっては、まだまだ内容が練れてないなぁとか、この文章意外にいいな、など思ったり、あの時に一緒にワークショップをやった学生ボランティアさんはどうしているだろう?などと思い出したり・・・おっと、いけない!これでは大掃除がすすまない!
しかし、昔、「夏休みこども美術館」に来ていたこどもも、今はもしかしたら親として「夏休みこども美術館」に来ているのかもなぁ、など30年分のワークシートを見て感慨深く思いました。たまには大掃除もいいものです。
2000年代後半からまた判型がいろいろに。2012年にはワークシートではなく、記録集を作成しています
リニューアル直前からリニューアル後のワークシート
(主任学芸主事 鬼本佳代子)
2020年11月12日 13:11
最近、美術館で小さなこどもを連れた人をよく見かけるようになったと思いませんか?え、こどもと美術館?無理でしょ、と思った方も多いかもしれません。
福岡市美術館では、毎年11月3日の開館記念日の前後3日間に、ファミリーDAYを開催しています。ファミリーDAYはこどもと一緒に親子で美術館を楽しむための3日間です。毎年、美術館に初めて来たというファミリーがたくさん参加しています。
今年は、新型コロナウイルス感染症の影響もあって、美術館で開催するプログラムに加えて、オンラインのワークショップや、動画の制作にも初挑戦しました。10月22日のブログで紹介した、飼育員さんとのコラボ企画もその1つです。(ブログはこちらから)
中でも、オンラインワークショップは全く初めての試みです。タイトルは「つくろう!羽ばたく色トリ鳥」(ダジャレ)。アーティストの佐土嶋洋佳(さどしまひろか)さんを講師に迎え、当館所蔵の古美術作品《百鳥図》を鑑賞した後で、自分の「羽ばたくトリ」を制作するワークショップを行いました。
伝・辺文進《百鳥図》明時代
初めての試みで、苦労もありましたが、当日は佐土嶋さんが丁寧に制作の説明をし、分からないところは質問をしてもらうという流れで、順調に進みました。分割されたモニター画面の中で、24組の親子が、楽しそうに会話しながら、時に真剣に「羽ばたくトリ」を作る姿は、見ているこちらも思わず微笑んでしまうような光景でした。最後に、全員で自分の作った「トリ」を画面いっぱいに羽ばたかせて、ワークショップは無事に終了しました。
オンラインワークショップで、講師の佐土嶋さんが参加者に話しかけている様子。
モニターを見ながら参加者とコミュニケーションをとります。
オンラインワークショップの難しいところは、参加者と「場の空気」を共有できないこと。当たり前かもしれませんが、実際に面と向かって「対話」するのと、画面を通して「会話」するのとは、違うものです。オンライン上では、相手の細かい表情の変化を読み取ることが難しく、伝わっているか、退屈していないか、判断しにくくなります。人って(もしかすると動物も?)相手の顔色を見ながら、コミュニケーションを取っているんだなーとつくづく感じました。
一方で、美術館で開催したプログラムにも、たくさんの親子が参加してくれました。展示作品のクイズに答えてお宝をみつける「かいとうキッズ!お宝みっけ」や、ガイドマップを見て、親子で会話をしながら作品鑑賞をする「ガイドマップで君もアートマスター」など、驚くことに参加者数は過去最大となりました。
作品のクイズに答える「かいとうキッズ!お宝みっけ」に挑戦。
クイズの答え合わせをしたら、くじ引きをしてお宝を手に。やった!
美術館に来た親子のアンケートでは「普段は子連れで気軽には入れないので、今日は楽しかった」「おしゃべりしていいのが良かった」という声が多く、今後も「行ったことないけど、こどもと美術館に行ってみようか!」と思ってもらえる活動を続けていきたいと心新たにしました。やっぱり親子の笑顔があふれる美術館っていいものです。
ガイドマップをヒントに作品鑑賞中。何が描いてあるのかな?
(学芸員 教育普及担当 﨑田明香)
2020年10月22日 15:10
すっかり秋になりましたね。11月3日は福岡市美術館の開館記念日です。毎年、この日の前後3日間に親子で美術館を楽しむための「ファミリーDAY」というプログラムを開催しています。※ファミリーDAY2020のチラシはこちら。
今年は新型コロナウイルス感染症の感染対策をしながら、親子で楽しめる活動を考える、という初めての試みとなりました。これまでミュージアムの教育活動は、人と人が直接関わることを前提としていましたが、その前提が覆されることになりました。これは、国内に限らず、世界中のミュージアムが直面することになった課題ではないでしょうか。
ただ、こういうときだからこそ、新しいチャレンジができるとも言えます。そこで、今年のファミリーDAYではオンラインで参加できるプログラムを充実させることにしました。オンラインで開催するワークショップや、作品鑑賞のプログラム、オンライン動画の作成などなど、新しい試みばかりです。
今回は、その中から「飼育員さんとみる美術館の動物たち」というオンライン動画のプログラムについてご紹介します。これは、美術館の動物作品を、動物のプロである飼育員さんたちに見てもらうと何がわかるのか?をテーマにしています。実は、当館では、2013年に同テーマで「美術館でZoo」という展覧会を開催しましたが、その時と同じく福岡市動物園の飼育員さんたちにご協力いただきました。
福岡市動物園の放鳥舎で、フラミンゴが見守る中、動画撮影の打合せ中。
さて、飼育員さんに見ていただいた作品の1つがこちら。江戸時代に描かれた狩野安信の《竹虎図》(二面のうち左面)です。飼育員さんたちは開口一番「これ、ネコだね。」と痛烈な一言。他にも「目が狛犬みたい」「尻尾が長すぎる」「縞模様が不自然にそろっている」など、現実のトラとの違いを的確に指摘されました。
そうなんです。実はネコっぽさには私たちも気づいていました。ご存知の通り、トラは日本には生息していません。また、江戸時代には今のように動物園でトラを見ることもできませんでした。おそらくこの絵は、トラの絵として伝わるお手本や、トラの毛皮などを見た絵師が、ネコの姿から想像してトラを描いたのだろうと、推察されます。そう考えると、ネコっぽい理由もなんとなく分かります。
狩野安信《竹虎図》(二面のうち左面)江戸時代。たしかにネコっぽい。
そして、もう1つのトラをご紹介しましょう。それはこちら。
仙厓義梵《虎図》江戸時代。トラではなくサルだった?
これをみた飼育員さんたちは全員一致で「これはサルですね」と即答。この絵には、サルの特徴はいくつもあるけれど、トラのそれは1つもない、というのが飼育員さんたちの意見でした。それを聞きながら、私は内心「おーっ!」と心が躍りました。というのも、実は近年の研究でこれは作者の仙厓義梵が、見物人を前にパフォーマンスとして即興で描いたもので、まずサルの姿を描きそこに線を加えて虎にしたのではないか、という説が唱えられたからです。(詳細は福岡市美術館研究紀要7号、中山喜一朗「仙厓雑論『虎図』の正体」p.36をご覧ください。)
飼育員さんたちによれば、目の位置、ひげのつき方、前足と後ろ足の様子など、どれをとってもサル(ヒヒ)のようで、トラではない、とのこと。他にもいろいろと作品を見てもらいましたが、これほど全員の意見が一致したものはありませんでした。そう言われて改めてこの作品を見ると・・・もうサルにしか見えないかも。
シマ模様と、ヒゲ、尾を取った《虎図》。サルに見えます。画像は「福岡市美術館研究紀要7号」、中山喜一朗「仙厓雑論『虎図』の正体」p.40より引用
さて、ファミリーDAY2020では、このような飼育員さんたちの貴重なご意見をもとに、当館の動物作品を紹介した動画を制作・公開します。動物のプロが見た、美術館の作品は現実の動物とどう違うのか?当館の作品に描かれた、かわいらしい動物たちをぜひ動画でご覧ください。動画は下記のリンク先で10月31日(土)公開です。
https://www.fukuoka-art-museum.jp/event/12521/
(学芸員教育普及担当 﨑田明香)