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福岡市美術館ブログ

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館長ブログ

ことしもお世話になりました。

KYNEさんの壁画《Untitled》は2022年12月27日をもって、展示を終えます。展示最終日の今日は、クリスマス頃とは打ってかわって、暖かい陽が差し込んでいます。

KYNEさんと「なにか一緒にやりましょう」と話し合ったのは2019年の秋でした。「年が明け、3月ごろにまた打ち合わせましょう」と約束した時には、2020年の3月に人と会うことがこんなに難しくなっているなんて、想像もつきませんでした。実際に再会して、壁画制作が具体化しつつある頃は、まだまだコロナが未知の病すぎて、恐怖心が先に立っていたと思います。2020年9月に完成した壁画。描かれた女性は、ずっと美術館の中から、大濠公園の景色を見つめつづけてきました。「不要不急の外出はお控えください」という言葉そのままに。

2022年の今、コロナへの対応の仕方は心理的にも物理的にもかなり変わってきたと思います。壁画については、最初は1年ぐらいの期間限定でとのことでしたが、このままでは海外のファンの方に見ていただけないので、せめて3年ぐらい、と延長をお願いしていました。まさに今、海外からの観光客の受け入れが始まっており、今日も美術館は韓国など海外からのお客様が沢山来てくださっています。

いろいろあるけれど、もう美術館の外に出てもいいかな。

と、彼女は思ったかどうかはさておいて、彼女と会えるのも今日まで。ずっとここにいてくれてありがとう。

(館長 岩永悦子)

 

館長ブログ

給料いいですか?

先日、福岡市西区にある福岡市立姪浜中学校に行ってきました。「社会人講話」という中学生のキャリア教育のための講師!ということで、お声がけいただきました。1日2コマ、自分の職業について講話をするとのこと。

はじめてうかがう姪浜中は、29学級を擁する市内屈指のマンモス校。広々としたモダンな校舎は、自分の中学時代のそれとは似ても似つかないものでした。控室に座っていると、続々と講師の方々が来られます。キッチリした背広の人、楽器を持った人、外国の人などなど…。あとでIT企業の方や保険会社の方など、様々な職種の人が集まっていたと知りました。

控室には、生徒がお迎えに来てくれるそうで、待つことしばし。女子生徒が二人「岩永先生」を、迎えに来てくれました。最初のセッションの始まりです。

教室には、20人程度の中学生たち。「福岡市美術館に来たことある人いますかー?」3人の手が上がったので、そこから美術館の活動を紹介し始めました。ここで役に立ったのが、中学校の美術の副読本。ダリやミロ、仙厓などの福岡市美の所蔵品も掲載されていたので、図版を見ながら解説し、研究・展示・収集・保存のサイクルなどについて話しました。

今回、ぜひ触れたかったことのひとつが、学芸員になったきっかけでした。

「みんな、中学校の間は音楽も美術も教わるけど、高校になったら選択制になるんだよ。音楽と美術と書道だったら、どれを選ぶ?」と聞くと、ほとんどの子が美術に手をあげてくれてびっくり。実は、先生が美術に興味のある生徒を選んでいてくれたとのこと。道理でみなさん、一生懸命聞いてくれているわけです。それにしても、「ここに同士がいる!」と思って感激しました。

「高校の時、わたしも美術を選択しました。夏休みに展覧会の感想文を書くという宿題が出て、展覧会を見に行ったのです。でもね、見に行った絵が、怖くて。みんな岸田劉生という画家が描いた《麗子像》って知ってる?」「?」ここで再び役に立ったのが、中学校の美術の副読本でした。

「えーと、〇ページの〇段目に載っている、この絵。展覧会で見て、気持ち悪いというか、怖いと思ったんだけど、たくさん見ているうちに、見方が変わってきて、いいなと思えるようになったんです。美術を通して、<よくよく知れば嫌いなものも好きになれる>という経験をしました。感想文を書くことも面白かったので、大学受験の前に、美術に関われる仕事として学芸員という職業があることを知って、その方向に進める大学を受験しようと思いました。」

他に「資格はいるのか(→資格というより、大学院に行く覚悟がいります)」「美術品の値段はどうやって決まるのか?(→欲しい人がどれだけいるかで決まります)」と、あらかじめいただいた質問にも答えつつ、最初のセッションでは、おおむね美術館の仕事と、どうやって学芸員になるかという話ができました。

休憩をはさんで、別の生徒たちと次のセッションです。一回目でだいたい要領をつかんでしまって、ついつい話すべきことをサクサク話してしまい、ちょっと時間があまり気味に。そこで「なんでもどうぞ」と質問を取ったところ、意外にも「好きなアーティストはいますか?」これが、何と言いますか、「好きな人は誰ですか」と聞かれたぐらいの衝撃度で、急にあわあわドキドキ。ここからは「講師」というより、素の自分が出てしまいました。

中学生からの質問だったので、学生時代から好きだった「初恋の人=俵屋宗達」を答えようとしたのですが、「もしかして、誰も知らないかも?」。そこで、三たび、副読本に助けてもらうことに。「わたしが大好きな絵は△ページにあります!」みんなが一斉に副読本を開きます。が、そのページには10点を超える名画が。「ひ、ヒントは、<飛んでいる>人のいる絵です!」

そう、そのページには宗達の《風神雷神図》とサンドロ・ボッティチェリの《ヴィーナスの誕生》がありました(どちらにも風の神様がいますね)。「では、どっちでしょうか!《風神雷神図》と思う人!」男子2名の手があがります。「《ヴィーナスの誕生》と思う人!」残りほぼすべての手が、あがります。「…正解は、《風神雷神図》でした!」「っしゃあ!」(男子2名)。ごめんよ、当たってもなんにもならないクイズで。でも、きっと彼らも《風神雷神図》が好きだったのだと思います。仲間がいるって、嬉しいよね。

その後、生徒に好きな作品を逆質問すると、ある女子生徒が、副読本のページを繰って「これかな…」。なんと、尾形光琳の《紅白梅図屏風》。「わあ!この絵を描いた尾形光琳は、さっきの《風神雷神図》を描いた俵屋宗達を、すっごい尊敬していてね!…」と、またまた興奮して、琳派(宗達と宗達に影響を受けた画家たちを指します)愛が炸裂してしまいました。

さて、もうこれで最後の一問、という時に、正面に座っている男子をあてました。

「最後に、何か質問ありますか?」
「えっ?僕ですか」
「はい、どうぞ!」
「…給料いいですか?」

「えっ!と。その、公務員の給料ですけどね~、はい。」としどろもどろ。そうでした。キャリア形成のための講話でしたね。講話終了後の生徒代表の「先生のお話を元に、将来を考えてみたいと思います。」という挨拶にも、みんなで爆笑してしまいました。

ああー。これでよかったんだろうか。とにかく、ヲタ気質の方がいい、アイドルの追っかけが出来る人も向く、とは伝えた。好きなものには、大人になってもアツくなれることは見せられたかもしれない。嫌いなものでも、一生懸命知ろうとすれば良さが見える、自分のとらわれも越えられる、とは語った。それにしても、美術に関心を寄せてくれる生徒があんなにいるんだ…。この中から学芸員が誕生するといいな。給料はともかく。と思いつつ、バスに揺られて帰路につきました。本当に楽しい時間でした。姪中の皆さん、ありがとうございました。

(館長 岩永悦子)

追伸
今日、社会人講話を受講されたみなさんから、お礼状をいただきました。作品展示の考え方など、たくさんのことを受け取ってくれたようで、とても嬉しかったです。学芸員になりたいという人も。ぜひ!お待ちしております。

教育普及

みんながスマイルになった「めぐる季節のアートバス スマイル茶会へようこそ」

 12月になってすっかり冬!という気候になりましたね。今年も残すところあとちょっとになってしまいました。慌ただしく過ごされている方も多いのではないでしょうか。
 さて、ちょうど急に寒くなった先月末の11月30日、実は、九州産業大学美術館と「めぐる季節のアートバス スマイル茶会へようこそ」というコラボ企画を開催しました。この企画は、令和4年度文化庁Innovate MUSEUM事業の補助金により実現しました。
 簡単に内容を説明すると、九州産業大学美術館が近隣にお住まいの高齢者の方々を募集し、バスツアーを仕立てて福岡市美術館まで出かけ、コレクション展を鑑賞し、さらに、「スマイル茶会」を体験してもらうというものでした。「スマイル茶会」は、アーティスト・オーギカナエさんが2017年から行なっているもので、オーギさんが生み出すにっこり笑った黄色いオブジェ「スマイル」とお茶とお菓子が人と人をつなぐワークショップでありパフォーマンスです。そして、オーギカナエさんと言えば、当館のキッズスペース「森のたね」の制作者であり、地元福岡県在住のアーティストです。

広島市現代美術館で行われた「スマイル茶会」。

 福岡にお住まいの方はわかるかと思いますが、九州産業大学美術館から当館まではちょっと距離があり、交通もものすごく便利とは言えません。みんながみんなそうではないでしょうが、高齢の皆さんにとっては、ちょっと頑張らないと行きにくい距離・立地といえます。バスの送迎があれば気軽に行くことがかないますし、そして来てもらう側としてはせっかくなら作品鑑賞に加えて、美術についての特別な体験をしてもらいたい、ということでこの内容となりました。オーギさんも、それはステキ!と快く引き受けてくださいました。

 ところが肝心の開催日の前日、つまり準備の日は雨。しかも本番当日は急激に冷え込むことが予想されました。実は、当初は当館の中庭に設えをしてお抹茶とお菓子をお出しする予定だったのですが、この悪天候を受けて予定を変更!中庭には、お茶会の設えではなく、オーギさんによる「スマイル」のインスタレーションを施すことにし、お抹茶とお菓子はレクチャールームでお出しすることにしました。パンチカーペットを敷き、黄色い風船を天井につけ、あちこちに「スマイル」のオブジェが据えらえると、レクチャールームが、すっかりお茶会のための空間に変身です。

準備ができたレクチャールーム。すっかりお茶会の場に。

中庭にもスマイルが出没。

 そんなハプニングもありながら迎えた当日の朝。九州産業大学美術館・学芸室長の中込潤さんと学芸員の福間加容さんとともに、参加者の皆さんがバスに揺られてやってきました。到着後、自己紹介もそこそこに、さっそく参加者の皆さんには、5つのグループにわかれ、当館のコレクション展鑑賞、オーギさんによるお茶会、中庭で柚子茶を飲みながらの作品鑑賞を、順に体験して頂きます。コレクション展鑑賞は、当館のギャラリーガイドボランティアが担当しました。
 お茶会では、参加者の方々にまずは椅子に座っていただき、オーギさんがご挨拶。最初に、香合に入れたクロモジの香りを楽しんでいただきます。その後、お菓子が配られますが、なんと、お菓子の中にスマイルの顔が!「こりゃ可愛くて食べられんね」と言いながら大事そうに持って帰られる方もいらっしゃいました。そして太宰府の「和菓子調製處・藤丸」の藤丸阿弥さんがお茶を点ててくれます。お茶を点てている間に、窓から見えるインカ・ショニバレCBE《ウィンド・スカルプチャー(SG)Ⅱ》の解説を、僭越ながら、私がさせていただきました。最後に藤丸さんがお茶とお菓子の説明をしておしまいです。それほど長い時間ではないはずなのに、なぜかゆったりとした温かな時間が流れ、皆さんニコニコとして次の体験へと部屋を後にされました。

左がオーギカナエさん。着物を着ているのが藤丸阿弥さん。

お菓子にもスマイルが!

九州産業大学茶道部の皆さんが藤丸さんをサポートしてくれました。お運びは当館の博物館実習生が担当しました。

 

 その頃、別のグループはというと、中込さんに柚子茶を振る舞われ、普段は入れない中庭で、作品を間近に見て、当館の﨑田明香学芸員の解説に耳を傾けていました。

柚子茶で暖まりながら作品鑑賞

 さらに別のグループはというと、当館のボランティアさんたちが、参加者の皆さんとおしゃべりをしながら、コレクション作品を紹介していました。

ボランティアさんたちが、推しのコレクション作品をご紹介。

 この3つの体験を終えて集まると、気がつけば、いつの間にか皆さんニコニコと笑顔になっておしゃべりをしていました。最後に、オーギさんが用意してくれた顔のない「スマイル根付」に、この体験を終えた「今」の気持ちを、顔にして描いてもらいました。シンプルな「スマイル」もあれば、まつげをつけたスマイルもあったり、中にはオーギさんの似顔絵を描いている人もいました。

スマイル根付

 こうして、参加者の皆さんはニコニコしながらバスに揺られてまた帰って行かれました。そして、なぜか私たちもニコニコと笑顔になっていました。外は冬の始まりの寒風が吹いていましたが、心の中は暖かい、そんな半日のプログラムでした。
 プログラムを終えて、いくつか感じたことがありました。まず一つ目は、オーギさんというアーティストがかかわったことで、参加者にとっても、そしてスタッフにとっても、より豊かな体験の時間がうまれた、ということです。オーギさん自身、「想いと時間が充満してゆき空間をつくる」と言っていますが、「スマイル茶会」という時間とそして空間を作り出すことで、参加者の皆さんもより打ち解け、スタッフと、アーティストと、そして参加者同士のコミュニケーションを楽しんだように思います。もう一つ、他館との連携の在り方として、今回の企画は一つの可能性を打ち出したんじゃないか、ということです。特に、お互いに行ったり来たりができれば、継続していけるような可能性があると感じました。今回は来てもらう側でしたが、次回はぜひ当館でバスを仕立てて九州産業大学美術館へ参加者の皆さんと行きたいものです。できれば他の館ともリレーで実施するなど、連携を広げていければ、さまざまな体験を利用者の皆さんと分かち合えるんじゃないか、そんなことを夢想しつつ、今回はこの辺で失礼いたします。

(主任学芸主事 鬼本佳代子)

 

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