2019年11月20日 11:11
先日、聞いたことのない破裂音がして、夜中に飛び起きました。寝ぼけた頭で窓の外を確認し、「あーこうやって地球が滅びるのか…」となぜか納得して眠りに落ちたのですが、翌朝調べると、近所に雷が落ちていたのでした。でもあのバチーンという音は本当にショッキングでした。空が怖い、という原始的な感覚を久しぶりに思い出しました。
さて、現在開催中の「ギュスターヴ・モロー サロメと宿命の女たち」では、神話や聖書の一場面を描いた作品が多く展示されているのですが、思わずぞっとするような空模様を見ることができます。
例えば、《パルクと死の天使》(展示番号33)。ギュスターヴ・モローが恋人アレクサンドリーヌを亡くして間もなく描かれたこの作品には、夕闇の中に運命の糸を断ち切る女神・パルクが、馬に乗って迫ってくるところが描かれています。馬とパルクを率いる死の天使の輪郭はペインティングナイフで刻まれており、たっぷり盛られた濃い青と褐色の絵具がナイフでかき混ぜられ、うねっています。そして、なんといってもこの空!落ちていく夕日と光背の厚塗りの黄色に対して、どんよりとした藍色に少しずつ変化していく様子が、グラデーションによって表されています。モローの感情の高ぶりがそのまま絵になったようなこの作品で、空は、確かに近づいてくる死、というテーマと呼応しています。
手前:《パルクと死の天使》1890年 油彩・カンヴァス ギュスターヴ・モロー美術館蔵
一方、旧約聖書に登場する女性を描いた《バテシバ》(展示番号139)の空は、彼女がたどる悲劇的な運命とは対照的に鮮やかで、澄みわたっています。バテシバは、水浴びをしている所をイスラエル王のダヴィデに見初められ、関係を迫られます。ここまでで十分悲劇的なのですが、結果として彼女は妊娠し、夫は戦地に送られ、挙句の果てに戦死してしまいます。哀れなバテシバ。いま、水浴びをしている彼女の姿は、薄づきの絵具で描かれ、少女のような無邪気ささえ感じられます。背景に広がる朝焼けの空の色と、これから彼女がたどる運命はあまりにもかけ離れており、かえって恐ろしさがこみ上げてきます。
右端:《バテシバ》制作年不詳 油彩・カンヴァス ギュスターヴ・モロー美術館蔵
今回のモロー展の見どころは沢山ありますが、ぜひ実物を見て感じていただきたいのは、その色彩の鮮やかさです。装飾的な要素がふんだんに盛り込まれた重厚な画面だけでなく、物語や登場人物の感情をドラマチックに演出する色彩にもご注目ください。教え子にアンリ・マティスやジョルジュ・ルオーら、後にフォーヴィズムと呼ばれる、激しい色彩表現を特徴とする芸術運動に身を投じた画家たちがいることにも頷けます。
何の決まり事もなく、思うままに絵筆を振るった空模様からは、モローの色彩家としての一面と、絵の中に込められたドラマを感じ取ることができます。
(学芸員 近現代美術担当 忠あゆみ)
2019年11月19日 11:11
1階の松永記念館室で、毎年恒例の「秋の名品展」を開催中です(12月1日まで)。当館所蔵の松永コレクションの中から、秋から初冬の時節に相応しい「名品」を展示紹介しています。
ご存じの通り松永コレクションは大半が「名品」といえるものである上、季節感を重んじる茶の湯の世界で用いられた美術品が多いので、出品作品の選定にあたって困ることは殆どありません。しいていえば、出品候補が多すぎて20点以内に絞り込むことに頭を悩ませることであり、球界一の選手層の厚さを誇るソフトバンクホークスのスタメンを決める首脳陣の苦労を想う時でもあります。それにしても、こんな贅沢な出品作品選定に携わることが出来る幸せを感じずにはいられません。
さて問題は、作品選定を終えてからです。本当の難しさはここからです。リストアップした名品群をどのような順番で並べるか、という問題です。これが実に難しい。すべて名品なのだから、ただ並べるだけでいいのでは?というわけにはゆきません。長距離打者をただ9人並べるだけで最強打線が成り立つわけではないのと同じです。シンプルに絵画、書、彫刻、工芸というジャンルに分けて並べるやり方は無難です。しかしそれは、ジャンルという枠にはめ込むことで、ひとつの作品がもつ魅力が、隣の作品がもつ魅力によって相殺されてしまう勿体なさもはらんでいるのです。
「燃えよドラゴンズ!」の歌詞にあるように、一番打者が塁に出て、二番打者が送りバント、三番打者がタイムリー、四番打者がホームラン…といった理想の流れと同様に、ひとつの作品がもつ魅力が、次の作品の魅力につながり、さらに次の作品を引き立てる。そんな魅力の連鎖を生む、全体としてバランスのとれた名品展こそが、理想の名品展であると思っています。それを実現するためには、最初にリストアップした作品を何度も入れ替えることも必要となります。本展では茶の湯の世界をベースにして、出品リストと展示プランを考えました。
本展の四番打者?それは他ならぬ尾形乾山筆《花籠図》(重要文化財)です。まずは四番打者に良い仕事をしてもらうため、そしてスタメン全員が輝けるよう、精一杯組みました。会期も残りわずかですが、ご高覧いただければ幸いです。
(主任学芸主事 古美術担当 後藤 恒 )
尾形乾山《花籠図》(重要文化財)
2019年11月15日 11:11
企画展「仙厓―小西コレクション―」の閉幕まであと2週間余りとなりました。
カフェ「アクアム」(1階)、レストラン「プルヌス」(2階)では仙厓にゆかりのある“お茶”と“かぼちゃ”を使ったスイーツを提供しています。
まだ、ご覧になっていない方、ぜひ本コレクションをご覧のあとは大濠公園を眺めながら期間限定のスイーツをお楽しみください。
仙厓さんが住職を務めた聖福寺を開いた鎌倉時代の禅僧・栄西(
コレラが流行した夏に、かぼちゃを食べるとコロリ※にかかるという噂が流れ、かぼちゃが全く売れなくなった八百屋や農家のために、仙厓さんが『コロリ除け祈祷かぼちゃ、大売り出し』とした張り紙を門前に掲げ、かぼちゃを売って喜ばせたという話があります。
※ころりと死ぬ意から。コレラに「ころり」をかけてできた語》コレラのこと。
今回の企画展に併せて新登場したスイーツ2点と、カフェ「アクアム」レストラン「プルヌス」で、人気のスイーツ2点をピックアップしてご紹介いたします。※表記価格はいずれも税別です。
【企画展「仙厓-小西コレクション」コラボ スイーツ】
△かぼちゃを使用したベイクドタイプのチーズケーキ。かぼちゃとチーズの相性もバッチリです。
『ポティロンフロマージュ』500 円
△パティシェ特製の抹茶の風味豊かな香りが漂う寒天にふっくらした黒豆。黒蜜をかけてお召し上がりください。
『抹茶の黒豆カン』600 円
【カフェ「アクアム」、レストラン「プルヌス」人気スイーツ2選】
△抹茶のカスタードクリームとホイップクリームのダブルクリームが人気。お土産にも喜ばれています。 『大濠シュー』420円
△抹茶のパウダーのほろ苦さがアクセントのとろけるプリン。丸っこい瓶詰め好評です。
『大濠とろけるプリン』410円
カフェ「アクアム」(1階)
営業時間:9:00~19:00 (ラストオーダー18:30)
※7月~10月の金・土曜日 9:00~20:00 (ラストオーダー19:30)
レストラン「プルヌス」(2階)
営業時間
平日:11:00~20:30(ラストオーダー 19:30)
土・日・祝日:09:30~20:30(ラストオーダー 19:30)
TEL 092-983-8050
店休日は美術館休館日に準じます。
HP: http://www.kys-newotani.co.jp/hakata/restaurant/museum-restaurant/