開館時間9:30~17:30(入館は17:00まで)

メニューを閉じる
ホーム > ブログ
福岡市美術館ブログ

新着投稿

総館長ブログ

仙厓さん、元気です。

どーも。館長の中山です。当館のことではないし、しかも来年3月のことなのですが、東京の国立新美術館で「古典×現代2020―時空を超える日本のアート」という展覧会が開催されます。ネットの告知ページを開くと、ドーンと当館の仙厓作品「円相図」(石村コレクション)がでてきてうれしいかぎり。

現在当館で開催中の企画展「仙厓―小西コレクション」も大変好評をいただいています。30年来のおつきあいをさせていただいている福岡市内在住の小西昭一さんから近年一括寄贈していただいた仙厓作品を、これもドーンと一挙にお披露目。仙厓さん、江戸時代後期のお坊さんですが、いまでも人気なんです。ゆるカワのキャラだとか、ヘタウマの元祖だとか、古臭さを感じさせない超時代性?があるのは確かです。だからでしょうね。国立新美術館の展覧会では現代作家菅木志雄さん(昔、当館でパフォーマンスしていただいたこともある)とコラボするようで、いったいどういう展示になるのか楽しみです。

なんて言っていたら、10月16日、出光興産の出光昭介名誉会長と、出光美術館館長の出光佐千子さんをはじめとするお歴々が来館され、「仙厓―小西コレクション」をご覧になりました。門司の出光美術館でも「仙厓と禅の美」展が開かれています。なにしろ出光美術館には、出光佐三氏が収集した千点を優に超える仙厓作品の大コレクションがありますからね。次にくるのが当館のおよそ300点のコレクションです。

 

さてさて、いま当館でご覧になれる作品から1点、とんでもないのをご紹介しておきましょう。

仙厓義梵筆《牛図》

いかがですか。とんでもないでしょう。ヘタウマじゃなくてヘタヘタじゃないかと。「此牛妙妙」と仙厓さんみずから書いていますが、妙(みょう)妙(みょう)というのはきわめてすぐれているという意味。嘘でしょ。嘘ですよね。モーモーと鳴く牛ではなくミョーミョーと鳴く牛?それとも妙妙じゃなくて奇妙?そもそも牛は禅宗では悟りの象徴です。仙厓さんがつかまえた牛(悟り)はこういう姿なのかもしれません。牛のおなかに「仙厓」のハンコが押されていますから、これ、仙厓さんその人かも。

白状すると、わたしはもう30年以上も仙厓さんとつきあっています。本も三冊ほど書きました。講演や講義は両手両足の指では全然たりないほどやりました。でも、わたしは仙厓さんの研究者じゃなくてともだちです。だって、こういう絵を描く人ですよ。研究対象とか呼べないです。わたしは禅のことは素人なので弟子というのもおこがましい。だからともだち。ですよね。仙厓さん。それにしても、あなたは死んで180年以上もたつのに、元気ですね。

ミュージアムショップ

ミュージアムショップだより 仙厓義梵オリジナルグッズ

2019年10月1日より、『仙厓―小西コレクション』がはじまりました。
ミュージアムショップでは、仙厓義梵のオリジナルグッズを多数揃えています。

福かぶり猫 虎図  4,300円
手拭い 仙厓ちらし  1,430円
手拭い 仙厓虎図  1,430円
トートバッグ 仙厓犬図  1,320円
仙厓のふきだし付箋  550円
デコレーションテープ 仙厓  550円
ポストカード各種  120円
※いずれも10%の税込み価格

 

手拭いは注染という、その名の通り染料を注ぎ、染める技法で染められており、全ての工程を職人が手作業で行う為、一つとして同じものが存在しません。プリントでは表現できない繊細で優しい風合いをお楽しみ下さい。

《犬図》があしらわれたトートバッグは新商品です。ぜひお手にとってご覧下さい。

こぶうしくんボールチェーンマスコット(880円)は別売りです

 

オリジナルグッズ以外にも書籍や、仙厓の印章(印鑑)をモチーフにした、和菓子も好評販売中です。福岡市美術館にお越しの際には、是非、一階のミュージアムショップにお立ち寄り下さい。

仙厓もなか          1,188円
仙厓もなか・せんべい詰合せ  1,404円
※軽減税率対象商品

 

仙厓の〇△□         2,200円
別冊太陽 仙厓        2,640円
※いずれも10%の税込み価格

企画展

「かわいい」はおじさんが作っている。

タイトルは少し前に話題になったツイッターから拝借しました。なかなかインパクトのあるフレーズですが、よく考えると確かにその通りで、巷にあふれるかわいいものっておじさんが作っていることが少なくありません。そして、こうしたかわいい職人のおじさんの元祖と言えるのが、ただいま公開中の仙厓さんです(「仙厓―小西コレクション」展、~12月1日まで)。本展は2016年に小西昭一さんからご寄贈いただいた、作品を一堂にご紹介するものですが、55点ある作品の中でも特におすすめなのが、この《双狗図》です。

仙厓義梵筆《双狗図》

尻尾を立ててこちらを見つめる様子が何ともキュート。会場でそのかわいさを是非実感してください。ところで、仙厓さんはどうしてかわいい絵を描こうと思ったのでしょう?私生活は質素倹約を旨としていたようで、個人的にかわいいもの好きだった形跡はあまりうかがえません。恐らく、このあたりの事情は現代のかわいい職人のおじさんたちも似たり寄ったりだと思います。つまり、個人的に好きだったからかわいいものを作ったわけではなく、何か別の目的があったのではないでしょうか。その目的というのは、売れるからとか女子ウケするから、とか人によって様々でしょうが、仙厓さんの場合はどうだったのか?今回はそのあたりを考えてみたいと思います。
そのためには、少々遠回りにはなりますが、仙厓さんの画業を初期からたどってみる必要があります。岐阜県に生まれた仙厓さんが博多へやってきたのは、39歳の時のこと。恐らく、本格的に絵を描き始めたのもこの頃だったと思います。下の《香厳撃竹図》は仙厓さんが48歳の時の作品で、制作年が分かるものの中では一番早いです。

仙厓義梵筆《香厳撃竹図》

実は仙厓さんがかわいい絵に目覚めるのは、まだまだずっと先のこと。博多・聖福寺の住職を務めていたころはマジメでかっちりとした絵を描いていました。

 

仙厓義梵筆《円相図》

こちらの円相図も住職時代に描いたもの。円相は自身の悟りを象徴する重要なモチーフで、隣には長いコメント(賛文)が記されます。要約すると、世の中には仏教や儒教、神道など様々な思想があるけれど、この円相はこれらを全て含みこんだもので、思想の違いをことさらに強調するのは意味のないことだといいます。個々の多様性を認めつつも、それらを包摂する心のありようを重視すべきことを説いた仙厓さんの思想の根本がはっきりと示された作品です。この頃の仙厓さんにとって、絵を描くことはあくまでも自身の修養、あるいは、弟子への指導の一環であったようで、こういった絵がかわいさと無縁なのは当然かもしれません。そんな仙厓さんの画風に変化のきざしが現れるのは、62歳で聖福寺の住職を引退してからだったようです。

 

仙厓義梵筆《恵比寿図》

上の《恵比寿図》は、仙厓さんが引退してまもない60代前半の作例と考えられますが、からっとした恵比寿の笑顔は、住職時代のマジメな画風から離れつつあることを示しています。住職を引退後、博多の人々との交流を通して多くの絵を描くようになったことが、仙厓さんの画風が変化した要因だったと考えられます。

 

仙厓義梵筆《五徳図》

上の《五徳図》は、釜を支えるための道具で、今でいうコンロを描いた作品です。住職時代の作品との違いとして①仏教とは関係のない日用品を描いていること②賛文が平仮名を交えた平易な文体になっていること、を上げることができます。ちなみに、賛文の内容は、五徳は「如く」と音が通じているので、このようにありたいと思う心を象徴する存在であり、仏教では心のありようが最も重要であると説いています。このように、絵を通して、禅の教えを人々に分かりやすく伝えたい、というのが引退後の仙厓さんの思いだったようです。特に《円相図》や《五徳図》で示されるように、心のありようこそが大事である、というのが仙厓さんの禅僧としての一貫した考えだったように思います。

 

仙厓義梵筆《双狗図》

ようやく、この作品に戻ってきました。実はこうしたかわいい作品は仙厓さんにとっての到達点と呼ぶべきものです。というのも、先ほど紹介した《五徳図》では、賛文を読んで初めて仙厓さんの伝えたいメッセージを理解できるのですが、《双狗図》では最早その必要はありません。絵を見て直感的に「かわいい」と思うこと、これだけで十分なのです。なぜなら、心のありようを重視する仙厓さんにとって、最も大事なのは作品を見たときに皆が同じ思いを共有することだったのですから。

こんな仙厓さんの作品が人々から愛されないはずはなく、福岡では、多くの文化人・実業家によって仙厓コレクションが形成されました。今回ご紹介する小西コレクションはその中でも質量ともに優れた作品群です。作品1点1点の素晴らしさもさることながら、蒐集されたコレクターの仙厓愛も強く感じられるラインナップです。是非お越しください。

(学芸員 古美術担当 宮田太樹 )

新着投稿

カテゴリー

アーカイブ

SNS