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福岡市美術館ブログ

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館長ブログ

ことしもお世話になりました2023

2023年、どんな一年でしたか?
いろいろあったよ、とか、穏やかだったね、とか、みなさん感慨をお持ちのことと思います。
美術館にとっては、新しい「仲間」を迎えることが、やはり大きなトピックです。新収蔵作品がコレクション展のレギュラー陣に一石を投じ、新たな世界が開けた、と感じることができた一年でした。

写真手前にアンゼルム・キーファー〈メランコリア〉              写真奥(壁面中央)に鎌田友介                     《Japanese houses (Taiwan/Brazil/Korea/U.S./Japan)》

上は、今年の6月から9月初めまでの展示風景ですが、第2次世界大戦の亡霊を思わせる、アンゼルム・キーファーの鉛製の戦闘機〈メランコリア〉が、焼夷弾投下をイメージさせる部分を含む、鎌田友介の《Japanese houses (Taiwan/Brazil/Korea/U.S./Japan)》と向かい合っています。この画像の角度から相対峙する両作品を見るたびに、胸に迫る思いと緊張感を感じていました。

9月16日には、塩田千春が福岡市美術館のために制作した《記憶をたどる船》が公開されました。
塩田さんは、制作前に福岡に来られ、展示予定の場所をご覧になりました。その場に立ち、歩き、その空間を全身で受け止め、体に記憶させているお姿が印象的でした。実際、その時に描かれたスケッチが、この作品に結実したのですが、後に、「その場所に来てしまえば、どんな作品にすべきか分かる」とおっしゃったのを聞いて、なるほど、その場所に<降りてくる>のだな、とちょっと鳥肌が立つ思いでした。

塩田千春《記憶をたどる船》 ©JASPAR, Tokyo, 2023 and Chiharu Shiota

塩田さんは福岡の過去・現在・未来について、わたしたちと対話し、福岡市博物館などでリサーチもされて、この作品を制作されました。順路通りに近づいていくと、時間のなかで織りなされた歴史の展開を示す、網目状の帯が目に入ります。そして、さらに進むとその「歴史」の背後に、市井の人々のささやかな営み(家族写真や街並み)や歴史上の事件(福岡大空襲など)を記録する写真や絵図などを乗せた船が置かれています。市井の人々の生活を記録する一枚一枚の写真をじっくりみると、大きな歴史のなかの小さな営みを慈しむ、塩田さんの思いに触れる気がします。

田中千智《生きている壁画》の前で、構想を練る田中千智さん(手前)

さて、現在展示している田中千智《生きている壁画》ともお別れです。といっても、壁画自体がなくなるのではなくて、1月から田中さんが新たに手を入れられて、いわば「第2章」に入るのです。田中さんは1月5日から制作に入り、第2段階の完成直前となる1月21日(日)には、作品について語るトークイベントをおこないます。

お楽しみに!

改めまして、ことしもお世話になりました。
来年また、お会いできる日を楽しみにしております。

(館長 岩永悦子)

 

《生きている壁画》第2段階の制作 
 期 間:2024年1月5日(金)~27日(土)(予定)
 場 所:福岡市美術館 2階 近現代美術室大壁面
 ※休館日、日曜日は、制作はお休みです。
 ※制作の様子を館内で見学する場合は、コレクション展観覧券が必要です。
 観覧料:一般200円、高大生150円、中学生以下無料
 ※1月23日(火)は近現代美術室休室のため館内での見学はできません。
 ※期間中、休憩等で作家不在の場合もございます。

 

 《生きている壁画》第2段階・完成直前トーク  
 日 時:2024年1月21日(日)14:00~15:30(開場13:30~)
 会 場:福岡市美術館 1階 ミュージアムホール
 定 員:180名(当日先着順/入場無料)
 登壇者:[話し手] 田中千智(画家)
     [聞き手]山木裕子(福岡市美術館近現代美術係長)

 

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隠れたものが現れるとき

本当に毎日暑いですね。出かけるのも勇気がいるほどですが、この夏もご来館いただいて、本当にありがとうございます。しかもこのブログを書いている間、台風が福岡ににじり寄ってきています。これ以上の被害がどこにも出ませんように、と祈るような気持ちです。

さて、館内にはお客さまの声を寄せていただくためのアンケート用紙を設置しています。7月度のアンケートでは、同月1日に始まった「WHO AM I 香取慎吾個展」に来られた方からのコメントがたくさん寄せられました。その中には館内整理にあたっていたスタッフへのねぎらいのコメントも!こんなこと、なかなかないです。本当にありがとうございます。

香取さんご自身が、福岡市美術館での展示を喜んでくださっているとも聞きました。そんな香取さんや香取さんの展示を見に来られる皆さんに、ぜひ、福岡市美術館を思い切り楽しんでいただきたく、当館のコレクションをご案内したいと思います。なんと言っても、香取さんの展覧会を出たら、目と鼻の先に入口がある、近現代美術のコレクション・ハイライトから、ぜひ!

小さな絵がかかっているスペースが、コレクション・ハイライトへの入口です。

さて、ちょっと意味深な感じのブログのタイトルは、香取さんの作品が「心の内に抱えているものをあらわにした」という印象を与えることからつけてみました。絵を描くきっかけに、外にあるものを写し取りたくなる、ということがあるかと思いますが、逆に、内にある思いや感情に形を与えるということもあります。香取さんの作品は後者のイメージが強かったので、コレクションからも、「心の内を語る」「隠されたものがあらわになる」という作品をピックアップしてご紹介したいと思います。

ジャン・デュビュッフェ《もがく》

ジャン・デュビュッフェ《もがく》

コレクション・ハイライト①入口にあたるA室では、ジャン・デュビュッフェの《もがく》がみなさんをお迎えします。人の形の内側にさまざまな色が渦巻いています。目を見開き、立ちすくむ人物。爆発寸前のマグマのような感情が、この人を支配しているのでしょうか。

 

ジャン=ミッシェル・バスキア《無題》

(左)ジャン=ミッシェル・バスキア《無題》

次には、ジャン=ミッシェル・バスキアの《無題》を。黄色と黒のコントラストの強い画面。絵の中心に描かれているのは、大きく手を広げた人体解剖図です。バスキアはアフリカ系アメリカ人ですが、内臓や血管など体の中身はみな同じなのに、たった一枚の皮膚が人と人とを隔ててしまうことへの、激しい思いが伝わってくるようです。

 

草間彌生の《夏(1)》《夏(2)》

草間彌生《夏(1)》《夏(2)》

草間彌生の《夏(1)》《夏(2)》は、異界から来た生物のよう。あるいは、植物が突然変異した姿のようでもあります。外に向かって何かが噴き出し、あふれそうな形です。考えれば、植物に蕾ができ花が咲くことも「隠れていたものがあらわになる」ことかもしれませんね。

さて、ロビーを横切って、コレクション・ハイライト②のC室へ。

 

ザオ・ウーキー《僕らはまだ二人だ―10.3.74》

(左)ザオ・ウーキー《僕らはまだ二人だ―10.3.74》

ザオ・ウーキーの大作のタイトルは《僕らはまだ二人だ―10.3.74》。「僕ら」とは、作家と亡くなった妻のことです。うねるような筆づかいで表される色と形は、大きく、強く、複雑です。言葉にならない、作家の思いを感じさせます。

 

手塚愛子《経糸を引き抜く―五色

(左)手塚愛子《経糸を引き抜く―五色》

薔薇の柄のゴージャスな織物から五色の糸がぶら下がっています。実は、この糸は作者の手塚愛子自身が、織物の中から引き抜いたものだそう。重厚感のある織物が、派手な原色の糸で織りあげられていたなんて。目に見えるものは、限られている。そんなことを思わせます。

香取さんにも、ファンの皆さんにも見ていただきたいコレクション、いかがでしたでしょうか。もちろん、このほかにもたくさんの作品が展示されています。楽しんでいただけることを祈りつつ。
(館長 岩永悦子)

 

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花言葉は「ぶっ放せ!」

3月は別れの季節。30日に福岡市美術館でも3年ぶりに送別会を行いました。
定年退職、転職、任期満了とそれぞれに卒業を迎えた5人を送る会は、閉館後のレストランで。新天地で羽ばたいたり、人生の新たな局面を迎えたり…何を隠そう、その5人の1人が筆者でした。
旅立つ5人以外にも、嬉しいニュース&サプライズが満載で、シェフの心づくしの料理に舌鼓を打ちながら、笑いと感激の絶えないひと時を過ごしたのち、花束&プレゼント贈呈の時が来ました。

長く時を過ごした仲間からの渾身のチョイス。一つ一つ、贈呈のたびに披露されては歓声が上がります。最後に自分の番が回ってきた時に、いただいたのは、ひと抱えもある満開の桜の枝の花束でした。

手渡してくれたM学芸員は、さあ、あのポーズを!と、促します。あのポーズ?花束?と混乱していると、M学芸員がやって見せてくれたのは、インカ・ショニバレCBEの《桜を放つ女性》のライフルを構えるポーズでした。
うわー!!!!そういうことなのか!!!

ドレスを着た女性が構えるライフルから、満開の桜の枝が中空に解き放たれるダイナミックな作品は、一度見たら忘れられないインパクトがあります。頭の代わりに据えられた地球儀には、ミシェル・オバマや市川房枝さんなど女性のエンパワーメントに功績のあった、女性の名が刻まれています。美術館のコレクションの代表的作品であるだけでなく、仕事でも深く関わった作品ではありますが、この時まで、あくまで鑑賞の対象だったことに気づきました。そうか、この作品はただ眺めるためにあるんじゃないんだ。自分もまた、自分なりのライフルを抱えて桜をぶっ放すんだ、ってことなんだ。

みんな、自分の桜をぶっ放そうぜ!そんなエールをもらった気がしました。

仲間に見送られていったん卒業をしましたが、改めて、福岡市美術館と福岡アジア美術館の館長を拝命しました。皆様、これからもどうかよろしくお願い申し上げます。
新しい学芸課長は、後藤恒学芸員。強くて優しい漢です。よきリーダーとして、しっかり舵取りをしてくれると思います。どうかよろしくお願い申し上げます。

《桜を放つ女性》のライフルから放たれる桜は、花の色が2色ある、現実には存在しない桜です。まだこの世にないものの象徴でもあります。
ミライの桜の花言葉は「ぶっ放せ!」
いざ。

(館長 岩永悦子)

 

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