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カテゴリー:コレクション展 近現代美術

コレクション展 近現代美術

第3回目福岡アートアワードギャラリートークのご報告

 さて、3月29日(金)から6月1日(日)まで、近現代美術室Bにて「第3回目福岡アートアワード受賞作品展」を開催しています。(福岡アートアワードについて概要はこちら
展覧会初日には展示室内でギャラリートークを行い、4組の作家に「これまでの活動」「受賞作品について」「これからの活動」を軸として自由にお話いただきました。以下はトークを要約したものに筆者の個人的な感想を含めたものとなります。作家許諾の上、掲載いたします。

 はじめは市長賞を受賞された牛島智子さんからです。牛島さんは、現代美術のオルタナティブ・スクール「Bゼミ」に所属し東京で活動していました。その後、90年代末に拠点を八女市に移し、風土や人物、労働などをモチーフとした作品を発表しています。トークの冒頭では、インドの人生論である「四住期」を基に、独自の数学的なルールに従って作った幾何学的な図形について紹介されました。今回の受賞作品《家婦》を構成する一つの幕絵にも、「四住期」に基づいた幾何学的な図形が反映されています。注目すべきは、その幕絵の素材は祖父母の代から使われてきた古布が使用されていることです。トーク中に「手を動かすことで作品が決まっていく」と牛島さんはお話されたように、牛島さんにとって、作品を作ることと、生きることがほぼ同意義である、ということが強く伝わってきました。お話を聞いた後、改めて今回の受賞作品を鑑賞すると、仕事や家事、育児等の様々なご経験をされた牛島さんの生き方そのものが重なって見えました。

 次に優秀賞を受賞されたオーギカナエさんです。大学卒業後、東京での活動を経て、福岡へ拠点を移し、大型インスタレーションの他、壁画やステンドグラス制作等、建築にも携わってきました。大きなものを作りたい、包まれたいという欲求が制作の根幹にあったとオーギさんは話されていました。その後、子育てを行いながらワークショップ開催、キッズスペースの設置、現在にも続いているスマイルの旅プロジェクトなどの活動を行いました。2023年、オーギさんの拠点が山津波により被災しました。その災害そのものをモチーフに、制作しようとしたところうまくいかなかったそうです。一旦距離をおき、純粋に造形する欲求に従い制作していくことで、自然と災害について自分が求めていた答えにつながっていったといいます。山津波がテーマであるものの、作品の色や形は明るく軽やかなイメージで前向きな気持ちにさせられます。「自然の中で、雨だらけの大地に光が集まり浸透して、自然のサイクルで回復する作業に、希望が見いだせた」というオーギさんの言葉が印象的でした。

 オーギカナエさんと同じく優秀賞を受賞されたSECOND PLANETからはメンバーの宮川敬一さんにお話いただきました。SECOND PLANETは宮川さん、外田久雄さん、岩本史緒さんの3名で構成される北九州のアーティストグループです。受賞作となった《カタストロフが訪れなかった場所》は、2019年から開始したプロジェクトで、1945年8月9日に起きた長崎の原爆投下が、当初は彼らが拠点としている北九州小倉で予定されていたことをきっかけに作られました。
原爆の問題だけ語るのではなく、何も起こらなかった場所も何某かの歴史があり、多角的にリサーチして歴史を捉えなおそうする試みをテーマとし、はじめはパフォーマンス、2021年にオンラインプロジェクトに形をかえ、2024年にミュージシャンであるibi Ryota氏と写真家の鶴留一彦氏の技術的な協力のもと、現在の形となりました。過去の歴史だけでなく、現在も起きている世界中の凄惨な状況に対しても、一方的ではなく色々角度で調べ理解し作品として表現することで、芸術活動が戦う手段として残されているのだと希望を持たせたい、という宮川さんの言葉が心に響きました。

 最後は同じく優秀賞受賞の興梠優護さんです。興梠さんは東京を拠点に活動しておられましたが、レジデンス活動等を経た後に昨年より福岡を拠点に移し、作家活動をされています。「光」、「レイヤー」、「イリュージョン」をテーマとしながら「根源性と現代性」を兼ね備えるような作品を制作しています。モチーフやタイトルには具体的なストーリーや感情設定を持ち込まず、可視光を超えた曖昧なゾーンの美しさ等、あくまで視覚的な構造と認識として絵画を捉えていることを強調されていました。個人的に興味深かったのは作品の側面に対する意識でした。作品側面にも色が塗られていることで、側面にあたった光が反射し、色が壁などに映り込む色なども計算して描かれたそうです。画集やモニター越しではトリミングされ見ることが出来ない側面を、生で見る方が良いという、リアリティへの追及が伺えました。

 展覧会は6月1日までです!ぜひご来館いただき、現物をご鑑賞ください。

(学芸課 近現代美術係 渡抜由季)

コレクション展 近現代美術

第3回福岡アートアワード授賞式の記念スピーチ

昨年度で3回目となる福岡アートアワード
第3回目は福岡県を拠点として活動する作家が賞を占めました。受賞作家は、市長賞が牛島智子さん、優秀賞がオーギカナエさん、SECOND PLANETさん、興梠優護さんの、4組の作家です。
3月28日(金)、福岡市美術館2階近現代美術室前ロビーにて、第3回福岡アートアワード授賞式が行われ、また29日より受賞作品展も開催されました。

授賞式記念撮影の様子(左からSECOND PLANET岩本史緒氏、外田久雄氏、宮川敬一氏、高島市長、牛島智子氏、オーギカナエ氏、興梠優護氏)

授賞式では皆さんに記念スピーチをご披露いただきました。
今回は作家さんに許諾いただき、下記の通り掲載いたします。

牛島智子氏(市長賞)

牛島智子《家婦》2020年(市長賞)

 福岡アートアワードで市長賞をいただいた「家婦」は、5年前に福岡市民ギャラリーのE室をお借りして展示しました「40年ドローイングと家婦」の作品です。この展示から評価や企画や展示が次々に進みました。お世話になった皆様にお礼を言う間もなくこの場に立っています。この賞はその方々へ感謝を述べる節目です。本当にありがとうございました。
 さて、私が初期から一貫してやってきたことは物質、モノとの対話のような気がします。市美術館がリニューアルされて高さ5mの市民ギャラリーの白い壁を見た時、ここで展示したいと強く思いました。いつも床置きで何やら作っているのですが、ビニールシートを引けばいくらでも広げられ、土から伸びあがってくる作物のようにつくれます。でも壁の高さはそうはいきません。おんなじ布でも壁に貼ると全体が見えて抽象性が高まっていき、作品になる気がします。床と壁の両方を使いインスタレーションのスタイルをよくとってきました。また八女和紙をたくさん使っていますが、その職人さんから「和紙は水素結合だから」と聞いたことから『何だろう』と思い、素材の原子の状態を考えるようになりました。物は動かないようでミクロの世界の原子レベルでは動いているのではないか。作品に取り囲まれる美術館は海水浴や森林浴のように美術浴ができる場所、市民に開かれた場所、コレクションしていただくことは大変うれしいです。生涯作物作品を作っていくと思います。また見て頂けることを願っています。
最後になりましたが、福岡アートアワードというチャンスを作って頂きありがとうございました。

オーギカナエ氏(優秀賞)

オーギカナエ《空に登って集まって、めじろ眼鏡の森、白い花~植物は考え歩き行動する~》2024年(優秀賞)

 皆さんこんにちは。本日はお集まりくださりありがとうございます。
 私は作品を作りはじめて40年近くになります。そんなに経ったなんて本当に信じられません。
生きていると色々ありますが、2023年は本当にいろんなことがあった年でした。中でも私たちが拠点にしている久留米市竹野地区で山津波が起こった事は忘れられません。家の横を流れる激流が家の中に入り、道は土砂で埋まり外へ行くことはできませんでした。
 のちに私はこのことを作品にしようとしたのですが、恐怖や悲しみ虚無感といった表現をすることはできませんでした。このことは作品にはしない方がいいと思いました。一旦そこからは離れて、やはりワクワクするものをつくりたいと思いました。時が過ぎて周りを長く観察することができました。自然もまた違う時間で回復の作業を行なっていることに気がつきました。ふと気持ちが楽になり、そのことをモチーフに手を動かし、今回の受賞作品をつくることができました。
 世界をどのように捉えるのかで自分を取り巻く世界は変わります。永遠に続くものはないけれど希望を持つことはできます。これからもそのことを考え、つかみにくく形も言葉にもしにくいけれど心を動かすものを作品にしていきたいと思います。
  最後にこのような賞を与えてくださった福岡市と審査員の方々、福岡市美術館、美術関係者の皆さん、私の作品に興味を持って見てくださる方々、家族のウシジマケに心から感謝します。ありがとうございました。

SECOND PLANET(優秀賞) 
スピーチ:宮川敬一氏

SECOND PLANET《カタストロフが訪れなかった場所》2024年(優秀賞)

 今回、このような賞をいただき誠にありがとうございました。今回の受賞作品はSECOND PLANETの3人に加え、音楽家のIbi ryotaさん、写真家の鶴留和彦さん、ギャラリーソープのスタッフなど多くの方々の協力のもと制作されました。この作品は、2019年のギャラリーソープでのパフォーマンスとして始まり、2021年にオンラインプロジェクトを公開した「カタストロフが訪れなかった場所」シリーズのサウンドインスタレーションのバージョンで、昨年、福岡市のOVERGROUNDで発表した作品です。
 この作品は、歴史を一つの方向から見ていくのではなく、色々な方向から見ていこうとする試みです。大きな歴史がある一方で、弱者であるとか他者から見たもう一つの歴史もあります。あるいは消されてしまった、忘れ去られた歴史もあります。そういった見えにくくなった歴史を、ひとつずつ資料を集めて、多様な歴史のあり方を考えてみようという試みがコンセプトでもあります。
いっぽうで過去の歴史だけではなくて、最近の私たちの周りで起こっている酷すぎること、過去の物語みたいな、帝国であるとか、行き過ぎた民族主義であるとか、どこかそういったものが再生されて、主張するだけ主張して相手の価値観を受け入れない虐殺や侵略が世界中で起こっています。そういった問題に対しても、大きな仕事はできないかもししれませんが、芸術が出来ることがまだ残されていると思っています。
 可能な限りそういった出来事に多様な視点を持ち込み、そして歴史を単純化せずに、あるいは複雑さであるとか、ある種の曖昧さを受け入れながら、向かっていければなと思っています。そしてまた芸術表現でも元々近代以降は権力や常識に対抗するような機能があって、今でもその機能を持っている、と希望をもっています。単に沢山売れて有名になるだけじゃなくて。そもそも芸術作品は、どの作品にもある種の批評性みたいなものがあります。そういったものに焦点をおいて作品を作りながら新しい概念を提示してくれる作家も沢山いて、Fukuoka Art Nextという、芸術で福岡市を活性化して国際的な都市にしていこうという概念も数年間進められていると聞いていますが、そういった新しいアイデアであったり新しい概念を提示してくれる作品を沢山生み出していく人たちの作品に触れる機会を作ってもらえると嬉しく思います。どうもありがとうございました。

興梠優護氏(優秀賞)

興梠優護《 /72》2018(加筆2020)年(優秀賞)

 このアワードに選定していただきましたこと、審査員の皆さま、事務局・美術館スタッフの皆さま、そして家族や、友人、これまで関わっていただいた皆様に感謝申し上げます。ありがとうございます。
 昨今、テクノロジーの進化で、あらゆるものが人間では無いものに、取り換え可能な領域に踏み込んでいくような社会になっていると思うんですけれども、改めて、人間らしさ、というものが見つめ直されているように感じています。そしてその人間臭さというのは「無駄」とか「無意味」のなかにあるような気がするんです。効率とか生産性とかバズるとかの外側にある、意味不明で、だけど心の底から込み上がってくる欲求にどれだけ正直になれるかということが作品制作の根本にはあります。もちろん、そこから社会や歴史との接続を経て真の作品となるわけですけれども、こんな時代に、そうした行為を評価していただけること、本アワードの器の大きさが、とても嬉しかったわけです。
 豊かさの本質とは、私たちが生きている前提となっている「当たり前のもの」をいったん立ち止まって見つめ直すことの中にあるように思います。作品を見ることを思い浮かべると、見ることは立ち止まることでもあるんですね。
 例えば晴れた午後の一日に、そうだあの作品を見に行こうと思い立って、そこでの気づきが、それは歌でも文章でも洋服選びでもなんでもいいんですけれど、少しでもなんかいい一日だったなあと思えることってに繋がるって、素晴らしいと思うのです。そういったきっかけにこの作品がなることができたら、本当に嬉しく思いますし、そうした機会を与えていただいた本アワードに改めて感謝申し上げます。

今年度も無事受賞者・受賞作品が決定し、作品を収蔵し展示する機会を設けられました。
 受賞者のみなさま、選考委員のみなさま、また応募していただいたすべてのアーティストのみなさま、また関わっていただいたすべての方々に改めて感謝申し上げます。
受賞作品展は6月1日(日)まで開催します。ぜひご高覧ください。


(学芸員 作品保存管理担当 渡抜由季)

コレクション展 近現代美術

「何度目かの福岡で―新人の自己紹介」

はじめまして。2月から福岡市美術館 近現代美術係の学芸員となりました、花田と申します。初めて担当するブログなので自己紹介や2月中の出来事を話してみようと思います。

私は高校までを宮崎で過ごし、大学は大阪にいましたが、父の実家が福岡にあったこともあり、小学生の時にはちょこちょこ福岡に来ていました。また、1年ほど福岡に住んだ際には寮が大濠公園の近くにあったのですが、福岡市美術館はちょうどリニューアル期間だったので足を運ぶことはできませんでした。私が初めて福岡市美術館に来たのは去年の就職試験のときになります。試験前日に展覧会を見に行こうと、どきどきしながら大濠公園駅から歩いてきて、間違えて舞鶴公園の三の丸広場に行ってしまい、ここはどこだ?とウロウロしていたのが懐かしく思い出されます。美術館に着くと、まずチケット売り場はどこだろうとウロウロし、館内でも展示室を見たりカフェに入ったりショップを見たりとウロウロしていました。今改めてホームページを見直すと、フロアガイドにきちんとチケットカウンターの場所が表示されていました。ちゃんと確認しておかないといけないですね。そんなこんなで、かつて近くを行き来していた場所で今働けることに勝手ながら縁を感じています。

ところで、私は大学院の頃は近代日本美術、なかでも鏑木清方について勉強しており、清方が歌舞伎などの芝居好きだったこともあって、画家が芝居をどのように考え、どのような意図や工夫をして描いていたのかについて考えていました。また、画家によって都市の捉え方、都市のなかで興味を持って見る対象が異なっており、画家が都市をどのように見ていたのか、どのように作品に描いていたのかという点にも興味を持っていました。福岡市美術館には清方の弟子である福岡市出身の小早川清や久留米市出身の吉田博の作品があるので、師の清方と弟子たちの展覧会はどうだろうか…と漠然と考えてみたりしていますが、今の目標はまず館や日々の業務に慣れることです!2月からの勤務だったので、修士論文を出してすぐ福岡に来て、このブログを書いている現在は働き始めて約1ヵ月が経ちました。2月中は、収蔵庫を案内していただいたり、展示室などにある乾湿計の用紙交換のやり方を教えていただいたり、他館に挨拶に伺ったり…見るものほとんどが新鮮で、恥ずかしながら知らないことばかりでした。日々の業務の一つに閉館業務というものがあり、閉館時間前に作品の状態の確認や設備の点検をするのですが、2月担当の私は17時頃に展示室、特に2階の近現代美術室を見回っておりました。初日はどのような点を確認するのかを教えていただき、監視員の方に挨拶しながら見回りました。最近は館内のどこにどの部屋があるのか、やっと覚えてきましたが、たまに収蔵庫までの道や階段を歩いていると迷路のように感じ、このドアを出たらここに出るのか…!という面白さがあります。さらに、業務とは関係のないことですが、通勤で通る福岡城の水堀にいた鳥が「はっはっはー」という声で鳴いていたこともありました(笑われていたのかも?)。日々、勉強し、新しいものを見て、そして反省の毎日です。

かつて小学生だった私が見ることのできた福岡の地域は限られていますが、街の様子がだいぶ変わったように感じます。記憶にある建物やお店がなくなっていたり、新しい建物がかなり増えていたり。知っているけれど知らない街という印象です。福岡にもっと慣れるために休みの時には色々な場所に行ってみようと考えています。

…というとりとめもない話をダラダラとしてきましたが、今年は早速「つきなみ講座」を担当する予定もありますので(かなり緊張していると思いますが)、みなさまにお会いできる日も近いと思います。精一杯努めてまいりますので、どうぞよろしくお願いいたします。

帰りがけに撮影しました。夜の美術館は灯りがきらきらして昼とは違う雰囲気です。

(学芸員 近現代美術担当 花田珠可子)

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