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カテゴリー:コレクション展 近現代美術

コレクション展 近現代美術

近現代美術の新収蔵品展から

3月24日から2階の近現代美術室Aで「新収蔵品展」が始まりました。2022年度に収蔵した近現代美術作品のなかから、12点を紹介しています。
一年近く前、本ブログで「美術館でであう新たな体験と知覚」と題し、2021年度の新収蔵品のなかから2作家―川辺ナホさんと梅田哲也さん―の作品をとりあげ、当館で開催した特別展や企画展の出品作がコレクションに仲間入りしたことについて書きました(https://www.fukuoka-art-museum.jp/blog/36622/)。今回の収蔵作品にも過去に当館で開催した展覧会に関係する作品が含まれているので紹介してみたいと思います。

「新収蔵品展」展示風景

「新収蔵品展」展示風景

山内光枝《つれ潮》
山内光枝さんは福岡を拠点に活動をするアーティストです。ロンドンでの経験から、固定化すること、線を引くこと、枠づけることに意識的になり、作品にもそのような視点が通底しています。山内さんは2010年頃、海女を捉えた一枚の古い写真に出逢ってから、海女の文化を学び調査するとともに、黒潮・対馬暖流域の浦々を訪れ、素潜り漁を生業とする人々と関係を築き、漁に同行するようになりました。2013年には済州島の海女学校で素潜りでの水中撮影技術を習得し、映像インスタレーションを発表します。作品の中の海女たちが自然な表情でいつもと変わらないであろう姿で捉えられているのは、ほかならぬ山内さんが撮影者であるからなのです。
山内さんは2014年に当館で開催した現代美術のグループ展「想像しなおし」に出展し、鐘崎、沖ノ島、対馬、釜山、済州島という玄界灘をめぐる海を舞台に、それぞれの地の師の素潜り漁に同行し捉えた映像を5枚のスクリーンに映し、塩を用いたドローイングとともに展示した映像インスタレーション《you are here》を発表しています。

山内光枝《you are here》2013-14年 
「想像しなおし」展での展示風景 撮影:山中慎太郎

新収蔵品に話を戻しますが、2022年度当館は山内さんの映像作品2点、《つれ潮》《潮汐2012-2020》を収蔵しました。どちらの作品も、海を基点に生きる人々を追いかけてきた山内さんの集大成ともいえる作品で、「新収蔵品展」ではそのうちの《つれ潮》を展示しています。
本作の中で「おばちゃん」と呼ばれている香月ツルエさんは、長崎県対馬市の東海岸に位置する集落・曲(まがり)の最後の現役海女です。撮影当時82歳だった「おばちゃん」が、海女の原郷の地である福岡県宗像市の「鐘崎の海で潜ってみたいね」とつぶやいたことから始まった旅。旅のコーディネートをはじめ、撮影・録音・編集ほかすべての作業を山内さんがほぼ一人でおこなった本作は、親密な関係が築かれているからこそ可能となった旅の記録ともいえるでしょう。海の磯焼けによってサザエやアワビはもちろん海藻すらほとんど採れなくなっている曲、その最後の現役海女である「おばちゃん」が鐘崎の海で生き生きと漁をする姿、「おばちゃん」を歓迎する海女さんたちが回転寿司店に入るといった自然な様子や日常の会話からは、素潜り漁を生業とする海女をめぐる現状や海女文化の歴史と継承の問題も浮かび上がってきます。山内さんの作品は海女を捉えたものばかりではありませんが、現在も各地の師匠のもとに赴き、交流を続けているそうです。

「新収蔵品展」展示風景より山内光枝《つれ潮》2018年

上田宇三郎《裸婦》、《石(4ケの石)》
上田宇三郎は戦前そして戦後の福岡で、西洋美術の手法を日本画において試み数々の実験的な作品を生みだした画家です。それだけでなく絵画団体「朱貌社」を立ち上げるなど、福岡の近代美術を語るうえで欠かせない存在でもあります。2022年度、当館はこの画家の日本画を2点収蔵しました。これらの作品は2013年度に開催した「没後50年 上田宇三郎展 もうひとつの時間へ」の出品作でもあります。《裸婦》は色面の上の点描や淡い色彩の変化によってシンプルな面と線の構成のなかにやわらかなボリュームの身体を表し、《石(4ケの石)》は幾何学的な形態にその後のモノトーンの展開を予感させる色彩によってさまざまな描法で陰影を与え立体表現を試みています。既に収蔵していた23点にこの2点が加わることで、上田の作品展開をさらに詳細に辿ることが可能となりました。

「新収蔵品展」展示風景より 右から上田宇三郎《裸婦》1951年、《石(4ケの石)》1957年

ところで、上述の「上田宇三郎展 もうひとつの時間へ」では、上田宇三郎が17年間にわたり付けていた日記から、この画家の生涯をより深く伝えることが目指されました。関連企画として開催された日記の朗読会「時のあじわい、日々のにおい」は、画家が愛飲したコーヒーを再現し、それを飲みながら上田宇三郎の日々に耳を傾けるというものでした。この時、日記を朗読したのは山内光枝さん。「新収蔵品展」では約10年ぶりに上田宇三郎と山内光枝さんがコレクション展示室で再会しました。

 

田部光子作品
昨年の1月から3月に開催した「田部光子展『希望を捨てるわけにはいかない』」は、〈九州派〉の主要メンバーとして知られる田部光子の最近作までを紹介し、一人の美術家として活動を捉え直そうという展覧会でした(https://www.fukuoka-art-museum.jp/blog/17267/)。
〈九州派〉時代の作品で現存するもの(所在がわかっているもの)はほぼすべてが美術館に収蔵されていますが、1970年代や1980年代の作品は初発表以降ほとんど紹介されることなく、封印されてきました。同展では田部さんから許可を得てそれらを紹介しましたが、この度そのなかの23点が新たにコレクションに加わりました。「新収蔵品展」ではその中から7点を紹介しています。1970年以降の田部光子さんの絵画を並べて見ていると、社会そして鑑賞者に向けてメッセージが放たれているように感じられ、描法における尽きぬことのない探求心によって生み出される多彩な表現に目を奪われます。

「新収蔵品展」展示風景より

福岡で美術状況を見ていても展覧会という形に結実できるものは決して多くはなく、展覧会と関連した作品を収蔵するという段階には更なるハードルがあります。今後、福岡市美術館でどのような展覧会が企画され、実現するのか。そして収集活動にどのようにつながっていくのか。ご期待いただければと思います。
私事ですが、3月末日で福岡市美術館を去り、4月から九州外の美術館に勤務することとなりました。前回のブログの鬼本学芸員と同じく、ここで企画する展覧会もこの「新収蔵品展」が最後となり、ブログを書くのもこれが最後となりました。福岡で出会うことのできた作家のみなさま、そして来場者のみなさまに支えられた15年半でした。ありがとうございました!これからは福岡市美術館を愛する一人として、みなさまと一緒に活動を応援していきたいと思います。

(近現代美術係 正路佐知子)

 

コレクション展 近現代美術

カプーアの掃除のしかた

皆さんは作品の掃除についてご興味ありますか?
作品が作品として成り立つために、点検やメンテナンスは切っても切り離せない重要な作業です。
今回は年に1度不定期に行っている裏方作業「作品の掃除」についてご紹介します。
対象となる作品はこちら、アニッシュ・カプーアの《虚ろなる母》です。画像は著作権の理由でここには載せられませんので下記URLからご確認ください。

https://www.fukuoka-art-museum.jp/archives/modern_arts/6254

こちらの作品は青い色料で覆われた巨大なお椀状の形をしています。

当館HPに掲載されているの所蔵品解説をそのまま転用すると、

「本作品は、やわらかなベルベットのような顔料で覆われている。その青い顔料は、巨大なお椀状の作品の外側では、あたかも光を放っているかのように見えるが、一転、内側においては静かな夜のような闇へと変じる。その闇は、あるはずの底面を消し去り、吸い込まれていくような錯覚に陥らせる。それは、まるで神秘の世界への入り口のようでもあり、慈愛をたたえた母の体内のようにも思える。(以下略)」

上記のような説明になるのですが、
お椀の内側に綿埃が溜まると、この「静かな夜のような闇」も「神秘の世界の入り口」も「母の体内」も台無しになり、急に現実世界に引き戻されるような悲しさを感じさせられます。

実はこの埃、主に服の細かい繊維が塵となり空気の流れでお椀の中に溜まり綿埃と変化したもの。そのため、定期的にお椀の中の埃を取り除かなければいけません。ただし、作品に使われている青色は染織力の非常に強いとされるプルシャンブルーが接着剤無しで用いられており、少しでも触れようものなら青色に染まってしまいます。さらにいえば、この綿埃もまた青色に染まっているというトラップ付き。

そこで考えた苦肉の策がこちらです。

《虚ろなる母》専用お掃除セット

画像手前に写っている羽はたきをお椀の中でクルクル回して風の流れを作り、埃を外に追い出す方法です。
羽はたきに棒を括り付ける仕様が何ともいえないアナログ感で溢れていますが、作品に直接触れることなく埃だけを効率的に取り除けるので、意外とこれが良いんです。

では掃除を始めましょう。

羽はたきで風を送ります

台座が青色で染まらないようしっかり養生した後、お椀の中でクルクルと羽はたきを回し続けます。すると気流が発生し埃が舞い上がるので、これを羽はたきで外へ誘導します。一連の行為を繰り返していくと…、

写真の黒い点々が埃、結構出てきました

この作業、埃が衣類に当たるだけで青色が付いてしまうのでマスクや作業着はかかせません。時間をかけて1(時に2)年分の埃をしっかり取り除いていきます。体全体を使っての作業となるので、ちょっとした運動にもなります。

完成!埃がなくなってスッキリしました

「静かな夜のような闇」が蘇りました。

あとは埃や青色が台座や展示室の床につかないよう養生シートを畳んだら、作業は完了です。埃の有る無しだけで印象が変わる作品の代表例になりそうですが、このようなメンテナンスを地道に続けることが作品のコンセプトの維持にも繋がるんですね。

もし、このブログを見た後に《虚ろなる母》をご覧になり、埃が溜まっていなかったら「よしよし、作品保存管理担当者が頑張ってるんだな」程度に見ていただければ幸いです。

(学芸員 作品保存管理担当 渡抜由季)

コレクション展 近現代美術

「田中千智展 地平線と道」好評開催中!

近現代美術室Bでは企画展「田中千智展 地平線と道」が開催中です。
田中千智さんといえば、黒い背景が特徴的です。本展では、この作風が始まった2008年から2022年までの作品39点を展示しています。
小ぶりの作品から大作まで、年代順に展示していますので、田中さんの作風の変化を堪能できる内容となっています。

さて、 田中さんの印象的な漆黒の背景は、アクリル絵具が使われています。何度も塗り重ねることで、筆跡がみえなくなり、吸い込まれそうな深い、深い黒色ができるのだそうです。背景以外の人物や風景は油絵具が使われています。背景の黒色と地面の白色のコントラスト、さらにマットなアクリル絵具の質感と艶やかな油絵具の質感の違いによって、人物などの中心となるイメージがくっきりと際立っています。

この質感の違いは、写真では、なかなかわかりづらくぜひ直接みて感じていただきたいと思います。ちなみに、チラシ、ポスターや図録などを作るとき、この違いを出すために、毎回印刷会社さんが苦労されています。

会場内の作品に加え、今回は近現代美術室Bの外壁にも注目していただきたいです。

まず会場入口横の壁面。
田中さんは、書籍の装丁画やCDラベル、映画祭や舞台のポスターなどに原画の提供をおこなっており、こちらの壁面には、年表とともにその成果物をずらりと展示しています。こちらをみていただくと、田中さんの活動の多彩さと、驚くべき仕事量がわかると思います!

そして、近現代美術室出口横の壁面。
こちらには、本展のもう一つの目玉、壁画が描かれています。
1月5日の開幕当初からおこなわれていた田中千智さんの壁画制作は、1月31日に見事完成しました! 
1日ずつ作品が変化していく過程がみられたのは、とても楽しい体験でした。初めは真っ白だった画面が、真っ黒になり、人が登場し、木が並び、羊のような姿をした子ども、蛇、フクロウ、オオカミと、日に日に描かれるものが増えていきました。また大地にも水面ができたり、つくしのような植物が増えたり、まるで天地創造を観察しているような気分になりました。

事前にアイディアドローイングを描いてもらっていましたが、それとも異なります。頭の中でプランがどんどん変化していくようで、描きながら次に描くものを決めているようでした。

制作中は、窓際に座り、田中さんが描く姿を眺めていらしたお客様も多く、劇場のようでもありました。

今回残念ながら壁画制作を見逃してしまったというかた、ご安心ください。
当初の想定は、制作は1回だけだったのですが、田中さんの希望により、2024年1月、2025年1月と、1年毎に約1か月ずつ加筆をおこない、壁画が成長していくことになっています。その名も、《生きている壁画》! 最終的には2025年12月まで公開予定です。これからどのように変化していくのかとても楽しみですね。

本展については、会場内の撮影、撮影した画像のSNSへのアップも可能です。ぜひご来場の上、壁画の世界の一員になった写真を撮影してみませんか?

(学芸係長 山木裕子)

ミュージアムショップで出品作品のポストカードを販売中です。(1枚200円、画像は一部です)

 

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