2024年5月9日 09:05
タイトルを見て、何のことだろう?と思った方も多いと思います。これは、本年の国際博物館の日のテーマです。ICOM(国際博物館会議)によって5月18日は国際博物館の日と定められており、毎年異なるテーマが設定され、世界中のミュージアムでこの日にちなんださまざまな記念行事が実施されています。ちなみに2023年のテーマは博物館と持続可能性・ウェルビーイング(Museums, Sustainability and Well-being)でした。昨年のブログはこちら
毎年、国際博物館の日を記念し、福岡市では「福岡ミュージアムウィーク」を開催しています。本年は5月18日(土)~26日(日)に市内の18館を会場にさまざまなイベントが行われます。
ミュージアムウィークのチラシ
当館でも、講演会、ベビーカーツアー、建築ツアー、ボランティアによるギャラリーツアーなどのプログラムを予定していますが、今回は市内18館で行われる「福岡ミュージアムウィーク」ならではの魅力を2つご紹介しようと思います。
まず1つは、コレクション展/常設展の入場無料です(ただし半額・割引の館もありますので詳細はHP・チラシ等でご確認ください)。「コレクション展て何?」「常設展はいつも同じでしょ?」と思うかもしれませんが、当館の場合は2、3か月に1度展示替えをして、展示内容を変えながら、多くの作品をご紹介しています。そして、このコレクション展こそ、美術館職員である学芸員の腕の見せ所。美術館に勤めていると「福岡市美術館の魅力は何ですか?」と聞かれることがよくありますが、その時、私は(きっと他の職員も)自信をもって「古美術から近現代美術まで幅広く所蔵しているコレクションです!」と話しています。当館の学芸課は古美術係、近現代美術、教育普及係という3係に分かれていますが、それぞれ専門分野を活かしてコレクション展示を行っています。
古美術のコレクション展示より「東光院のみほとけ」
近現代美術のコレクション展示
他の館に目を移すと、福岡市博物館ではあの「金印」が常設展で見られますし、福岡アジア美術館では開館25周年記念の「アジアン・ポップ」展も面白そうだし、福岡県立美術館や九州産業大学美術館もコレクション展無料なら行ってみようかな、なんて独り言になっていますが、ぜひ各館のコレクションを楽しんでいただきたいと思います。福岡市にこれだけたくさんの文化施設があることも、改めてすごいことだと実感します。
そして2つ目はスタンプラリーです。福岡ミュージアムウィークといえばスタンプラリー!とは言いすぎかもしれませんが、18館のうち3館のスタンプを集めて応募すると、抽選で素敵なプレゼントが当たるというものです。私が注目するのが、各館のスタンプ。実は、それぞれの館で準備している全くのオリジナルです。私も昨年こどもを連れて、スタンプラリーに参加したのですが「この館はこんなスタンプなのか!」と意外な発見と楽しみを見つけて、いつか全種コンプリートしたいと思ったのでした。
チラシにスタンプラリーの台紙がついています。
昨年、スタンプへの想いを熱くした私は、当館のスタンプを今年から新しいデザインにしました。これまで福岡市美術館はロゴマークのスタンプを使っていたのですが、今年からある作品をモチーフにしたスタンプになります!どうぞお楽しみに。ぜひ、スタンプを集めに、そしてコレクション展を楽しみに、5月18日~26日は福岡市内のミュージアムへ足を運んでいただけると嬉しいです。
(学芸員 教育普及係 﨑田明香)
2024年3月27日 09:03
毎年3月に65歳以上限定のプログラム「いきヨウヨウ講座」を開催しています。早いもので9回目となる今回は「のびのびアート鑑賞」と題し、ストレッチするときにうーんと腕を伸ばすように、心と身体を広げるようなプログラムをしたいと企画しました。その内容は、さまざまな感覚を使って作品鑑賞をし、自分の気持ちをことばや形で表現してみようというものです。
今回は60代から80代までの皆さんが参加してくださいました。偶然だと思いますが、お1人で参加された方がほとんどで、始まる前はすこし緊張した様子もありましたが、そんな中プログラムのスタートの時間です。はじめは、いろいろな感覚を使っての作品鑑賞。当館のコレクション展示から、選んだ作品を一緒に鑑賞していきました。
インド更紗を鑑賞
はじめに、古美術企画展示室の「アジアの染織」展(~4/21)から、インド更紗(さらさ)を1点選び、全員で鑑賞しました。いわゆる作品解説によって受動的に鑑賞をするのではなく、対話型という方法で、参加者は能動的にじっくりと作品を観察していきます。「ハートの模様がある」「結婚式で使われた布かな」「黒い部分が気になる」など、作品をよく観察し、発見を共有していきました。「触ってみたら、木綿のような手触りかな」「触ってみたい」という声があがったところで、教育研究資料として収蔵した、インド更紗裂(さらさきれ)の登場です。実際に鑑賞した作品と近い時代の裂(きれ)にやさしく触れてみると、それぞれ微妙に異なる肌触り。「木綿だけど、なめらかで絹のように感じる」など、皆さんいろんな感想を口々に言いながらその感覚を確かめ合いました。
触って手触りを楽しみました
次は近現代美術のコレクション展示室へ場所を移し、サルバドール・ダリ《ポルトリガトの聖母》を鑑賞しました。今度は香りがテーマです。作品に描かれたさまざまなモチーフを見つけたり、キリスト教につながる意味を発見したり、最後にキリスト教にまつわる香りとして、乳香(フランキンセンス)の香りを嗅いでみました。香りを楽しみながら鑑賞するのは初めて!という声に包まれ、皆さんも興味津々でした。
乳香のにおいを嗅ぐ参加者
最後はザオ・ウ―キー《僕らはまだ二人だ-10.3.74》を選び、「音」をイメージしながら鑑賞をしました。3作品目になると、自然とみなさんが作品から連想される「音」やその場面を、次々に表現してくれて、多様なイメージを共有しながら1つの作品を見ることができました。
「音」をイメージして作品を鑑賞
さて、ここで突然配布された1枚の紙。何だろう?と戸惑う参加者たち。ここからは、参加者1人ひとりに1つ作品を選んでもらい、その作品を見て考えたこと、浮かんできた感覚や気持ちをたくさんメモしてもらいました。このメモが、後半の制作活動へとつながります。
メモを書き込む参加者の様子
お茶とお菓子で休憩タイム
お茶とお菓子で休憩を挟んだら、後半は作品鑑賞をして広がった感覚を、表現する時間です。大人になるほど、自分の気持ち、内面をそのまま表現する機会って、少なくなるのかもしれません。メモに残した自分の言葉を見ながら、少し客観的に自分の気持ちをとらえ、それをことばや形にしていきます。さあ、どんな表現にするか、用意された素材を選びながら、各自考えていきました。
素材を見ながら、表現方法を考えます
真剣な表情で制作中!
自分の気持ち、内面という、形のないものを表現するということ。最初は「えー!」「できない・・・」なんて呟いていた皆さんも、最終的には、私たちがびっくりするような創造をしてくれました。談笑しながら、ときに真剣な表情で、制作に没頭する参加者の態度からは、作品を鑑賞して感じた自分の気持ちという、目に見えないイメージを表現しようという意欲が伝わってきました。
最後に、全員でお互いの作品を見せ合って、いきヨウヨウ講座は終了です。アンケートでは「とにかく“いきようよう”とした気分になって楽しませてもらった」「他の人と話が出来たことが楽しかった!」「作品を見て、人それぞれ感じ方が違う事が大変おもしろく、気づきがたくさんあった」などの声が寄せられました。
メモと制作した作品
お互いの作品を見せ合いました
美術館で仕事をしていると、つい利用者を「高齢者」など属性で一括りにしてしまいがちですが、きっと次回の「いきヨウヨウ講座」を企画するときには、今回参加してくださった皆さんのことを思い出すでしょう。届けたい相手のことをイメージしながら「いきヨウヨウ講座」をこれからも継続していきたいと思います。
(学芸員 教育普及係 﨑田明香)
2024年2月28日 09:02
新しい年を迎えたのはつい先日、と思っていたのですが、うかうかしている間に2月ももう明日で最終日となり焦っています。というのも、春の気配を感じ始めるこの時期は、年度内のことをまとめつつ、来年度への準備のタイミング。学芸課の職員はそれぞれいま担当している目の前のことをしながら、頭の中ではなんとなくまだ形になりかけの近い未来、4月以降の計画を練っている状態です。教育普及係の自分自身も、係内で行ったことを整理したり、新しい仕事の準備をしたりで心落ち着かない日を過ごしています。
と、少しブログ更新の間が開いてしまった言い訳のように書き始めてしまいました。こういう時は少し深呼吸をして気持ちを切り替える意味で、日々のささやかな、小さな楽しみをご紹介してみようかと思います。
今回書いてみようと思ったのは、毎朝通勤の時に通る舞鶴公園脇の水辺のことです。美術館への通勤は地下鉄やバスを利用する人、自転車や徒歩で来る人など職員によって経路もそれぞれですが、私はバスを利用しています。福岡市美術館近くのバス停がいくつかあるなか、朝降りる「福岡城・NHK放送センター入口」は、バス停から美術館前の信号に向かうまでの道路が、ちょうど舞鶴公園の水辺に面していて、通るときには何とはなしに景色をちらりと眺めるのが日課となっています。
道が混んでバスが遅れた時などは、とてもそんな余裕はなくダッシュして職場に向かうのですが、歩きながら眺める水辺の景色はほんのわずかな時間でも、最近は鴨が多いな、今日は白鷺が来ているな、カラスが水浴びしている!など毎日入れ替わる鳥たちの様子が面白く、何かしらが気になります。また見られたのは昨年末の2日間だけでしたが、稀有な出会いで、道路からとても近い木の枝にカワセミがとまっていたこともありました。(スマートフォンカメラの限界であまり綺麗に撮れていませんが、目測3mほど。これほど近い距離でカワセミをみたのは初めてでした。)
そして今回、ブログにバス停前の水辺のことを書こうと思って改めて調べてみると、福岡初心者の自分が池だと思っていたこの場所が、赤坂門からぐるりと福岡城を囲む水堀の一部で、「六号堀」というきちんとした名称もあることを知りました。また、緑のシーズンには菖蒲や睡蓮が目立だっていたのが、秋から冬にかけての最近は枯草が存在感を増してきており、季節ごとに植物によっても景色が大きく変わりますが、水際にしげる叢は「ツクシオオガヤツリ」という国内ではとても珍しい品種の多年草だそう。明治期に福岡城で発見、採取されたものが新種として認定されたもので、福岡以外ではあまり見ることができず、県の天然記念物として指定されている希少な植物とのことです。
このテキストを書くために見過ごしていたことを確認すると面白いことが現れてきて、いやあ、何気なく通り過ぎている景色も注目してみると新しい発見があるなと、ひとり悦に入ることとなりました。村上春樹さんが以前に著書『村上朝日堂』で、「小さいけれども、確かな幸せ」を“小確幸”と名付けて楽しいエッセイを書かれていたのを思い出しますが、仕事前に水辺の傍らを通るこうしたわずかな時間が意外と心和む間となっており、私にとっての小確幸のひとつかもしれません。
写真の左手前に写っているのが「ツクシオオガヤツリ」。名称のツクシは=筑紫だそうです。
水位が下がって真ん中あたりに小さな島が出来ている期間などは、亀が集まって甲羅干しをしていたりします。
ちなみに、前段で白鷺もいると書きましたが、調べると白鷺(シラサギ)は白い鷺の総称であって、「白鷺」と呼ばれる特定の品種の鷺はいないのだそうです(!)。いつも見かける白い鷺にも大きいのと小さいのがいて、それぞれ少し様子が違うなということは薄々気づいていたのですが、白鷺にはダイサギ、チュウサギ、コサギ(他にも細かな分類が色々あるらしい)といて、くちばしや目や足色で区別されるそう。…では、先週2月18日で展示替えをしてしまいましたが、古美術企画展示室に陳列していた狩野常信 《松小禽・柳白鷺図屏風》の左隻に描かれていたあの白鷺は???
見ているようで、見ていない、「見る」と何かしら発見がある、は日常のなかでも作品鑑賞でも言えることですね。次にあの屏風が展示されたら今度はお堀にいる鷺と合わせて、作品の方もしっかり観察してみたいと思います。
(教育普及係長 髙田瑠美)