2024年8月31日 10:08
福岡市美術館には、展覧会や作品鑑賞を目的に訪れる人や市民ギャラリーに自作を展示しにくる人、レストランを利用したり散歩の途中で一休みする人など、国内外から毎日様々な人がやってきます。そして時には、お客様としてではなく美術館のことを学んだり、将来の仕事について考えるため、働く場としての美術館を体験しにやってくる学生さんもいたりします。今日はそんな、「インターンシップ研修生」としてこの8月に福岡市美術館に来てくれたある大学生のレポートをご紹介します。インターン生として新鮮な目で美術館について感じ、発見したしたことについて文章にしてくれました。
まだまだ暑い日が続いておりますが、皆様いかがお過ごしでしょうか。
インターンシップで福岡女子大学より参りました鈴木です。本日は5日間のインターンシップを通して特に印象に残ったことを3つご紹介いたします。
① あまりにも技巧派 美術品の耐震対策
コレクションの古美術展示室では今月6日から新しく「華やかなる九州の桃山茶陶」をテーマにした展示が始まりました。それに伴い行われた展示品入れ替え作業の大部分は、展示品の耐震対策に費やされています。
美術館に行った際に、免震台と呼ばれる二枚重ねの板や、透明な糸に支えられた作品を見たことがある方も多いのではないでしょうか。これらも素晴らしい技術によって作られていますが、特に繊細な、驚くべき技術があるのです。
それが写真のこちら↓
《高取焼 斑釉透文手付台鉢》 《唐津焼 絵唐津草文柿蔕形向付》 (いずれも細部)
台に刺したピンだけで美術資料を固定する、どころか耐震性も付与するというもの。
写真左:外側に向かってピンを刺す→ピン上部を作品の形に合わせて内側に曲げる→カバーをかける
写真右:器の縁の丁度くぼんだ部分に内側に向かってピンを刺す→作品の形に合わせてピン上部を外側に曲げる
凄すぎませんか…?
写真右のピンの形を成形する作業風景を目の前で見させていただいたのですが、ピンを全て完成させた後に作品を置いたとき、あまりに綺麗に収まって思わず感嘆の声を漏らしてしまいました。もはやこれも作品の一つです。
これらの展示は9月29日(日)まで開催されています。
厳かな作品の数々と、作品を守る技術を是非ご覧になってください。
展示中の様子 《高取焼 斑釉透文手付台鉢》 17世紀初期 福岡市美術館蔵
展示中の様子 《唐津焼 絵唐津草文柿蔕形向付》 16世紀末~17世紀初期 田中丸コレクション 福岡市美術館寄託
展覧会情報:「田中丸コレクション 華やかなる九州の桃山茶陶」展
会期:2024年8月6日(火)~9月29日(日)
② 美術のセンス・オブ・ワンダー ギャラリーツアー for キッズ
教育が一番の未来への投資、とは自論ではありますが、つまりそれほど子ども時代が大切だということです。そもそも子どもは独自の豊かな感性を持っています。それをいかに伸ばせるかが、子ども時代にかかっているのです。
美術館ではそんな子どもに寄り添った、「夏休みこども美術館」の展示を見るツアーが開催されました。今年の展示テーマは「道、その先には何がある?」です。このツアーは対話型となっており、一つ一つの作品についてガイドさんと子どもたちが話し合います。
作品の中に何を見つけたか、なぜそれを選んだのか、どう感じたのか…じっくりと作品を味わう楽しさを知って、自分で得たその気持ちを大切にして欲しいですね。
夏休みこども美術館では、展示されている作品は、全て子どもの目線の高さまで下げて展示されています。大きなキャンパスに描かれた道は、子どもたちから見れば本当に目の前に繋がる道のように見えるでしょう。感性を育てる素晴らしい経験になったことと思います。
ちなみに、「センス・オブ・ワンダー」という言葉は、生物学者のレイチェル・カーソンが生前、子どものうちに自然にたっぷり触れることの大切さを説明する際に用いた、私の好きな言葉です。私はこの言葉を美術・芸術作品に対しても用いることができると思っています。
子ども特有のまっすぐで時に鋭い感性は、作品からのメッセージを吸収するのにピッタリでしょう。
展覧会情報:夏休みこども美術館2024「道、その先には何がある?」展
会期:2024年8月13日(木)~9月1日(日)
③ 正気ですか? 観覧料安すぎ問題
たくさんの魅力に溢れる福岡市美術館ですが、常設展示の観覧料はなんと大人200円、高大生は150円、中学生以下は無料…安すぎませんか!?
この安さ、来館者としては嬉しい価格ですが、運営部分を学ばせていただいた後ではなんとも言えません。世の中お金の話が出ないところは無いのです。しかし安さ故の足の運びやすさが、沢山の人の芸術に触れる機会を作っていることも事実でしょう。
福岡市美術館ではボランティアによるコレクション展示のガイドツアーも行われています。他にも、現在「キース・へリング展 アートをストリートへ」が行われている特別展示があります。こちらは別途追加の観覧料がかかりますが、2カ月ほどで内容が入れ替わり、年に何度も違う世界観を味わうことができます。
一人でもツアーでも、来月も再来月も、何度だって違う楽しみ方ができる福岡市美術館。
皆さんも是非足を運んでみてはいかがでしょうか。
最後になりましたが、インターンシップとして5日間たくさんのことを学ばせていただきました。大変貴重な機会をいただけたこと、心より御礼申し上げます。
福岡市美術館の益々のご発展をお祈りしております。
鈴木 心菜(インターンシップ研修生)
2024年7月10日 10:07
福岡市美術館は1979年に開館し、今年で開館45年を迎えます。実は、それより前の開館準備室当時にボランティア活動を開始しました。現在も143名のボランティアの皆さんが、ギャラリーガイドボランティア、新聞情報ボランティア、図書整理ボランティア、美術家情報整理ボランティアのグループに分かれて活動をしています。ボランティアの募集は5年に一度行っていますが、2024年は5年ぶりの募集の年です(7月16日から8月18日まで募集を行います)。そこで、今回のブログでは、当館のボランティア活動の一部を少しご紹介いたします。
当館のボランティア活動の一つとして、年に一度行っているのが、館外研修です。館外研修では、ボランティア活動を行う他館を訪問し、お互いの館のボランティア活動について情報交換をしたり、ボランティア同士の交流をしています。今年は久留米市美術館で開催しました。当日は少し雨が降っていたのですが、ひどくならなかったので一安心。久留米市美術館の正門をくぐると、噴水と鮮やかな花々が咲く庭園が、私たちを迎え入れてくれました。
正門からみた久留米市美術館。3月の訪問時に撮影したものです。
久留米市美術館では約40人がボランティアとして活動されているそうです。ボランティア同士の自己紹介が済んだあと、まず前半は、久留米市美術館のボランティアの皆さんが当日開催されていた「ちくごist尾花成春」展の作品を紹介してくださいました。作者について、また作品が描かれた背景などの解説をしていただきましたが、解説の際に資料を用いたり参加者に語りかけるような口調で話しておられ、驚くほどすんなりと内容が頭に入ってきました。
後半は交流会の時間です。久留米市美術館と福岡市美術館の職員がそれぞれの活動内容を紹介し、ギャラリートークの感想やお互いの美術館のボランティア活動について意見交換をしました。
久留米市美術館のボランティア活動紹介。
大きく盛り上がったのは、両美術館のギャラリートークの内容についてです。福岡市美術館では、ボランティアと参加者で作品について対話をしながら鑑賞を深める「対話型鑑賞」をしていますが、久留米市美術館では解説型のギャラリートークを行っているそうです。久留米市美術館のボランティアの方からは、福岡市美術館の対話型鑑賞に対して「時間がもつのか」や「実際に体験してみたい」という声が上がっていました。解説型と対話型で手法は違いますが、ボランティアの方々の活動に対する熱意は共通していました。
交流会の様子。
今回の研修が、ボランティアの皆さんにとって普段の活動を振り返るきっかけとなり、また今後の活動につながる有意義なものになればと願っています。
さて、上記の館外研修は当館のボランティア活動のほんの一部です。もっと知りたい、一緒に活動してみたいな、と興味を持ってくださった方は、ぜひ当館ホームページから募集についての詳細をご覧ください。(https://www.fukuoka-art-museum.jp/topics/137352/)
応募用紙のダウンロードも可能です。皆さまのご応募をお待ちしております。
募集期間:令和6年7月16日(火)~8月18日(日)必着
(福岡市美術館 教育普及係 姜知潤、﨑田明香)
2024年5月9日 09:05
タイトルを見て、何のことだろう?と思った方も多いと思います。これは、本年の国際博物館の日のテーマです。ICOM(国際博物館会議)によって5月18日は国際博物館の日と定められており、毎年異なるテーマが設定され、世界中のミュージアムでこの日にちなんださまざまな記念行事が実施されています。ちなみに2023年のテーマは博物館と持続可能性・ウェルビーイング(Museums, Sustainability and Well-being)でした。昨年のブログはこちら
毎年、国際博物館の日を記念し、福岡市では「福岡ミュージアムウィーク」を開催しています。本年は5月18日(土)~26日(日)に市内の18館を会場にさまざまなイベントが行われます。
ミュージアムウィークのチラシ
当館でも、講演会、ベビーカーツアー、建築ツアー、ボランティアによるギャラリーツアーなどのプログラムを予定していますが、今回は市内18館で行われる「福岡ミュージアムウィーク」ならではの魅力を2つご紹介しようと思います。
まず1つは、コレクション展/常設展の入場無料です(ただし半額・割引の館もありますので詳細はHP・チラシ等でご確認ください)。「コレクション展て何?」「常設展はいつも同じでしょ?」と思うかもしれませんが、当館の場合は2、3か月に1度展示替えをして、展示内容を変えながら、多くの作品をご紹介しています。そして、このコレクション展こそ、美術館職員である学芸員の腕の見せ所。美術館に勤めていると「福岡市美術館の魅力は何ですか?」と聞かれることがよくありますが、その時、私は(きっと他の職員も)自信をもって「古美術から近現代美術まで幅広く所蔵しているコレクションです!」と話しています。当館の学芸課は古美術係、近現代美術、教育普及係という3係に分かれていますが、それぞれ専門分野を活かしてコレクション展示を行っています。
古美術のコレクション展示より「東光院のみほとけ」
近現代美術のコレクション展示
他の館に目を移すと、福岡市博物館ではあの「金印」が常設展で見られますし、福岡アジア美術館では開館25周年記念の「アジアン・ポップ」展も面白そうだし、福岡県立美術館や九州産業大学美術館もコレクション展無料なら行ってみようかな、なんて独り言になっていますが、ぜひ各館のコレクションを楽しんでいただきたいと思います。福岡市にこれだけたくさんの文化施設があることも、改めてすごいことだと実感します。
そして2つ目はスタンプラリーです。福岡ミュージアムウィークといえばスタンプラリー!とは言いすぎかもしれませんが、18館のうち3館のスタンプを集めて応募すると、抽選で素敵なプレゼントが当たるというものです。私が注目するのが、各館のスタンプ。実は、それぞれの館で準備している全くのオリジナルです。私も昨年こどもを連れて、スタンプラリーに参加したのですが「この館はこんなスタンプなのか!」と意外な発見と楽しみを見つけて、いつか全種コンプリートしたいと思ったのでした。
チラシにスタンプラリーの台紙がついています。
昨年、スタンプへの想いを熱くした私は、当館のスタンプを今年から新しいデザインにしました。これまで福岡市美術館はロゴマークのスタンプを使っていたのですが、今年からある作品をモチーフにしたスタンプになります!どうぞお楽しみに。ぜひ、スタンプを集めに、そしてコレクション展を楽しみに、5月18日~26日は福岡市内のミュージアムへ足を運んでいただけると嬉しいです。
(学芸員 教育普及係 﨑田明香)